
RK Music所属のHACHIが、2026年2月11日(水)に4枚目のフルアルバムとなる「Revealia」を発表した。
キングレコード/SONIC BLADEからメジャーデビューアルバム「for ASTRA.」を2024年11月13日にリリースしてから、1年と少しという速いペースで2枚目のフルアルバムをリリースすること、なにより2025年の活発な活動も含め、彼女のファンも期待に胸躍らせたことだろう。
4枚目となったフルアルバムは、「これまで見せてこなかった感情」を表現することがテーマとなったアルバムに仕上がり、これまで以上に深く沈みこむような、蕩けるようなスローテンポの楽曲が並ぶ。
アクティブな活動と反比例するような内省的な響きを揃えた楽曲群に、もしかすれば驚きを覚えたファンもいるかもしれない。ここでは彼女の2025年の活躍を見つつ、今作を見定めてみようと思う。
ライブに音源に声優に!? 2025年のHACHIとその周囲を振り返る
2025年の動きの前に、2024年末の動きから進めてみようと思う。
2024年11月13日にキングレコード/SONIC BLADEからメジャーデビューアルバム「for ASTRA.」をリリースした彼女は、直後にTour「HACHI Zepp Live Tour 2024 “for ASTRA.”」を開催。2024年12月14日に東京公演、2025年1月10日に台北公演をそれぞれ実施した。
驚きなのは、この2公演のうち台北公演のほうが先にチケット完売となったことで、台湾での支持の厚さを思い知ったファンもいるかもしれない。オンライン配信ののち、この2公演はライブBlu-rayとして発売も行われた。
2025年2月22日にYouTubeで自身のバースデイライブを無料配信、スペシャルゲストに焔魔るりを呼び込み、約1時間40分もの熱演をみせた。こういったバースデイライブでは、1時間もしないほどの時間で終える方もいるのふぁが、じっくりとコトコトと煮込むようにリスナーの心をとろけさせた。
25年春に入ると、彼女の活動は外へ向くことになる。
まず2025年3月30日、池袋harevutaiにてHACHI、焔魔るり、水瀬凪、瀬戸乃ととが出演するLIVE UNIONとしての1stライブ「Looking 4 The Sparkle!」が開催された。4人それぞれのキャラクターが発揮された温かなライブに、HACHIもしっかりと加わった(ライブレポート)。
2025年4月5日にはTVアニメ「SHIBUYA?HACHI」の第3クールおよび第4クールの主題歌として楽曲「Brand New Episode」が起用されることとなった。前曲「Dusk」に続く起用で、なんと本編にも声優として参加した。
同じ4月5日にはライブイベント「GOLD DISC」へKMNZとともに出演。6月13~14日には台湾・基隆和平島地質公園で開催された「吾夜生活祭」に参加し、彼女自身初の野外フェス出演を果たした。さらに7月19日、香港で開催された「Joy∞Stage – 次元を超える音楽祭」には、焔魔、七海うらら、月島クロスとともに出演。
8月8日には“はっちの日”にちなんだ恒例のライブ「HACHI SUMMER LIVE 2025」を開催し、毎月のようにライブイベントへ出演するという充実した日々を送っていた。
10月に入ると、17日にライブツアー2025「Unlockture」をカルッツかわさきで開催すること、29日には新作アルバム「Revealia」をリリースすることをそれぞれ発表。外交事情により少し遅れたが、台北公演が2026年3月に開催されることも発表され、次々とアクションを起こしていく彼女の姿にファンも大いに喜んだ。
2025年12月5日には、アルバムからの先行楽曲として「To Be Alive」が先行リリースされ、カルッツかわさき公演では1曲目で歌われた。毎月のように開催されるライブ活動に挑みながら、今作「Revealia」の制作を進めていた様子がなんとなく想像できる。
ここでもう一つ、彼女が所属するLIVE UNIONやRK Musicの動きも見てみよう。
LIVE UNIONの焔魔、水瀬、瀬戸乃の3人はそれぞれソロ楽曲をリリースし、2026年4月と5月にはセカンドライブを開催するまでに成長した。RK Musicの一員として活動するKMNZとVESPERBELLの2組も、各々ヒップホップ/ロックの道を歩み、音源・ライブ活動ともにアクティブに動いている。
特筆すべきは、HACHIから見て後輩に当たるRK Music直属のソロシンガーたちの存在である。2024年末から新人が次々とデビューしており、「RK Music presents Live『OVER ONE』」として勢揃いしたかと思えば、新レーベル「Fused」を発足し、現実とバーチャルを自在に行き来するシンガーとしてCULUAとCONAをピックアップ。新人の妃玖とDiαを加えて新たにスタートした。
2026年にはKMNZの直系的な後輩に当たるHONK THE HORNもデビューするなど、HACHIが自身の活動に集中している間に、彼女の周囲、すなわち“家”そのものは慌ただしく変化し、拡大の一途をたどっていた。そんな1年だったのだ。
これまで見せてこなかった感情について──「Revealia」を読み解く
キングレコード所属のシンガーとして着実に活動を重ねながら、RK Musicの変化を横目に徐々に後輩たちが増えていく。日本国内だけでなく、遠く離れた台湾を中心に東アジアや東南アジアにもファンが広がり、ひょっとすると本国・日本よりも熱烈な瞬間を彼女は感じたかもしれない。
自分を知ってくれていることは頼もしさや喜びを生む一方で、不安や恐れといった感情も同時に呼び起こす。自分を知ってくれる、リスペクトしてくれる、好きでいてくれる仲間やファンが増えていく一方で、彼らに見える“HACHI”という存在は、本当に“HACHI”として愛されているのだろうか。
自身の知らぬところで、誤ったイメージやひねった印象が広まらないか──このレビューを書いている春にそう考えると、なんだか新入生や新卒社員の悩みのようにも感じられる。もっとも、対人コミュニケーションにおけるモヤモヤや混乱という意味では、これはごく普遍的な悩みにも見えるだろう。
そうした考え方を踏まえると、今作のコンセプト「これまで見せてこなかった感情を見せる」も自然に理解できる。
本作に関わったササノマリイ、buzzG、海野水玉といったコンポーザー陣がどこまで彼女の深部に触れたかはさておき、その深部へ向かうニュアンスがサウンド・曲順・歌詞に如実に表れている。
まず冒頭から中盤にかけての楽曲は、いずれもミドルテンポのグルーヴで統一されている。7曲目「Empty Town」までの7曲は、じっくりと歩みを進めていくような楽曲が揃っているのだ。
スピード感が控えめで、歪んだサウンドはほとんど組み込まれていない。むしろ音を抜いてシンプルな構成にする曲もあるほどだ。一般的な作品であればもっと曲順に抑揚をつけるだろうが、今作はそれとは違う。正直に言うと、筆者はかなり面食らった。
だが今作は違う。彼女の内面にある深層や見せてこなかった感情を表現するため、サウンドの質感を以前よりもなめらかで穏やかな方向に志向し、感情をより豊かに表現し、その質感で全体を整えることで一種のストーリー性を宿すことを目指したのだ。
それは歌詞にも顕著に表れている。
オープニングを飾る先行曲「To Be Alive」のサビは、ある意味での宣言として読めてくる。ここに居る意味を探すからこそ、痛みと向き合うのだ、と。
生きていたいと僕ら願って泣いたり
To Be Alive
何も持たずに終わりに向かっていく不安と
揺れる想いに彷徨い 悩んで 選んだり
痛みと向き合っていたんだ ここに居る意味を探すから
あなたへ伸ばしてく
乖
手放そうとした世界から
消えたくないんだって 声がしたんだ
いくじなしのわたしを 笑ってくれる?
誰にも もう分からない
∞
「死にたい」と歌うmy heart
幸せなら取り戻せない気がする
影をひとり抱いて頬に残る涙
好きなことも好きと思えないまま
誰も知らないずっと隠したままで
ivy
錆びついて動かないままの
軋む心臓で走っていくから
深く傷つけて滲む
咽返るこの赤で塗りつぶすように
ずっとあなたの世界で燃えるように
そっとあなたの中で脈打つように
誰もいないホームの風
Empty Town
古い記憶が走って
なんか、苦しいの。
儚さ、無常観、虚ろさ、あるいは希死念慮。そういった言葉をHACHIは歌っていく。
ボーカル面でも変化がある。より丁寧にボーカルを際立たせようと策が加えられており、深いエコーやダブリングなどを活かして際立たせ、上下の音程でハーモニーを加える。コーラスはもちろんHACHI自身。その太く艶っぽい歌声は、豊かで重厚な響きとなってリスナーの心にドロリとしたはちみつのようへばりつく。簡単に拭いて落とせないくらいだ。
3曲目で”「死にたい」と歌うmy heart”と歌われるが、今作の温度感でいえば本当にそう感じていた時期があった……こうやってリアリティーを見出しそうになるほどに説得力がある(実際どうだったのだろう)。
6曲目「Chere amie」の冒頭で、もう一つの顔を覗かせる
私たちはハミングで、
Chere amie
はたまた、初夏の幽光で、
時には冬の無垢なえくぼだったりして、
そうやって、とりとめのない子供だったのです。
無垢さ、純真、ピュアネス。それは幼さといったニュアンスとして広がっていく、それも歌うのみでなく、ポエトリーのような優しい語りもまじえて。リズムとして単にスローテンポであるだけじゃない、歌うHACHIのテンポ感やリズムに、楽曲そのもののグルーヴが委ねられる。HACHIの歌声とともに音楽が進んでいくのだ。ストリングスによって徐々にスケールが広がっていき、スッと楽曲は終わる。
8曲目「雨うつつ」では、ピアノ、ドラムス、ベースに、雨が降る音が環境音としてすこし混じったアコースティックなムードのなかでHACHIは歌う。
そのなかにはこんな歌詞がある。
耳を澄ます先に 美しい音があるように
雨うつつ
誰かを傷つける この歌声でないように
最後のページをめくる あの手のように
雨現 心打つ五月に
レコードは止まない
雨をスネアロールに例えたこの曲では、同時に雨が音楽として描かれている。雨の音とともに音楽を聴いていようという彼女の姿が浮かぶ。
レコードといえば、彼女は前作で次のように歌っている。
閉じかけた瞳に たしかに煌めいた星
そっと手伸ばして 同じ時を歩んでく
思い出して 思い出して
あなたはすぐにそばでわたしは歌うの
レコードのように
直接的な続編関係ではないはずだが、どう考えてもここで再生されているレコードは、HACHI自身が歌っている“そのレコード”なのではないかと感じてしまう。
少なくとも、レコードのようにあなたへ歌を届けようとしていたHACHIが、孤独や痛みに苛まれながら包み隠さずに表現した今作でも「レコードは止まない」と歌っていることに、同じ人間・アーティストとしての運命、性、テーマを見いだしてしまう。
次の曲「あいあいがさ」では、これまでの息苦しさや痛みを描いてきた流れから変化し、弱さや幼さを隠さずに歌っている。
やがで雨音(音楽)が鳴り出して 二つの鼓動が連なって
ぎこちない影がくっついて キラキラキラ
土砂降りの中 見つめ合って もっとも近づきたいよ
絡めるのなら 結ぶのなら 幼気な手を笑って
震えて悴む手を
ここで「雨うつつ」と「あいあいがさ」が繋がっていることが分かる。世界観が同じというより、HACHI自身が弱さや痛み、さらには恥ずかしさが残る幼さを露わにして、それを優しく受け止める姿を描いている。とても青春的で、ポップに理解しやすい表現である。
「Revealia」では再びミドルテンポのシンセサウンドに包まれるが、この段階で響く彼女のボーカルには、もう寂しさや危うさで震えそうな様子は微塵もない。“あなた”という存在によって「私はここにいる」と歌いきる。
最終曲「Brand New Episode」は、アニメ主題歌という性質もあり、もっとも明るく軽やかな1曲に仕上がっている。本作のストーリーを締めくくる曲として、その曲調や歌詞はまさにこのポジションにふさわしい。
発売前に開催されたライブツアー2025「Unlockture」は、カギを開ける「unlock」と序章を意味する「overture」を掛け合わせた造語であり、「Revealia」の世界観を先んじて体験できる構成になっていた。アルバムの世界観は、リリース前からすでに提示されていたものだったのだ。
時代は今、音楽プレイリストを中心に音楽を聴く人が多い。そんな中、アルバム単位で時間軸を生み出し、リスナーにストーリーを辿らせようとする試みは、いささかハードルの高いものでもある。「雨うつつ」と「あいあいがさ」をはじめ、どの楽曲も単独で切り出して聴こうとすると、本来の意図から外れてリスナーに響いてしまうだろう。
だが、こうしたクラシカルな構成を志向するのは、HACHIというシンガーが持つミュージシャンシップ、志の高さ、誇り、矜持、あるいは執念と執着によるところが大きいだろう。
そうして制作されたのは、彼女の得意とする楽曲タイプやサウンド、ボーカルをより印象的に響かせる曲構成やアレンジメント、そして「これまで見せてこなかった感情を見せる」というコンセプトに沿った選曲と配置。そのすべてが密に設計され、一つひとつの歯車がしっかりと噛み合うアルバムとなっている。
ストーリー性・物語性の高い一枚として評価できると同時に、HACHIという存在、ボーカリストとしての高い表現力とミュージシャンシップがなければ具現化できなかった作品なのだ。
(TEXT by 草野虹)
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