長瀬有花 x Such ライブレポート 気鋭の2人が魅せる、クールとゆるふわの調和に酔いしれた一夜

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RIOT MUSIC汽元象(きげんしょう)レコード所属の長瀬有花(ながせゆか)が、シンガー・Such(サチ)とのツーマンライブを2024年8月12日にWALL&WALLで開催した。シンガーとしてともに注目を集める両者が初の邂逅となった本イベント。その模様をレポートしてみようと思う。


夏の日差しもキツイ8月12日は、山の日としての国民の祝日であり、三連休の最終日でもあった。そんな休日最後のひとときに、表参道という地で催されたのが長瀬有花とSuchのツーマンライブだ。

18時45分ごろに開演して、1番手としてSuchが登場。ライブはスタートした。Suchといえば、2018年頃からネットシーンにおいて様々な楽曲のゲストボーカルを務めるようになり、徐々に参加曲がヒットしていった経緯がある。

今年に入って自身初のソロライブを続けてきて、今日のライブが年内3度目のステージとなった。これまで人前にあまり出てこなかったシンガーが、徐々にソロ&ゲストのイベント出演を始める。そんなレアな一瞬を見れるということでコアなファンが集まった印象だ。

注目を集める中で姿を現した彼女は、黒い衣装に身を包み、少し緊張した面持ちで1曲目「full of spells」を歌い始める。もう一人、サックス&マニピュレーターのShoubunを伴っての出演だ。Suchは目をつぶり、体を揺らしながらのパフォーマンスを見せた。

2曲目「囲蛹のバースデー」から3曲目「timelapse」とつないでいく中、ブレイクビーツ~ドラムンベースやクラブミュージックライクなトラックから発せられるリズムに体を委ね、小刻みに跳ねながら歌う彼女。緊張気味な表情から、徐々に笑みがこぼれていくのが見えた。

4曲目には、トラックメイカー/シンガーソングライターとして活動するUztamaを呼び込み、「続くかぎり」をウィスパーな声でハモってみせる。柔らかなエレクトロニカ・サウンドに包まれていくと、次いで「supernova – ISLTR Remix」へ。こちらは原曲とは異なるリミックス楽曲からの披露だったのだが、複雑かつ細やかなビートが降り注ぐようだ。薄黄緑色の照明がクルクルとフロアを照らし、Suchは踊りながらサックスとともに「トゥットゥルットゥ~」とメロディをなぞっていった。

「WALL&WALL!最後まで楽しむ準備できていますか!?」と声をかけ、ドラムス・ベース・ギターのメンバーがステージに現れると、バンド編成・5人でのライブがスタートした。披露されたのは「終電でつれだして」「洗礼」とRuLuの楽曲2曲。最初はアップテンポに歌いつつ観客を「ハイ!ハイ!」と煽り、続く曲ではドラムとベースが編むグルーヴにゆったりと乗せ、心地よさそうに歌ってみせた。

「今日は来ていただき、ありがとうございます。長瀬さんとのツーマンができて嬉しいです。でも、Suchはあと2曲で終わります。」と淡々と話すと、「えぇー!?」という定番の返し。これを見たSuchがバンドメンバーと笑っていたのは、ファンからみれば少しうれしい反応だったろう。いったいどのようなシンガーなのか? SNSもあまり更新がなく、ライブも今日が3度目。ようやく彼女の表情、温度を感じた気がした。

そこから披露したのが「ファントマイズ」と、自身にとって一番のヒットとなった「ヒステリックナイトガール」の2曲だった。クラブフロアに向けられた原曲を意識したグルーヴにサックスがシットリと混ざっていく「ファントマイズ」。そして最後の「ヒステリックナイトガール」ではヨコノリからタテノリへと一気に変え、観客を盛り上げて締めた。

おそらく序盤は緊張をしていたであろうSuchだが、クラブで音を浴びているかのように体を動かし、ライブが進むにつれ、彼女らしいセンチメンタルな歌声を届けていったのは印象的だった。「ヒステリックナイトガール」の途中では笑顔もみせながら歌った彼女は、深々と一礼して長瀬へとバトンを渡したのだった。

本来ツーマンライブといえば、1組目が終えれば多少の空き時間があるもの。それはステージ転換のためでもあるし、観客をある程度休ませる意図もあるだろう。だがこの日のライブ、Suchから長瀬への転換は一切なく、ものの数十秒、間髪入れずに長瀬有花がステージに登場し、ライブをスタートした。

そんななかで長瀬が1曲目に披露したのは、彼女を代表するであろう1曲「とろける哲学」だ。「ここどこだ 宇宙さ あれ、ねこだ」のフレーズとサウンドがTikTokでバズってから約2年、この曲が発する柔らかなムードが、黄色やオレンジの照明に照らされて一気に会場の空気を包みこんだのはいうまでもない。

ライブ序盤は長瀬とマニピュレーター&サックスの2人で進行していく。Suchと同じ進行だ。「モラトリアムディスコ」「ブランクルームは夢の中」と続く中、緑・黄・青とパステルカラーな照明がコロコロと転がるように会場を照らし、長瀬は実験服のような半透明状の衣装と目元を隠す特製サングラスを身に着け、”長瀬ワールド”を展開していく。

長瀬ファンならば当然御存知だろうが、彼女の楽曲にはいわゆる「テンポの速い曲」や「アグレッシヴで攻撃的な曲」はほとんどない。ソウル・ミュージックやテクノポップを基点にしたサウンドメイクは、ゆるやかでふわふわとした質感となるよう構築されている。

4曲目に披露されたLocal Visionsとのコラボ曲「さくらりら」では、80年代のアニメ作品で使われたと錯覚しそうなオールディーズなテクノポップ/アニソンらしさを漂わせ、続く「宙でおやすみ」はAiobahnが生み出したスペーシーなクラブサウンドにあわせ、彼女は伸ばした手をピッピッとリズムよく振って表現する。文字通り星のようにキラキラと、彼女がいかに集中して表現しているかがわかる。

「みなさ~ん楽しんでますか~? 肩の力抜いてゆらゆらして楽しんでくださーい」

このように彼女は柔和な面持ちで観客に話しかける。先ほどと同じようにバンドメンバーがステージにあがり、ここからはバンド編成となって進んでいった。

バンド編成として最初に披露したのが「アフターユ」。 細かく刻まれるドラミングとフレーズ、そこから大きく拍をとってゆったりとしたグルーヴへと移っていく流れが何度も繰り返される。


いずれわたしも溢れていく
隅々まで染み渡るように
うろうろしよう
いとおしいもの
もう少しゆっくりみていくから
、ね
おさきにどうぞ


長瀬のソフトタッチなボーカルにリズミカルかつ語感の心地よい歌詞がそこに混じり、おおらかに波打つようにゆらりと会場を揺らす。

続く「オレンジスケール」はよりアップテンポにバンドアンサンブルが奏でられる中、長瀬はむしろよりウィスパーな声でボーカルし、存在感を発していく。ギターやドラムが時折ヘンテコなフレーズを挟むのは、長瀬有花というシンガーのユーモアやアイディアの結晶。視線を観客に向けながら、長瀬は笑顔で飛び跳ねていった。

その後、おもむろに手を伸ばせば観客も同じように手を伸ばし、ハンドクラップをうながせば自然とハンドクラップがうまれ、ほとんど声をかけることなく観客を操ってみせる長瀬有花。優しく柔らかな音楽と愛らしい所作をふんだんに振りまくことで、ここまで人を虜にさせることができるとは。

本編ラストに歌った「ほんの感想」は、ゆったりとした立ち上がりから一気に盛り上がっていく原曲に倣い、これまでを裏切るようにシャープな演奏で騒々しさある演奏をはさみ、ラストはふたたびスローな演奏でライブを締めたのだった。



アンコールの声が上がる中、バンドメンバー・Such・長瀬有花がそれぞれステージに戻ってくる。そして2人が揃って歌い始めた「宇宙遊泳」を耳にした際、気付いたのが意外と2人の声色が似ているということだ。

細めでふわっとした儚さを感じさせる声色であり、ドライな声質のSuchとウェットな声質の長瀬と、似ているようで少し違う。だからこそ、ユニゾンで歌ったときととても心地よく響き合い、淡々とした8ビートのグルーヴにもしっとりとした色合いは塗られていった。

この日最後に2人が歌ったのは「supernova」。白と青の照明に照らされ、Suchと長瀬は目を見合わせてルンルンと歌っていく。ハンドクラップを促し、ギター・サックスのリフに合わせて「トゥルトゥ~」とみんなでうたい、ライブを鮮やかに終えたのだった。

ダンスミュージックにフォーカスしてパキっとしたライブを見せてくれたSuchと、ソウル〜テクノポップにオリジナリティあるヒネリを効かせた世界観を披露した長瀬有花。クールとゆるふわがうまく調和した一夜は、今後二度とあるか分からないレアな時間であった。

●Such セットリスト
M1. full of spells
M2. 囲蛹のバースデー
M3. timelapse
M4. 続くかぎり
M5. supernova – ISLTR Remix

(バンド編成)
M6. 終電でつれだして
M7. 洗礼
M8. ファントマイズ
M9. ヒステリックナイトガール


●長瀬有花セットリスト
M1. とろける哲学
M2. モラトリアムディスコ
M3. ブランクルームは夢の中
M4. さくらりら
M5. 宙でおやすみ

(バンド編成)
M6. アフターユ
M7. オレンジスケール
M8. アーティフィシャル・アイデンティティ
M9. 今日とまだバイバイしたくないの
M10. ほんの感想

●アンコール
・宇宙遊泳
・supernova


●バンドメンバー
・Guitar : 小林ファンキ風格
・Bass : 二見真典
・Drums : 工藤誠也
・Sax & Manipulate : Shoubun


(TEXT by 草野虹, Photo by 塙薫子)

●関連リンク
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