
KAMITSUBAKI STUDIO/PHENOMENON RECORD所属のバーチャルラップシンガー・春猿火(はるさるひ)が2月19日、1stミニアルバム「RULE THE WORLD」をリリースする(販売ページ)。
2019年11月のデビュー以来、2つのオリジナルアルバム発売、3度のソロライブ開催を経て、大いに成長した彼女は今、どんな想いで音楽活動を続けているのか。1stミニアルバムのタイミングでロングインタビューを実施した。
「時代が追いついてくるのをひたすら待ってた感覚はありました」
──KAMITSUBAKI STUDIOのオーディションを受けた理由はどういったものだったんでしょうか?
春猿火 自分は物心ついた頃から歌うことが好きでした。ただ、高校生の時に初めて歌のオーディションを探したときに、当時は「歌手=必ず顔出し」みたいな状況がオーディションのデフォルトだったので、歌うことは好きだけど、顔出しして人前で歌っていこう!というメンタルはなく……。そもそもわたし自身が結構内向的な性格だったので、結局このときはあきらめて、一人で家でひっそりと歌うことにしたんです。
その後、EGOISTさんのライブ映像を初めて見て、すごく衝撃を受けました。まだ平成だったあの時代に、バーチャルな姿で歌っているアーティストさんはほとんどいなかったですし。
──当時いなかったですね。
春猿火 こういう歌手のあり方もあるんだなってことに気付かせてくれたし、そのミステリアスさや匿名性みたいなところもすごく魅力を感じたところでした。弱すぎる自分自身を嫌悪してた自分にとっては、「もう一人の自分が存在する」というのはすごいロマンで、革命的に見えました。
もしもそういった姿になれたら、自分が今まで諦めてきた「歌う」ことができるかもしれない。時を経てTHINKRに出会い、バーチャルオーディションを受けて今に至る流れなのですが、EGOISTとの出会いはやはり勇気付けられましたね。
──EGOISTさんを初めて見て衝撃を受けてからTHINKRさんのオーディションを受けるまでというと、その期間は数年以上空いてて結構長いと思いますが、その間もずっと心に引っかかっていたということですか?
春猿火 そうです。当時は「ああいった形態でしか自分は歌いたくないな」とずっと心に思ってたくらいで、そういう時代が追いついてくるのをひたすら待ってたみたいな感覚はちょっとありましたね。
──えぇ……かっこよ……。
春猿火 その頃は歌い手さんも盛り上がってきてて、歌い手がアニメのオープニングテーマなどを歌う時代とかになっていましたよね。例えば、初期の「CHiCO with HoneyWorks」さんなど、顔出しをすることなくデビューする方も増えていました。
実際シンガー向けのオーディションもそういった形が前提となっているものも増えていて、少しあとになってキズナアイさんがブレイクして、VTuberやバーチャルシンガーがでてきたという風に自分は捉えてます。ですので、実は結構「待っていた」んです。
──なるほど。ここまでのお話を聞いていて大前提なお話をしたいんですけど、マンガやアニメは好きですか?
春猿火 もちろん私自身オタクなので元々好きですよ。
──恐らく子供の頃からお好きかと思うんですが、心に残ってるバイブルみたいな作品はありますか?
春猿火 いっぱいありますね。自分をアニソン好きにしてくれたという意味では、やっぱり京アニの影響は強くて、「けいおん!」とかになるのかな。深夜アニメなどが好きでよく見ていました。
──おそらく「ニコニコ動画」にもハマったのかなと思うのですが。
春猿火 そこはもう、そもそもニコニコ動画の民だったので(笑)。だからボカロ楽曲をよく聞いていましたね。
──ライブ配信ではゲームも楽しまれてるなと思うんですが、いかがでしょう?
春猿火 ゲームは、どちらかと言うと昔から自分はやる側じゃなくて見る側なんです。わたしには兄がいるのですが、兄がやってるところを結構ちっちゃい頃からずっと見てました。でも自分がやると思い通りにいかないんですよね、大体。何ででしょう……。
──なるほど。めちゃくちゃニコニコ動画の民だということがわかった上で、次に聞きたいのが「春猿火」として活動する前と活動している今も踏まえて、憧れていたり参考にしているアーティストやミュージシャンはいらっしゃいますか。
春猿火 いますね。さっき名前をあげたryoさんが活動しているEGOISTやsupercellの音楽は、自分を形成していったアーティストなので、ずっと敬愛しています。ボーカリストという意味では、EGOISTのボーカルを務めていたchellyさん、あとAimerさんは空気を含んだゆとりのある歌い方をされたり、おしゃれな歌い方みたいな方が自分は好きで、バラード歌うときとかに参考にさせていただいたりしてます。
逆に力強い歌を歌われる方で言うと、アニソン好きとしてはLiSAさんは結構アニソン界の女王というイメージですよね。当たり前に好きですし、ライブのパフォーマンスもすごくかっこいいので、憧れています。
──本作「RULE THE WORLD」ではグッとロック色が強まったわけですが、ロックバンドはお好きですか?
春猿火 学生の時によく邦楽ロックなどを色々と聴いていたタイプでした。バンドで言えば、まだメジャーデビューされてない方々だったり、ゲスの極み乙女さん、KEYTALKさん、04 Limited Sazabysさん、クリープハイプさんとか、邦ロックのド真ん中なところですね。
──今後の自分の活動の中で、コラボしてみたいミュージシャンさんとかトラックメーカーさんはいらっしゃいますか?
春猿火 Gigaさんですね、ご縁があればいつかご一緒してみたいです。
──Gigaさんが真っ先に上がりましたが、理由は?
春猿火 もともと大好きなボカロPの一人なんです。Gigaさんみたいな世界観の曲調、エレクトリックでアッパーチューンみたいなEDMな楽曲がまだ自分の楽曲にないので、そのジャンルに手を出すのであれば、やっぱりGigaさんにお願いしたいなと。
──意外ですね。春猿火さんがダンスチューンを考えている。
春猿火 そもそもそういったダンスチューンやエレクトロなジャンルも元々結構好きなんです。ただ自分の声に合うかというとまた話が変わってきますし、今まで自分がそこを避けてオーダーもあまりしてなかった。でも今なら、そういうジャンルにも挑戦してみてもいいのかなと思います。
──ここ最近で楽しんだ作品やハマった作品はありますか?
春猿火 最近だと、「ライオンキング」の実写映画を初めて見ました。アニメじゃなく3D映像を使った映画のほうです。実は今までディズニー作品にほぼ触れてこなくて、たまたま機会があって見させてもらったんです。
ストーリーが面白いのはもちろん、単純にCG映像が綺麗すぎたし、こういった活動をしていることもあってかなり職業病みたいな見方をしてしまったんです。「このクオリティでミュージックビデオを作ったらやばいだろうな」「この映像を制作している過程をめっちゃ見たいな」とか思っちゃって、そこからメイキングとかも漁り始めて、個人的に結構キタなと感じた作品でした。
──そんなに熱中したのはなぜでしょう?
春猿火 この職業についてから、映像表現がすごく好きになって興味が湧くようになったんです。3Dクリエイターさんが作られる緻密な背景とか、一緒にMVなどを制作してて、「なんなんだこの人は!?」って思うことが多いです。本当にすごいんですよね、イチから作られる工程が。「ライオンキング」でも同じことを思ったので、かなり追いかけて見ちゃいました。
一番印象が変わったのは「理芽」
──V.W.Pのメンバーと会話をする時間も多いと思います。4人について、出会ったときと今で印象は変わりましたか?
春猿火 だいぶ変わりましたね。出会った当時は、当たり前ですけど初めて出会った者同士なので、探り探りに話をしていたし、メンバーそれぞれのパーソナルな部分はあんまり見えなかったんです。そこからたくさん会話していく中で、歌ってない普段のメンバーは、いい意味で普通の、等身大の女の子なんだなってすごく感じます。なので初期とは印象が結構変わったというのはあります。
──印象が一番変わったのは誰でしょうか?
春猿火 自分の中では理芽ですね。最初は寡黙で強い、クールビューティな女の子なのかな?と思っていたんです。V.W.Pのファーストワンマンライブのあたりから5人で会話していくことが増えて、理芽はクラスに一人いる「転校生に真っ先に声かけに行く」タイプの明るい子だったことを知りました。いわゆる「陽キャ」で、漫画に出てくる憎めない主人公感があります。
──以前理芽さんにインタビューした際、理芽さんは「春ちゃんは『理芽大好き人間』なんですよ」と話していましたが、どうでしょう?
春猿火 彼女とは対極で、自分はどっちかといえば「陰」なんですよ。なんならメンバーのなかで一番「陰」じゃないかなと。理芽みたいな「陽」を見たときに、素晴らしい存在なのはもちろんなんですけど……なんかおもしろいなって(笑)。なので勝手に観察したり、写真撮ったりしてるという感じです。
──それが「#メチ観測日記」という観察日記となって投稿されてると。
春猿火 そうですね(笑)
──ヰ世界情緒さんはいかがでしょう?
春猿火 情緒さんは自分と同じオーディションでデビューしてるので、一番長く付き合いがあるし、もしかすると最初の印象とあんまり変わってないかもしれないです。
──クールで落ち着きのある方というイメージ?
春猿火 そうですね。落ち着いてる子なんですけど、V.W.Pが結成されてから深く探っていったら、情緒さんが面白い人だと気付き始めました。二面性があるというよりかは、面白いときと真面目なときの振り幅がしっかりあって、そこが自分と似てるんです。決めるところは決めるし、ふざけるところはふざけるタイプで、すごく話が合うし、見ている人からするとある種のギャップを感じる部分かもですね。
──幸祜さんはどうでしょう?
春猿火 幸祜さんともすごく仲良くて、色々話しをしてます。彼女はファンのみなさんから「ポンな人」と見られがちなんですけど、幸祜さんも決めるところはちゃんと決める人だし、すごく繊細な子だなと思ってます。状況を俯瞰して見る力に長けてる人なので、周りのことがすごくよく見えてるなとグループを結成して最初に気づきましたね。
──最後になりますが、花譜さんはどういった印象になりますか?
春猿火 花譜さんは年を重ねるごとに面白い人になっている印象があります。新しく身につけたであろう変な豆知識やうんちくを会うたびに教えてくれるんです(笑)。笑いのツボもなんか独特だなと思うことも多くて、初期の少女感みたいなのは、もう私の中にはないですね。むしろ感性がすごく冴えてて不思議な人、奇人だと思うこともあります。
──いつの間にかダジャレをすごく好まれるようになってて、ファンの方もビックリした方がいるかもしれないです。
春猿火 びっくりしましたよね?(笑)。実は私もびっくりしました。気がついたらダジャレにハマっていたんです。そこも含めて「不思議で面白い子だな」と感じることが多いです。
「私自身もロックがいちばん似合う、一番得意でシックリくる」
──音楽活動についてお聞きしますが、2024年1月にセカンドアルバム「心獣」をリリースし、その後にソロワンマン、V.W.Pのライブとせわしない1年を過ごされてきました。そんな流れで「心獣」が春猿火さんの中でどんな作品として位置づけられていったのかをお聞きしたいです。
春猿火 ファーストアルバムの「心眼」では、たかやんさんに全楽曲を書き下ろしていただきましたが、「心獣」はたかやんさんが春猿火チームから卒業もされていて、多くのコンポーザー様をお迎えして制作したアルバムになりました。
「心獣」のテーマや内容として、”過去の弱い春猿火”と”強さを得た春猿火”を共存させるということもありましたが、今振り返ると挑戦的なアルバムだなと感じます。リリースして時間が経つごとに、「このアルバムは自分のなかで大きなターニングポイントになったんだ」とより強く感じています。

──例えば、去年8月のKAMITSUBAKI FESでも、「心獣」からの曲や新曲「META」も歌われていました。その辺の選曲というのも、「心獣」を出したからこそ、その後時間をかけて尖っていった、乗り換わっていくことをアピールするという部分があったのでしょうか?
春猿火 ありましたね。ワンマン終わってから振り切ったというか、新生した気持ちになってたんです。完全に「新しい春猿火」として歌っていこう!という気持ちの切り替えやタイミングがあって、それがKAMITSUBAKI FES ’24でお見せできたかなと。
──「心獣」のリリース後も、コラボ曲を含めてポンポンポンとリリースされていきました。その動きを見ていて、他のメンバーよりもリリースペースがかなり速いし、楽曲も多いよな?と感じていましたが、ご自身はどう意識していますか?
春猿火 おっしゃるとおり、ここ2年半くらいはだいぶアクティブに楽曲をリリースさせていただいています。ただ自分としては、デビューから最初の3年くらいは、逆にメンバーの中で一番リリース数が少なかったと思うんです。なのでここ2年半で空白だった部分を埋めてる……他のメンバーと足並み揃えてる!みたいな感覚もあります。あとは、元々レコード会社で音楽制作をしてきたディレクターが、春猿火チームに加わったことで楽曲を継続的に制作できる環境が整ったのも大きいと思います。
でも、おっしゃるように最近では自分でも「わたしすごい沢山リリースしてるな」とは思っていました。なのでミニアルバムのリリース後はちょっと休憩を置いて、ペースを緩やかに切り替えたいなとは思ってます(笑)。
──なるほど。少し突っ込んだお話をすると、VTuberやバーチャルシンガーだとライブにどうしても限りが出てきてしまうし、「活動している!」という存在感を高める意味でも、新曲のリリースは重要になると思うんです。なのでリリースペースはこのくらい早く、濃厚なほうがいいのではないか?などと自分は感じていたところでした。
春猿火 こうしてバーチャルな形で活動していると滅多にライブできないので、「春猿火がシンガーである」とアピールするタイミングもやっぱり曲しかない。だったらもう曲バンバン出しちゃった方がいいよねというのも、意見・意向としてもアリだよなという感じで活動してました。
自分としてもその点はもちろん重要だなと思いつつ、一曲一曲を大切にしたい気持ちもちゃんとあります。なので、バランスがすごく難しい。ただ、さすがにここまでハイペースでやってきた中で、少し休憩しようとは感じてます。ずっと楽曲を収録し続けてきたので……(笑)
──ありがとうございます。今回のミニアルバム「RULE THE WORLD」を含めて、「この曲はよかった」「歌いやすかった」「歌詞かっこいい」など、印象に残ってる楽曲があれば教えていただきたいです。
春猿火 印象的な曲がいっぱいありますね。ただ自分の曲のなかで「歌いやすい曲」はほとんどないです。全部難しい曲だなと……。
グッときた歌詞という意味では「心獣」に入っている「中間地点」という曲をあげたいです。さきほど「心獣」はターニングポイントになったアルバムという話しをさせてもらったんですけど、この曲はたかやんさんが春猿火チームから卒業するという節目として制作していただいたものになります。
わたし自身のことだったり、春猿火がそれまでリリースした楽曲の集大成が歌詞にかなり詰め込まれいて、最後の最後までたかやんさんはわたし自身の弱さみたいなところに寄り添いながら書いてくださったんだと思ったんです。楽曲をいただいたときは、普通に泣いてしまって、自分にとって「再出発の曲」という感じです。すごく思い入れの強い作品になるかなと。
──なるほど。いままで春猿火さんは単に歌う(シング)だけでなく、ラップを挟みながら歌ってきたじゃないですか? それこそさきほど少しお話ししてましたけど、「弱気な自分自身」に発破をかけて強気に行くんだぞ!というのを歌っていく楽曲もあります。「心獣」の1曲目となっている「台風の子」はまさにそうだと思うんです。他のインタビューで読ませてもらったんですけど、春猿火さんがラップをするようになったのはデビューが決まってからとお伺いしました。今でも「ラップをする」ということの違和感みたいなのはあるんでしょうか?
春猿火 正直にいえば、全然ありますよ。もともと自分は歌を専門にしていたし、デビュー当時ラップに挑戦させていただくことに対し知識や本格的な技術がまったくなかったので、「それ自体がすごい失礼なんじゃないか?」と感じていたくらいでした。
それこそラッパーは自分の言葉でリリックを紡いで、韻を踏んだりする。もしも自分が歌詞を書こうと思ってポップスの歌詞は書けたとしても、ラップのリリックは……たぶん一生無理じゃないかなと。そういう意味でも「自分がラップしていいのだろうか?」という気持ちはずっとあります。
ただ、歌を歌唱するうえでの引き出し・技法としてあってもいいとも考えて、今もまだまだ挑戦させてもらっているし、素敵なバランスで活用させていただいているという感覚はあります。
──歌の技術という点、ボーカルテクニックの技術としてのラップ&フローとして、これまでやってきてはいる。だけども……という。
春猿火 その通り。そこはもう、頭が上がらないって感じです。
──新作「RULE THE WORLD」の話題へと移りますが、ここからは春猿火さんのディレクター(以下、春D)からも話を伺わせてもらえればと思います。そもそもどんな流れでコンセプトアルバム/ミニアルバムをこのタイミングでリリースすることになったのでしょうか?
春猿火 「META」という楽曲を作った段階で、春Dが「META」のテーマでもある”仮想空間”をベースにしてアルバムを作ったら面白いんじゃないか?という提案をしてくださったんです。自分自身も「META」を聴いたときにいろんな可能性を感じたんですよね。
それと同時に、このテーマで作ることによってもっと自由度高く・遊び心とかも入れたら、これまでとは違った春猿火を引き出せる、生み出せるんじゃないか?と思ったんです。
春D まったくその通りで、「META」という楽曲が出来た時点で、「アルバムのテーマをメタバースにしたら、アルバム1枚分フルで作れちゃうね」という話になりました。そのうち、やはりどんどんアイデアが出てきたんです。
加えて、これまでの春猿火さんは本人の等身大な部分をベースにやってきてました。ファーストからセカンドアルバム、その都度開催されるライブを経て、当初は自信がなくひ弱だった春猿火が、みんなに支えられて強くなり、むしろこれからは支えてくれた方々に恩返しにいくよ!という具合までに強く成長してきました。
今後はそういった「ひと回り強くなった春猿火」として活動をしていくと思います。ただそのフェーズに本格的にいく前に、今回の「RULE THE WORLD」のリリースは「ちょっと寄り道をしちゃおう」という意味合いもあります。なんといいますか……「ドラクエ」でカジノに入っちゃうみたいな。
──壮大な寄り道になっちゃうじゃないですか(笑)
春D 最初は遊びの感覚で入ったら、結構ガチになっちゃった、みたいなね(笑)
──でも確かにおっしゃる通りです。壮大さ・スケール感の大きさがすごいなとまず思いました。つまり作品テーマとしては、春猿火さんやプロデュース側のいずれかが先にというわけではなく、話し合った中で自然と決まったという流れなんですね。
春猿火 そうですね。話し合ったうえでマッチングしていった感じです。
──「心眼」「心獣」とアルバムを出すたびに、どんどんどんどんロック色が強くなってるじゃないですか。今回の「RULE THE WORLD」でも、サウンドの変化におそらく気づかれていたのかな?とは思うのですが、自身からも「ロック色を出したい」とオーダーしたのでしょうか。
春猿火 そこは明確に口に出している部分ではないんですけど、スタッフも「春ちゃんはこれが似合うよね」と考えて曲を制作してくださっているし、私自身もロックが一番合う声質なのかなと、得意でシックリきます。なので暗黙の了解な部分だなとは思います。わたしが口を挟まずとも、ディレクターさんやスタッフさんが楽曲イメージを作ってくださってる、といえばいいのかな?
お話されていたサウンドの変化の部分でいうと、自分はすごく感じてます。昔と比べてだいぶ毛色に変化を感じていますし、歌う部分やラップの技術的な面もだいぶ上がってきてるので、ハードルの高さは実感してますね。
──昨年のソロライブで初めて「META」を初披露されて、僕も現地にいましたが、それまでと全く毛色の違うとんでもないヘビーなロックをドーンとカマされたじゃないですか。自分の正直な感想として「えっ?」となってしまって。いきなり別世界にどーんと連れていかれた!みたいな感じだったんです。
春猿火 実はそう思ってほしかったんです。狙い通りです。
──あれだけ厚みのあるギターサウンドの中で、じゃあ女性のソロボーカルがどれだけ映えることができるのかとなったとき、4~5年の活動があったからこそ放てた輝きなんじゃないかな?とも感じました。ということは、やっぱりミニアルバムのコアとなりは「META」になるのでしょうか?
春猿火 そうですね。おそらく春猿火チーム、満場一致かなと思います。
──「META」が制作された時期はいつ頃だったんでしょう?ライブの時期にはもうほとんど出来上がっているのでそれ以前にはなるとは思うんですが。
春猿火 いつ頃でしょう……。確かちょうど1年前の1月や2月で、仮歌もその頃に録っていたはずです。
──なるほど。今回のミニアルバムにはソロライブで披露した「砂時計」「starcloud」「room wear」も含めて4曲が収録されています。ソロライブの時点ですでにリリースのことは考えてらっしゃった?
春D その頃はアルバムのリリースは考えていましたが、トータルコンセプトの「メタバース」はまだ決まっていない状態でした。
意外かと思うんですが、「starcloud」はとあるアニメ作品をイメージして作りました。この壮大さ・スペーシー感。実は「キテレツ大百科」なんです。プロデューサーチームもだいぶ危ないところまで「キテレツ大百科」に踏み込んでしまった作品なんです。
例えば「回向 -echo-」ではサバイバルホラーゲームの世界観でリリックを作ってみようといった具合に、ゲーム世界をイメージした曲が多くあります。「Deep Invite」は堀江晶太さんに「ライブの始まりにくるような、堀江さんが思うゲーム、メタバース世界の曲を作ってください」とオファーしました。
春猿火 「砂時計」「room wear」は元々はそういったメタバースコンセプトで作られた曲ではないですが、アルバムの色を更に深める、黄昏が滲みだす楽曲です。
春D 「XRXD」は、車に乗って街中をめちゃくちゃにする……。
──もしかして「Grand Theft Auto V」ですか?
春D その通りです。
──……なるほど、確かに(笑)。この曲だけじゃなく、歌詞の中でゲームの用語やプレイを俯瞰的にみた描写があります。「META」が発している別世界感というのも、とても通じるなと感じます。一方で「身空歌」「巫女」といった楽曲も出されていますが、そちらを入れないままでのリリースとなりました。
春猿火 「身空歌」や「巫女」、過去の曲でいう「テラ」をアルバムに入れなかった理由は自分の中でちゃんと明確にあって。例えば「テラ」は過去のわたしにフォーカスした楽曲、「身空歌」はライブシリーズ「シャーマニズム」をテーマ性を司っていた曲で、「巫女」はその「シャーマニズム」の完結を飾る1曲で、それぞれメッセージやテーマ性が違っている。なので、アルバムには収録しないことを決めました。
──テーマやコンセプトとして違いがあるからこそ、収録しない曲もあるぞと。
春猿火 そうですね。
──このミニアルバムを聴いて最初に思ったのが、やっぱり大味かつラウドだなという印象でした。先程も話題に上がった「room wear」も、ライブではしっとりとした慎ましい楽曲という記憶だったんですが、このミニアルバムで一気にアコースティックギターの存在感が増していたり、かなりの違いにビックリしたんです。同時に、穏やかな曲でもそういった細かなところに強さやストロングなイメージを打ち出している作品になってて、「これからの春猿火」を打ち出そうとするコンセプトアルバムとしてバッチリだなと感じました。「META」「starcloud」の存在感もやはりスゴイですし。
春猿火 ありがとうございます。
「共感できたり、自分事にできれば、一種の救いになるのでは」
──つかぬことをお聞きするんですが、春猿火さんはご自身の音楽を、普段からというわけではないにしろ、聴き直したりすることは多いほうでしょうか?
春猿火 全然ありますよ。それこそ最近の曲とかも全然聴きます。でも逆に過去の曲は聴かないみたいな。
──なぜ過去の曲は聴かないのでしょう?
春猿火 うーん……ただ単純に恥ずかしいからっていう理由なんですけど、まだ自分の納得いく表現に到達してなかったり単純に声が幼かったりするので、やっぱり「恥ずかしい」というのであんまり過去の曲は聴かないですね。
──普段聴きはするにはするけども、最新の曲に限るってことですよね。はっきりとここからというラインがある程度決まってるってお話ですもんね、それって。
春猿火 はい、そうですね。
──もう一つ、ご自身の楽曲聴いて泣いた経験はありますか?
春猿火 ありますね。たかやんさんに書いてもらった楽曲は、自分を汲んでくださって制作されたものがほとんどなこともあって、リリースして半年後とかにふっとして聴いて、ちょっと思いを巡らせて感じ入ってしまうみたいな、この時こういうこと考えていたなと思い出したりして。
──なるほど。今後について触れたいのですが、去年はライブもすごく多かったですし、バーチャル舞台劇など音楽以外もいろいろご出演されていたと思います。そういった1年も踏まえて、これまでの活動で思い出深いステージや公演、イベントへの出演をあげるなら?
春猿火 やっぱり自分のライブ、「シャーマニズム」ライブシリーズが一番思い出深いなって思います。
──それはもう全体通して?
春猿火 そうですね、全体通してですね。KAMITSUBAKIの場合、ライブ演出や映像技術にだいぶリソースを割いていますし、所属アーティストがそもそも沢山いるので、均等にライブ公演を振ったりすると、どうしてもみんな順番待ちみたいになっちゃう部分がでてくるんですよね。滅多にできないからこそ、1回1回のライブに命かけて準備していて、自分のライブシリーズ「シャーマニズム」は、最初のライブから完結までの3公演、全公演すべてで力を込めてライブできたなと感じています。
──自分が覚えているのはサードワンマンライブでのMCで、自分の内心を偽らずに白状するような、そういった話をされるVTuberの方を初めて見たんです。若干泣いていたのも含めて、言葉をしっかり選びながらしゃべっていてかなり衝撃でした。ライブ自体もかなりのボリュームかつパワフルな内容でしたし、すごく思い出深いライブです。そういったライブシリーズが昨年終結したうえで、今回のコンセプトミニアルバムを発表する。今年はソロライブの開催などはまだ告知されてない状況ですけど、次に自分のソロライブがあるなら、こういうライブを作りたい!というイメージとかは、いま春猿火さんの中にあるのでしょうか?
春猿火 それこそ現地のワンマンでは、もっと別のテーマ感を作らないといけないなとはもちろん思っていて、この軸がまだ決まっていないので今考え中です。ただ、「シャーマニズム」では自分のパーソナルな部分を全部出し切った感はかなりあって、「あそこでちゃんと完結できたのはよかったな」と感じています。「シャーマニズム」はいわゆるエモーショナルに振り切ってたけど、次やるソロライブは……「新生・春猿火」として楽しいを全部共有したいなと思うし、ライブらしいことをちゃんとやりきりたいと思えます。
──「ライブらしい」こと、というと?
春猿火 ライブを見てくださっている方だと分かるかと思うんですが、凝った映像・演出があって、そこに本人のパーソナルやエモーショナルな部分をいれることで完成する。他とはまた毛色の違っていて、それがKAMITSUBAKIの音楽ライブだと思います。
ただちょっとテイストを変えて……例えば昨年の理芽の「NEUROMANCE Ⅲ」や花譜・理芽の「Singularity Live Vol.3」が結構近いんですけど、あれくらい楽しさに振ってもいいのかなという感じはあります。楽しくはっちゃけて終わるみたいな、そういう感じにしたい。

──春猿火さんの音楽やライブパフォーマンスでそういったライブをするとまったく想像がつかないですし、もしも出来た際には面白くなりそうだなと感じます。少し時期は遅れましたが、2025年の目標や抱負を教えていただきたいです。
春猿火 今年はわたし個人だけじゃなく、V.W.Pとしてもそうなんですけど、自分たちの知名度を上げることを頑張りたいなと思っているんです。
初期のころは、なんというかハングリー性とかあまりなくて、「歌えればあとはいいや」と思ってたんです。けどこうして活動していけばしていくほど、いろんな作家さんやクリエイターさんの方と一緒に仕事するたびに、「この素晴らしい作品をもっといろんな人に触れてもらいたい」「自分たちのことも知ってほしい」と強く感じるようになったんです。
そこからつながる縁もあれば、もしかしたら自分たちが作り上げたもので誰かを救える……そういったきっかけになるかもしれないなって思ったら、この広い世界まだまだ全然知っていただける余地はあるんじゃないかなと。とにかくまだ見ぬたくさんの人と素敵な出会いがあればいいなっていう思いで、知名度をすごく大きくしたいと思っています。
──ありがとうございます。花譜さんや星街すいせいさんらの活躍もあり、VTuberやバーチャルシンガーという存在が徐々に世の中に認知され、受け入れられている状況になっているなと思います。そんな今を含めて、これまでの活動をどんな風に捉えていますか。
春猿火 バーチャルの存在が少しずつ受け入れられているのは、自分としてはすごい嬉しいです。何年か前にほか媒体のインタビューでも触れましたが、当時は確か世間のバーチャルへの偏見を取っ払いたいって答えていたと記憶してます。
「バーチャル」なジャンルが生まれた当時は、もちろん新鮮さもありつつ、同時に舐められてしまう世界でもあったと思うんです。だから当時はそういうあり方をまだ知らない人から向けられる、「ああ、歌ってるの二次元ね」みたいなリアクションに遭遇することもありました。姿はバーチャルな姿だけど、やってることは音楽。だから単純に曲を聴いてほしいし、アーティストとして自分を見てほしいという気持ちがずっと根底にありました。
今はVの曲がバズってきたりとか、Vの方がテレビ番組に出演したり、そこまで浸透してきてる。ここ数年でだいぶ世間の認識が比べてだいぶ変わってきたし、広まったなとはすごく思いますね。
──そのうえで、いま自分にとってバーチャルの姿で歌うこと、音楽をやっていることをどう捉えていますか?
春猿火 うーん……望んでる姿で活動できている、という感じですかね。自分が望んでる姿になれたので、春猿火としてこの形態を維持をしたい。何を言われようが、きっと春猿火としてはこの姿でずっと歌っていく、この認識はずっと変わっていないかもしれないです。
──最後に、今の春猿火さんにとって、「音楽」とか「歌」はどういう存在になっていますか?
春猿火 なくてはならないもの、逆に「音楽や歌がない世界で生きている自分がまったく想像できない」ですね。自分は結構小さい頃から、歌とか音楽で自分の機嫌を取ったり気持ちをコントロールするタイプでした。たまに「自分の耳が聞こえなくなったり、声出なくなったらどうしよう」とか結構物騒なこと考えちゃうんですけど、そういったことを考えるだけで病んじゃうので、自分にとって歌とか音楽は一部でもあり、心の支えだったりする存在なのかなと思ってます。
──実はこの質問をすると、「自分が他人に与えるもの」といった内容を答える方がいらっしゃるんです。「自分の音楽が誰かにとっての希望や支えになればいい」といったお答えになるのですが、そういった意識はありますか?
春猿火 あります。それこそさっき話した「心獣」から結構意識が変わってきて、そういった気持ちが芽生えてはいます。ただ、自分はずっと支えられてきた側だったんですよね、音楽に。長い間救われてきて、こうして活動してる間も自分の曲とかにずっと救われてきたなと。なのでそこと並行して、自分が救われてる楽曲を、みんなも自分ごとにして救えたらいいなっていう気持ちがこの手にあります。みんなを救う曲を、自分事にできる曲を恩返しできたらなと。そういう気持ちがだんだん芽生えてきたっていう感じです。
──勇気付けられるような楽曲をみんなに広めていきたいという?
春猿火 背中を押したり、共感できたり、自分事にできれば、それだけで一種の救いになるんじゃないかなと。そういう曲、歌を歌っていきたいなって思っています。
●春猿火 1st Mini Album「RULE THE WORLD」
・発売日:2025年2月19日(水)
・価格:2750円(税込)
・収録曲
1. SWIPE! (Lyrics: ASOBOiSM Music & Arrangement: Yuzuru Kusugo)
2. Deep Invite (Lyrics, Music & Arrangement: 堀江晶太)
3. XRXD (Lyrics: 弥之助(AFRO PARKER) Music & Arrangement: ALI-KICK)
4. META (Lyrics: 弥之助(AFRO PARKER) Music & Arrangement: PABLO)
5. 回向 -echo- (Lyrics: 弥之助(AFRO PARKER) Music & Arrangement: PABLO)
6. 砂時計 (Lyrics: 弥之助(AFRO PARKER) Music & Arrangement: Ava1anche)
7. room wear (Lyrics: biz, マサ Music & Arrangement: biz, SYn-Q)
8. Starcloud (Lyrics: AMAMOGU Music: 松田純一, MILKEY Arrangement: 松田純一)
(TEXT by 草野虹)
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