2025年の段階で6万人*1を超えるタレントが存在するVTuberの世界。ネットでは、大手事務所に所属していたり数字的に大きく伸びている方々が注目されがちですが、一方で単に知られていないだけで様々な才能を持ったVTuberさんというのも数多く存在しています。
そんな「もっと伸びるべきVTuber」に追い風を送るべく、PANORA編集部では「VTuber学」の編者も務め、フィールドワークとして幅広くVTuberを見ている哲学研究者の山野弘樹氏に執筆を依頼。毎回1人をピックアップし、その魅力をまとめてもらいました。連載を通じて、6万人の中から自分と波長が合う「新しい推し」に出会うお手伝いができましたら幸いです。
*1出典:myrmecoleon「VTuber 統計レポート2024 6万人のVTuberの現在」
*連載一覧 → 山野弘樹が語る、もっと伸びるべきVTuber
第一回で紹介するのは星乃プラネさんです。彼女はStar Facet Production一期生所属のVTuberで、2022年10月1日に「LIVE2Dお披露目」配信を行われています。星乃プラネさんはお星さまから生まれた女性であり、その象徴として、金髪の髪の毛を結ぶ髪飾りは土星を模した形をしています。

全体的な配信傾向としては、最近(2025年4月時点)は雑談配信とゲーム配信がメインになっています。その中でも、雑談配信は深夜帯に行われ、ゲーム配信は「スプラトゥーン3」やパズル系の配信をよくされています。歌枠も彼女が得意な配信の一つです。
(1)優しさが伝わってくる深夜雑談
星乃さんの深夜雑談の魅力は、なんといってもその落ち着いた雰囲気です。彼女の声質と喋り方自体が落ち着いているというのもありますが、そこで使われているBGMと雨音が特にリラックス効果を発揮してくれます。静かに雨音と話声が響くその時間は、驚くべき安眠効果をもたらします。(星乃さん自身、「私の深夜雑談で寝落ちしてくれるのは嬉しい」と話されています)。
また、星乃さんは「なるべく毎日配信をする」という目標を掲げているので、かなり高い確率で深夜雑談にリアタイで参加することができます。そうすると、星乃さんの深夜雑談は単なる鑑賞対象であるというだけでなく、生活を共にするコンテンツという意味合いをも帯びてきます。VTuberのコンテンツは「同じ時間を生きている」という実在感が醍醐味の一つになっていますが、四季折々を共有できる星乃さんの深夜雑談は、私たちの生活をメンタル面で支えてくれる柱の一つとなってくれるでしょう(ちなみに、この春から雑談枠の背景が桜になりました)。

深夜雑談から見えてくるのは、星乃さんの優しい人柄です。特にリスナーの方々とのやり取りの中に、彼女の人柄が表れています。もちろん、さまざまなタイプのリスナーが集まりますが、等しく星乃さんがリスナーたちのことを愛してくれているのだということを普段の配信からうかがい知ることができます。
さらに、星乃さんはときどき深い発言をされることがあります。2025年3月20日に行われた配信において、星乃さんは「勝ち負け」という言葉に対して次のような考えを述べています。
「この世に負け犬とかいないと思ってるんだよね。この世に勝ちも負けもないと思ってる。(この世に勝ち負けがあるの)だとしたら、みんな勝ってると思う。なんかさ、どの観点から見て勝ち負けを決めてるんだろうって思う。地球は丸いのにね」
星乃プラネ「3.20 #歌枠 深夜だっ🌙 ☁CH登録者様 1800人目指して☁」
争いごとが絶えないこの世界だけど、本当は勝ち負けなんてないんだという考え方。「そもそも、勝ち負けって誰が決めてるの?」という核心的な問い。さらに、唐突に繰り出される「地球は丸いのにね」という惑星規模の言葉。ここにおいて表れているのは、人類がみな(本質的には)同じ存在であるということを、地球の形状(円)によってたとえるという言葉の妙技です。こうした発言が何気ないやりとりの中で生まれるのも、雑談の魅力であると言えるでしょう。
そんな星乃さんは、「うまくいかない日は、甘いケーキを一つ」(著者:Caho、出版社:KADOKAWA)という本を愛読されています。そうした本を読む理由として彼女が語っていたのは、「人生、何か悩んだときに、自分の味方になってくれる言葉を見つけたい」というものです。
言葉はときに人の心を傷つけてしまいますが、同時に言葉は、誰かの心に寄り添ってくれるものでもあります。そうした言葉の力をまっすぐな感性で受け止める星乃さんだからこそ、深夜配信のときに彼女の想いの乗った語りを聴くことができるのでしょう。

(2)ストレート(?)な感情表現に惹かれるゲーム実況
ただし、ゲーム配信をされているときの星乃さんは、普段の雑談配信からは想像もつかないような一面を見せます。本人曰く、「人には怒らないけど、ゲームやそのシステムに対しては別」とのことで、例えば「スプラトゥーン3」の配信をされているときには、言葉を選びながらもかなりストレートに感情を出している姿を観ることができます。
先日の「スプラ」コラボでは、あまりに長時間オンライン対戦をしていたためか、突然「どうぶつの森のオンライン対戦とかないのかな」と言い出し、リスナーも含めて周囲を困惑させていました。
さて、ここで名前が出るくらいに星乃さんが好きなゲームの一つが「あつまれ どうぶつの森」ですが、のどかな世界観が展開される「あつ森」においても、星乃さんはときに感情をストレートに出すときがあります。特にその瞬間が観れるのは「釣り」のときです。
「あつ森」では、魚の目の前に釣り糸を垂らして、魚が何回かくいついて「ちゃぽん」と音が鳴った瞬間にボタンを押すという「釣り」のシステムが採用されています。星乃さんはこの釣りがどちらかと言うと苦手であるらしく、釣りで魚を逃がす度に心の声が漏れてしまっています。そうした「ギャップ」を見つけることができるのも、ゲーム実況の魅力の一つと言えるでしょう。

また、「喜怒哀楽」のうち、「喜」の感情表現がとても豊かである点も見逃せない点です。たとえば島の住民が可愛らしい動きをしていたり、家具がとても可愛いものであったりしたとき、ハッと息をのむような反応をされるのです。こうした感受性が豊かな方のゲーム実況は観ていてとても楽しいものです。

もともと「あつ森」はBGMやゲームサウンドが癒し効果を持っているものが多く、そこに星乃さんのまったりとした声が加わるので、星乃さんの「あつ森」配信は寝落ちに最適であると言えるでしょう。その安眠効果をぜひ体験してみてほしいです(定期的に釣りで怒っている様子を聴けるのも味わい深いです)。
他にも、星乃さんは猫のパズルを完成させるゲームをやったり、隠れている猫を見つけるゲームを実況されていたりします。過去のアーカイブを覗けば、参加型「マリカ」配信や「スイカゲーム」配信などもされています。お好きなゲームジャンルがあれば、ぜひクリック(タップ)してみることをお勧めします。
(3)星乃さんの歌枠
雑談配信、ゲーム配信と並んで紹介したいのが歌枠です。「うたざつ」という形で、雑談枠と組み合わされる形で歌枠が実施されることもあります。ここでは、いくつかの歌枠を取り上げたいと思います。
まず紹介したいのは、2024年12月21日に行われた「#ゆらくら鯖歌枠リレーVol. 1」に参加したときの歌枠です。
こちらの歌枠では、「好き!雪!本気マジック」(Mitchie M)、「ダダダダ天使」(ナナヲアカリ)、「初恋の絵本」(HoneyWorks)、「Shiny Smily Story」(hololive IDOL PROJECT)、「INTERNET OVERDOSE」(Aiobahn,KOTOKO)、「Booo!」(TOKOTOKO)といったラインナップで参加されていました。
「好き!雪!本気マジック」や「初恋の絵本」などの曲が可愛らしいのは言うまでもないのですが、この歌枠で特にお勧めしたいのは「ダダダダ天使」です。もはや星乃さんのオハコと言っても過言ではない「ダダダダ天使」においてはちょっとしたアレンジが加えられているのも良い点です。
例えば「だけどもあたしはいいか?」や「深夜のネトゲがやめられない」という歌詞が、「だけどもプラネはいいか?」や「深夜のスプラがやめられない」という歌詞に変更されていたりします。
また、サビの部分の
ダダダダ ダメ天使は
ダダダダ ダメですか?
という歌詞で、「ダメですか?」の歌い方がアレンジされています。通常、「ダメですか?」の箇所はそのまま曲の音程に合わせる形で歌われるのが通例ですが、星乃さんはここで、実際に相手に「ダメですか?」と尋ねるようなイントネーションでこの箇所を歌うのです(しかも、Live2Dモデルのモーションキャプチャーのおかげで、この部分で星乃さんが首をかしげている様子も見て取ることができます)。こうした何気ないアレンジに、活動者の方の個性を見て取れます。
次に紹介したい歌枠は、2024年12月29日に行われた「年内ラスト歌枠」です。この歌枠で歌った楽曲数はなんと35曲にものぼります。その八日前に行われた歌枠リレーで歌った曲も含まれていますが、ほとんどがそのときには歌われていなかった曲です。本記事では、特に6曲をピックアップして紹介します。
・「さようなら、花泥棒さん」(メル)
春に聴きたくなる名曲です。星乃さんの澄んだ声質とテンポの良い曲調がとてもよくマッチしています。この曲はサビの部分で「さよなら パッパッパッパ」という歌詞が出てくるのですが、この「パッパッパッパ」の歌い方が特にいいです。
・「かわいいだけじゃだめですか?」(CUTIE STREET)
「可愛い」系ジャンルの代表的楽曲の一つです。楽し気に歌う星乃さんの雰囲気にとてもよく合っています。合間で「にゃにゃにゃにゃー」と歌い上げるところがとても可愛らしいです。
・「ぎゅっと。」(もさを。)
まったりとした雰囲気の恋愛系ソングです。こうしたゆっくりとした曲調にも星乃さんの歌声は自然と溶け込みます。若干うろ覚えの箇所があるのが逆にいいですね。
・「それがあなたの幸せとしても」(Heavenz)
心が揺さぶられるメロディーの曲です。静かに歌うところも、サビの部分で力強く歌うところも、どちらにも魅力があります。
・「ワールドイズマイン」(supercell)
往年のボカロ名曲の一つです。とても楽しげに、かつ感情をこめて歌う姿がとても魅力的です。本人曰く、(歌い終わり直後に)「普通にきゅんきゅんするわ」とのことです。
・「サインはB」(B小町)
アニメ「推しの子」の劇中曲として有名な曲です。まるで星乃さんがアイドルとしてデビューしたかのような想像をしながら聴くことができます。「あなたのアイドル」の歌い方にも感情がとてもこもっています。
最後に紹介したいのは、2025年2月17日に歌われた「うたざつ」(歌枠+雑談)配信です。
星乃さんは「寝落ちできるような深夜配信」を配信テーマとして挙げておられますが、この歌枠では唐突に明るい曲を歌ってリスナーの方々を驚かせています。その中でも、特に「8ミリフィルム」(アカシック)と「気まぐれロマンティック」(いきものがかり)の二曲を紹介します。
・「8ミリフィルム」(アカシック)
「ごめん、みんなのこと起こしちゃう! ごめんね!」という言葉と共に歌われた本曲。テンポの良いサビを明るく歌い上げる様子がとても良いです。この曲自体は「失恋ソング」なのですが、そうしたジャンルとは裏腹にスピード感のある曲調となっており、そうした逆説的な雰囲気に星乃さんの声が非常にマッチしています。
・「気まぐれロマンティック」(いきものがかり)
「じゃあ、いったん起こしますw みんなのことw」という言葉と共に歌われた本曲。言わずと知れた名曲。爽やかで真っすぐな恋の歌を深夜に歌い上げてくれています。「知らない台詞で解き放してね」や「この手は必ず離さないでね」の「ね」の部分に気持ちがこもっていてとても良いです。
これまで、主に星乃さんの配信の魅力・見どころについて「深夜雑談」・「ゲーム実況」・「歌枠」という三つの観点で説明してきました。そんな星乃さんは、現在新衣装制作のためのクラウドファンディングを行われています。集まったお金は、イラストやモデルの制作に使われるそうです。(期間は4月25日まで。)

https://www.v-cro.jp/campaigns/4283
「最ッ高にかわいいアイドル新衣装をお披露目したい!」という想いに表れているように、星乃さんはアイドルVTuberを目指しておられます。そして、彼女の人柄や声質には、間違いなくその素質が見出すことができます。
クラファンのリターンもたくさんありますし、1000円からのリターン付きの支援プランもあります。リターンの中には、星乃さんのプロデューサーとして配信内容を一緒に決められるプランまで存在します。ぜひご検討していただければ幸いです。
これからさらに輝こうとする一番星の軌跡を、みなさまと一緒に見守ることができれば幸いです。
●執筆者プロフィール
山野弘樹
「東京大学大学院博士課程。東京大学「共生のための国際哲学研究センター(UTCP)」リサーチアシスタント。元日本学術振興会特別研究員DC1。主著に、「独学の思考法」(2022年)、「VTuberの哲学」(2024年)、「VTuber学」(共編、2024年)など。