ANISAMA V神 2024・特別対談(前編)「アニサマでできないことを実現して欲しい」

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「ANISAMA V神 2024」ディレクター堤駿介さん(左)&「アニサマ」統括プロデューサー&総合演出・齋藤光二さん

2024年12月15日(日)に「SPWN」で配信された「ANISAMA V神 2024」(以降、V神)。世界最大のアニソンライブイベント「Animelo Summer Live」、通称「アニサマ」史上初となるバーチャルライブで、19名の人気VTuber&バーチャルアーティストと、3組のリアルアーティストが出演。バーチャル空間に完全再現された「アニサマ2024 -Stargazer-」のステージで、「アニサマ」の世界観とバーチャルライブならではの演出が融合された全36曲のパフォーマンスが披露された。

「V神」の熱狂を何度でも楽しめるLIVE Blu-rayのリリース(予約販売のみ。すでに受注は終了)を記念して、「V神」のディレクターを務めた堤駿介さん(バルス株式会社)と、「アニサマ」の統括プロデューサー&総合演出で「V神」では演出監修を務めた齋藤Pこと齋藤光二さん(株式会社ドワンゴ)の対談が実現。「V神」の映像を観ながら、1曲1曲のこだわりポイントや、齋藤Pも絶賛する「アニサマらしさ」の秘密などを語りあってもらった。


「V神」は、癖もトレースされて「アニサマ」になっている

──本日は、「V神」のキーマンであるお二人にじっくりと語り合っていただければと思っています。まず、最初に確認なのですが、齋藤さんは「演出監修」として「V神」の製作にはどのくらいの範囲で関わっているのでしょうか?

齋藤 僕は、「アニサマ」に関してはすごくこだわりを持っていて。総合演出として曲と曲のつながりやカメラワークをはじめ、細かく指示をしながら作っているんです。でも、「V神」に関しては、僕が一つ一つ指揮をしているのではなく、堤さんにかなりお任せしました。自分は現場が好きだし、こだわりも相当強い人間なので、これまでの「アニサマ」と名の付くライブで、こういったスタイルを取ったことはあまりありません。他の誰かが「アニサマ」を解釈して「アニサマ」を作るのは難しいと思っていました。でも、「V神」は、僕の癖というか「アニサマ」の癖も丁寧にトレースしてくださっているから、ちゃんと「アニサマ」になっているんです。

 ありがとうございます。

齋藤 あと、「アニサマ」に関して、僕が全部セットリストを決めているんだろうとか勘違いされがちなんですけど、そんなことはしていなくて(笑)。最終的には、アーティストさんの意見を吸い上げて、やりたいことをやってもらっています。逆に、こちらから意見を出して1曲1曲、決めていくようなやり方は、ほぼやりません。膨大な手間と時間がかかりますから。でも、堤さんは「V神」で、その手間がかかることをやったんですよ。

 そうですね(笑)。まず、アーティストさんの過去の3Dライブや歌ってみた動画などは、なるべく全部チェックしました。それで、ファンの皆さんにとって嬉しい光景になる曲を選んでいったんです。例えば、まだ3Dライブでは披露していない曲の方が良いかなみたいなことも考えながら、一旦、僕の理想プランを作ってご提案しました。そこから、1曲1曲、演者さんサイドと一緒に詰めていった形です。だから、楽曲決めは、めちゃくちゃ時間がかかりました。

齋藤 出演者のブッキングに関しても、堤さんと(バルス所属の本イベントプロデューサー)伊藤(慎之介)さんの主導で進めていただきました。だから、ずっとVのライブやイベントを手かげてきたバルスさんならではのVの歴史も感じられる顔ぶれになっていると思います。

──「アニサマ」の世界観でバーチャルライブを開催するというコンセプトは、どのようにして産まれたのですか?

齋藤 以前、「アニサマ」にもVTuberの方に出ていただいたことはあって。2022年に日清カレーメシとのコラボでホロライブの湊あくあさん、大空スバルさん、兎田ぺこらさんが出演されているんです。ただ、「アニサマ」は、すべてがリアルのライブなので、その中でVTuberのステージをどう見せるのかは、かなり考えました。最終的にその時は、リアルとバーチャルを切り分けるような形で、開演前のオープニングアクトという形になったのですが、お客さんの反応がけっこう良かったんです。リアルとバーチャルのアーティストでは、どうしても生っぽさなどの違いはあるけれど、大事なのは棲み分けや見せ方。「アニサマ」でVTuberのライブをやっても盛り上がってもらえるという手応えは感じていました。

──ホロライブメンバーの「アニサマ」出演は、VTuberファンの間でも話題になりました。

齋藤 アニメのタイアップが付いた曲を歌うVTuberの方も増えてきたし、音楽性の面白い方もいるので、その後も何かをやりたいとは考えていたんです。そんな時にバルスさんとの繋がりができて。「バーチャルなところで『アニサマ』をやりませんか?」と、ご提案をいただき、それはめちゃくちゃ面白いなと思いました。

──バルスさんが持ち込んだ企画だったのですね。

 はい。僕らから齋藤さんにご提案をさせていただきました。

齋藤 その時に話したことが「V神」の根幹にもなっていることなんですけど。バーチャルライブであれば、歌いながら自由に空を飛んだりとか、どんな演出でもできるんです。でも、後でお話しすると思いますが、「V神」で空を飛ぶ時は、ちゃんとハーネス(安全帯)を付けているんですよ。

──ハーネスは、リアルのライブでフライング演出をする時に必要な装備ですね。

齋藤 会場を一瞬で宇宙空間にすることもできるのですが、それもセットが開いた後に変わるようになっていたり、基本的にバーチャルだけどリアリティもある演出になっています。そのリアリティが「アニサマ」らしさにとっては、すごく大事なことなんです。だから、バルスさんには、何でもやるのではなく、お金がかかりすぎたり安全面の理由だったりで、「アニサマ」では実現できないことを実現するようなフェスにしてくださいとお願いしました。

──ここからは、「V神」のBlu-rayに収録予定の映像を観ながらお話を伺っていきたいと思います。

齋藤 今、開演前の客席やステージが映っていますが、ここでも話しておきたいポイントがあるんです。「V神」では、去年の「アニサマ」(「Animelo Summer Live 2024 -Stargazer-」)のステージを再現していますが、資料として「アニサマ」の舞台製作をお願いしているシミズオクトさんが作ったCADデータ(3DCGによる設計図)をそのままバルスさんにお渡ししています。だから、本当に完全再現なんですよ。

 資料として、非常に細かい部分のデータもいただけたので、より忠実に再現することができました。

齋藤 花道は25mもあるのですが、その長さも正確に再現されています。あと、ステージの形やLEDの置き方なども「アニサマ」のまま。バンドがいるはずのスペースには、代わりに楽器だけが置いてます(笑)。「アニサマ」では、お客様が作る風景も大事なので、会場は「アニサマ」と同じにしたかった。これもかなり大きなこだわりポイントです。

 照明の当たり具合なども含めて、会場の再現には本当にこだわりました。オープニング映像も、「アニサマ」のオープニングを作っている(製作会社の)コマデンさんに作っていただきました。夏の「アニサマ」を観ている人に親和性を感じてもらえるライブにしたかったので、「アニサマ」に関わっている方々にたくさんご協力いただいて、それを実現しています。

齋藤 それだけではなくて、堤さんが全編にわたって、ちゃんと「アニサマ」の「クセ」をコピーしていて。ある意味、すごく優秀な二次創作になっているんです。

堤 今回、すごくこだわったのが観客の表現なんです。基本、バーチャルライブの観客って、同じ体格のシルエットで一定のリズムの動きしかなかったりするし、ペンライトだけが描画されているライブもあります。でも、ライブを観る時は他の観客も視野に入るし、そこが冷める要素にも繋がっている。いろいろなライブを観た時のコメントなどの反応からもそれは分かっていたので、もっとリアルな観客の表現を追求していくべきだということは、社内でも共通認識でした。

──「V神」の観客はシルエットで描写されていますが、非常にリアルな存在感があって驚きました。どのようなことを意識して作り込んでいったのですか?

堤 最初に、どういう人たちが必要なのかを考えていきました。まず男女は必要で、画面に映り混む時、髪型を変えるだけでも違う人に見える。でも、リアルな服装の変化とかを入れ始めると情報として多すぎるので、それは省略する、といった感じで引き算もしつつ考えていきました。あとは、実際に去年の夏の「アニサマ」を会場で見せていただいて。お客さんのペンライトの持ち方も右手、左手、両手持ちといったバリエーションがあったので、そこも再現しました。


「V神」は、いろいろな人に出てもらいたいイベント

きただにひろし with アンジョー&渋谷ハル&夢追翔
【M1 ウィーアー!「ONE PIECE」】

齋藤 セットリストの順番に関しては、基本、堤さんにお任せしたんですけど、要所要所で、「オープニングは、ダニー(きただにひろし)さんと男性Vでガツンってのがいいよね」みたいな提案はさせていただきました。「アニサマ」では、オープニングムービーが終わって、次に何がくるかって高揚感も大事なんですよ。そして、一度、暗転した後、ステージの床が開いて船が出てくる。ここは、床が開くところから見せてくださいとお願いしました。

──突然、船が現れるのではなく、床下から出てくる現実感が重要ということですね。

齋藤 以前、(スクールアイドルグループの)Aqoursが、東京ドーム公演(ラブライブ!サンシャイン!! Aqours 4th LoveLive! ~Sailing to the Sunshine~)を開催した時、大きな船の上で歌っていて、すごくいいなと思ったんです。ただ、ああいった舞台美術には、めちゃくちゃお金がかかるし、「アニサマ」みたいなフェスでは他のアーティストには使えないから費用対効果が悪すぎる。だけど、Vならできるんです(笑)

──「アニサマ」でやりたくてもやれなかった演出が「V神」で実現できた?

齋藤 そう、悲願の船です(笑)。あと、「アニサマ」では、アーティストの後ろで流れている映像もコマデンさんにお願いしているのですが、「V神」では、バルスさんが映像作家さんに作ってもらっているんです。

──まとめてお願いしているわけではないのですね。

齋藤 背景の映像って、全部がカメラに映るわけではないから、現地会場がないと、お客さんに観てもらえないところも出てくるんです。でも、バルスさんは、この1回のために、そういった映像も作っている。それって、すごいことだと思います。

 映像以外にも、もったいないところは本当にたくさんあるんです(笑)。しかし、「アニサマ」の世界観を作る上での必需品だと思い、こだわりました。

──きただにさんとVTube3人のステージに並ぶ姿が非常に自然で驚きました。これは、「ボリュメトリックキャプチャ」(人物や空間を100台以上のカメラで撮影し、360度の動画を生成する技術)を使っているのですか?

 一昨年、キヤノンさんと一緒に「バズリズム LIVE V 2023」というライブをやった時は、星街すいせいさんと フジファブリックさん、Mori Calliopeさんと Creepy Nutsさんのコラボでボリュメトリックを使いました。今までの標準的な実写とCGの合成の仕方だと、基本的に決まったカメラでしか(実写を)映していなくて、他の角度になると映り込まないのですが、ボリュメトリックを取り入れると、実写合成をした際のカメラワークに制約がなくなって、すごく良かったです。だから、「V神」での採用も視野には入れていたのですが、会場の規模が大きくてシステム自体がかなり重たくなってしまうので、今回は採用しませんでした。

──しかし、かなり自由にカメラを動かしているように思えました。

堤 僕がエンジニアチームに「このイベントをやる上で、2、3台のカメラしか使えないみたいなことは、絶対に嫌だ」とわがままを言わせてもらって(笑)。いろいろとやり方を考えてもらいました。少し技術的な話になってしまうのですが、人の視認性って面白くて、カメラ越しの場合、3mくらい離れていたら、一度、視認した対象がちょっとぼやけていても「その人がそこにいる」と理解してくれる。3m離れたところのドリー(被写体に対してカメラを平行移動させて撮影すること)だったら、軽い板ポリ(平面の映像素材)でも「この人だ」ってある程度分かるんです。だから、ここでは、きただにさんの映像を板ポリに流し込んでいるですよ。

そして、実際、その空間にカメラもいるので、正面からのカメラであれば、いくらドリーしてても視認ができる工夫になっています。一応、斜めからの角度は使っていないのですが、この工夫によって多彩なカメラワークができました。寄りと引き、合わせて3カメ分くらいはリアル側の映像も送っていて、AR側で動いているカメラの映像もある。それらを全部混ぜています。

齋藤 リハーサルには、僕も立ち会ったのですが、Vの人たちときただにさんは初絡みだし、みんな、きただにさんのことを尊敬していたりするので、最初は少し緊張している感じもあったんです。だから、「オイ! オイ!」というコールとか、(両手を前に伸ばしながら)こういう「捧げ」とかステージングに対する演出というか提案は少しやりました。


【緋月ゆい】
M2 名前のない怪物「PSYCHO-PASS サイコパス」
M3 イケナイエトランゼ「婚約破棄された令嬢を拾った俺が、イケナイことを教え込む」

堤 「V神」の1曲目はコラボなので、その次に出る人は、いわゆるトップバッター。誰に歌ってもらうのかは、すごく悩みました。

──キャリア的に緋月さんのトップバッター起用は、大抜擢だなと感じました。

 「V神」は、いろいろな人に出てもらいたいイベントなので、そういうところも考えて、最終的に「Neo-Porte」の緋月さんにお願いしました。歌唱力は申し分ないですし。

齋藤 「アニサマ」でも、オープニングですごいコラボや大ベテランが来た後、フレッシュなアーティストにお任せする形は、よくやります。緋月さんとは、YouTubeでやった特番でご一緒しましたが、喋ると可愛い方なんですけど、歌うとガラッと雰囲気が変わる。バーチャル文脈とも繋がるEGOISTの「名前のない怪物」という選曲も含めて、すごく良かったです。あと、ここも観て欲しいポイントですが、緋月さんが歌い始めた後ろで、船がステージに収納されていくところもしっかりと映っているんですよ。

──緋月さんがアップになっても船が下がっていく様子が映っていますね。

 視線的にみんなに見えるところなので、絶対に違和感を作りたくありませんでした。

齋藤 「名前のない怪物」は、照明もすごく良いと思いました。ほぼ暗転にして、スポットで当てるやり方って、「アニサマ」でも奥井雅美さんとか、いとうかなこさんとか、早見沙織さんとか歌唱力のすごく高い人によく使います。

堤 観ている方の意識を歌唱者に集中させるため、LEDなども消して他の情報をなるべく削ぎ落としています。ただ、カメラを引いた時も顔を観たい人は絶対にいると思ったので、両サイドのモニターは落とさず、顔を見える形にしました。

──MCの時など、配信では入って無かった観客の歓声も聞こえますが、これは、Blu-rayのために収録したのですか?

 ライブビューイングの東京会場(109シネマズプレミアム新宿)で収録した音声を使っています。

齋藤 ライブの後に思いついて、一応、堤さんに「パッケージでは観客の声が入ると良いですけど、(ライブビューイング)会場の音声は録ってないですよね?」と聞いてみたら、「録っていますよ」って言われて驚きました(笑)。さすがですよ。

 パッケージに限らず、お客さんの声は、絶対にどこかで必要になると思って録っておいたんです。「イケナイエトランゼ」は、アニメタイアップの曲なので、「アニサマ」と同じく、スクリーンではアニメのオープニング映像をそのまま使わせていただいています。あと、アニメの内容にちなんで、オープニング映像にお菓子が出てくるので、ステージにもお菓子を浮かせて、ゆいさんには、「ワルツのリズムに乗って、お菓子と一緒に踊りましょう」と提案しました。


「Howling」をやるなら、このカメラワークはマスト

【大神ミオ】
M4 graphite/diamond「アズールレーン」
M5 Howling

齋藤 暗転の中、出てくるのが良いですよね。

 Blu-rayだと、出てきたのがミオさんだと分かった瞬間の歓声も入っているので、そこも楽しんで欲しいです。

──「graphite/diamond」では、大きな火柱が上がります。リアルでも盛り上がる演出ですね。

齋藤 バーチャルだと燃料のことを気にしなくていいのが良いですね。リアルだと、例えば、JAM Projectと、水樹奈々さんと、茅原実里さんとかが一緒だったりすると足りなくて困るんですよ(笑)。

 消防法は適用されませんが、炎の特効も意識していて少し短いものの客席から6mくらい離れていて、隣とも1.5m間隔で置いています(笑)

──「Howling」は、ミオさんのオリジナル楽曲ですね。

 演出には、MVも使わせてもらっています。

齋藤 「アニサマ」でも(2017年に)テーマ曲を作ってもらったZAQさんの曲ですね。「アニサマ」の演出には、アニメに寄せる、楽曲の世界観に寄せる、MVに寄せるなど、いろいろなパターンがありますが、この曲はMVに寄せていて。MVでミオさんが走っているから、花道を走るんですよね。

 はい。あと、走り出す前後などに、ミオさんが小刻みな足踏みのような動きをするのですが、これは「ミオしゃステップ」と呼ばれていて。このステップを待っているファンがたくさんいる。だから、しっかりとカメラを寄せています。「Howling」をやるなら、このカメラワークは、マストでした。

齋藤 そういうお決まりのところを見せるのは、「アニサマ」でも大事です。


【朝ノ瑠璃】
M6 ETERNAL BLAZE「魔法少女リリカルなのはA’s」
M7 甲賀忍法帖「バジリスク~甲賀忍法帖~」

齋藤 声が強い女性アーティストの後、重ねるように朝ノさんですね。

 大神ミオさんは、ファンの人たちの熱量もかなり高いし、一気にミオさんの世界になったのですが、その次を朝ノ瑠璃さんにお願いしたことは、我ながら大正解だったと思いました。

齋藤 また、一気に空気が変わりましたよね。

 はい。「力には力」という感じですね(笑)。瑠璃さんのパフォーマンス力がずば抜けていることは、昔から知っていたので、ここをお任せできました。

齋藤 朝ノさんは、声優もされていて「邪神ちゃんドロップキック’」などに出演しているので、アニメや「アニサマ」に対する思い入れも強い。Xでも、すごく呟いてくれていましたし。

 以前から「アニサマ」に出たいという夢をお持ちだったんです。「V神」がそういう方の目指す場でありたいからこそ、絶対に呼びたいアーティストでした。

齋藤 曲は、水樹奈々さんの鉄板曲「エタブレ」(ETERNAL BLAZE)。忍者系VTuberだから「甲賀忍法帖」というのも良い選曲ですね。

 「エタブレ」では、瑠璃さんに「一気に空気を持っていてください」と伝えていたのですが、素晴らしいパフォーマンスでした。

齋藤 朝ノさんとも特番でご一緒させてもらったんですけど、漫才みたいに楽しく絡ませてもらって、初対面とは思えなかったです(笑)。すごくハートが熱い人だから、熱い曲は似合うなと思いました。

 「甲賀忍法帖」は、「バジリスク」というアニメ作品で「エタブレ」と同じような熱い演出にもできるのですが、あえて変えていきたいと思って。瑠璃さんとも相談して、ヒロインの朧にフォーカスし、桜と月をバックに歌い上げる演出を提案しました。

齋藤 僕もこの曲は大好きですが、歌唱力がしっかりした人じゃないと様にならない曲なんですよ。朝ノさんは、ステージングにも経験を感じます。堤さんは、「甲賀忍法帖」にも詳しいんですか?

 今回、曲やアーティストさんに関係するアニメは、一通り観ました。

──それは、膨大な数になるのでは?

齋藤 でも、演出をする時、作品を観ているかどうかで、解像度が全然違ってきますよね。

 そうなんです。観ている人に「何でこの演出なんだ?」と違和感を持たれるのは嫌なので。

齋藤 分かります。僕も今期、20作品くらい観ています(笑)。


【YuNi】
M8 晴る「葬送のフリーレン」
M9 花になって「薬屋のひとりごと」
M10 ココロノック「宇崎ちゃんは遊びたい!」

齋藤 YuNiさんの出番の演出で悔しかったのが、「花になって」の時、センターステージの床をLEDパネルにして映像を見せていることなんです。以前、ももクロちゃん(ももいろクローバーZ)のライブでやっているのを観て面白いと思ったのですが、まだ「アニサマ」では実現できていません。盤面が反射して光ると、スカートの中が映り込んだりするし、いろいろなアーティストが使う場所なので、ヒールの高い靴の人が滑ったりして危ないんです。あと、お金がすごくかかる(笑)。だから、「V神」でやってくれたのは、「やられた!」という気持ちだったし、嬉しくもありました。選曲も良いですよね。(原曲の)歌声の独特のニュアンスを拾いつつ、自分の歌にもしているなと感じました。

堤 この曲では、途中からステージの前に紗幕を垂らして、そこに花を映しました。

──最後の「ココロノック」は、YuNiさんの持ち曲で 「宇崎ちゃんは遊びたい!」の主題歌でもあります。 アニメのタイアップ曲を持っている出演者さんも非常に多いですね。

堤 そういう方を中心に選んでいます。ただ、僕だけの目線で考えると、どうしても偏りが出てしまうので、社内のいろいろなメンバーと一緒に話し合って決めていきました。だから、絶対に僕一人では作れなかった。バルスのみんなで作ったキャスティングだと思っています。


作品の解像度が高いほど刺さる「アニサマ」らしい演出

【周防パトラ】
M11 Quiet Night C.E.73「機動戦士ガンダム SEED DESTINY」
M12 ガーリッシュニューゲーム
M13 旦那様とのラブラブ・ラブソング.「Lv2からチートだった元勇者候補のまったり異世界ライフ」

 先日、お仕事でパトラさんとご一緒した時に伺ったのですが、ファンの人も「V神」をすごく喜んでくれていて。特に最初の「Quiet Night」の演出は、すごく賞賛してくださっているそうです。

──「機動戦士ガンダム SEED DESTINY」で、ラクス・クラインの偽物ミーア・キャンベルが、ピンク色のザクウォーリアの掌に乗ってライブをするシーンをオマージュしていますね。

齋藤 これも「アニサマ」らしいところですが、作品の解像度が高ければ高いほど刺さる演出になっていて。作品のことをあまり知らない人だと、パトラさんが大好きな「SEED DESTINY」の曲をカバーしたということしか分からないのですが。作品のことをよく知っている人は、パトラさんのマスコット(かにかま)をピンクのザクに見立てていることも分かって、より楽しめたと思います。

堤 ラクスとミーアは、髪飾りで見分けられるので、髪飾りを付けますかという話もしたのですが、そこまではやりませんでした(笑)。

齋藤 「旦那様~」は、釘宮理恵さんの曲ですが、このカバーもすごく良かったですね。話題になった曲でもありますし。

 この曲は、パトラさんの方から「この曲が良いと思う」と提案していただいて、それに乗っかった形です。

齋藤 「V神」に出演して下さったVの方の中には、以前から知っていた人と、今回勉強させてもらった人がいるのですが、パトラさんは以前から知っていて。

──配信を観たことがあったのですか?

齋藤 はい。パトラさんはギターが上手で、配信でメタリカとかを弾きながら歌っているんですよね。今回は、そっちではなく、可愛い方向の選曲でしたが(笑)。あと、最後、下手にパトラさんが捌けた(退場した)後、暗転しているのですが、これも大事です。「アニサマ」でも可愛いアイドル系の出演者の時によくやるやり方です。「ばいばーい」とか言っている途中で照明を落としていたら、「早すぎ!」と注意しています(笑)。


【天音かなた】
M14 相思相愛「劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』」

 この曲では、作中の箱館山からの景色を再現したくて、天音さんにリフター(昇降機)に乗っていただきました。背景(スクリーン)には星空や森の樹の映像を映して、それ以外の情報は絞っています。

齋藤 作中に(服部)平次が箱館山の展望台で(遠山和葉に)告白するシーンがあるので、そこを再現しているんですよね。リフターに、安全対策用の手すりが付いているのも細かいです(笑)。

──天音さんの背後から客席側を広く写したシーンもありましたが、あの光景を見せたくて、高さのあるリフターに乗っているわけですね。

 はい。そのために高さが欲しかったんです。

齋藤 客席のペンライトを星に見立ていて、まさに100万ドルの夜景。去年の「アニサマ」は「Stargazer」(星を見る人)というロマンチックなテーマだったのですが、それにも合っているんですよ。あと、スクリーンの映像が実写のようになっているのは、「コナン」の映画では、いつもエンディングに実写が流れるからですよね?

 そうです、そうです。毎回、ロケ地とか、製作に協力した現地の人たちが映っていたりするんです。ここも「コナン」が好きな人には、分かってもらえたんじゃないかと思います。


【シカ部(潘めぐみ・藤田咲・田辺留依・和泉風花)×天音かなた・大神ミオ・桃鈴ねね・雪花ラミィ】
M15 シカ色デイズ『しかのこのこのここしたんたん』

齋藤 藩めぐみさんは、去年、「推しの子」で初めて「アニサマ」に出て、「しかのこ」で「V神」にも出ているので、1年で夏と冬の「アニサマ」に出演したんです。リハーサルの時、シカ部の4人は、「V神」に出られたことをすごく喜んでいましたよ。

 天音さんのママ(担当イラストレーター)のおしおしお先生が、「しかのこのこのここしたんたん」の原作者さんでもあるという繋がりもあって生まれたコラボです。シカ部さんが4人なので、ホロライブさんにも4人で出ていただきました。

齋藤 この曲で面白かったのが、歌っている途中、藩さんが頭に付けていた(鹿の)角が片方、落ちたこと。でも、そのまま進んでいくんですよ。

──床に落ちた角を呆然と見つめる藩さんの姿はとても面白くて絵になっていたのですが、アクシデントだったのですね。

齋藤 はい、ガチのアクシデントです。とっさにあの反応をできる藩さんがすごいんですよ(笑)

──アクシデントには見えたのですが、もしかしたら演出なのかなとも思っていました。

 だったら、演出ってことにしておきましょうか(笑)。あと、「しかのこのこのここしたんたん」は、本当にカオスな作品なので、そのカオスさをどうやったら表現できるか考えて、客席のペンライトを鹿の角に変えたりもしました。

齋藤 この曲、イントロの「しかのこのこのここしたんたん」のフレーズでバズった曲ですが、原曲のフルはアウトロが無くて、ストンと終わるんです。でも、今回は、ライブ版ということで、イントロを最後に持って来ています。その方がライブ映えするので。

堤 このコラボの技術的な見どころとしては、声優さんとVTuberさんが横に並んでいるだけではなく、前後にもなって一緒に歌っているところでしょうか。普段からバーチャルとリアルのコラボをよく観ている人でも、あまり観たことない映像かなと思います。

齋藤 この曲の歌い分けに関しては、僕も監修しました。誰がどこを歌って何をやれば美味しいかとか、関係値とかを考えて振り分けています。そして、曲の後に小芝居があるのも「アニサマ」っぽい演出で面白いです。

堤 アニメを観た時から絶対にシカは出したいなと思っていて。最後、どうやって終わろうかなと思った時、ステージをシカが観ているというのを思いついたんです。そこから、CM(休憩時間)という流れですね。

──配信限定のライブで休憩を挟むことは珍しいですが、そこも「アニサマ」に合わせていたのですね。

齋藤 「アニサマ」で休憩を入れるようになったのは、2011年からですが、休憩を入れることによって、前半のトリと休憩明けのトップバッターという新たな役割が生まれて、構成にダイナミズムが出たんですよ。

堤 「V神」も休憩明けは、強いコラボから始まる構成になっています。


後編に続く


(TEXT by Daisuke Marumoto

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