ANISAMA V神 2024・特別対談(後編) 「どんな形であれ、継続させていきたい」

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「ANISAMA V神 2024」ディレクター堤駿介さん(左)&「アニサマ」統括プロデューサー&総合演出・齋藤光二さん

2024年12月15日(日)に「SPWN」で配信された「ANISAMA V神 2024」(以降、V神)。世界最大のアニソンライブイベント「Animelo Summer Live」(アニサマ)の世界観で開催された初めてのバーチャルライブで、19名の人気VTuber&バーチャルアーティストと、3組のリアルアーティストが出演。バーチャル空間に再現された聖地さいたまスーパーアリーナのステージで熱いパフォーマンスを披露した。

LIVE Blu-rayのリリース(予約販売のみ。すでに受注は終了)を記念した「V神」のディレクター堤駿介さん(バルス株式会社)と、「アニサマ」の統括プロデューサー&総合演出で、「V神」でも演出監修を務めた齋藤Pこと齋藤光二さん(株式会社ドワンゴ)の対談後編は、休憩時間明けの16曲目で実現した大型コラボについて、まずは語ってもらった。

*前編はこちら


森口さんのコラボ相手は、僕の中では花譜さん一択

【森口博子 feat.花譜】
M16 ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~「機動戦士ガンダムF91」

齋藤 (去年の)「アニサマ」のテーマは「Stargazer」(星を見る人)ですが、この曲では、まさに会場を宇宙に見立てているんですよね

 森口さんが誰と歌うのかを少しでも隠しておきたくて、歌が始まってもギリギリまで森口さんのアップで引っ張りました。花譜さんが映った瞬間、「花譜ちゃんと歌うんだ!」と驚いてもらいたかったんです。現地会場がなくて、配信限定のライブだからこそできたカメラワークでした。

齋藤 森口さんは、マイクを通さず空気を直に伝わってくる歌声もすごく素敵。対照的に花譜さんは、イヤモニ(モニター用イヤホン)から聴こえてくる声の映えがすごい。全然違うタイプなんですけど、リハーサルで二人の声が合わさっているところを聴いた瞬間、「これを音源化して配信したい」と思うくらい良かったです(笑)。花譜さんの歌声は、何か独特な音の成分があるんですよ。音の「揺れ」というか……。森口博子さんと一緒に歌って、こんなにもシナジーが発生するのは、花譜さんの歌唱力がVTuberの中でもトップクラスという証だと思います。

 森口さんに出演していただけることになった時、誰と一緒に歌っていただくかをまず考えたのですが、僕の中では花譜さん一択でした。皆さんも感じたと思いますが、声の親和性がすごく高いし、過去のMVなどを観ていても花譜さんだろうなって。ここのお二人は、あまり悩まずに決まっちゃいました。

齋藤 この二人を組み合わせたこともそうなんだけど、リハーサルでの指示出しを見ていても、堤さん、かなり音楽のことが分かっている人なんですよ。最後の曲の話になりますが、テーマソングの歌い分けに関して、最初の案を見せてもらった時、少し気になったところを指摘したら、すぐに意図を理解して直してくれて。あの時、「バンドとか、やっていたんですか?」って聞きましたよね。

 聞かれましたね(笑)。音楽は好きですが、バンドとかの経験はないんです。大学も文系ですし。

齋藤 僕は音楽業界上がりの人間だから、音楽のことが分かるけど、堤さんは、前職がテレビですよね?

 はい。バラエティー番組を主にやっていました。

齋藤 でも、堤さんには音楽の素養があるから、誰と誰を組み合わせたら良いコラボになるのかといった絵が見えたのだと思います。僕は、人気者と人気者をくっつけただけみたいな雑なコラボが本当に嫌で、「アニサマ」でもすごくこだわっている。森口さんと花譜さんのコラボも、歌声のレンジや重なりまで考えられた、すごく良いコラボだったと思いました。

堤 ありがとうございます。


【MonsterZ MATE】
M17 *~アスタリスク~「BLEACH」
M18 Easy Breezy「映像研には手を出すな!」
M19 天才モンスターズの元気が出るルーレット

齋藤 強いコラボの後、誰が来るのかも大事なところですよね。

 次は、うちのアーティストです(笑)

──アンジョーさんとコーサカさんのユニットMonsterZ MATEは、バルスさんの看板アーティストですね。

齋藤 二人が光の中から出てくるところは、Vならではのカッコ良い見せ方だなと思いました。

 「BLEACH」の曲なので、(死神がいる)尸魂界(ソウル・ソサエティ)から招かれた二人がやって来るみたいなストーリーを考えて登場させました。二人も狼男と吸血鬼で人間とは違う存在なので、こういう(不思議な)登場の仕方も面白いと思ったんです。

齋藤 MonsterZ MATEも、パフォーマンスがすごく良かった。アニソン界隈にも言えることですが、二人組の男性ユニットって、かなり貴重ですよね。FLOWなどもそうですが、ダブルボーカルだからこそできる掛け合いやユニゾンがカッコ良かった。あと、僕は「Easy Breezy」がすごく面白いなと思って。原曲は、強いラップというよりは、レイドバック(ゆるやか)なラップですよね。でも、MonsterZ MATEの「Easy Breezy」は、カッコ良い方向に振っていて、そこも良かったです。

 こういう場で自社のアーティストを褒めるのも少し気恥ずかしいですが、二人ともパフォーマンスがずば抜けて上手くてかっこいいし、盛り上げ上手。正直、どこを任せても安定すると思っていました。頼れる存在です。

齋藤 ステージングを見ても、二人ともかなりライブ慣れしていますよね。

 二人ともバーチャルではない大きな会場でのライブ経験もあります。ちなみに、「映像研には手を出すな!」は創作の話で、自分で作った世界が表現されるような内容なので、後ろの映像には、アンジョーが創作した「ンミィ」というオリジナルキャラクターが描かれていたりします。

──アンジョーさんは、イラストも得意ですよね。

 MonsterZ MATEのファンの方には見つけてもらえて、「ンミィがいた!」と盛り上がっていただけました。

齋藤 そういった遊び心は、大事ですよね。私も背景のCGに流れる英語が、特に意味の無い内容だった時、分かる人には「あの作品の!」と気づいてもらえるような文章を指定して、直してもらったことがあります。細部に神は宿りますから。最後の「天才モンスターズの元気が出るルーレット」は、オリジナル曲ですよね?

 はい、そうです。

齋藤 この後の夢追(翔)さんもオリジナル曲を歌いますが、「アニサマ」でオリジナル曲(ノンタイ)をやることに対しては、いろいろな意見を言われることもあるんです。でも、僕は、パフォーマンスの強い人は、オリジナルで勝負しても全然良いと思っています。

 アンケートでも、この曲は、すごく好評でした。

齋藤 LEDをルーレットに見立てた演出も面白いし、リアルの会場でも観たい曲ですね。最後は、バテて座り込んだ二人が(床下に)「ボッシュート」されて退場するんですけど、二人と照明やカメラを含めたスタッフとの連携を感じました。

 二人が終わりのタイミングで決まった場所に来て、照明とカメラがそれを狙ってという風に、みんなで段取りを詰めました。

齋藤 この曲に限らず、堤さんは、僕が「アニサマ」でこだわっているシームレスな転換をとても大事にしてくれていて。曲と曲がぶつ切りになってないから、イントロが流れた時に「次は誰が出てくる?」ってワクワクがある。そこもすごく良かったです。


【夢追翔】
M20 死にたくないから生きている
M21 青のすみか「呪術廻戦」

齋藤 夢追さんは、ファンの方がすごく熱かったのも印象的でした。Xにすごい数のスクショがアップされたんですよ。きっと夢追さん本人の持っているものが熱いから、ファンも熱いんでしょうね。実際、パフォーマンスとMCでも熱い方だと感じました。1曲目にアニソンではなくオリジナル曲を持って来た理由についても本人が生配信で語ってくれています。

 1stシングルで夢追さん自身の思い入れも強い曲なんですよね。MVはライブハウスから始まっていて、より大きな場所でこの曲を披露したいという夢も込められているんです。それをオマージュできるように、マイクスタンドを立てて歌いませんかという提案をさせていただきました。

──MVでも、マイクスタンドを使って歌っているわけですね。

 正面からの絵が多かったりするところなども、できるだけMVを再現しています。

齋藤 正面から観たときに照明がより映えるように、後ろのLEDは消してあるんですよね。次は、「呪術廻戦」の曲で、この作品ならではの球体を出していますが、これはリアルではできない演出ですね(笑)。

堤 リハーサルの時、演出について、夢追さんとすごくお話をしました。夢追さんは(原曲を歌っている)キタニタツヤさんのイメージで歌いたいと仰っていたのですが、僕は、「呪術廻戦」側のイメージで歌って欲しかったんです。だから、キタニさんのイメージで座って歌っているところもあるし、カメラに向かってグワッと手を伸ばしているところや球体とか「呪術廻戦」をイメージした演出もある。二人のやりたいことを組み合わせた感じです。

齋藤 これは、夢追さんと直接、話して決めたんですか?

 直接、お話ししました。

齋藤 それはいいですね。「アニサマ」の場合は、アーティストと直で話すよりも、(サポートを担当する)A&Rとかレーベルの担当者と話すことが多いんです。でも、最近はオンラインで話せるようになったから、魂が熱い人の中には、直で話したいと言ってくれる人もいて。例えば、東山奈央さんとかは、オンラインでブレストする中、どんどんやりたいことのアイデアを出してくれる。夢追さんも、そういったタイプなんでしょうね。全体的にVの人は、セルフプロデュースに長けている印象があります。

【渋谷ハル】
M22 ライラック「忘却バッテリー」
M23 かえりみちの色「組長娘と世話係」

 「ライラック」は、権利の関係でBlu-rayには収録できていないのですが、一応、お話だけすると、ここまでかなり熱くなってきていたので、一旦、冷ます感じで蝉の声やサイレンなどのSEで静かに始まっています。

齋藤 この曲のために、高校野球を題材にした映像を作っていますよね。

 はい。ここの映像は、僕の中でかなり明確なイメージがあったので、リファレンスになる映像を自分で繋いで、クリエイターさんにお渡しして作っていただきました。本当は、クリエイターさんに対して失礼であまり良くないことだとは思うのですが……。

──それだけ、やりたいことが明確だったのですね。

齋藤 そのへんも難しいところですね。作っている途中で「そうじゃない」と言って変えたりはできないし、最初にしっかり伝えるのは、大事ですよ。渋谷さんは、歌もお喋りも達者な方ですね。

──ゲーマーの印象が強くて、あまり歌うイメージはなかったのですが、歌も上手で、正直、少し驚きました。

堤 僕も以前は同じイメージだったんですけど、ウチの社員から「アニメのタイアップも持っているし、けっこう歌っていますよ」と教えてもらいました。お話をした時にご本人も「ゲームのイメージしかないかもしれないけど、歌にも力を入れているんです」と仰っていたし、「まあ、そういうイメージ付くのもしょうがないんですけどね」とも仰っていました(笑)。

──次の「かえりみちの色」がアニメタイアップのオリジナル曲ですね。

 この曲は家族の曲で、青春感もあるので、そのエモさを表現したいと思って、後ろの映像をセピア調にしたりして雰囲気を合わせています。「アニサマ」では、サービスモニター(アップの映像などを映すサブモニターのこと)を遊びに使ったりもするので、そこをオマージュしました。

齋藤 たしかに、メインのモニターはノーマルの映像を映して、サブの方ではノイズやソラリゼーション(露光過多にして明暗を反転させる技法)をかけたりしますね。


富士葵さんの「国歌」の演出が効果的だった

【富士葵】
M24 鳥の詩「AIR」
M25 なんでもないや。「君の名は。」
M26 MY ONLY GRADATION

 センターステージに1枚の羽が落ちてきて、「鳥の詩」のイントロがかかると、この名曲に相応しい歌唱力を持った人、富士葵さんが登場します。

齋藤 「国歌」と呼ばれている曲ですね。最初は、(会場の照明を落として)ほぼセンターステージのアーティストだけを映していて、途中でパーッと全面に広がる。この演出が、すごく効果的だと思いました。

堤 ここは、作品や曲のイメージを邪魔せず、まず歌を聴いてもらうことを考えました。それが国歌に対して、一番失礼のない演出だと考えたので。後ろの映像は、少しだけ動いていますが、ほとんど静止画になっています。

齋藤 歌を聴くことに集中させたい演出の場合、後ろの映像はアハ体験のように、本当に少しずつ動かしたりするんです。この演出にインスパイアされたわけではないのですが、今年(2025年)のアニサマは、こんな風に1枚のデカいモニターでやりたいって話もしています。

 そうなんですか?

齋藤 ただ、すごくお金がかかるんですよね(笑)。

──次は、大ヒット作品「君の名は。」の主題歌「なんでもないや。」のカバーです。

齋藤 MCでは、この曲に対する思いを語っていましたね。

 富士葵さんは、(2017年に公開された)「なんでもないや。」の歌ってみた動画で、一気に認知されたんです。

──VTuber文化の最初期に「歌うまVTuber」として認知されました。

齋藤 この曲も演出がすごく良かった。舞台芸術だと、同じ立方体がプロジェクションマッピングで椅子になったり牢屋になったりするじゃないですか。そういう感じで、センターステージや奥のスクリーンが草原になっているんです。センターの方には歌詞を出しているのも面白いですね。リアル会場でやると、アリーナのお客さんには見えなくて、400レベル(4階)のお客さんが一番よく見える感じになると思いますが(笑)。

堤 そうですね(笑)。歌詞は、後ろの背景に出すことも少し考えましたが、そこまで読ませたいわけでもないし、背景の情報を増やしたくなかったので、本当に見せたいところだけを見せる形にしました。

齋藤 みんなに歌ってもらうためではなく、世界観を補強するために言葉を出している。とてもセンスのある見せ方だと思います。次の曲(MY ONLY GRADATION)では、メガホンをマイク変わりにしていていますが、何年か前の「アニサマ」でもやろうとしたことがあるんです。でも、メガホンにマイクを仕込むのが難しくて。持っている人を探したりもしましたが、結局、実現はしませんでした。

──この曲のMVの中で、葵さんがメガホンを持っているので、その再現ですね。

堤 はい。僕らも最初はメガホンで歌うことを考えたのですが、やっぱりメガホンをマイクにするのは難しくて。メガホンは完全にパフォーマンス用なんです。最初の曲からヘッドセットは付けたままなので、音はそっちで拾っています。

齋藤 あ、本当だ。さすが細かいなあ(笑)。

 最後は花道にも映像を流して、いろいろな色に自分の感情を染めていくという歌詞の内容を表現しました。あと、背景にはMVを流しているので、同じ振り付けをしているところは、シンクロさせています。

齋藤 「ラブライブ!」方式ですね。

【桃鈴ねね】
M27 ちゅ、多様性「チェーンソーマン」

【雪花ラミィ】
M28 かくしん的☆めたまるふぉ~ぜっ!「干物妹!うまるちゃん」
【桃鈴ねね×雪花ラミィ】
M29 ヒトリゴト「エロマンガ先生」

堤 ねねさんとラミィさんが歌った3曲に関しては、普段からホロライブのタレントさんをよく担当している振付師のまいどんさんに振り付けをお願いしました。お二人ともすごく踊れる方ですし可愛いステージになったと思います。ファンの皆さんが観たいのは、二人の可愛いさだと思うので、ソロ曲の時のモニターではアップの絵を中心に見せています。

齋藤 ねねさんとらみぃさんは、「まがまがーず」ってコンビ名もあるんですよね。アニサマでも時々やるんですけど、小倉唯さんの後に石原夏織さんが歌って、その後に(ユニットの)ゆいかおりとして出てくるみたいなイメージですか?

 まさに、そうですね(笑)。二人は同期で親和性もすごく高いし、ファンの皆さんは二人で歌っているところもすごく観たかったと思います。

齋藤 ClariSの「ヒトリゴト」のカバーでは影絵の演出をやっていますが、これもすごく良かった。前に「アニサマ」でもアーティストが歌っている時に後ろに影が映っていて、途中からその影が自我を持って動き出すという演出をやったのですが、事前に同じ衣装を着てもらって撮った映像をクロマキーで合成したりして大変でした。Vだと、もっと簡単にできるんですか?

 いえ、やり方は完全に同じです。影絵のために事前に踊ってもらっているので、同じように手間はかかっています。Vの場合、衣装や髪型を本番と一緒にしてもらうことは、簡単ですけどね(笑)。

齋藤 ClariSのダンスは、ちょっと癖があって。スタイリッシュ過ぎず、コケティッシュなところが可愛いんです。あと、完全にシンメトリーではなくて、片方が前を向いてる時に後ろを向いていたりもする。そこもよく再現されているし、振付師さんは、すごくClariSのダンスを分かっている人だと思います。

 この「ヒトリゴト」もすごく好評でした。3年くらい前にお二人で歌ってみた動画を出してバズっているのですが、3Dライブでは歌っていなかったので、ぜひ歌って欲しかったんです。


樋口さんのフライング演出は、「アニサマ」ではできない

【樋口楓】
M30 キュンリアス「転生したら第七王子だったので、気ままに魔術を極めます」
M31 Super Driver「涼宮ハルヒの憂鬱」
M32 空色デイズ「天元突破グレンラガン」

 「第七王子」は僕も大好きな作品ですが、王子はワガママだから、いろいろなところに飛んで行って飛んで帰って来たりするんです。だったら飛ぶしかないなっていうところから発想して、樋口さんにフライングを提案しました。

──少しメタな話になりますが、どうやってバーチャルさいたまスーパーアリーナの中を飛んでいるのか気になりました。

 具体的な話は止めておきますが、多くの人の力を借りて飛んでいます(笑)。

齋藤 (リアルで)ハーネスを付けて空を飛ぶ演出は、水樹奈々さんが有名ですけれど、専門のスタッフがハーネスを付けたり外したりするところも見えちゃうし、フェスではできないんですよ。

──樋口さんのように、曲の途中にステージから飛んで戻ってくることは無理ですよね。

齋藤 次は、平野綾さんの「Super Driver」ですが、樋口さんの声質や歌い方は、平野さんに似ている気がして。ものまねではないですが、たぶん好きだからリスペクトしているのかなと。ちょっとぶっきらぼうに投げるような感じが平野さんに重なると思いました。ちなみに、去年の「アニサマ」で平野さんが「God knows…」を歌って会場が沸きに沸いたんですが、樋口さんは、それを観ているんですよね。

──次の曲は、中川翔子さんの「空色デイズ」です。

齋藤 この2曲はアニソンライブの鉄板曲。次の大トリに向けて盛り上がっていくセトリですね。

堤 樋口さんもすごくステージングが上手で、全体的に能力が高い方だと思います。

齋藤 イントロの中で煽るのも樋口さんらしいですね。 「空色デイズ」では、しょこたん(中川翔子さん)も間に煽りを入れるんですよ。相当、聴き込んでいる感じがします。

 煽りの言葉も「何を言おうかな」って、その場ですごく考えてくださったんですけど。今回の企画に対してのリスペクトをすごく持ってくださっていて。その気持ちも込められた言葉で盛り上げていただきました。


V.W.Pは、間に挟むべきではないと思った

【V.W.P(花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜)】
M33 同盟
M34 輪廻「マブラヴ オルタネイティヴ」
M35 切札「カードファイト!! ヴァンガード Divinez」

【ALL V-ARTISTS】
M36 Stargazer「Animelo Summer Live 2024 -Stargazer-」&「ANISAMA V神 2024」テーマソング

──トリをV.W.Pに決めたのは、どのような狙いがあったのですか?

齋藤 「アニサマ」で最後にJAM Projectが来るみたいな感じですよね。

 テーマが「Stargazer」(星を観る人)で、V.W.Pのファンの方たちが「観測者」と呼ばれているという親和性もありつつ。V.W.Pをラインナップの中でどう観せるかを考えた時、JAM Projectさんも同じかもしれないんですけど、声に他と混ざりえない特徴を持っていて。間に挟むべきものではないなと思ったんです。

齋藤 僕は、「アニサマ」でトリをやる人に必要なのは、ライブにおける説得力だってよく言うんです。例えば、JAMの5人の場合は「声の暴力」と言っていますが、音圧でガッと行けるとか。あとは、人数感やパフォーマンス力もそうだし、曲の強さもすごく重要だと思います。 V.W.P も(「同盟」で)「Virtual Witch Phenomenon」という自分たちの宣言から始まると、みんなが高揚して一気に盛り上がるじゃないですか。

 そうですね。正直、V.W.Pはここしかないって感じでした。

齋藤 Xのトレンドにも入りましたよね。特にヰ世界情緒さんは、このライブでより多くの人に発見されたんじゃないかなと感じています。

──Vアーティストが全員で歌ったテーマソングの「Stargazer」でも、最初と最後の超高音パートがヰ世界情緒さんの担当になっていますね。

堤 あそこの高音は、情緒さんだなと最初から思っていました。宇宙をテーマにした曲との親和性もすごくあったので。

齋藤 あのパートは「a voice from distant planet」という名前が付いていて、宇宙から聴こえてくるような、ちょっと人ならざる者の声のイメージ。「Stargazer」をレコーディングした時は、She is LegendのXAIさんに歌ってもらったんです。実際にXAIさんは、そういうタイプの声なので。「アニサマ」の本番でも、あのパートは、早見沙織さんやfripSideの阿部寿世さんにお願いしています。

──歌唱力が非常に高く、高音の奇麗な方ばかりですね。

齋藤 まさに異世界から聞こえてくる音波に近いニュアンスも出せる声質の人たちです。

 情緒さんの歌声もそうですよね。V.W.Pや情緒さんのオリジナル楽曲を聴いていても、他の人とは違う波長で歌う方なので。

齋藤 V.W.Pは、例えば、花譜さんが影山(ヒロノブ)さんで、ヰ世界情緒さんが遠藤正明さんみたいなユニットというか(笑)。

──JAM Projectのようなユニットということですか?

齋藤 一つに集めているのがもったいないとも感じてしまうほど一人一人が強くて、個性も際立っている5人だと思います。それに、V.W.Pが所属しているKAMITSUBAKI STUDIOさんは、VTuber業界の中でも特に音楽に力を入れている事務所。音楽ライブのトリを務めるのには適任のグループだったと思います。

 KAMITSUBAKI STUDIOさんは、音楽だけではなく、V業界の中で新しいことに挑戦している事務所さんでもあって。V.W.Pがバーチャル舞台劇をやっていたり、アニメ(神椿市建設中。)も作っていたり、「アニサマ」との親和性が強いジャンルの活動にも力を入れているんです。それも含めて、初めてのVの「アニサマ」でトリをお願いするならV.W.Pさんだろうなということは、僕の中では、かなり早い段階でほぼ迷うことなく決まっていました。

齋藤 アニメタイアップの2曲(「輪廻」「切札」)の時は、後ろに「マブラヴ」と「ヴァンガード」の映像が流れていて、曲も映像も強いし、「THEアニサマ」というイメージのステージ。最後の曲が「切札」というのも奇麗にハマっていますね。

 曲に関しては、KAMITSUBAKI STUDIOさんと相談しながら、一緒に決めていきました。僕も「輪廻」と「切札」は歌って欲しいなと思っていて。

齋藤 フェスって一組あたりの曲数が少ないからこそのカタルシスがあって。限られた曲数の中で、どんな爪痕を残し、次のアーティストにどうバトンをつなぐか、アーティスト側も本気で考えているんです。

 「V神」は初開催ですし、なるべく多くの人に伝わりやすいものを届けたいと思っていたし、一番ファンに喜んでもらえることを知っているのは、事務所さんだと思ったので、そこは迷わず乗っかりました。

齋藤 それで良かったと思います。アーティストの明確な意志があるなら、それを受け入れることも正しいと僕は思っています。フェスの戦い方は何通りもあるんですよ。実際にすごく良かったですし。

──「Stargazer」のパート分けは、堤さんが考えたのですか?

 僕とバルスのサウンドチームで叩き台を作り、それを齋藤さんに監修をしていただき、最終調整をした形です。

齋藤 「アニサマ」でもそうですが、テーマソングを歌っている時は、それまでのステージとは違う雰囲気を観られるのが面白いですよね。V.W.Pもシリアスな曲ではカッコ良いけど、ここでは可愛くワイパー(手を振る動作)をしていたり。オリンピックの閉会式みたいに、ライバルだけど最後はみんなで手を繋ぎましょうという感じ。ハモる人同士がお互いに向き合ったりしてるところも良いですね。みんなでテーマソングを歌うのは、「We Are The World」が原型なので。

 自分たちで作っていてもめちゃくちゃ良いなと思いました(笑)。

齋藤 あと、これもこだわったところなのですが、「アニサマ」では、最後の曲の時、銀テープを発射しますが、「V神」では金色の紙吹雪にして星空を表現しました。リアルで紙吹雪を飛ばすと、掃除が大変なんですよ(笑)。「アニサマ」の1日目や2日目にやったら、大変なことになります。


【終演後】

──「V神」は、「アニサマ」の名を冠するに相応しいフェスだったと思います。第1回目の開催ということで、豪華メンバーを揃えるのも大変だったのでは?

 今までもバルスは、数々のVTuberのイベントやライブをやってきて、多くのVTuberさんやバーチャルアーティストさんに出演していただいてきました。そこで培われた縁などがあったからこそ、この錚々たる方々に出演していただけましたし、バルスだからこそ実現できたライブだったと思っています。

齋藤 新しいフェスの1回目なので大変だったと思いますが、初回から、このクオリティを作り出せたことは、次に進める意味で重要だったと思います。キャスティングに関して、もし「アニサマ」という名前に何かの効力があるのであれば、僕も嬉しいし、ぜひ今後も活用していって欲しいですね。

──「今後」という言葉も出ましたが、この記事を読んでくれている人の中には、第2回の開催を期待している方も多いと思います。最後に、今、話せる範囲で今後の「V神」への思いを伺えないでしょうか。

 今はまだ、確定情報として言えることは何も無いのですが、僕個人としても会社的にも2回目をやりたい思いは強いです。元々、「V神」は、VTuberの音楽という文化を世界に繋げて知ってもらうためのツールとして使って欲しいと思っているイベントで。例えば、「V神」への出演をきっかけに、そのVTuberさんがより多くの人に知られたり、アニソンタイアップが付いたりとか、そういった場所としても育てていきたいんです。そのためには、もっとたくさんのVTuberさんに出てもらって、もっとたくさんの人に認知してもらう必要があります。もちろん、そのための大前提として継続する必要がある。どんな形であれ、絶対に継続させていきたいと思っています。

──これからもアニメのタイアップ曲を歌うVTuberは、どんどん増えてくるはずですし、「V神」に出たいという人もきっと増えると思います。

 最初に出演者を発表した時、出演者と同じ事務所の方から「いいな、私も出たい!」みたいな反応もあったし、個人Vの方でもXのプロフィールなどに「『アニサマ』に出たい」と書いてくれたりする人もいるんです。まだ第1回ですが、少なからず浸透していることは感じられているので、本当に続けていきたいですね。

齋藤 僕としても、次にまたVTuberの「アニサマ」をやるのであれば、バルスさんと一緒にやりたいです。それに、堤さんをディレクター、演出家としてもすごく信頼しています。シームレスな展開を始めとする「アニサマ」のスタイルをしっかりと理解してコンセプチュアルなものを作り込める人だし、今、話されていたように、なぜVのフェスをやるのかという意義も明確に持っている。「アニサマ」の根幹に流れているのは、「ONENESS」(一体感)という意識。同じシーンの中にいるオールスターが揃って、それぞれにいろいろなジャンルの歌を歌い、最後は、全員でテーマソングを歌う。この幸福感にあふれる「アニサマ」方式は、絶対にVにも適応できると思っていたし、実際にできていました。この先も第2回、第3回と応援したいし、一緒にやりたいと思っています。



(TEXT by Daisuke Marumoto


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