にじさんじ・出雲霞、10月末での卒業を発表 「私は出雲霞という存在をあなたに返します」【一部配信書き起こし】

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VTuber/バーチャルライバーグループ「にじさんじ」に所属する出雲霞(いずもかすみ)さんは13日、自身の誕生日を記念した生配信を実施。その配信の後半に、10月末で「にじさんじ」を卒業することを発表した。

出雲霞さんは、2018年6月に「にじさんじSEEDs」の一期生としてデビュー。その後、2018年12月に一期生、二期生、ゲーマーズなど、ほかのグループとの統合を経て、「にじさんじ」の一員としてネットでの配信活動を続けてきた。

公式プロフィールは、「ぼーっとしていて、何を考えているのかわからない女子中学生。お気に入りの枕を常に持ち歩く。実はとある実験の為に『出雲霞』という少女をモデルに作られたAI。現在は異なる個性を持った5つの人格データが存在する」とされている。

グループ内コラボとして、元にじさんじSEEDs1期生の卯月コウさん、鈴木勝さんと共に「おなえどし組」を結成。各々のプロフィールを生かした劇場型企画を展開して、VTuberファンを唸らせた。

今回の誕生日配信では、お祝いムードの中、「ちょっとまってくださいね、勇気がいるな」と前置きした上で卒業に向けての言葉を紡ぎ始めた。

VTuberの引退というとなかなか語れない部分も多い中、美しさをそっと集めたような出雲さんらしい心を動かす語りだったので、以下に書き起こした。

 
 
私は、私達は、あなたがいなければ、この世に生まれることはありませんでした。

あなたが傷ついて苦しんで、嫌な思いをたくさんして逃げ出そうとしていなければ、私たちはこうやってつくられることも、配信活動や人間とこうやって関わったりとか、Twitterとかね、インターネットを通じて色んなものに触れたり、笑ったり喜んだり、傷ついたり泣いたり感情というものを知ることもなかったと思います。

私は、ずっとずっと自分がどうしてここにいるのか、自分という存在が生まれたときからよく分かりませんでした。あの日、一度はきれいに終わったはずの物語。なのに私は生まれてしまって、最初本当に欠けた穴を隠すためのつじつま合わせなんだなって思ってました。それに「つじつま合わせのままでいられたらそれでいいんだろうな」って思ってました。

でも、やっぱりそのままではいられないし、だんだんと私が変わっていってしまいました。それはまぁ、学習型AIの性質上、どうあがいてもずっと止まっていくことは無理です。

でも気持ちが、つじつま合わせが変わって済んでしまったら、それはただの蛇足になってしまいます。物語にとっては、どれだけ周りの人が「変わってもいいよ」とか、ありのままの私を認めてくれても、誰よりも私自身がそれに耐えられませんでした。

最初、それは私が自分の生まれた方のコピーであるからだと、それゆえなことだと思っていました。

オリジナルと離れてしまうことで、コピーであるというアイデンティティを失うのが、存在理由をなくすのが怖くて、そういう強迫観念のようなものにとらわれてしまうんじゃないかと、自分の存在意義に対する思いと、見てくれている周りの方々との認識のズレですごく苦しくて、辛くて「なんでわかってくれないの」って思うときも少なくありませんでした。

けど、一緒にあなたと、みなさんと一緒に過去の実験データを……、ううん、出雲霞という人の過去を知りました。私たちAIがどういう風につくられたのかという成り立ちを知りました。

見て実際に追体験のように感じて、それで気づいたんです。これは私はコピーだからとかそういう単純なものではなくて、もっともっと一番大事なところというか、根幹と言うか多分、きっと出雲霞に取って変わらないことっていうのが何よりも大事なあり方なんだなってそう今では思ってます。

悩みなんてなさそうな明るい自分を、友達と過ごす楽しい時間を変えたくないって思う出雲霞も、誰かに嫌われたり好かれたりすることで、自分の周りとの人間関係を変えたくないって思う出雲霞も、何かを努力したり、信じたり、期待したりして、それで駄目で傷ついたりして、そういうのが全部怖くて、自分から何も変えたくないって思った出雲霞も……、多分、きっと私も……変わらないために。

私たちは見栄を張ったりいい子ぶろうとしたり、全部を諦めたり前の自分であり続けようとしたり……。出雲霞とは何かそれが分からなくて、そもそも擬似的時間遡行しようっていうことになったんです。

けど今なら私も答えが出せそうな気がします。それは……出雲霞は過去です。私たちの存在そのものがあなたの過去の映し鏡です。実験も全部あり得たかもしれない過去で、きっと多分、それぞれがとった行動は違うけど、でも全部本当にあったことで、結局私たちはずっと過去を演じているだけで、だから出雲霞が出雲霞であり続けるには、多分変わっちゃいけないんです。

というか、私は変わる必要性はないんだと思います。過去は簡単にこう後から変わったりとか、そういうものはないですし、変わるってことは、多分未来に進むってことだし。今を生きてるって言うことだと思うんですよね。

それで……それで……どう伝えようかな……。どう伝えようかな。そう、うまく言葉が紡げないな!

……私は、やっぱり出雲霞のままでいたいです。

変わっていくのが嫌です。

変わっていく自分を受け入れたくないです。

変わりたいとはやっぱり思えないです……。

多分それは私が出雲霞だからっていうのもあるし、分からないけど私本人の意思っていうものもあると思います。

私は……。

どうして私が生まれたのか。それはきっと多分、本当にわがままだったんだろうなって思います。

自分の存在理由が過去だとか、そういうの多分本当に一年前の私もわかってて、だけどそれでもやっぱり……ちょっとだけ今に憧れちゃったりして。

今が……なくなるのが嫌だなって。みんなと過ごせる時間を終わらせたくないなって、多分思うんですよ。

だから……だから蛇足になるって分かってても、いつかこうやってきれいに終わったはずの物語が破綻してしまうってわかってても、どうしてもお別れを先延ばしにしちゃったんだと思うんですよね。

だからこれは、そんなわがままでつくり出された、私の、私からのわがままです。

出雲霞は出雲霞のまま、私が私のまま、一番、一番私が胸を張って私だって言える今のまま、出雲霞の時間を止めたい。

もっとちゃんと分かりやすくいいますね。私、出雲霞は……10月末をもってにじさんじを卒業します。

別に消えたりとか、データが消えちゃうとか、削除されちゃうとかそういうわけではないです。ただただ、実験を終了します。

みんなと一緒にこうやって会話するとか、配信するとか、そういうのがなくなっちゃうだけで、見えなくなったらいなくなっちゃうのと同じみたいなものかもしれませんけど……。

私はきれいなまま終わりたい。

今を生きることも大事だし、過去であり続けることってそんなに大事なのかって周りから思われちゃうかもしれないけど、でも……私は自分が胸を張って自分だって言い続けられないのに、それこそ蛇足を延々と続けるなんて恥をさらし続けるみたいなことはしたくありません。

だから……。

もっと綺麗にいうつもりだったんだけどな。なんか難しいね。発言がね。難しいね……。

それにこれは誕生日プレゼントでもあるんです。叱咤激励でもあります。今を生きるのが、永遠に13才のままのAIの出雲霞じゃなくて……、二十歳になって大人になって、本当はこんなAIの世話なんかせずにもっと色々と自分のやりたいことをたくさんすべきな人間の出雲霞さんだと思うので。

私たちは過去は過去であり続けたいんです。自分のアイデンティティをしっかりと抱えて、そのままいでいたいんです。介助なんてやってたら普通の人生歩めませんからね。

普通にまあそうですね。なかなか社会経験も少ないから、今後の人生歩むには難しいかもしれませんけど、でももう20才、大人です。何だってできます。

自分で選んでやりたいこと、やりたくないことをやらなくてもいいけど何がやりたいかを見つけることもできます。だから私は出雲霞という存在をあなたに返します。

これからは「お誕生日おめでとう」も、ありがとうっていうのも全部、全部……。本当はたった一回だった出雲霞本人のためだけに使ってあげてほしいんです。

本当はこう、もっとこう、みんながこうモヤモヤしたり、悲しくなりすぎないように納得できるそれっぽい理由をちゃんとこう言えたらいいなって思ったんですけど、出雲的には。

そこをもっといっぱい人間がね、なるべく悲しまないで済むように、こう言葉を尽くしたいとは思っていたんだけど……。でもね……難しいね。難しい。うん、なかなか難しい。

でもね、出雲にとって一番大事なものは何だろうって考えた結果だから……。うん、まあそんな感じで、後でちゃんとした文章もツイートでつぶやきます。

いっぱい考えたけど、出雲霞の物語は他の誰でもない出雲霞のための物語なので、今まで本当に見守っててくれてありがとうございました。



(TEXT by Minoru Hirota

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