
2024年12月、横浜駅直結の商業施設「アソビル」にて開業した、バーチャル空間を実際に歩いて回れるフリーローム型のXR体験施設「IMMERSIVE JOURNEY」(イマーシブジャーニー)。開業から1年足らずで来場者数12万人を記録し、XR施設として大きな成功を見せる中、7月より新作コンテンツとして、印象派画家や当時のパリを歩いてまわる「Tonight with the Impressionists Paris 1874 -印象派画家と過ごす夜-」の公開。さらに、2026年1月23日には名古屋でも施設を開業することが決定している。

オープン時から現在まで体験可能な第一弾の「Horizon of Khufu」(ホライゾン・オブ・クフ)では、通常の観光では行くことができない場所も探索できたり、建てられた当時の世界を旅するという、VRならではの演出が楽しく、多くの来場者が訪れる人気のコンテンツとなっている。
また、100名規模の人数が同じフロアで同時にVR体験をするという取り組みは、先進映像協会ルミエール・ジャパン・アワード2025にて「グッド・プラクティス・アワード本賞」を受賞した。これまで難しいとされてきたXR分野の体験型施設として、実際に多くの人が訪れたりアワードを獲得するなど、目に見える成功を収めている事は特筆すべきだと思う。
第二弾コンテンツ「印象派画家と過ごす夜」


7月より公開されている「印象派画家と過ごす夜」では、1894年当時のパリが舞台となる。ルノワールの絵画から飛び出したような青いドレスの女性に導かれ、現在では印象派画家と呼ばれる作家たち、モネやルノワール、ドガらが当時の美術界から評価されない中でも自身の美術を貫く姿を追体験できる。約150年前のパリの街を巡る中、サン・ラザール駅や、バジールのアトリエ、ラ・グルヌイエールなど、作品として見た事のある場所を実際に歩いて回れることが、体験としてかなりよかった。
本コンテンツは、そもそも「印象派」と呼ばれる画家たちがそのように定義づけられてから150周年を迎えた2024年にそれを記念して、フランス・オルセー美術館の展示会で公開・実施されていたVRコンテンツだったという。それだけに、時代考証や見せ方も考え抜かれたものがあるのは特徴的。関係者に話を伺うと、本作を日本でも美術館でも公開したいと働きかけたそうだが、実現には至らなかったという。
今年10月より「オルセー美術館所蔵 印象派―室内をめぐる物語」として、オルセー美術館の印象派コレクションが国立西洋美術館にて展示されているので、まさに、今体験すべきコンテンツだと感じた。

本コンテンツ「印象派画家と過ごす夜」では、彼らが印象派と呼ばれるきっかけになった「印象・日の出」を描くシーンも登場。一度、クフ王のピラミッドで体験したという方も、ぜひもう一度行ってみて欲しい。
日本から世界へ イマーシブジャーニーの強みと、さらなる展望

シネマリープ代表・大橋氏は、XR関連の施設では、VRやゲームへの関心が強い10~20代の男性に注目されることが多いが、実際には40~60代の女性が多く来場し、男女比率だけでいえば6割5分が女性だったと語る。実際に会場に来てから「VRで体験する施設だったんだ」と驚く人もいると明かすなど、イマーシブジャーニーはVRであること自体へのバリューよりも、古代エジプトや印象派といったコンテンツそれ自体に興味を抱いた方が多く訪れていることが、「来場者数12万人」の大きな理由だろう。
とはいえ初めから順調だったというわけではなく、開業後は一度客足が落ちつき、春になり暖かくなってから口コミで広がっていったという。実際、来場者が1万人を超えたというニュースが出たのが2月のことで(関連記事)、2ヵ月かけて1万人に達した後、11月27日時点で12万人というペースは予想を上回るものだったことは予想できる。

ここにはシネマリープによる設計と仕組みがうまくハマっており、VRゴーグルを着用して何かを体験するとなると、一回あたりの体験人数が限られてしまうところ、1000平米もの広いフロアに100名規模の人数が同時に体験できるというオペレーションのよさがある。
また7月から公開されている第二弾も、第一弾コンテンツも同じタイミングで同フロアで体験できるうえ、理論的にはいくつものコンテンツを同時期に実施可能というのが、VRの利便性をうまく活用していると感じた。今後も定期的に新しいコンテンツを投入し、リピーターの獲得を目指す。

次の一手は名古屋での開業が予定されているが、これ以降も、日本各地に拠点を増やしたいと語る。現状、横浜駅直結という立地のイマーシブジャーニーは来場者の約9割が東京等の関東近郊の方だというのもあり、拠点を増やすことで体験できる人を増やしたいというのが狙いだ。また、コンテンツ自体の開発も進めているといい、2026年中には浮世絵をメインとした日本ならではのコンテンツを発表したいとのこと。現在、体験できるコンテンツは海外のスタジオから輸入しているが、今後は日本発のコンテンツを発表するとともに、その作品の海外展開も視野に入れているという。
(TEXT by ササニシキ)
