変じゃないのが変──。
今回、「AVATAR2.0 Project」に所属するバーチャルタレント・菜花ななさんをインタビューした率直な感想がこの一言になる。
誤解を恐れずにいえば、テレビもネットも、タレントは「変」が求められる。特に生配信が中心のVTuberでいえば、ネットの流行りやファンのコメントの空気を読み、芸人のように鋭い返しを見せることで名を上げてきた人も少なくない。
そんな逸脱を求められる中、ななさんをインタビューするとわかったのが、オーディションが終わるまでVTuberを知らなかったり、ネットだけでなくマンガやアニメにも疎いことなどだ。つまり「普通の人」なのだが、それでもファンを引きつけてやまない魅力はどこから生まれてくるのか。
OLの仕事をしながら、今年5月より毎朝「朝ばなな配信」を続けているという姿勢も驚きだ。つまりは「兼業VTuber」なわけで、普通のお姉さんがどんなモチベーションでハードスケジュールに臨んでいるのか。PANORAの「ネットおしゃべりフェス」で最後となったAVATAR2.0 Projectのグループ内ユニット「ほうれん草ず」からの2人卒業も含めて、彼女の今の気持ちを聞いた。
*本インタビューは、PANORA主催のオンラインイベント「ネットおしゃべりフェス 2020.9」において、ファンより贈られた「進化ギフト」の報酬となります。
配信も、仕事も、生活も 続けるために、がんばらない
──ななさんの特殊性といえば、事務所に所属しつつ、普通に会社員として仕事もやっている点だと思います。
なな VTuberとお仕事を両立しようとしてる方は多いと思いますよ。私は欲張りなので、ちゃんと社員として働く自分も、VTuberも、日常生活も大事にしたい。それこそ、デビューして暫くは自分の生活が適当になっちゃうこともありました。でも最近では家事や料理の時間とか、そういうバーチャル以外の生活も前より丁寧にできるようになりました。
──逆に両立できているのがスゴくないですか?
なな そうですかね。正直、時間はないですけど、バーチャルも大切だからがんばりたいし、プライベートも丁寧に生きたいっていうのが最近の心情です。そのために配信を夜から朝に変えていますし。
──今年5月から毎朝配信しているのもなかなかできないことです。
なな 夜配信しちゃうと家事ができないんですよ。だから朝いつもより早く起きて配信しています。本当は1日に2回とか配信できたら素晴らしいんですけど、あえて朝だけにして、夜はゆっくり料理する時間もつくる。お仕事のあとに、料理したり、掃除したり、お友達としゃべったりというのは大事にしてます。全部諦めたくないっていう、欲張っている状態ですね。
──理想はいくらでも言えますが、実際にやるのはなかなか難しいことです。
なな 本当はバーチャルでもっと頑張りたいこともいっぱいあります。でも、無理しちゃうとどっちも破綻しちゃうかもしれない。そこは危ないなって思ったら配信も含めてどっちかしっかり休んでいます。リスナーさんもそういうのはわかってくださっているので。むしろ「お仕事とバーチャルを頑張っているのを見て、僕もお仕事がんばろうって思います」っていう手紙を頂くことも結構あります。
朝配信では、しょうもないことしか話してないんですよ。本当にただの一般人のお姉さんだから、しょうもないことしか喋ってないんですけど、それでも元気をもらえるって言ってくださる方もいます。仕度しながらとか、お布団の中でなど、朝のお供的な存在でいられることも、これはこれでばななが配信する意味なんだなって思います。夜になかなか配信できない分、くだらなくても朝やろうかなって思えます。
──「継続は力なり」ですね。兼業で何らかの活動をしようとしても、例えば仕事から帰ってきてイラスト描く気満々だったけど、ネットやテレビを見たり、ゲームで遊んでいたらやる気を失せた……っていう人も多いと思います。続けるコツはあるんですか?
なな それは責任感ですよ。決めたことはやりたいタイプです。
──偉い!
なな 社会人だからかな? いや、社会人関係なくてもやる人はやるか。
──ガンガンやろうとして途中で燃え尽きる人も多いです。
なな 燃え尽きないように、色々と手を抜いてるんですよ。だから朝以外は、がんばらない! どうしてもやりたかったりとか、コラボとかじゃない限りは、がんばらない! あとはプライベートも丁寧に過ごしたいって言ってる割には朝ご飯も時々抜いちゃってますし、冷凍食品で誤魔化すこともあります。掃除も毎日全部やるじゃなくて、今日は床、今日はお風呂とか、毎日全部をやろうとしてないです。続けるために適度に力を抜いてますよ!
どうしてこの娘がVTuberに「転生」……
──2019年3月にデビューするまでの経歴を聞いてもいいですか?
なな デビューはオーディション(最強バーチャルタレントオーディション極)を受けて、落ちて、拾ってもらいました。
──その展開も驚きですよね。1人だけのデビューと思いきや……。
なな 思っていました。だから公開オーディションが終わって、最後の配信は応援してくれたみんなとお別れと思って大泣きしながらバイバイしました。そうしたら「転生」しませんかって(編集註:VTuberの「魂」担当が別のVTuberの体に移ること)。私、そもそもVTuberをよくわかっていなかったので、「転生?」みたいな。
──VTuberのことをよく知らなくてオーディションを受けた豪胆さも驚きです(笑)。そもそも何でオーディションを知ったんですか?
なな 聞かれるたびに違うことを言ってる気がします。あまり覚えていなくて。VTuberって情報番組とかでキャラクターのイラストが出てきて、そこに声がついてるようなイメージだったのは覚えています。まずキャラクターが動くことに驚きました。
でもオーディションは分からないなりにがんばりましたよ。バーチャルタレントになるぞというよりは、最終的にリスナーさんと今後も一緒にいるために頑張るぞって気持ちになっていました。なんでこんなに応援してくれるのかなって。そんなみんなと離れたくないなって思っちゃって、それで「転生」したんです。
──いい話です。
なな あとはオーディションで仲良くなった水瀬しあちゃん(AVATAR2.0 Project所属のバーチャルタレント)の存在も大きいです。私がオーディションに落ちて最後の配信して、そしたらしあちゃんが「これで終わりにしたくないなって思っちゃった」ってメッセージをくれて、それで仲良くなったんです。それからデビューまでにVTuberとはなんぞやということをしあちゃんに教えてもらいました。
──オーディションが終わってからVTuberに詳しくなったとは……。ネットやアニメとかもあまり見なさそうな印象です。
なな そうですね。ちびまる子ちゃん、サザエさん、ドラえもんとか、その辺しか観たことがなくて。YouTubeもアイドルやミュージシャンのミュージックビデオを見るぐらい。YouTuberも全然知らなくて、ネットでたまにお騒がせニュースで出てくるなみたいな。ニコニコ動画も、去年かな?初めて登録しました。
──VTuberでそんな人いるんだ! マジですか!?
なな がんばるぅ子ちゃんの番組を見るために登録しただけなんですけど。ネットに生きていなかったので、所謂バズるとかも、なかなか難しいなと思います。
──いや、むしろ何でVTuberやってるんですか、ななさんは。
なな だから人生って面白いですよね。今ではアニメも観るし、美少女のイラスト見るのも好き。ゲームも楽しい。「こんな世界があるんだ、世の中には」って。目から鱗。
──そんな方がVTuberとして活動しているのは、めちゃくちゃ貴重だと思います。普段の配信ではウクレレで歌われていますが、元々、歌手志望だったりするんですか?
なな いや全然! 歌はオーディションで1ヵ月ぐらい配信しなくちゃいけなくて間が持たないから始めたのですが、みんなが喜んでくれたので続けてる感じです。ウクレレだってデビュー配信で弾き語りをするために1ヵ月前に思い立って購入して、先生について猛特訓しました。
──目指すタレント像があるわけではなく、ファンが喜んでくれる場を一緒につくっていきたいという方向性ですか?
なな そんな感じかもしれないです。どうなりたいかと言われると……これっていうのがないんですよね。おしゃべりは好きですけど。だからダンスレッスンを受けたり、サインを書いたりしてると、私何をしてるんだろうってなります。人生って何があるかわからないなって。
──そういう背景だからこそ、ネットに詳しくない普通の人が安心して共感できる部分がありそうです。
なな タレントというよりは、近所のお姉さんが楽しくおしゃべりしてる感覚で配信を観に来てほしいなと思っています。
──それでいて最後の「ほうれん草ず」の番組のときのように、コラボ配信のときには急にはっちゃけて輝きだすみたいな。
なな それはみんなに言われますね。どうしてこの子は普段の1人の配信よりはっちゃけるのかなって。外に行くと途端にかき回すし、台本無視するし、台本見ないしみたいな。私もわからないです。
──(笑)。お話聞いているとバランス感覚がすごくて、どんどんネットに最適化されていくVTuberとは別の魅力があるように感じます。なんというか、悟ってるじゃないですけど、すべてを優しい目で見てるみたいな。
なな お姉さんなので!
──お姉さんですね、確かに。
なな そう、普通のお姉さんがやってるよって感じなので、親近感はあるかもしれないです。「残業大変だったな」とか言うと、みんなから「僕も休みなくてさ」とかコメントがきますからね。類は友を呼ぶんだなって思います。
──そのつくりあげた場が、ななさんのキラーコンテンツだと思います。ラジオのパーソナリティーじゃないですが、生活の一部になって、毎日聞いて元気をもらえる欠かせないものになってる。
なな 見ていて安心して応援できるタレントでありたいなとは常日頃思います。VTuberは魂と深く結びついてるから、バーチャルといえど人間くさいところは出ちゃうから面白いですよね。画面に映るものだけじゃなくて、その人が発信するすべてから人間性がみんなに伝わる。
──なりたい自分になれるじゃないですけども、別の身体を持って別の人生を楽しめる。
なな そうですね。普通ならそんなに褒められる場面が少ない日常も、バーチャルではちょっとしたことでも褒めてもらえてやる気が出ますし(笑)素敵ですよね! 本当に素敵!
──いい話だ。しかし、ななさんという存在がVTuberで成立しているのはかなり珍しいですね……。
なな 成立が珍しい!?(笑)
──繰り返しになりますが、なんでVTuberやってるんだろうって。
なな 私も思います(……と炊飯器の音が鳴る)。あ、ご飯が炊けた!
──(爆笑)。20年ぐらいメディア業界にいますが、インタビュー中に米を炊いてる人は初めてです。普通のお姉さんだ!
なな 鍋つくろうかと思ってて。でもご飯食べてからインタビューだと、ご飯中も気が気じゃなくなっちゃうから。バーチャル活動は日常の一部だけど、ちょっと非日常も味わえて、とっても素敵! だから私は、バーチャルの世界を愛しています。
「テレビっ子なのでまたテレビに出たい」
──先ほど出ていた「ほうれん草ず」の思い出も聞いていいですか?
なな 特別何かしたってことは少ないんですけど、やっぱり2人の最後に向けて着々と準備したのは強く残っています。最初こそ卒業を止めましたけど、2人の話聞いて「だったら新しい道の中でがんばってね」っていう感じで、自分の中でもちゃんとそこは理解して。
でも分かったつもりで、今後も2人と会えるしとか思っていたのに、いざ発表された次の日の朝配信では結構泣いちゃって。やっぱり寂しかったんだなって。一緒にいる時間が多かったわけでもないけど、一緒にがんばっていた子、活動してた子がいなくなるっていうのはやっぱり寂しいかな……。職場で仲良くなった子が辞めてバイバイするってなったときよりも悲しかったのはなんでなんだろう。私もわからないです、それは。
──今でも連絡とろうと思えば取れるんですよね?
なな 全然とれますよ。何でこんな悲しかったんだろう。
──でもどこかで元気にやってくれている。
なな そうですね! メンバーは減っちゃいましたが、私もここで色々交流して一緒にがんばりたいお友達も増えました。ふうちゃん(紫吹ふうかさん)もいるし、そこは前向きです。
──「ほうれん草ず」以外で、今まで活動してきた中で印象的だったことってありますか?
なな 水瀬しあちゃんと一緒に歌った「ふたりなら」がCDの「VirtuaREAL.02」に収録されたこと。CDになってたくさんの方が買ったり、ダウンロードしてくれたことも「え~!」って感じでした。本当にたくさん聴いてくれているんだなって。何事かと思いました。
──普通に生きていたら、絶対に経験できないことです。
なな ないです! だからこんな経験させてくれるリスナーさんには本当感謝しかないから、バーチャル活動でお返したいって思います。
あとは、テレビドラマの「四月一日さん家と」に応援大使として出演できたことが嬉しかったです。番組の終わりにお知らせコーナーを担当したんですよ。本当に夢みたいでした。みんなが私を連れてきてくれたというか、こんなこと人生でないよって!
元々テレビっ子で、お父さんお母さんとテレビを囲んでいたので、テレビ局に行くのも本当に大興奮して。だからプロフィールにも「夢はテレビ番組のレギュラー」って大きいこと書いておきました(笑)。また出られたらいいな。お母さんにVTuberの活動のことを言っても何もわかってくれない! でもテレビならスゴいってわかってくれるから、だから私はテレビに出たいってよく言ってます。
──(笑)。じゃあ、これからの目標もまたテレビに出演したいという。
なな そうですね。他にもウクレレライブをするのが目標です。歌もトークもなんでもありの楽しいライブをこじんまりとしたバーみたいな所でやりたいです(笑)そのためにももっとたくさんの方に知ってほしいし、みんなと楽しい時間を過ごしたい。自分の活動を持続させるためにも、応援してくださる方は必要なので、魅力がどんどん伝わったらいいなって。ぜひ配信を見にきてくれると嬉しいです。
(TEXT by Minoru Hirota)
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