
RIOT MUSICは4月29日、VRChat上で有料ライブイベント「はじめのるつぼ Vol.2」を開催した。
本イベントは、バーチャルシンガーのプロダクションとして知られるRIOT MUSICがVRChatとのパートナーシップ契約により開始した「AdHoc – イベント支援サービス -」を活用したものでもある(関連記事)。同社は、ZAIKOを活用したチケッティング、チケットとVRChatアカウントの関連付け、イベントプロモーションなどをサービス内容として掲げている。
VRChat上で開催される音楽ライブ自体は、有料無料問わず、今となっては珍しいことではない。毎年恒例のサンリオVfes(Sanrio Virtual Festival)のような大型イベントや、著名人・大型IPによる特別なバーチャル興行などは、VRChat上で楽しめるものの一つとして定着している。サンリオVfesで実施された「超かぐや姫!」のライブパフォーマンスが、同時接続数で過去最高を記録したことも記憶に新しい(関連記事)。
かつては音楽ライブといえば、実施されるだけでVRChatユーザーのほとんどが注目するくらいの大きな出来事だったが、最近では「VRChatでライブをすること(観ること)」そのものよりも、VRChat上で行われるライブなどのイベントをしっかりと課金の対象とし、これまで無償で活動してきたアーティストたちが対価を得られるようにする流れに注目が集まっている。VRChatがごく一部のマニアが集まる場所ではなく、ユーザー数が着実に増えていったからこその自然な流れだろう。
一方で「はじめのるつぼ Vol.2」は、大型イベントや大型IPのイベントとは異なる手触りを持っていた。近いのは、一般的にライブハウスで行われるブッキング系ライブ。規模は大きくないが、そのぶん「VRChat上で有料ライブを継続的に開く」ための現実的な形が見えやすいと感じた。

「はじめのるつぼ Vol.2」は、インスタンスAとインスタンスBの2会場制。チケットは別々に販売されていたので、どちらかのチケットを購入して片方の会場に腰を据えて見ることもできる一方で、二枚購入してA/Bを移動することもできた。筆者は当日、両会場を行き来しながら観覧したが、ライブが同時開催されるサーキットイベントとして、複数のステージを回る感覚に近いと感じた。
A会場:CROWK、siromi、Sifneos.
A会場はユニット/グループのアーティストのインスタンスで、それぞれ、突き抜けた音楽性を持つVRChatきっての実力派が集まっていた。一見すると対バン形式のライブに近いが、現実では同じジャンルのアーティストがブッキングされることが多い中、それぞれ違う方向を向いているのは、ある種VRならではの自由度を楽しめるインスタンスかもしれないと思った。

「はじめのるつぼ Vol.2」全体のオープニングアクトとなったCROWKは、彼ららしく、いい意味で力の抜けたこなれたパフォーマンスで盛り上げていた。


「嗤ゥせぇるすまん」から始まり、新曲「GORGEOUS ROOM」を含む7曲を披露。イベント全体の入口として自然に観客を引き込んでいく存在感はさすがだ。

アコースティックデュオとして活動しているsiromiは、今回は特別にサポートのドラムとベースを加えてのバンド編成として出演。


「MOOD」、「たゆた」など6曲を、バンド編成、二人体制で披露。CROWKがつくった空気を受け取りつつ、楽曲の暖かい温度感に包まれた。

A会場のトリとなったのは2人組ユニットSifneos.。独自の世界観をしっかり持ったコンセプチュアルな雰囲気はAdHocのステージでも健在。


新曲「Radiate」の選考お披露目のほか、「accomplice」などを披露。楽曲やライブの枠を超えた体験を作っているという彼らは武道館ライブを目指し、活動中だという。夢をかなえてほしい!
B会場:アメミヤチカ、胡虎あくび、白河しらせ
B会場は、A会場に比べるとソロアーティストごとの個性がより前に出る空間だった。女性ソロアーティストがブッキングされるライブと同じような空気感を感じ、熱意ある個ファンによって雰囲気が少し変わるのは印象的だった。

B会場のトップを務めたアメミヤチカは、「Team Wasurenagusa」の一員としてサンリオVfesにも出演しているなど、VR音楽シーンの中で存在感を見せている。類まれな透明感や空気感が魅力のシンガー。


「雨の日のローレライ」や新曲となる「循環」、「2Weeks」など7曲を披露。アーティスト本人の透明感や、楽曲が持つナイーヴな響きを、VRらしいパーティクルによる演出で彩っていた。会場を選ばない個性はさすがの存在感だった。

AdHoc公式アンバサダーも務める胡虎あくび。VTuberとして活動しつつ、ポップスからロック、幅広いジャンルをカバーするシンガーとしても活躍。


オリジナルの「うつるんです」、ヒトリエの「ステレオジュブナイル」のカバーなど、6曲を披露。派手なパーティクルの演出などはないが、途中で衣装チェンジをするなど、こちらもVRらしい演出で楽しめた。ファンたちが楽しそうにしていたのも印象的。

「はじめのるつぼ Vol.2」全体のトリを務めたのはRIOT MUSIC所属の白河しらせ。VTuberとしては、いわゆる「清楚枠」といった雰囲気で、クリアな歌声が魅力のシンガーとして活動している。


はカバーを中心に力強さと澄んだ声質を活かし、幅広く、キャッチーな楽曲を歌っていたところにプロフェッショナルを感じた。オリ曲「水色ファンファーレ」で爽やかに締め、全5曲を駆け抜けていった。
両会場を行き来して見えたこと
繰り返しになるが「はじめのるつぼ Vol.2」に参加していて思い出したのは、現実のライブハウスにおけるブッキング系イベントの感覚だった。
現実のライブハウスであっても、目当ての出演者を見るために行ってみたら、いわゆる「対バン」の演奏を聞いて「結構いいじゃん」って思ったりすることがある。これは近しいジャンルのバンドや、ファン層が近いアーティストがライブハウスによってブッキングされていることもあり、初めて聞いたときからいいと思えるためだ。
この流れを考えると、現実のライブハウスと同様に、AdHocという箱として出演者を組み、チケットを売り、観客が集まる場を用意するのは自然な形に思えた。

特にソロアーティストがブッキングされていたB会場では、「推し改変」をしているファンの姿も見かけた。アイドルライブなどでは、それぞれの推しのグッズなどをまとっているファンの団体がいるのを見るが、まさにその熱気を感じたのは面白かった。
VRChatに来ている「有料化」の波

最近では音楽ライブだけでなく、演劇やトークイベントなどでチケット販売をするケースが増えてきた。現在も有志によるイベントのほとんどは無料で開催されているが、サンリオがサンリオVfesとして有償の大型イベントを2021年末に初開催したり、VRChat内通貨による取引が可能になるなど、VRChat内での経済活動の波が来ている。AdHocの取り組みもその流れを汲んでいる面が大きいだろう。
また、最近ではVRChatのユーザーが劇的に増えていっているため、無料で行われるライブは相当運がよくないと会場のインスタンスに入れないことも増えてきた。その点、チケット制であれば確実に入れるというのは、確実に観たいファンからすると嬉しいポイントでもある。
直近でも仮面ライダーディケイドで知られる俳優の井上正大が有志を募って無料でイベントを実施したが、そのように、有名人とはいえ個人が思いつきでなんでもできるのがVRChatの魅力だ。複数のインスタンスがリアルタイムで同期する形式をとったこともあってか、ライブ実施にはかなりの待ち時間が発生するなど大きなトラブルもあったという。
「はじめのるつぼ Vol.2」はそうした現状を踏まえると、大型フェスや著名人のライブのような「ハレの場」ではなく、VRChat上にライブハウス的な箱をつくり、精力的な活動をしているアーティストが現実のライブハウスのように、チケット販売をしながら活動することが当たり前になるための一歩として、いい意味での「ちょうどよさ」を感じた。
(TEXT by ササニシキ)
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