2026年6月30日、Kizuna AIが自身のバースデイを祝う3Dライブとコラボ配信を行なった。さくらみこ、森カリオペ、轟はじめ、天宮こころ、樋口楓、橘ひなの、音霊魂子、ぽんぽこ、ピーナッツくんが出演。その後のソロライブでは新曲も披露し、集まったファンを喜ばせた。
Kizuna AIは2016年11月29日に活動をスタートさせたので、あと約3~4ヵ月後にはVTuberシーンの始祖は10年目の季節を迎える。同時にそれは、”VTuberシーン”と呼び括られるほどに非常に多くの存在がうまれるようになってから、10年の時が経過したということでもある。
そのあいだ、VTuberの在り方・捉えられ方・広がり方には多くの変化が訪れ、いまへと至っている。そのなかでもファンや人々の注目を集めるのが、3D空間を活かしたライブ公演やオリジナルの音楽を披露する、音楽寄りの活動をしているときだ。ひとことでバーチャルシンガーや音楽系VTuberと言ってしまえばいいのだが、今回の話題ではそう言い切ってしまうことを一度やめてみようと思う。
VTuberは”アイドル”なのか?なぜアイドルとしてみられるのか?
前編・後編を通して、この問いを今回は深堀りしていこうとおもう。
VTuberの音楽は2年間で何が変わったか?シーン動向をまとめて振り返る──アリーナライブ、事務所解散、ミームソング【Pop Up Virtual Music】
そもそも「アイドル」を知っているのか?
総合エンターテイナーとしての広がりを追う
そもそもこの記事を読んでいるひとたちは、「アイドル」といわれてどんな人達を想像するだろうか。
2026年現在、「アイドル」と称される人たちは多彩な活躍をしており、十把一絡げに”これ!”というのがかなり難しいシーンとなっている。
とりあえず、ここでは共通認識として一つのグループを挙げておきたい。今年劇場公開され世界的にヒットしている伝記映画「Michael」の主人公マイケル・ジャクソンに深い敬愛を持ち、1991年のデビューから2016年の突如の解散まで約30年間を走りきったグループ、SMAP。中居正広、木村拓哉、稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の5人と、当時所属していたジャニーズ事務所(継承会社:STARTO ENTERTAINMENT)だ。
彼らの功績は大きい。歌・ダンスだけでなくバラエティ、ドラマ、映画、司会業までこなす「何でもできるアイドル」というスタイルを確立し、以降のアイドルグループの活動範囲のモデルケースとなった。
冠番組「SMAP×SMAP」などを通じて、コアなアイドルファンだけでなく老若男女に受け入れられる存在となり、アイドルが日常へと溶け込むきっかけを作った(彼ら以前はお笑い芸人が担っていたポジションでもある)。
木村拓哉・草彅剛の俳優業、中居正広の司会業など、メンバー個々がそれぞれの分野で地位を築くという個人タレントの確立も果たした。また5人それぞれがソロタレントとしてテレビ番組に積極的に出演し、アイドルと地上波テレビ番組を近づけた存在ともいえる。
「アイドルがテレビ番組を持つ」という構図は90年代当時から現在までになっても続き、嵐、Kis-My-Ft2、関ジャニ∞(現:SUPER EIGHT)、Snow Manなどへと継承されたのだった。
もちろん60~80年代にもフォーリーブスやキャンディーズ、ピンクレディーや田原俊彦らが司会をつとめたNHK番組「レッツゴーヤング」や、おニャン子クラブの「夕やけニャンニャン」など、アイドルが冠番組の司会を務める例はみられる。
SMAPは彼らの潮流や80年代に大きなインパクトを残していた先輩である近藤真彦、少年隊、光GENJIらの後を受け継ぎ、より先鋭かつ大衆化させ、「総合エンターテイナー」像を約30年にわたって保ち続けた。その結果、「アイドルは”なんでもやる”という総合エンターテイナーである」という視点・在り方を、日本のアイドルシーンの”王道”にまで昇華させた張本人となったのだ。
同時期にはV6、TOKIO、KinKi Kids(現:DOMOTO)らも同様に地上波の冠番組を持ち、総合エンターテイナーとしてのアイドル像を牽引していったのを、感慨深く思い出してしまう人も多いのではないだろうか。
これを一つのオーセンティックな活動指針としてみたとき、それとは別軸に活動しようとするアイドルたちも登場する。
テレビ出演をゴールにせず、ライブハウスやホール会場での活動を目指す、いわゆるライブ現場に重きを置いたアイドルたち。あるいは衣装や振る舞いをよりコミカルかつポップにすることで多くの人に向けてアピールするグループ。ロックやファンク、R&Bやヒップホップなど音楽ジャンルの引き出しを継承したダンスボーカルグループ。これらは2000年代後半から現在まで続くアイドルグループ大増加の一因ともいえる。
さて、VTuberはどうだろう。筆者はとあるVTuber、いやバーチャルアイドルとのインタビューで明確な言葉をもらったことがある。
──デビューしてから現在まで”アイドル”という言葉を星街さんがこだわっている、その理由をうかがってもよろしいでしょうか?
星街 今ではアーティストと呼ばれることも多いですし、そう呼ばれることは嫌ではないです。でも、一番最初に自分がなりたいと思ったもの、追い求めていたビジョンがアイドルだったんです。好きな2次元のアイドルの子たちがいて、彼女らをめざして始めたというところがあり、これからも大事にしていきたいなと思っています。「アイドル」って音楽だけじゃなくいろんなことをやるじゃないですか? 私も一つの枠にとらわれるつもりはあまりないし、本当にいろんなことに挑戦できる存在っていうのが、もしかしたらアイドルなのかなって。そういう私個人のアイドル理念があって、それを自分で今後体現していければと思います。
星街すいせい、「Studio STELLAR」設立インタビュー 「クイズ大好きなのでクイズ番組に出たい!」
ホロライブおよびStudio STELLARに所属する星街すいせいの視線には、「アイドルは”なんでもやる”という総合エンターテイナーである」という側面がおぼろげながら見えているようだ。それは日本におけるアイドル像のもっともオーセンティックな姿であり、彼女がバーチャルの世界で同じ路線を追求していくのは、間違いでもおかしくもない話だ。
では、VTuberの活動とはどういったものがあるか。
われわれリスナーの視点から見える部分をもう一度まとめてみよう。
- 配信活動(ゲーム実況/雑談/歌枠/おもしろ企画)
- ライブ/イベント出演
- コラボレーション/企業案件
- ファンアートやファングッズの誘発
- グッズビジネス
- Live2Dや3Dビジュアルの個人開発・技術方面
「テーブルの前に座って、カメラを付けてペラペラ喋っている」という下手なイメージには、まったくとどまらない、実に多くのことを手掛けている。
もしも本人がかなりの人気を有している場合、こういった活動をしなければ人気を保つことができないし、ファンを満足させることもできないはず。こうして列挙してみたが、VTuberの活動はみなの想像よりもグラデーションがあるのが伝わるだろうか。
2026年現在ではパソコンの画面のなかだけでなく、スマートフォンや街なかの広告に起用され、雑誌やテレビでも活動しているVTuberもいる。実際にリアル会場でイベントを開催するVTuber、少数のグッズを制作・販売するVTuber、そんなVTuberに向けた応援広告なども送られ、活動は活気づいている。
先にアイドルたちについては「テレビ番組を通じて」の影響度を強く書いたが、場所を選ばず活躍する点で言えばVTuberも同じだ。ここまで見ると「VTuberとアイドルは同じじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、もうすこし注意深く見てみよう。
はたしてテレビで活躍するのはアイドルだけなのだろうか。当然そうではない。
テレビ局のリポーターやアナリスト、お笑い芸人・モデル・俳優、音楽アーティストから社長、占い師やマジシャンまで、いわゆる”芸能界”にはさまざまな存在が揃う。
彼らをこの国では”芸能タレント”と呼び習わすことが多い。その興行的な側面は歌舞伎や落語の寄席・見世物興行にルーツをもち、欧米発の外来文化からの影響で顕著化し、テレビの普及によって数十年にわたってカルチャー化した。
この時代変遷において、VTuber……ひいてはインターネットカルチャー全般は、カウンターでありオルタナティヴな存在として置かれ続けてきた。”テレビ”という大きなメジャーカルチャーとメディアがあったため、インターネットは90年代中頃に急速に発達しても、メジャーで国民的とはいえない時期が続いた。
だが今は2026年。テレビからインターネットへと主要メディアの軸は変わりつつあり、インターネット独自のカルチャーに注目が集まるのは自然なことといえる。そこで脚光を浴びつつあるのが、ストリーマーであり、YouTuberであり、VTuberなのだ。
筆者はこういった潮流を見てきたうえで、VTuberをバーチャルタレントと称して執筆することが多い。テレビ・ネットの違いはあれど、横断的に活動領域がありつつ見ている人を楽しませ、納得させる言動と振る舞いで注目を集める点で、テレビにおける”タレント”とインターネットにおける”VTuber”はやはり等しく見える。
星街へのインタビューで彼女は”アイドル”をイメージしていたが、筆者から見るとそのイメージは”テレビタレント””芸能タレント”へと変換されていた。当該記事でもそういったイメージで筆者は受け答えしたつもりだ。
だが同時に先にもしるしたように、アイドルは芸能タレントという言葉やイメージに吸収されてしまうと指摘したい。多くのお笑い芸人や司会者、モデルや俳優たちと同じような活動をアイドルたちが行なっているのは、テレビの活躍を見れば一目瞭然である。
彼らには、元々自身の芸を極めてきた現場がある。舞台、ラジオ、音楽……業界の言葉をつかえば”板の上”でスポットライトを浴びてきた存在でもある。それはアイドルも同様だ。
もちろんVTuberにも”板の上”がある。配信活動は、まさにVTuberにとっての”板の上”だろう。ゲームや企画を通してトピックを拾い集め、おもしろおかしくトークするスキルはラジオMCやお笑い芸人にも近い(ラジオMCを任されるVTuberが多いのはこの類似性があるからだ)。
VTuberはアイドルではない、だが我々が以前から見知ってきたアイドルやテレビタレントにかなり近い。メジャーだったテレビカルチャー、そのカウンター&オルタナティヴなカルチャーとして広まったインターネットカルチャー、そこに日の目が当たっているいまだからこそ、広告塔的なポジションやポップな存在が欲される、VTuberは、われわれ市井の人たちの退屈を埋めてくれる愉快な存在として受け取られつつあるのだ。
今回は、アイドルとはどういった存在として広まり、どう解釈できるか。その解釈のなかでVTuberは当てはまるのかどうか、という軸で筆を進めさせてもらった。ここから、VTuberが実際にどう受け取られ、どう応援されているかという受容の面に目を向けると、話はまったく違う様相を見せる。
後編では、その”受け取られ方”を見ていこう。
(TEXT by 草野虹)
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