にじさんじに所属するVTuber・叶が、セカンドソロライブ「孤独 -solitude-」を2026年7月31日に開催した。
2026年2月25日にファーストフルアルバム「藍」をリリースし、彼にとって2度目のソロライブを迎えたわけだが、樋口楓、小柳ロウ、星川サラ、椎名唯華、剣持刀也、加賀美ハヤト、三枝明那、そしてシークレットゲストとして戌亥とこも出演と、8名のゲストが参加した大所帯のライブとなった。
そんな中で、叶が描こうとした”孤独”とは一体なんだったのか、レポートしてみようと思う。
緊張を感じさせた序盤
今回のセカンドソロライブ「孤独 -solitude-」は、叶にとって3年以上ぶりとなるライブとなった。前回は2023年3月16日にグランキューブ大阪・メインホールにて開催され、ランティスからデビューして1年が経過した中でのライブだった。
叶と音楽ライブというと、すこし苦い光景が筆者の脳裏にはよぎる。
実はこのファーストライブでは、途中でトラブルが発生してしまい、ライブが中断。トラブルが解決するまで叶が場内放送で観客と会話し、制御型ペンライト「FreFlow」(フリフラ)を使用していたこともありオペレーターにさまざまな色に会場を彩ってもらうというアドリブをみせていた。
またその前年、2022年7月27日にぴあアリーナMMにて開催された「Kuzuha & Kanae & ROF-MAO Three-Man LIVE『Aim Higher』」では、ライブ序盤から”ド”緊張しているのが目に見えてわかり、普段の叶とは思えないほどに落ち着かず、ボーカルやMCなどで声が震えているのが手に取るように分かるほどだった。進行するにつれて緊張が解けていったが、意外かつ印象的なシーンとして今でも覚えている。
その後も何度か大型イベントなどへ出演しており、こういったトラブルや緊張感に苛まれる姿はイメージから薄らいできていたが、3年ぶりとなるセカンドソロライブ。どんなことが起こるのか、筆者自身も始まる前から少し緊張していた。

ライブ序盤、やはりというかなんというか、叶は緊張していたようだった。
1曲目「アイ」から始まったライブは、2曲目「命ばっかり」を歌い終えた後のMCタイム、大きく「はぁ……!はぁ……!」と息をつき、後ろを振り返って水を飲む。
一通り話し終えると、観客に次を提案する場面もあり、考えてきたMCをしゃべり終えてしまったことに加え、緊張感から言葉が出てこないように見えた。
3曲目「Make Me Wonder」を樋口楓とともに披露。同じにじさんじ、音楽レーベルランティスに所属し、叶がライブパフォーマンスにしっかり取り組もうと思ったキッカケとなった尊敬する先輩だと明かし、自分のステージに招くことができて光栄だと話すと、拍手と笑顔がステージと会場にうまれる。

そうしている中で樋口が叶についてこうツッコむ場面もあった。
「なんか今日、緊張してますよね?」
「裏の控室でも、3日前くらいから緊張してる~って言ってて(笑)」
数日前から緊張していたことを明かされ、観客にも叶の緊張ぶりが伝わることになったが、この日のライブが以前と異なる点が実は施されていた。
この日のライブでは、叶本人のオリジナル楽曲のみで構成されるのではなく、さまざまなアーティストの楽曲を取り入れた内容となっている。
VTuberのライブに見慣れている方なら「そういう構成もまた普通では?」と思いそうだが、叶自身の楽曲オンリーで構成しないという方針にすることで、叶らしさだけにとどまらない、彼ひとりでは決して歌わないような意外性・世界観の拡張が促されることになる。
先に樋口と歌った「Make Me Wonder」は、Official髭男dismのオリジナル楽曲だが、叶が思う樋口らしさを捉えた曲として披露された。
他のゲスト陣も同様に、叶が感じている”その人らしさ”を選曲の軸にすえ、さまざまにコラボしていった。小柳ロウとは彼の低い声を活かしたチョイスでPEOPLE1の「銃の部品」を歌い、星川サラとはCreepy Nuts×Ayase×幾田りらの「ばかまじめ」を披露した。


椎名唯華とのコラボでは、ウイスパー気味な声色を活かした米津玄師と宇多田ヒカルの「JANE DOE」で、観客の心を奪ってみせた。MCでは彼女へ「結構特別枠だよ、ただカワイイ」と単純明快な言葉を投げかけ、観客から笑いが起こった。

小柳、星川、椎名と歌い、各々1人ずつMCタイムやコーラスの時間まで持たせている。他のライブでもここまで時間を割くことはしないだろう。ここに本公演の特徴が見受けられる。
叶本人の緊張感を徐々に解き、体力を長く保つため、あえて時間を長くもたせる。そういった狙いがあるのではないだろうか。
実際、叶の歌声・ダンスはともに、3人とのコラボを終えた中盤を乗り越えた先で、グッと花開くことになる。
本人の「やりたかったこと」を感じたソロ
普段ポニーテールにしている髪の結び目をほどき、肩までサラッと伸ばした髪型をこの中盤で披露し、より中性的で優しげな表情が印象的に観客の目に届く。
「レディメイド」から「ダーリン」までを含む8曲、約40分近いライブパフォーマンス。簡単なMCをはさみつつ立て続けに披露され、一つ一つの楽曲に巧妙な演出と意味が込められているのが伝わってくる。だがそれ以上に、叶がこの演出をしっかり乗り切るために、ライブ演出にとても気を使っていたのかと気付かされる。

Ado「レディメイド」、キタニタツヤ「人間みたいね」「ナイトルーティーン」、清竜人「痛いよ」と歌っていく。これらの楽曲はおそらく叶本人が気に入っている楽曲からチョイスされているのだろう。その歌詞の内容も、内省的ないしは自罰的なニュアンスの歌詞が多めで、叶自身のソフトタッチな歌声と相まってまるで自問自答しているかのようでもある。

そういった自省の響きは、孤独という言葉に結びつくはずだ。だがこの日のライブでは、「孤独」は一つの喜びとして肯定的に捉えられ、決して後ろ向きな意味として捉えられるものではなかった。
少しだけ言語の話をしよう。孤独、という意味合いの英単語をいくつか思い浮かべれば、Loneliness、Isolation、ライブタイトルになっているSolitudeと3つほど挙げられる。
Lonelinessは、いわゆる寂しさから来る悲しみや苦痛をともなう孤独。Isolationは、周囲から切り離された孤立という意味合いを持った孤独。対してSolitudeは、1人でいることを自分自身で選んだという意味の孤独と、このように別々の意味合いを持っている。

日本語を使う会話、もとり日常生活を送っているなかで、「孤独」「ひとりでいること」と聞くとネガティブな言葉に捉えられがちだが、静かな場所で穏やかに、ある種の心地よさを感じながら佇む”孤独”が、この8曲のパートでは表現されているようだった。ゲストとの歌唱が一切ないからこそ、大きなミスは許されない。ライブ前にミスをしてしまうかもしれないなどと話していたが、おそらく叶本人がやりたいであろう(もっとも力を注いでいた)演出・ダンス・歌唱が詰め込まれていたように感じた。

シークレットゲストに大歓声が上がりっぱなし
さて叶による独演の次は、ゲストパートへ。「ライブに慣れていないころから一緒にやってきた」「ある種の好敵手」と紹介した剣持刀也との「セレナーデ」を歌い、加賀美ハヤトとは「加賀美さんが1人ではやらない曲をやろう」と思い、「未完成婚姻論」を歌った。永遠の愛と誓いを立てようと婚約指輪をプレゼントする2人の振り付け(!)もあり、あまりにもつよいファンサービス的な楽曲にファンから悲鳴に近い声が上がった。


加賀美とのMCを終えると、「次の曲はもっと甘いかもしれない」と続く楽曲への期待を煽る。楽曲は、三枝明那との「magnet」。お互いに見つめ合い、肩を、頬を、触れながら歌い、叶の胸に三枝が顔を埋めるというシーンまで。
さきほどは叶と加賀美が観客やリスナーに向けてアピールしていたが、三枝と叶によるシアトリカルな見せ方の数々、煽った期待を大きく上回るハイライトシーンの連続に、会場の観客からは興奮の色が収まらない様子が見られた。

MCに登場した三枝は、リハのときよりもガッツリ近づけるようにと本番でコンタクトレンズを外して臨んだといい、グッと距離を近づける場面もあり、女性ファンから歓声がとぶ事態に。”サービスショット”があまりに続いたせいで、SNS上・ライブ配信などで多くのファンが興奮した気持ちをストレートに投稿していた。
そんな盛り上がりの続いた2連発から、ここでシークレットゲストとして戌亥とこが登場!喜びの歓声から一転して驚きの歓声が会場を包んだ。ソフトな叶の歌声と太く芯のある戌亥の歌声がハーモニーとなった「愛のけだもの」に、多くのファンが固唾をのんで見守ったのだった。

実は叶は、以前から戌亥とこの楽曲や配信を楽しんでいることを明かしており、コアなファンにとっては「ついに戌亥を自分のライブに呼んだ!」とニヤリさせられる起用でもあった。
歌い終えてそそくさと退場しようとする戌亥を引き止め、この日最後のMCタイムへ。「びっくりしたんじゃない!?」と叶が観客に聞くと、大歓声で驚きだったことを伝える観客たち。
自分をシークレットゲストで呼ぶということを伝え聞いていたものの、本当に”シークレット”として隠していいものか、マネージャーや叶に何度も確認してしまったと白状する戌亥。それに対して、叶はこう返事をした。
「完全シークレットのゲストをライブに呼ぶ、というわがままをやりたかったんです」
「今日のライブは、自分のわがままでできてます!」
ここまで何度か伝えていたことだが、戌亥のゲスト出演によってより真実味を増してくる。叶がそのまま衣装を着替えるために退場すると、シークレットである戌亥が1人で場をもたせることに。中々戻ってこない叶に対し、拗ねるように怒る戌亥という図が生まれた。そこへ叶が、少し笑いながらステージへと戻ってきた。
もしかして「自分に向かって拗ねるように怒っている戌亥とこ」が見たいがために、あえて時間を空けていたのか。そんな想像や妄想が膨らんでしまうほど、彼自身のやりたいこと・わがままが詰め込まれていることがこちらに伝わってきたのだった。
さて、ゲスト8人それぞれに十二分な歌唱とMCの時間を割いたこの日のライブ。すでに時間は2時間以上経過していたのだが、ここで叶はアンコールがないことを伝える。
遠くで 鳴り響く サイレン
僕らを 呼び覚ます合図が 聞こえたんだ
努力が 実を結んだあと
摘み取られた僕らの行先は?
誰かじゃなくて あなたの隣が良い
その理由はこのあとの2曲を聞いてもらえば分かる、そう断言し、「花束の行方」がスタートした。叶が歌う背景に、これまでの自分の配信や動画、ならびにファンアートがズラリと並んで動くムービーが流れていく。
地面に落ちていた花をそっと手にとり、力強く歌う叶。最後の曲はSUPER BEAVERの「ありがとう」。自分が出会ってきた人物、出来事、その中で生まれ芽生えたやり取りや感情、それらすべてに感謝を伝え、いまここに立っている自分自身を肯定するように歌っていく。
愚直に、ただまっすぐに、感謝を伝えた叶は、風に吹かれると同時に花びらとなり、バラバラに散るように姿を消していったのだった。


多くの友人がいるからこそ、前向きなソリチュード(孤独)を選ぶことができる。それは”愛”に溢れた幸せなことである。そう自覚しているからこそ、重く、強く、深く、響くように「感謝」を伝えようと試みたのが、本公演だったと思う。
かつて叶の配信では「愛」というスタンプがあり、配信スタート時にそのスタンプを打つというのが恒例であった。ある時期にスタンプを一新したことで現在では見られないものとなってしまったが、本公演の最初に「アイ」を歌ったように、本公演では”愛”を表現しようと試みたのだろう。

普段はヒネりの効いた演出を好む叶からすると、そのメッセージはすこしベタすぎるのだろうか。いやそんなことはない。観客からの感謝や愛情の声が次第に増え、ライブ終わり際には少なくない観客から感謝の声が飛んでいた。
そのさまを見て、叶も声を上げて呼びかけた。緊張なんてとっくに脱ぎ去って、愛すべき観客の笑顔の元へ駆け出す、そんな笑顔とともに。

●セットリスト
1.アイ
2.命ばっかり
3.Make Me Wonder with 樋口楓
4.ラブレス
5.コモンビーポー
6.才悩人応援歌
7.銃の部品 with 小柳ロウ
8.ばかまじめ with 星川サラ
9.JANE DOE with 椎名唯華
10.レディメイド
11.人間みたいね
12.リードコントロール
13.ドーナツホール
14.痛いよ
15.ナイトルーティーン
16.Voyage
17.ダーリン
18.セレナーデ with 剣持刀也
19.未完成婚姻論 with 加賀美ハヤト
20.magnet with 三枝明那
21.愛のけだもの with 戌亥とこ
22.花束の行方
23.ありがとう
(TEXT by 草野虹)
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