「えのぐワンマンLIVE2020」第一章レポート ルーツを振り返る怒涛のオリジナル曲熱唱に感動

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2018年のデビュー以来、ライブやバーチャル握手会&チェキ会など「現場」を中心に活動し、着実に実力と人気を高めてきたVRアイドル・えのぐ。昨年もその歩みを止めることはなく、バーチャル界を代表する正統派アイドルとしての存在感をさらに増していき、12月29日には、飛躍の一年を締めくくる「えのぐワンマンLIVE2020 -だからいま、ここにいる。-」をヒューリックホール東京で開催。ニコニコ生放送での有料同時配信も行った。

第一章と第二章の二部構成で、「えのぐ結成からの約3年間の軌跡を追憶するストーリーライブ」(えのぐ公式サイトより引用)という新たな形式で開催された2020年最後のライブ。ここでは、新曲「Present for you!」を含む全14曲が披露された第一章をレポートする。


まさかの実写映像から公演がスタート

「LIVE×ドキュメンタリードラマ」をテーマに掲げたこのライブ。最初にステージのスクリーンに映し出されたのは、えのぐの姿ではなく「2017年春」という文字。同時に、メンバーの一人である鈴木あんずさんの落ち着いたナレーションが聴こえてくる。

「2017年春、鈴木あんず、白藤環、日向奈央、夏目ハル、栗原桜子の5人は、アイドルになることを夢見て、東京都千代田区岩本町にある岩本町芸能社に入所しました」

スクリーンでは、岩本町駅の入口など実写の風景が次々と映っていき、ナレーションの声も日向奈央さん、白藤環さんと交代しながら、鈴木さんと白藤さんのアイドルデビューが決まるまでの経緯が語られていく。そして、岩本町や隣駅の秋葉原のさまざまな風景と、「デビューが決まったとき、どんな気持ちでしたか?」という文字が映る中、その質問に答える鈴木さんと、白藤さんの声。

その後は、ナレーションに夏目ハルさんも加わり、ドキュメンタリー映像が進行。2018年5月、同期の5人でVRアイドルの「えのぐ」を結成し、配信で初オリジナル曲「えのぐ」を披露するまでが語られた。

すると、ステージに現在のえのぐの4人、鈴木さん、白藤さん、日向さん、夏目さんが登場。ドキュメンタリー映像の中のお披露目配信では、バラバラの私服や制服姿だった4人は、「ステラ」と名づけられた白基調の揃いのアイドル衣装を着て、「えのぐ」を披露した。

筆者は当時の活動をリアルタイムでは知らなかったため、メンバーや「古参」のファンとは違い、このデビュー曲に対する特別な思い入れはなかったが、本人たちの言葉でデビューまでの経緯を改めて知り、4人のパフォーマンスを生で観ると、開幕からまるでライブのクライマックスのような高揚感がある。また、ミディアムテンポでソロパートも多く、個々のボーカルをしっかりと聴かせるこの曲がデビュー曲ということに、改めて驚かされた。新人ならではの勢いや明るさだけでは押し切れない曲をデビュー曲に選んだ運営サイドは、きっとメンバーの実力と可能性に大きな自信があったのだろう。

続いて、明るく青春感あふれるラブソング「ショートカットでよろしく!」のイントロが流れると、メンバーも大きく元気な声でファンをあおる。

鈴木「ヒューリックホール東京、そして、ニコニコ生放送、盛り上がってますかー?」

白藤「『えのぐワンマンLIVE2020 -だからいま、ここにいる。-』、第一章、開幕しましたー!」

日向「全力で盛り上がるぞー!」

「ショートカットでよろしく!」は、「えのぐ」の発表から約2ヵ月後の「新曲お披露目ライブ」で初披露した2曲目のオリジナル曲。開幕からの2曲を終えたところで、えのぐ「結成からの約3年間の軌跡を追憶するストーリーライブ」という説明の意味がはっきりとしてきた。


思いの込もった「はるなお」「あんたま」のデュエット曲も披露

2本目のドキュメンタリー映像では、初めて観客の前でステージに立った2018年8月の1stライブを回想。そして、夏目さんのナレーションは、その3ヵ月後の11月に1stシングル「ハートのペンキ」でメジャーデビューしたことを語る

夏目「オリジナル曲も衣装も持ってなかった頃から、私たちが言い続けてきた『世界一のVRアイドルになる』という絵空事は、この日を境に目標へと変わりました」

3曲目は、1stライブで初披露された「絵空事」。ソロパートでは各メンバーが「歌う」という域を越えて「叫ぶ」ような表現もまじえながら、ドキュメンタリーパートを観て少し落ち着いた雰囲気になった会場を一気に再加熱していく。キレのあるダンスも観ながら聴いているせいか、ライブ会場では初めて聴く「絵空事」は、何度も聴いたCD音源以上の勢いを感じた。

続いては、デュエット曲パート。日向さん&夏目さんの「はるなお」は「僕たちの青春ロード」、鈴木さん、白藤さんの“あんたま”は「君がいてくれれば」を続けて披露した。前者はメジャーデビューの1ヵ月前、後者はメジャーデビューの1ヵ月後に発表された曲で、それぞれ、当時のメンバーの思いが込められた歌詞になっている。

最初のドキュメンタリーパートでも描かれていたことだが、岩本町芸能社の「アイドル部」所属だった鈴木さん&白藤さんは、全国各地でVRアイドル体験会などを行い、デビューの条件として課せられた「Twitterフォロワー数1万人」を達成。しかし、レコード会社の意向などでメンバーを増やすことになり、同期で「女優部」に所属していた日向さん、夏目さん、栗原さんが合流。5人組アイドルのえのぐとしてデビューすることになったのだ。

「僕たちの青春ロード」の歌詞は、努力の末にアイドルデビューの権利を手にした「あんたま」と一緒に、自分たちもデビューできることになった女優部のメンバーが感じていた複雑な思いをつづった内容。初めて歌詞を読んだときに、率直すぎる内容に少し驚いたのだが、ポジティブな曲調に、日向さんと夏目さんの華のあるボーカルやダンスが重なることで、タイトル通りの前向きな青春ソングとして聴こえるのも面白い。

「君がいてくれれば」は、岩本町芸能社に入所した時から、ずっと一緒にアイドルへの道を歩んできた「あんたま」の曲。鈴木さんの白藤さんに対する思いと、白藤さんの鈴木さんに対する思いの両方が一つの歌詞に込められているバラードだ。少し離れた距離に立ち歌う2人が、「君と今」「君とじゃなかったら」などと呼びかけるフレーズのタイミングで一瞬、相手に視線を送り、サビではお互いに見つめ合い、近づきながら綺麗なハーモニーを響かせる。客席では、2人のメンバーカラーである青と赤のペンライトを片手で2本持ちしているファンも多かったが、可能なら自分も真似したいくらいだった。

再びステージに4人が揃い歌うのは「ハートのペンキ」。メジャーデビュー曲にふさわしい明るさや勢いのある曲で、ステージ上の4人のパフォーマンスも伸び伸びとしていて、ますます楽しそう。振りもここまでの曲以上に、王道アイドル的な可愛さを強調している印象だ。

続いては、さらにテンションの高い「Brand new stage」。イントロ後の短い間奏で、白藤さんが「そろそろライブも中盤! ここからさらに盛り上がっていきましょう!」とファンをあおると、新型コロナウイルス感染予防対策で声を出せない観客は、無言のままペンライトや新しいライブグッズのスティックバルーンを激しく振り、その思いをステージに届けていた。


ライブ本編ラストはメンバーやファンの絆を歌った「栞」

3度目のドキュメンタリーパートで描かれたのは、2019年4月の結成一周年記念ライブの直前に夏目さん、栗原さんの活動休止が相次いで発表されたことと、同年8月の世界最大規模の女性アイドルフェス「TOKYO IDOL FESTIVAL」にバーチャル勢としては初めて出演できたことという両極端なエピソードだった。

ライブパートは、「YeLL for Dear」からスタート。えのぐにとって結成以来最大の危機だった3人での一周年記念ライブで初披露された曲であり、王道の応援ソング。聴く側だけでなく歌う側にも力をくれる曲なのか、曲の進行とともに4人のテンションもどんどん高まっているようだった。また、「やる気、元気、たまき!」というキャッチフレーズがぴったりなムードメーカーで、普段の声からエールのような白藤さんの歌声は、この曲にぴったり。ソロパートはもちろん、4人のユニゾンの中でも一際強く元気に響いていた。

「YeLL for Dear」の後は、鈴木さんと夏目さんの先導により客席でウェーブ。突然の展開にもかかわらず、鍛えられたえのぐみ(ファンの愛称)たちは、しっかりと付いていく。

鈴木「ありがとうございます! 皆さんのおかげで、この会場が夏になりました!」

日向「それじゃあ、この曲、いきましょう! せーの!」

えのぐ「常夏パーティータイム!」

2019年の「TOKYO IDOL FESTIVAL」で初披露した際、えのぐのことを知らないはずの他のアイドルのファンたちも一緒にタオルを回したという熱い曲が始まると、当然、客席のあちこちでタオルがグルグル回りだす。一番のBメロで綺麗に挟みこんできた夏目さんの「2020年、最高のライブで締めくくろー!」というあおりも、さらに会場の熱を高める。おそらく、ここまでに歌った10曲の中で最大の運動量を消費したタオル曲を歌い終えると、順番に自己紹介。この日、初めてのMCパートが始まった。

MCでは、なぜこのライブが、「映像」「インタビュー」「パフォーマンス」を織りまぜたストーリーライブという斬新なスタイルで開催されたのかという理由を鈴木さんが説明。

鈴木「私たちえのぐの音楽って、楽曲を発表した時の私たちの状況とか環境とか、そういう周りの影響もすごく受けてると思っているのね。だから、同じ曲でも歌う時期とかステージによって感じ方が全然違うと思っていて。2020年っていう1stアルバムをリリースした節目の年に、改めてそれぞれの曲について、当時、私たちがどんな状況で、どんな気持ちで歌っていたのかをえのぐの歴史と一緒に皆さんに知って欲しいなと思いました。当時の私たちの気持ちを知ってもらえたら、もっと今以上にライブを楽しんでもらえると思うし、アルバムを聴くときも私たちの顔とか姿とかをよりはっきりとくっきりと思い浮かべてもらえるのかなと思うし。そうしたら、私たちえのぐは音楽を通して、聴いて下さる皆さんに、もっともっと寄りそうことができるのかなと思って、こういう特別なライブをすることに決めました」(中略箇所あり)

言葉を探す時、なぜか右手をグルグル回す鈴木さんが可愛らしい。また、鈴木さんが話している間も他の3人は、鈴木さんの言葉に頷いたり、ファンに手を振ったり、モデルのような決めポーズを次々取ったりと大忙しだった。続いて、白藤さんも熱い思いを叫ぶように語り出す。

白藤「私たちえのぐは、私たちの音楽とともに、日々成長しています。でも、それは支えてくれる皆さんがいるから。皆さんに私たちの成長を見届けて欲しいからです。もっともっと成長して、大きなステージに立つ私たちを観て欲しい! 心からそう思っています。今この瞬間、私たちと皆さんがここにいるのは偶然ではありません。何かを選んだから、望んだからこの場所で出会うことができました! すべての出会いに感謝を込めて! 『えのぐワンマンLIVE2020 -だからいま、ここにいる。-』、ラストはこの曲です! えのぐで『栞』!」

白藤さんの言葉とも重なる内容の歌詞で、えのぐのメンバーとファンを含めた絆を描いたこの曲は、激動の2019年、最後に発表した曲。歌詞が持つ意味合いのせいか、4人の熱いパフォーマンスに引っ張られて会場が盛り上がっているというより、客席とえのぐが一緒に熱くなっているような感覚だった。本来ならば会場の全員が声を揃えるはずの「wow wow」というコールの部分でも、ファンはペンライトやスティックバルーンを振ることしかできなかったが、4人の全力のパフォーマンスはその淋しさを微塵も感じさせない。会場の一体感は、この日のピークに達した。


アンコールは、初披露の新曲とライブアレンジ曲の全4曲

「以上、VRアイドルえのぐでした!」という言葉を残して4人がステージを去ると、アンコールを求める拍手がすぐに自然発生。バラバラだったリズムも揃っていく。

その声に応えてステージに戻ってきた4人は、全員ハイテンション。この第一章の中で描かれた、岩本町芸能社入所から2019年までの出来事の中で、特に思い出深いエピソードを一人ずつ語っていった。

日向さんは、3人でステージに立った一周年記念ライブを挙げて、「すごい大変だったし、本当に辛かったけれど、今となってはすごく良い経験だなって思うし、えのぐというグループの一つのターニングポイントだったんじゃないかな」と語ると、白藤さんも「『自分たちはプロのアイドルなんだ』って自信を持って言えるようになったのは、あのタイミングからだったかも」と同意。

すると、休養中のため、そのライブを客席側から観ていた夏目さんが「すごかった。(えのぐを)守ってくれて、ありがとう」とお礼。隣に立つ鈴木さんは「そんなこと言わないで」とばかりに夏目さんに近付きながら首や手をブンブンと振り、白藤さんは「止めて! 泣かせに来ないで!」と絶叫。日向さんも「すぐ泣かせに来るんだから!」とツッコミを入れ、夏目さんが「ごめん、ごめん」と笑いながら謝る。本来は、感動的なやり取りになるはずが、笑いを生んでしまうところからも、4人の絆を感じた。

MCの後は、えのぐの4人から少し遅れたクリスマスプレゼント。会場での撮影が解禁され、新曲「Present for you!」も初披露された。白藤さんの演じる幼い女の子と、鈴木さん演じるお母さんの会話から始まる曲で、白藤さんの明るく元気な子供は普段のイメージ通りだが、鈴木さんの少し大人な「お母さんボイス」には新たな魅力を感じる。短いセリフではあるが、ライブとは別に、声優などの芝居の方面で活躍する姿ももっと見たいと思わせるほどだった。

えのぐ初の冬曲は、歌声もダンスも跳ねるように軽快で可愛く楽しい曲。今後は、季節を問わず、さまざまなライブで盛り上げ曲として歌われていくことになりそうだ。

新曲の後は、既存曲「ショートカットでよろしく!」「ハートのペンキ」「Yell for Dear」のライブアレンジバージョンを3連発。特に、ロックアレンジバージョンの「ハートのペンキ」は曲調の変化が大きく、イントロから強いドラムが鳴り響く、激しいアップテンポな曲に。間奏では、白藤さんが「お前ら、ちゃんと付いてこーい!」と叫び、途中でメンバー全員がヘドバンするほどに熱い曲となった。

最後の「Yell for Dear」も熱い曲へとアレンジ。オリジナル版が優しくエールを送ってくれる曲だとしたら、アレンジ版は背中をバンバンと力強く叩きながら、励ましてくれるような印象。大サビでも、喉が少し心配になるほどシャウト気味な歌声を放つ。ラストを締めるのは、やはりえのぐの大黒柱である鈴木さん。

鈴木「来年も再来年もその先もずっと!」

えのぐ「えのぐについてこい!」

グループの歴史と歩みを合わせながら、ほぼ曲の発表順にライブパフォーマンスを観ていくという新鮮なエンターテインメントだった「えのぐワンマンLIVE2020 -だからいま、ここにいる。-」第一章。過去に思いを馳せてしまいがちな構成のライブのアンコールに、新曲と既存曲のアレンジバージョンを持ってくるというセットリストには唸らされた。

合間合間にドキュメンタリーパートが挟まる度、客席の熱気はどうしてもリセット気味になってしまうのだが、ライブパートが始まると必ず1曲目から会場のテンションを最高潮まで引き上げる4人のパフォーマンスは素晴らしい。声もダンスも、最後の最後まで、まったく疲れを感じさせなかった。

第一章でライブの構造を把握したことにより、夜の第二章のセットリストはほぼ予想できたのだが、それを残念とはまったく感じず、期待感がより高まった。その第二章の模様は、別途レポートしたい。

●セットリスト
M1. えのぐ
M2. ショートカットでよろしく!
M3. 絵空事
M4. 僕たちの青春ロード
M5. 君がいてくれれば
M6. ハートのペンキ
M7. Brand new stage
M8. Yell for Dear
M9. 常夏パーティータイム
M10. 栞
EC1. Present for you!
EC2. ショートカットでよろしく!
EC3. ハートのペンキ
EC4. Yell for Dear

●配信情報
ニコニコ生法送にて有料アーカイブ配信中。
・配信チケット販売期間 2020年11月30日10時00分~2021年1月27日23時59分
*2021年1月28日23時59分までタイムシフト視聴が可能。
・第一章・第二章チケット料金 3800ニコニコポイント(3800円、税込)
・第一章・第二章通しチケット料金 7000ニコニコポイント(7000円、税込)

●関連リンク
配信チケット販売ページ
岩本町芸能事社HP
えのぐ(Twitter)