完成された世界観に息を呑む VRChatアバター劇場「テアトロ・ガットネーロ」観劇レポート

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3Dモデル・アバターの制作販売・オーダーメイドなどを専門とする「黒猫洋品店」は6月14日、VRChat上にて第2回目となるアバター劇場「テアトロ・ガットネーロ」を公演した。

「テアトロ・ガットネーロ」は、アクターによるステージパフォーマンスの観覧やアバターの試着ができる劇場型イベント。4月15日に初回公演した際には数秒で人数上限に達するなど、VRChatユーザーの間でたちまち話題となり、同月25日に再演、そして今回の第2回開催となった人気イベントだ。

アバターの宣伝を目的としており、宣伝アバターを用いたアクターによるステージパフォーマンスと、試着用アバターを自由に着られる試着会の2部構成となっている。

ステージパフォーマンスには、今年3月に行われた世界最大級のクリエイティブの祭典「SXSW」(サイス・バイ・サウス・ウェスト)のアバター・ダンスコンテスト部門で優勝を果たし、話題となったVRダンサーのyoikamiさん(Twitter)が団長を務める「『カソウ』舞踏団」のメンバーがモーションアクターとして出演。会場デザインは、イラストレーターのかんにゃさん(Twitter)が、イベント制作はVRイベンターのろれるさん(Twitter)が担当するなど、プロフェッショナルのクオリティーだ。

第1回公演は再演ともに即満員となってしまい観劇がかなわず、第2回にしてようやく足を運べた筆者。正直、期待しすぎているのではないかという不安もあったが、いざ体験してみると、つい見入ってしまう場面、感嘆の声を自然と上げてしまう場面、文字通り息を呑む場面の連続。感想をひと言で表せば、「ただただ圧倒された」だった。

今回の会場の様子は、「黒猫洋品店」の公式YouTubeチャンネルからも確認できるほか、6月21日には、同じ内容で再公演も行われる。このイベントの良さをフルに味わうためにも、ぜひVRゴーグルを通して「生で」体感してほしい。それでは、この観劇体験をレポートしていこう。

世界観に引き込まれる 作り込まれた劇場ワールド

まず、驚くのは細部まで作り込まれた会場となる劇場ワールドだ。「テアトロ・ガットネーロ」のために、かんにゃさんがコンセプトアートを担当し、「黒猫洋品店」でワールド制作をしたという。

劇場はサーカスのテントのような構造になっており、会場中央には円型のステージが設置されている。室内の色味は赤や黒を基調としており、ヨーロッパの劇場を思わせるシックで高級感のある雰囲気。入場と同時に、一気に「劇場に来たんだ」と気が引き締まり、見る側ですら緊張してしまうほどにクオリティーが高い。公演前後にこうしたワールドの細部を眺められるところにも、VRで参加する意義は大きい。

ワールドBGMおよびテーマ曲は、サウンドクリエイターのAtreeさん(Twitter)が担当し、パフォーマンス用BGMは、AmbientflowKuさん(Twitter)の楽曲を中心に使用している。開演までの間に流れるAtreeさんのワールドBGMにはクラシック音楽のような荘厳な雰囲気があり、心を落ち着けてくれると同時に「これからすごいものが見られるんだ」という期待感を煽る。

アバターに命が吹き込まれる 「カソウ」舞踏団の演劇

演劇は前後2部に分かれていた。前半は、(くじ)さん制作の3Dアバター「Cygnet – シグネット」「Mir – ミール」による無言劇。後半は、生朗(なまろう)さん制作の男性アバター「SIVA」「梵」(SOYOGI)によるダンスバトルだ。

演目の台本や演出は、「カソウ」舞踏団団長のyoikamiさんによるトータルプロデュースとのこと。同じく「カソウ」舞踏団メンバーのtarakoさん(Twitter)、e-sukeさん(Twitter)とともに3名でステージに立つ。後日談になるが、yoikamiさんによると、練習はe-sukeさん、tarakoさんともに涙を流すほど厳しく、時には朝まで続くこともあったという。その労苦に加え、当日は緊張のあまり食事がのどを通らなかったり、手の震えでコントローラーの操作がおぼつかなくなったりしていたことが明かされた。このステージに懸ける彼らの熱意が伝わってくるエピソードだ。

実際に演じられたパフォーマンスは、本当に素晴らしいものだった。リップシンクや指の動きなど細かい所作まで洗練されており、無言ながらステージを降りて語りかけてくる場面では、強く訴えてくるものを感じた。

暗転したのち披露されたピアノの連弾にも、自然と感嘆の声が上がる。2人ともしっかり指の動きまで再現がされており、現実に弾いているかのように思わせる。特にミールちゃんは、感情をたっぷり込める演奏スタイルで、つい見入ってしまう。

そして、「それでは、2人が抱える真実。少しばかり近づいてみましょう」という司会の声の後に見せられたのは、マリオネット・ダンス。本当の人形のように脱力する姿や、操る側と操られる側の連携の取れた動きに、存在しないはずの操り糸が目に見えるようだった。曲が盛り上がるにつれ、動きが激しくなる。ぐるぐると回転する場面などは、これがVRゴーグルやトラッカーを全身に付けた人の動きなのかと驚くばかりだ。

第2部となる「SIVA」と「梵」によるダンスバトルは、先ほどとは雰囲気が一転し、会場からは興奮混じりの黄色い声援が聞こえてくる。「VRChat」は、KAWAII系の女性アバターが販売・利用ともに多く、こうしたイケメンアバターはまだまだ珍しいところがあるため、高身長な男性アバターによるダンスバトルは目新しく映った。

筋肉質な「SIVA」と、スレンダーでインテリ風な「梵」それぞれに良さがある。また、2人とも手足がすらりと長いため、ダンスが非常に映える。観客投票の際には毎度、どちらを支持するか悩む声が聞こえてきた。

上裸の「SIVA」とサイバースーツの「梵」そして、2人のスーツ姿と2回ずつ計4曲のダンスパフォーマンスが見られた。それぞれのパフォーマンスで魅せる表情が異なる。例えば、「SIVA」は上裸だと、筋肉がより強調され、腕や背中に彫られたタトゥーも相まって、非常にワイルドな印象だが、スーツ姿になると浮き出る筋肉でワイルドさを残しつつ、しなやかな動きでエレガントさを加えることもできるなど、パフォーマンスがアバターの魅力を最大限に引き出し、ユーザーとしても「こういう雰囲気も出せるのか」ととても参考になる。

前半はストーリー、後半は動きと、それぞれアバターの魅力を最大限に引き出したパフォーマンスだ。アバターに「命が吹き込まれる」様子を目の当たりにすることで、「自分も着てみたい」と思わせる。後に続く試着会へのうまい導線だ。ここに、「テアトロ・ガットネーロ」最大の特徴である「アバターの新しい宣伝」を見て取ることができる。

公演の後は試着会 「魂」に合うアバターを探す

これはソーシャルVR利用者には共感してもらえる感覚だと思うが、アバターの選択においては「魂との相性」や「着心地」が非常に重要になる。仮想空間上の自分自身の姿、アイデンティティーとなるものだし、手元や鏡などで自分自身の姿を見る機会も多い。着ているアバターを「自身の姿である」と実感できるかどうかが、没入感にも影響を及ぼすのは間違いない。

この「着心地」には、もちろん見た目の影響も大きいが、それ以上に精神的な部分が影響を及ぼすというのが筆者の実感だ。精神的な部分とは、つまり「思い入れ」や「愛着」である。

「テアトロ・ガットネーロ」は、この「思い入れ」や「愛着」を、アクターによるステージパフォーマンスを通して、実際に試着する前に観覧者の心に醸成させようとしている点が、とてもユニークだと感じた。

今回、演目の前には、主催である「黒猫洋品店」のうぃりあむさんより、新作の着せ替え用素体「ヴァニーユ」の紹介も行われた。可憐で華奢で、お人形さんのような可愛らしさがあるアバターで、特に瞳が美しい。前回の第1回公演においてフィーチャーされた「桜クロイニャン」Booth)も今後共通の素体へアップデートされる予定で、「黒猫洋品店」が展開していく衣装の基本となる素体第1弾だ。

これに加え、演目に登場した久さんの「Cygnet – シグネット」と「Mir – ミール」、生朗さんの「SIVA」と「梵」で計5体が今回紹介されたアバターだ。

●各販売ページ
「ヴァニーユ」素体/黒猫洋品店(Booth)
「ヴァニーユ」対応ポワシエールドレス/黒猫洋品店(Booth)
「Cygnet – シグネット」/久(Booth)
「Mir – ミール」/久(Booth)
「SIVA」「梵」セット販売 ※6月30日まで/生朗(Booth)
「SIVA」単体/生朗(Booth)
「梵」単体/生朗(Booth)

「Cygnet – シグネット」に関しては、筆者も本公演前から知っているアバターだったのだが、演劇を見る前と見た後では、魅力が違って見えてくる。アバターの多くは「Booth」にて販売されているのだが、「Booth」で眺めるのと、演劇を見て、さらに実際に試着するのとでは体験がまったく異なる。

試着会まで含めると、トータルで約2時間のイベントとなった。試着会では、アクターの「カソウ」舞踏団の方々もいつもの姿に戻り、ステージを降りて観客と歓談をする。講演後すぐに関係者にステージの裏話なども聞くことができる、こうしたフラットな距離感も「VRChat」の良さの1つだ。

「テアトロ・ガットネーロ」には、「VRChatにちっちゃい経済を作りたい」という目標があるということを、「黒猫洋品店」のうぃりあむさんは以前ブログで語っていた(参考ブログ)。イベント自体は無料で見れるものの、「黒猫洋品店」はアバターの宣伝費を受け取っており、出演者・関係者にもきちんと報酬が支払われ、宣伝されたアバターが売れることで、またしっかりとお金が回る。お金が回るからこそ、そこにプロとしての矜持が生まれ、クオリティーが担保される。まさに、VRエンタメのあるべき姿が提示されているイベントと言えるだろう。

この第2回公演は、6月21日に再演されるほか、今後も第3回、4回と「テアトロ・ガットネーロ」は続いていく予定だ。今後、こうした取り組みが広がっていき、ソーシャルVRが生活圏へと進化していく未来が楽しみだ。そして、何よりこの素晴らしい体験を、さらに多くの人に「生で」感じてほしい。

(TEXT by アシュトン

●関連リンク
「黒猫洋品店」(公式サイト)
「黒猫洋品店」(Twitter)