HEROESは18日、アバターの姿で1対1で会話できるスマートフォンアプリ「AvaTalk」のiOS版を公開した。対応機種はiPhone 6s以上。価格は無料で、ダウンロードはこちら。
スマホでアバターで話せるアプリというと、IRIAMやREALITY、SHOWROOM V、Mirrativのエモモなどライブ配信向けのものがあるが、AvaTalkはLINEやカカオトークなどの延長にある会話に振っているのが新しい。HEROESが東京・中野にあるアバター店員が接客する店舗「AVASTAND by AvaTalk」にてプレス向けの説明会を開催したので、詳細をまとめていこう。
現在は完全無料でトーク可能
AvaTalkでは、髪型、目、鼻、口、服など、カラーバリエーションも含めて約550のパターンから好きなものを組み合わせて自分のアバターを作成。検索機能で話したい他のアバターを探して、無料ポイントの「ギフト」を消費して会話できる。会話時は、まばたきや口パク、首の傾きといった顔の動きをスマホの前面カメラでリアルタイムに取得してアバターに反映できる。手を振ったり、サムズアップなどの特定の表現は、ボタンを押して指示が可能だ。会話をはずませるための写真投稿や、安心して使えるように通報やブロックの機能も備えている。
ギフトの仕組みがユニークで、自分と話すためにギフトをもらう設定だけでなく、あげる設定にも変更可能だ。つまり、ギフトを配ってでもどんどん話しかけてきてほしいというニーズにもこたえてくれる。ギフトのレートも0〜300で設定できるので、人気が出てきたらレートを上げて制限することもできる。現状ギフトは24時間ごとに自動チャージされるので、完全無料で利用可能。アプリ内課金もないが、今後追加する可能性がある。
メリットとしては、PCやモーションキャプチャー機器を用意せず、iPhone1台だけあればOKという点。また、LINEやSkype、Discordなどのビデオチャットとは異なり、アバターが1枚挟まるので、例えば寝転がった状態でも、女性なら化粧しなくても気軽に会話を始められるのも魅力だ。
アバターだからできる質の高いコミュニケーション
AvaTalkは、開発を担当するUsideUとの協業で、もともとは2018年10月にリリースしたPC向けβ版がルーツになる。その後、2019年4月にこのPC版を利用し、AVASTANDの店舗をオープン。「相手がアバターだと話しやすい」「自分もアバターになりたい」という声を受け、アバターを使った対話がますます身近になることを想定してiOS版のリリースに至った。
HEROESの代表、高﨑裕喜氏によれば、AVASTANDは、実証実験とAvaTalkのショールームを兼ねたような場所としてスタートしたとのこと。アバター店員は全員が遠隔で出勤しており、現在では年齢で19〜70歳(!)、性別では男性が10人、女性が30人以上が働いている。お酒やおつまみはアバター店員が出せないため、高﨑さんか店長代理の方が裏にいて、注文が入ったらリアルで出てくるというのも面白い。
場所が中野ブロードウェイの右側、飲み屋街のど真ん中にあるため、人通りが多く縦に置かれた巨大モニターも人目を引きやすい。客層はカップルが一番で、1人での来店は意外にも女性のほうが多いという。恋愛相談のような悩みを抱えて、誰にも打ち明けられない。しかし、誰かに話してモヤモヤを解消したい──。アバターの見た目なら人間よりも話しやすいのか、心を許して相談に乗ってもらい涙を流していたという方もこの半年で3人ほどいたそうだ。
アバター店員になりたいという人も多く、6月にアルバイトを募集したところ、短期間で150人も集まってしまい選考が大変だったという。店舗でお客さんとして来て魅了されて、自分もアバターになりたいという声も多く、実際、店長代理ももともとお客さんだった。
今回、店頭でAvaTalkの説明を担当してくれた「てんま」さんは大阪出身で、HEROESより支給されたPCを持ち運んで好きな場所で働いている。アバターの魅力について聞いたところ、「アバターの姿でも普通に1個体として認めてくれて、普段まったく喋らないような年齢高い方や経営者と敬語を使わずに気軽に話せるのがいい」と語ってくれた。
「今は年配の方も若い方も一人で住んでいて、とにかく誰かとしゃべりたいという人が増えている。アバターでも誰かとしゃべると元気になるよね、という声も出ている。AvaTalkはVTuberのような華やかな方向性ではなく、何気ない会話をサクサク始められられるアプリ」(高﨑氏)
そうした話したいニーズを受けて、PCより手軽に使えるスマホ版のAvaTalkが生まれていった。ちなみに、Android版も1月にリリース予定だ。
ダイレクトECにも挑戦
さらに興味深かったのが、このアバターの仕組みを使った様々な「働き方改革」の展開だ。
例えば、AVASTANDでは、高知在住の漁師の方がアバター店員となって自分で獲った魚を送ってもらい、店頭で売るという取り組みを行っている。また学校とも連携し、農業科の生徒たちが自分たちで生産した農作物をアバター店員として販売し、実際に消費者の声を聞くという取り組みも今年度中に行う。
生産者の方にとって、自分の素ではないアバターの姿なので緊張もしにくく、目も引くというメリットがあるだろう。そしてこのダイレクトECの流れは、スマホのAvaTalkにも持っていけるだろう。
HEROESが「Health care(健康医療)」「Education(教育)」「Recipe(食&処方)」を軸にしていることもあり、特別養護老人ホームとも新しい取り組みを始めた。「コミュニケーションは人を元気にする」という考えを元に、ホームの各フロアに1台ずつPCを置いて話せる状態を整えた。ちなみに、AVASTANDの70歳のアバター店員さんも年金生活している方だという。
アバターというと、VTuberのようにタレントを目指す方向性が注目されがちだが、人類の大半が他人を魅了できるトークスキルや芸を持っているわけではない。VRChatやバーチャルキャストのように、リアルタイムモーションキャプチャーの生々しい動きで、かつ匿名でのコミュニケーションを楽しみたいというニーズも多そうだ。今後、コミュニケーションやビジネスの文脈でアバター活用がどう進化していくのか、AvaTalkを使いつつぜひチェックしておこう。
(TEXT by Minoru Hirota)
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