サンリオVRフェスレポート 共鳴する音楽フェスカルチャーとメタバース

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12月11・12日の2日間にわたって開催された「SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」(以下、サンリオVRフェス)を体験してきた。音楽フェスカルチャーの潮流を一段階押し上げるような、未来と可能性に満ちたイベントだったと心から思う。2日間観て回った本イベントを音楽フェスやVRカルチャーの観点からレポートしていきたい。

はじめに。
11月18日に公開した事前レポート記事でアーカイブがあると書いてしまいましたが、それは私の勘違いでした。12月6日の時点で訂正を行いましたが、それによりご迷惑をおかけしましたことをお詫びいたします。

音楽フェスカルチャーの新潮流の可能性

サンリオVRフェス B2エリアで演奏するパソコン音楽クラブ 

リアルの場で活動するアーティストや、VR上で活動するVTuberやクリエイターなどがサンリオをハブにしてひとつのフェスに出演するという、これまでのVRイベントをアップデートするような新しいカルチャーの産声が上がる瞬間にも思えた。

1960年代の終わりごろ、ロックバンドが野外に集まり若者を何十万人も集めたことで始まった音楽フェス。時代の移り変わりとともに商業的なポップミュージックの祭典の色合いが強くなったり、2010年代以降はエレクトロミュージックが若者の人気を掴んでロックに代わりフェスティバルカルチャーの主流となるなど、時代を反映しながら連綿と続いている。

ジャスティンビーバーのVRライブ

その流れの中で、世界的なパンデミックを受けて多人数が集まれる場としてのVR/メタバースが注目されるようになり、2020年から2021年にかけて世界中でVRライブイベントやメタバースイベントが開催されてきた。

リアルの場で人が集まれなくなって2年の月日が経とうとしている中で開催されたサンリオVRフェスは、現実の代替としてのVRではなく、音楽フェスカルチャーの新しい潮流としての希望を感じさせるようなイベントだったと言える。

メタバース時代のライブイベントを存分に楽しめる

今回のサンリオVRフェスは、VRChat会場、DOOR会場、SPWN配信の3つの環境で参加可能だったが、一番リッチな体験となるのは、やはりVRゴーグルを被って体験するVRChat会場だ。

ライブが始まる前のDOOR会場の様子

DOOR会場もVRChat会場とほぼ同等のワールドが作られていた。DOOR会場はデスクトップやスマートフォンからも体験可能な軽量プラットフォームであり、ライブ自体は巨大スクリーンに映る中継映像を観る形式になっていた。

VRChat会場でのライブは、指定インスタンスか、誰でも参加可能な自由インスタンスに行くことが可能だ。ライブに対する気分で行くインスタンスを分けられるのは、VRの大きな利点だと思う。

指定インスタンスでじっくり鑑賞(まりジェム)

指定インスタンスはチケット購入時にインスタンスが自動で割り振られており、ほどよい人数で観られるので、じっくり観たいライブに向いている。

自由インスタンスでライブの活気を楽しむ(ミライアカリ)

一方の自由インスタンスは、有料のチケットを購入した方は誰でも入れるので、多くの人が集まる。サンリオの世界観にマッチしたデフォルメアバターのモチポリがところ狭しと集まっているさまは愛くるしい。

前のほうにはおそらくフルトラ(別売りのモーショントラッカーを腰・足に装着することでより自由にアバターを動かす技術のこと)で、モチポリのまま激しく踊っている方もいて、ライブイベントらしさを感じた。

また、多くのネームプレートの中からフレンドユーザーであることを表す黄色いネームプレートを見つけた時は、さながら人込みの中で知人を発見した時の感覚を思い起こさせ、リアルのフェスと似た体験を得られた(これは筆者のフレンドが100人に満たないために感じたことかもしれない)。こうした部分では、リアルのフェスの楽しさと似た体験を得られると感じた。

リアルで活動するアーティストにemojiを投げる(DÉ DÉ MOUSE)

VRらしいコミュニケーションのひとつに、emojiもあると思っている。VRライブでは基本的にミュート状態で楽しむユーザーが多くあまり歓声が挙がらないといことが多いが、エモートを出し合うことで場を視覚的に盛り上げるという、VRカルチャーらしい盛り上がり方だと思う。

リアルで活動しているアーティストが実像をVR空間に投影している様子はまるでMRライブのようであり、バーチャルな存在となったアーティストにemojiを投げられるのは、インスタライブで絵文字を送るような感覚もあった。

同じステージで演奏するMashumairesh!!
異なるステージに分かれて演奏するMashumairesh!!

このほか、瞬時にステージが切り替わるのもVRならではのライブ体験だった。複数のステージがあるB3エリアでは、いくつかのアーティストが楽曲ごとに登場ステージを変える演出があったのが楽しめた。

ここからは、全公演の中から抜粋してライブの様子をお届けしたい。

バーチャルYouTuberキヌの圧巻のライブ

圧倒的な存在感を放つキヌ

まずは、 フェスを象徴するようなパフォーマンスで多くの観客の度肝を抜いた、ひと際の存在感を放っていたキヌのライブを紹介したい。パーティクルやシェーダーを駆使した表現力や、語りかけるテーマ性のキャッチ―さはバーチャルYouTuber随一の存在と言える。

キヌ「コネクト」

「いつかリアルもバーチャルもなくなって、壁があったことだって忘れてしまいそうだけど」と、フィジカルな現実を生きる人間もVRの中に存在するVTuberも、いずれあらゆる垣根を超える未来に向けて「接続」を試みるような真に迫った声で我々に語り掛ける。

VR空間がRGBに分解される
モノクロになったVR空間

「つながった」とキヌが言葉にした瞬間、オブジェクトの輪郭がずれ、視界がRGBから白黒へと分解されていく。今自分が存在しているのは内側か、外側か。すべてを曖昧にする演出は、キヌの魂の叫びに感じられた。

丸や四角のパーティクルが楽器を形作る
上部に活字のレイヤーが出現
下部から上部へ、湧き上がるように流れ込むオブジェクトは感情だろうか

続けて、キヌが現れ四角や丸といったプリミティブな形状のVR上の楽器を出現させると、2曲目の「voices」に突入。どこか懐かしくなるような原始的なボーカルが響き、キヌの上部に活字のレイヤーが広がる。そこに足元から多数のオブジェクトがとめどない感情が流れ込むようにして、ビートに合わせて立ち上っていく。人とつながりたい、声を届けたいという原始的 (=プリミティブ) な感情がプリミティブな形状として表現されているのではないかと感じた。

拡声器が出現
活字のレイヤーに入り込む観客

そのまま丸や四角のパーティクルが拡声器を形づくると、代表曲のひとつである「バーチャルYouTuberのいのち」のパフォーマンスが始まった。

代表曲のひとつ「バーチャルYouTuberのいのち」

キヌの上部に存在した活字レイヤーの中に入り込んだ我々に「あなたは“それ”を知っている」と言った瞬間、視界はふたたびステージに戻っており、さきほどの拡声器を手にし、羽を生やしたキヌが目の前にいる。

「バーチャルYouTuberのいのち」 パーティクルライブ
「バーチャルYouTuberのいのち」 パーティクルライブ
「バーチャルYouTuberのいのち」 パーティクルライブ

悲痛なまでのあふれる感情が言葉となり、パーティクルとして目の前に立ち現れるさまはまさに怒涛。この圧倒的なパフォーマンスを前に涙する者も多くいた。

キヌのライブはイベント開催の2日両日、無料エリアのB4「Chill Park」で行われた。ほかのアーティストはB5のDJパフォーマンスのエリアを除き、2日連続で行なわれたライブはない。このことから、サンリオがキヌのパフォーマンスに並々ならぬ希望を感じているのだと思わずにいられなかった。

キヌは今回パフォーマンスしたうちの2曲目にあたる「0b4k3 – voices feat. kinu」を今後リリースするとのことなので、こちらも要チェックだ。

サンリオ空間を歪ませた長谷川白紙の存在感

長谷川白紙のライブパフォーマンス

サンリオVRフェスはリアルで活動するミュージシャンも出演していたことが大きな特徴でもあった。中でもポーター・ロビンソンが主催するオンラインフェス「Secret Sky.」にも出演していた長谷川白紙のパフォーマンスは、リアルとバーチャル両方のカルチャーの接近を感じさせるものだった。

長谷川白紙のライブパフォーマンス

顔や姿があいまいに見え隠れするパフォーマンスはVRでも健在。むしろ演出としてはVR表現との相性が良く、身体にグリッチエフェクトをかけたりする様子は、VRらしい可能性とサンリオピューロランドの地下2階という場所とのコントラストがユニークだ。

長谷川白紙のライブパフォーマンス

演奏の最後は暗転した会場にたゆたう光の粒のように消える様子は美しく、VRライブ演出としても興味深いものになっていた。

2日目のタイムテーブルは20時からB2で長谷川白紙、続けて20時30分からB4でキヌと、かなり尖ったブッキングになっていたのは、主催者側の何らかの意図を感じさせる。

初音ミクとピノキオピーの出会い、キズナアイの感情

同じステージに立つ初音ミクとピノキオピー

初音ミクとピノキオピーのコラボレーションも印象的だった。

ボカロPとしてキャリアを歩み始めたピノキオピーと、初音ミク自身が同じステージに立つ姿は、現在のVTuberカルチャーがニコニコ動画やボカロカルチャーから地続きのものであることを裏付けるような、エモーショナルな瞬間だと感じた。

大勢のモチポリの前に立つキズナアイ

そして、全公演の最後を締めくくったヘッドライナー的存在のキズナアイ。

先日、22年2月のライブを最後に無期限の活動休止に入ることを発表したばかりとあってか、すぐに自由インスタンスは埋まっていった。特に第1インスタンスは開始5分前には入れなくなっていた。

すべての瞬間がかわいいキズナアイ

ほかの演者と比べるとアンミュートの観客が多く、始終「かわいい」と叫ぶ方や、コールアンドレスポンスが盛り上がったのが印象的だった。

「またね」と語りかけるキズナアイ

最後に「Again」を歌い終わると、まわりからため息が漏れてきた。その場に居合わせた誰もが歌詞に込められた感情を感じずにはいられなくなる、そんなステージだった。

VR音楽カルチャーの最深部「ALT3」

VRフェスの最深部 「ALT3」

参加アーティストが発表された当時から注目されていたのは、とりわけVR音楽カルチャーで人気のアーティストやクリエイターが数多く選ばれていたことだ。中でもB5エリア自体のディレクションを、GHOST CLUBの0b4k3が担当することはセンセーショナルな出来事だった。

ALT3

B5「ALT3」はVRChat上のクラブとして絶大の支持を得るGHOST CLUB同様に、無料エリアではあるものの必ずしも入れるとは言えず、インスタンスからあぶれてしまったらVRChatの仕様上誰もいないインスタンスに飛ばされてしまうなど、体験するハードルは高い。

ALT3

しかし、そんなALT3をあえて無料エリアとして公開しているところに、サンリオがVRに感じる可能性として、キヌのパフォーマンスと同様に並々ならぬものを感じているのではないだろうか。

2回目以降の開催も期待したい

終わってみるとあっという間だった。
今回は行けなかった、あるいはPCVRの環境が整っていなかった方もこの世界観を楽しめるように、2回、3回と長く続いてほしいと心から思える2日間だった。ここには書き切れていない中にも素晴らしいライブパフォーマンスがたくさんあり、VR音楽フェスのカルチャーをここから発信していくのだというサンリオの想いや、呼応したクリエイターの情熱を強く感じた。

以下に、公式Twitterアカウントが公開したスタッフロールを掲載しておく。これだけ多くの方々によって開催されたイベントであることを再認識でき「ものすごい体験をした」と、改めて感動してしまった。

なお、12月19日までサンリオVRフェスの会場が期間限定でオープンされるようなので、数多のクリエイターによって制作されたワールドの作り込みを楽しむのもおすすめだ。

(TEXT by ササニシキ

●関連リンク
「 SANRIO Virtual Fes in Sanrio Puroland」公式サイト