香港のARPARA GLOBAL TECHNOLOGY社が発表した「arpara VRヘッドセット」は、5Kという高解像度とマイクロOLED(有機EL)を搭載し、380gという軽量さが特徴のVRヘッドセットだ。「Kickstarter」にて先行販売を開始したところ、24時間で目標金額の800%を達成しており、「軽さと高画質」を両立したその性能に注目が集まっている。しかし、日本には詳しい情報がなかなか入ってきていないのが実情であり、気になってはいるものの手を出していいか迷っている方も多いはずだ。
今回PANORAでは、「arpara VRヘッドセット」の体験会を取材した。以下では、ヘッドセットの詳細な情報と、実際に体験してみてわかったヘッドセットの特徴を紹介していく。
3種類のラインナップ
体験会ではまず最初に、 ARPARA GLOBAL TECHNOLOGY. LIMITED本社の担当者による製品説明が行われた。あらためて説明されたのは、「arparaVRヘッドセット」には仕様が異なる3種類のラインナップが存在すること。いずれのモデルも、以下の仕様は共通しているとのことだ。
- 解像度:5120×2560(両眼)、5K
- スクリーン:マイクロOLED(有機EL)
- PPI:3541 PPI
- 視野角:95度
いずれのモデルも、5KかつOLEDによる高画質と本体の軽さを実現しているものの、視野角は95度と平均的だ。担当者によれば、arparaVRヘッドセットは軽さと画質を追求したため、視野角はトレードオフとなったとのこと。この点は製品全体の大きな特徴と言えるだろう。
続いて、3種類のラインナップの詳細を見ていこう。
Tethered 5K
「Tethered 5K」はその名の通り、何かしらの端末へ接続(tethered)して使用するモデルだ。USBケーブル(Type-C)でPCやスマートフォン、タブレット端末と接続することで、VR上のスクリーンで映像鑑賞ができる製品となっている。
特筆すべきは200gという重量だ。この手のヘッドセットとしては圧倒的に軽く、長時間装着する用途では明確な強みになる。また、リフレッシュレートは最大120Hzまで出るとのことだが、コンテンツ次第では上限値はもう少し低くなるとのこと(4K画質であれば120Hz、5K画質であれば72〜90Hzぐらい、という説明があった)。トラッキングも3DoFであるため、映像鑑賞に割り切ったモデルと言えるだろう。
Gamer 5K
「Gamer 5K」はその名の通り、ゲーム用途のモデルだ。構造としては「Tethered 5K」の正面にトラッキングデバイスを取り付けたものであり、「Tethered 5K」の派生モデルといったイメージ。PCとの接続は有線で、DisplayPortが 1基と、USBポート2基が接続の際に必要となる。
基本的な性能は「Tethered 5K」に準ずるが、トラッキングはアウトサイドイン方式の6DoFとなり、SteamVRとの互換性を獲得している。VIVEシリーズやVALVE INDEXなどからヘッドセットだけを取り替え、コントローラーはそのままにして遊ぶことが可能で、汎用性の高さがうかがえる。重量は320gに増加したものの、それでも他機種と比較すれば段違いに軽量だ。
なお、専用のコントローラーは存在せず、VIVE WandsコントローラーやINDEX Knucklesコントローラーとの併用を前提としている。また、「Tethered 5K」をあとから「Gamer 5K」に切り替えるための、トラッカー単品の販売も予定しているとのことだ。
All in One 5K
「All in One 5K」は一体型VRヘッドセットのモデル。多くの一体型と同様に、PCなどに接続せず、単独で運用できるのが特徴だ。
トラッキングはインサイドアウト方式の6DoFで、トラッキング用カメラは本体に4基搭載している。SoCはQualcomm Snapdragon XR2を搭載し、リフレッシュレートは最大90Hz、バッテリー持続時間はコンテンツ次第だが、おおむね2〜3時間は持つとのこと。重量は「Gamer 5K」からもう少し増えて380gだが、最大の競合になるであろう「Meta Quest 2」(503g)よりかなり軽い。
ただし、この「All in One 5K」は体験会に現物の到着が間に合わず、今回は純粋なカタログスペックのみの紹介となった。また、「All in One 5K」からは「arparaland」と呼ばれる、同社開発のいわゆるメタバースへのアクセスが可能だが、こちらはまだ詳細が固っていないとのこと。対応プラットフォームはこのほかに「VIVEPORT」にも対応しているとのことである。
「Gamer 5K」を体験!
今回の体験会では「Gamer 5K」を体験した。実際に手に取ってみると「縦方向の幅が小さい」という印象を受ける。また、多くのVRヘッドセットに備わっている頭頂部ストラップが存在しない点も目を引く。
装着してまず感じるのがその軽さ。ウェイトバランスも適切なのか、「頭が重い」とは一切感じることがなかった。
装着方式はダイヤルで締め上げる形だ。後頭部側にはクッションが設置されており、装着時に後頭部をやさしく包み込んでくれる。
接顔部はスペースが狭く、メガネをかけたまま装着することはできない。かわりに、左右のレンズに焦点距離を調整するダイヤルが搭載されており、これがメガネの代わりを果たすようになっている。筆者はもちろんだが、視力が0.1というほかの体験者も問題なく裸眼でVR体験できたとのことで、焦点調整による補正はかなり強力だ。ただし構造上、ヘッドセットを装着した状態では調節ができないのが不便ではある。また、レンズと眼の間の距離は調整できないため、人によってはまつげがレンズに接する可能性がある。
IPD(瞳孔間距離)ももちろん調整できる。ヘッドセット下部のダイヤルから、56〜72mmの間で調整可能だ。音量ボタン、2D/3D切り替えボタン、そしてマイクもこちらに存在する。
トラッキングパーツとはケーブル1本で接続されている。脱着は思ったよりも簡単な印象だ。
ヘッドセット本体とストラップは分離可能。結合部分を外に少し押し込めばあっさりと外れるため、使わない時は分解することでスペースの確保ができるだろう。あまりにあっさり外れるため、「動いてる時に外れないか?」と不安になったが、体験中に外れることはなかった。なお、本体側の結合部分にはヘッドホンが搭載されている。
今回の体験会では、「Gamer 5K」とVIVE Wandsコントローラー、ベースステーション2基という構成で、FPSの「Half-Life: Alyx」とリズムゲーム「Beat Saber」を少しずつ体験した。「Half-Life: Alyx」は圧倒的な映像美が光る作品だが、一面に広がる世界は細かなディティールまで見え、OLEDの特性ゆえか暗闇もしっかりと暗く映っていた。文字も鮮明に読み取れるため、ゲーム以外にもワークツールへの適性がありそうだ。また、「Beat Saber」はEXTREME譜面でも問題なくトラッキングが追いつくことを確認できたため、多くのVRゲームにおける運用に耐えうるだろう。
「Beat Saber」プレイ中は比較的大きく動いてみたが、ヘッドセット本体が外れたり、ズレたりすることはなかった。頭頂部にストラップがない点や、ストラップが簡単に外れる点は不安材料だったが、320gという軽量ゆえに、顔面と後頭部の2点だけで十分に支えきれていると思われる。一方で、スクリーンの特性なのか、映像が全体的に少し暗めに見えたのは気がかりだった。体験会の範囲内では詳細な検証はできなかったが、場合によってはグラフィックカードなどで調整が必要となるだろう。
「軽くて高画質」を求める上での選択肢となるか
今回は「Gamer 5K」のみの体験となったが、総じて、軽さと高画質がうまく両立した1台だと感じた。装着自体も容易なので、特にライトユーザーには扱いやすいだろう。一方で、95度の視野角など、軽さと画質以外は割り切った作りなので、ヘビーユーザーは物足りなさを感じるかもしれない。
長時間装着するようなユースケースにおいて、装着負荷をなるべく軽くしながら、画質は妥協したくないといったニーズを持つユーザーの選択肢として浮上してくるだろう。下位モデルの 「Tethered 5K」 は映像観賞用としてさらに割り切ったデバイスであり、さらにライトユーザー向けの製品と言える。
「All in One 5K」 については、今回の体験会ではカタログスペックのみが判明したものの、目玉ともいえる「arparaland」も含めて詳しいところは不明なところが多い。今後、「All in One 5K」と「arparaland」については、さらなる詳報が入り次第お伝えできればと思う。
arparaVRヘッドセットは今後、Kickstarter終了後に、Indiegogoにて同様の方式での販売を予定している。また、メジャーなECサイトプラットフォームでの販売や、オフラインストアの展開も計画されているとのことだ。気になる方は、まずはIndiegogoのページをチェックしてみてはいかがだろうか。
(TEXT by 浅田カズラ)
●関連リンク
・arpara VR 公式サイト