カバーは1月24日、豊洲PITにてVTuber事務所「ホロライブ」初の全体ライブとなる「hololive 1st fes.『ノンストップ・ストーリー』」を開催した。イベント発表後にデビューした4期生を除く23名全員がステージに上がり、ソロパートやユニット、全員出演など全31曲のバラエティーに富んだ2時間半の演目を披露し、ホールいっぱいに集まったファンを大いに感動させていた。
オフィシャルレポートも掲載した上、開催からだいぶ時間が経ってしまったが、ホロライブとして一つの節目になる重要なイベントなのでもう一度このイベントの意義をまとめていきたい。PANORAで撮影したフォトレポートもお送りしよう。
止まらなかったのは「変化と挑戦」
筆者が会場となる豊洲PITに到着したのは開演の30分ほど前。入場待ちの列が伸びており、まずファンの熱気に圧倒された。Twitterの情報によれば、昼間の物販でも近くにある橋の途中まで待機列ができるほど多くの人が並んでいたようだ。
会場内に入ると数十のフラワースタンドが並んでおり、ファンのこの晴れ舞台にかける意気込みがビンビンに伝わってきた。ホール内ではBGMがループで流れており、端までぎゅうぎゅうに詰まった観客がペンライトを手にライブの開始を心待ちにしていた。途中、えーちゃん(友人A)の影ナレも入ったのち、定刻となってオープニングムービーが流れ始めると、観客は最初からクライマックスのような大歓声が上げて力強くペンライトを振っていた。
ライブでまず印象に残ったのは、オープニングの言葉と「ノンストップストーリー」というタイトルで、すべての想いが詰まっていることに心を打たれた。冒頭、ホロライブの中心人物であるときのそらちゃんのモノローグが入る。
「アイドルになって大きなステージで歌って踊りたい
2年前、1人から始まったこの想いは
20人以上のメンバーとの大きな思いになって
実現する
個性も目標も夢も違う
そんな私たちが、初めてみんなで見る同じ景色
これからもずっと輝くために、笑顔でいるために
私たちは前を向いて進み続ける」
ノンストップとは何か? それはホロライブとその運営元であるカバーがこの2年間止めなかった「変化と挑戦」だ。
ホロライブは当初からアイドルをうたっていたわけではなく、止まらなかった結果、VTuber業界で最大規模のアイドル事務所になったというのが正解だろう。
そもそものカバーは初期にVR卓球ゲームを作っていたスタートアップだ。その後、2017年にVRシステムを使ったライブ配信サービスに着手し、このときに「ときのそら」ちゃんがサンプルキャラクターとして登場している。また、スマホ向けのVTuberアプリ「hololive」(App Store)も提供しており、キャラクターライブ配信のプラットフォーマーを目指していた。下記の2017年12月当時のプレゼン資料がわかりやすい。
このプラットフォーム事業と並行して、自社タレントも増やす方向に舵を切った。VTuberムーブメントが勃興した2017年12月、ときのそらちゃんがVTuberデビュー宣言し、2人目となるロボ子さんのキャストを募集。2018年5月には1期生を募集して、6月に活動開始。このオーディションとは別に夜空メルちゃんも5月にデビューした。
さらに2期生として8月に湊あくあちゃん、紫咲シオンちゃん、9月に百鬼あやめさんと癒月ちょこ先生、さらに大空スバルさんと矢継ぎ早にデビューさせていく。12月にはさくらみこちゃんの加入を発表した。
専門レーベルにも手を広げた。12月にゲーム専門の「ホロライブゲーマーズ」を立ち上げ、1期生の白上フブキをリーダーに、大神ミオちゃんが参加。このゲーマーズに2019年4月、猫又おかゆちゃんと戌神ころねちゃんが加わった。5月にはホロライブ内の独立音楽レーベルとして、AZKiちゃんが所属する「イノナカミュージック」を立ち上げた。
さらに止まらずに、2019年6月に3期生の募集をスタートし、7月に兎田ぺこらちゃんと潤羽るしあちゃん、8月に不知火フレアさん、白銀ノエル団長、宝鐘マリン船長と次々と新人をデビューさせてきた。この12月に4期生がデビューし、「とめてみろホロライブ」などの名言を連発する桐生ココちゃんを中心に強烈な個性を発揮して話題を振りまいている。同月には星街すいせいちゃんのホロライブ本体への転籍も発表となった。
気づけば、清楚系、元気系、かわいい系、セクシー系、ぶっちゃけ系、やべーやつ系などバラエティーに富んだタレントが揃ってきた(そして気づけばカバー代表の谷郷さんもYAGOOさんになってた)。単純に人数が増えればいいわけではなく、どのVTuberも尖った才能を持っているというのもポイントだろう。
VTuberムーブメントは「四天王」という言葉が示すように個人タレントから始まったわけだが、時代は流れて、コラボ企画が人気だったこともあって次第にグループである「箱」が強くなっていく。人数を止めずに増やしてきたホロライブもこの時流に乗り、魅力を知るきっかけとなるコラボ配信でお互いのファンを交換して「箱」を強くしてきた(最近だとARK配信ですね)。
そんな中でアイドル路線が顕著になったのは、2019年夏に実施した「ホロライブ・サマー2019」ではないだろうか(PR TIMES)。1、2期生とゲーマーズの16人の水着モデルをつくり、夏色まつりちゃんをはじめ、青少年の知的好奇心を満たしてくれるお披露目配信で数々の伝説を生んできた。
16人が歌って踊るという全体曲「Shiny Smily Story」も素晴らしい出来だった。いままでお披露目してきた水着を着て浜辺で踊る姿はまさに夏にふさわしい王道のMVで、曲もキャッチーなこともあって「この輝きはアイドル以外の何物でもない!」と心を掴まれた人も多いはずだ。
そもそものライブのタイトルとである「ノンストップ・ストーリー」は、ときのそらちゃんの「止まらねぇぞ」という発言に由来しており、ルーツをたどると、インターネットミームとして広まっている「機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ」のオルガ・イツカのセリフ「止まるんじゃねぇぞ」にあたる。
冗談のように生放送の中で生まれた「止まらねぇぞ」という言葉だが、「ときのそら」という名前がつく前のひとりの少女からスタートし、VTuberを増やして、企業コラボも海外進出もリアルイベントも資金調達も実現してきたこの約2年間のホロライブは「止まらねぇぞ」そのもので、今、豊洲でこれだけ多くのファンを集めているという奇跡を見せているだけでも感慨深いものがある。
そんな背景を知ってオープニングの「ノンストップ・ストーリー」というロゴを目にし、1曲目の「Shiny Smily Story」を聴くと、それだけで胸が熱くなるのだ。「Shiny Smily Story」はニコニコ生放送のタイムシフトでも無料パートで見られるので、ぜひチェックしておこう。
「ホロライブ全員でひとつ」という意思の現れ
「ノンストップ・ストーリー」の構成で素敵だと感じたのは、全員にスポットライトを当てた点だ。
まず、23人に同じステージ衣装を用意したのは本当に驚いた。12月末にお披露目されたメインビジュアルを見て、その気合の入れ方に心を掴まれたファンも多いはず。筆者的には、「ホロライブ全員でひとつ」という意思が現れていたのにグッときた。
全員に同じ衣装を着せるということは、当たり前だが23人分の3Dモデルをつくなければいけない。しかも、このライブでお披露目された不知火フレアさん/宝鐘マリン船長/星街すいせいちゃんの3Dモデルも手がけつつ、おそらく正月衣装も並行作業していたわけで、これはもう狂気としか言いようがない。しかしその制作チームのがんばりのおかげで、23人がアイドルとしてステージで最高に輝くことができたわけだ。
また、大所帯にも関わらず全員にソロ曲を歌わせたことも特筆すべきだろう。「総選挙」ではないが、人数が増えてくるとどうしても選抜になってしまいがちなところ、ホロライブはあえてオールスターで臨むという選択をした。「Shiny Smily Story」の「誰一人欠かせない 愛が舞ったこの世界 それぞれ 違った ココロで 彩れ」という歌詞のように、このセットリストだけでも「ホロライブ全員でひとつ」という思いが伝わってくる。
ラスト手前、アニメ「ホロぐら」の大長編で大いに笑わせたあとに、一転して23人全員が口々に夢を語るパートを入れるというのも心を打った。その上で、ときのそらちゃんの涙声でのコメントだ。
「今日は豊洲PITに遊びに着てくれてありがとうございます。私は2017年から活動を始めています。その頃は全然VTuberというものも知られていなくて、本当に少ない人数の中でがんばっていました。ですが、みんなの『ガンバレー』という声が大きくなっていって、こんなにたくさんの仲間に囲まれて、今こんなに大きな舞台でしゃべることができるようになって、とってもうれしいです。
こんな素敵な舞台に立つことができているのも、私を支えてくれている裏方のみなさん、そしてホロライブの仲間、そして応援してくださっているみなさんのおかげです。本当に、本当にありがとうございます。でも、私たちの夢はここでは終わりません。これからもみんなと一緒に歩いて行きたいし、もっともっと楽しいこと、幸せなことをみんなと分かち合っていきたいと思っています。なので、これからも私たちホロライブをどうぞよろしくお願いします。
これからも止まらねぇぞー! ありがとうございました!」
涙ながらにしか聞けない彼女の思いを受け取ったあとに、白上フブキちゃんからも同じ思いが語られる。
「ライブタイトルにもあるように、私たちは今日来てくださったみなさん、いつも応援してくださっているみなさんと一緒にノンストップで進み続けます! 止まるんじゃねぇぞ! これからもみなさんの想像を超える未来をつくれるよう、がんばっていきますので、応援本当によろしくお願いしますー!」
そうして迎えたのが、ラストとなる23人全員がアイドル衣装を身にまとって歌う新曲「キラメキライダー☆」だ。まさに圧巻の一言で「ああ、本当にアイドルになったんだ」と実感する瞬間だった。
色々な才能とバックボーンを抱えたメンバーが豊洲というひとつの目標に向かって突き進み、同じ衣装で同じステージに立つ──。
「ここにいるよ 見つけてくれたから 君に会いたくてやってきたんだ みんなで歌おう 終わらないメロディー キラメキに乗って」という歌詞も今のホロライブにシンクロしていて心に染み入る。歌い終わった後に感極まった観客が「ありがとうー!」と口々に叫んでいたのが印象に残った。
畳み掛けるように、エンディングも粋な演出だった。「Shiny Smily Story」のインストが流れ出し、1曲目からのセットリストをすべて振り返ったうえ、ラスサビ前に「おわ」という文字が現れる。
観客から「おおっ?」っと声が上がり、「『おわり』かな?」と思わせつつ、「り」が半分現れたり消えたりと何度か焦らしが入って、最終的に「おわらないホロライブ」というテロップに切り替わる。
さらに「Shiny Smily Story」がインストから歌付きに変わり、3Dのお披露目や4期生を紹介するという完璧な流れで、観客は完全に心を掴まれて大歓声を上げていた。
その後、すべての演目が終了したというえーちゃんの影ナレが入ったにも関わらず、アンコールの声が止まらず、再びえーちゃんが終了の旨を告げるという一幕もあった。それぐらい観客は今回のライブに心を動かされて、まだ見たいと渇望していたわけだ。
欲を言えば、全体曲に関しては、各人が自由に踊るのではなく、何らかの振り付けがあったほうが締まると感じた。また、平面的に見えがちなARライブを改善するためにステージ上部にカメラアングルを変えたサービス映像を3つ用意したのはとても素晴らしかったのだが、一方でメインステージの状態がぼやけていたのは少し残念に感じた。
しかし、今回はあくまで「1st fes.」だ。実際に多くの人に感動をもたらしたわけで、最初から完璧である必要はないのかもしれない。これは彼女たちとそれを支えるカバーのチームが成長していく止まらない物語で、「2nd fes.」でどう進化するのか今から楽しみで仕方ない。
ニコニコ生放送のタイムシフトは8000ポイント(8000円)で、購入が2月9日の23時59分まで、視聴が2月10日の23時59分までとなっている。VTuberの歴史に残るイベントのひとつなので、少しでもホロライブに興味のある人はチェックしておこう。
*次ページでは、1曲ごとのフォトレポートとセットリストをお届け!