ヒメヒナ「HIMEHINA Live2Days『アイタイボクラ』」レポート 「やっと会えたね」に涙し、決意の2億円借金に驚く

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田中ヒメと鈴木ヒナによるバーチャルアーティスト「HIMEHINA」は5月6、7日、豊洲PITにて音楽ライブ「アイタイボクラ」を開催。その様子をニコニコ動画やBiliBiliにて有料配信した。

Day1は「藍の華(あいのはな)2022」、Day2「希織歌と時鐘(きりかとときがね)2022」と題し、コロナ禍の2021年に無観客で開催した同名のライブをリメイクした内容になる。

そのボリュームはとにかく膨大で、MCやイントロダクションなどのパートを除いてDay1は25演目・2時間50分(!)、Day2は30演目・3時間20分(!!!)と、彼女たちとその運営である「田中工務店」の情熱をこれでもかと詰め込んだ仕上がりだった。

長尺ということもあり、ライブ自体を1曲ずつ追っていると膨大な文章量になってしまうため、本稿では写真を中心に現地の様子を振り返り、「アイタイボクラ」が2022年に行われた価値について語っていきたい。

リメイクなので、大まかな内容は下記の過去記事もチェックしておくと理解しやすいだろう。そして本記事を読んで興味を持ったら、ぜひアーカイブで体験してほしい(冒頭30分程度は下記のYouTube動画でも見られる)。

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2年前の2020年2月、ボクラの時間は止まった

ジョジ(HIMEHINAのファンネーム)にとって、「アイタイボクラ」の2日間はなんだったのか。それは一言でまとめると、2年前に止まった時間を再び動かすためのセレモニーだったのだと思う。


HIMEHINAのライブは、ある種の魔法だ。

彼女たちの曲はYouTubeでも各種配信サービスでも聴けるし、なんなら音質はそっちのほうがいいかもしれない。しかし、ライブにおける体験は、単純に音楽を聴くのとまったくの別物だ。特徴的なのはモノローグや二人の掛け合いで、歌詞や時勢にからめた寸劇がオープニングや曲間に挟まることにより、歌に深い意味が付加されて聴いている者の心を大きく動かす。

例えば、VTuberという存在の儚さであったり、コロナ禍でみんなと会えないことだったりと、同じ曲を聴いているはずなのに、ライブごとに違う受け止め方になるのが不思議だ。

現地に参加したことがあるファンの中には、ライブならではのストーリーに共感して涙を流し、「歌がうまくてすごかったねー」「大好きな曲をやってくれてよかった」という普通の感想以上の「傷跡」を心に受けたという人も多いはず。

あのスゴい体験を、またみんなで現地で目撃して感情を共有したい──。

 
そう願うファンが大勢いる一方で、コロナ禍という不幸が行手を阻んできた。

2019年9月の「心を叫べ」、2020年2月の「田中音楽堂オトナLIVE 2020 in TOKYO 『歌學革命宴』feat.鈴木文学堂」を最後に、2020年4〜6月に予定していた「『藍の華』全国ツアー」は中止となってしまった。

2021年2月の「藍の華」も直前に無観客・オンラインでの実施に切り替えて開催。「希織歌と時鐘」も6月の2ndアルバム「希織歌」に合わせての実施だったが、スケジュールの延期が相次ぎ、結局11月に無観客・オンラインでの実施となった。

「藍の華」
希織歌と時鐘」

もちろんオンラインでも楽しめるように、ステージの左右にTwitterやニコニコ動画/YouTubeのコメントを映し出したり、空いた客席をAR演出のコメントで埋めるなどの新しい工夫があったのだが、「やっぱり現地であの衝撃を受けたかったな」という喪失感でもやもやしていた方も多かったはず。

2年という時間は、2017年末〜2018年頭あたりに一気に注目を集めて動き出してから約4年というVTuber業界にとって、とてつもなく大きな割合を占める。「推しは推せるうちに推せ」ではないが、その間、業界を去っていった存在も少なくなかった。

だから、2年ぶりにようやく現地に来れたというファンの喜びは、それだけでとてつもない「クソデカ感情」だったはずだ。


あの行きたかった現地に、ボクラは来れた

ただ、この「アイタイボクラ」開催にあたって筆者が気になっていたのが、Day1、Day2の名前から予想された「過去の再演でいいの?」という点だった。

彼女たちのファンなら、ニコニコ生放送の初演をアーカイブでチェックするだけでなく、ライブのBlu-ray Discも購入して擦り切れるほど見ているはず。それに、当時の世相を汲んだストーリーを2022年にもう一度上演して、はたして新しい感動が生み出せるのだろうか? しかも会場も当時と同じ豊洲PITだ。「アーニャ、これ知ってる。さんざんみた」とならないだろうか?

 
しかし、実際に現地で観てみるとそんな心配は杞憂で、むしろ「同じ場所での再演こそ大正解」だった。

あのニコ生で見た、BDで見た行きたくても行けなかった過去の客席に自分は来れたんだ。

かつては何もなかった空間に、ニンライト(彼女たちのライブで特徴的な人参型のペンライト)の光を掲げて音楽に合わせて振れるんだ。

僕らはやっぱりHIMEHINAが大好きで、ライブを現場で見たかったんだ。

みんなで同じ場所に集まって、彼女たちの歌声を大音量で浴びて、一緒に応援して心を通じ合わせてドキドキしたかったんだ。

Day1のオープニングのカウントダウンを見て、まるでタイムカプセルを開けたように2年以上も忘れていた感覚があふれ出し、じーんときた方も多かったのではないだろうか。

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その気持ちは、出演者側も同じかもしれない。Day1のド頭1曲目「藍の華」では、やっと有観客でのライブができることへの嬉しさか、二人とも途中、長い間歌えずに言葉を詰まらせてしまう。

ヒメ「やっと会えたね」

ヒナ「本当だよ、2年ぶりだよ」

ヒメ「2年ぶり、そうか、2年かー。やー、嬉しいなぁ」

ヒメ「会いたかったー!」

当時新曲だった2曲目の「相思相愛リフレクション」についても、ヒメが「わかってると思うけど、知らないふりでよろしく頼むよ」、ヒナが「あの日に戻ろう!」と呼びかけて、新曲の体裁でお披露目する。


みんながいて初めて「完成」した過去2回のライブ

ライブを見ているうちに気づいたのは、あえて同じ演目を同じ順番、同じ演出でやることで、元々有観客を想定していたライブをみんなの気持ちの中で「完成」させているという話だ。

一番強く感じたのは、Day1、10曲目のバラード「夢景色」だった。当時、筆者は無観客の現地で取材していたが、彼女たちの伸びやかな美声に心を揺さぶられる一方で、空の客席に圧倒的な物足りなさを感じていた。

それが今回は白一色で統一されたニンライトが客席に広がり、ゆったりとしたリズムに合わせて揺れる、「そう! これが見たかったんだよ!」という光景に変わっていた。あまりの出来事に心を動かされ、曲が終わると会場で目頭を抑えたり、啜り泣きしている人も多く見受けられたぐらい夢のような美しさだった。

過去の何もなかったステージに……
真っ白な光の「ニンの海」が出現した


実はこの「夢景色」に入る前の掛け合いは、2021年版とちょっとだけセリフが異なっている(2021年版は過去記事をチェック)。

ヒメ「ヒナ」

ヒナ「うん?」

ヒメ「幸せだね」

ヒナ「ええへ、幸せだね」

ヒメ「みんなと、いるんだね」

ヒナ「うん。みんなと、いるんだね。去年のライブは、目の前に誰もいなかったね」

ヒメ「そうだね。寂しかったけど、みんなの声が届くたびに思い出した景色があったんだ」

ヒナ「ヒナたちが、辛い時に思い出す、絶対に忘れないもの」

ヒメ「お、一緒に言う?」

ヒナ「みんなの」

2人「笑顔!」

ヒナ「こんなに引き離されると思ってなかったね」

ヒメ「うん」

ヒメ「会えない僕らの景色はモノクロだったね」

ヒナ「あの時間はきっと、夢の下書きだったんじゃないかな」

ヒメ「下書き?」

ヒナ「そう、今日の日のための下書き」

ヒメ「そっか。ヒメたちの夢はこんなにきれいだっだね」

ヒナ「うん」

 
大半のパートを見れば当時とほとんど変わらないはずなのに、セリフやMCをちょっとだけ変えることで、2年分の文脈を引き継ぎつつ、今のストーリーも加えてくる。考えてみれば当たり前かもしれないが、めちゃくちゃ見事に機能していたのに驚いた。

 
Day1のヒナ、Day2のヒメというライブ終わりの挨拶も心に響いた。

 
「本当にこの2日間のために、ヒナたち、工務店(運営の田中工務店)のみんなで、たくさんたくさん練習とか、リハーサルとかも何十回もしてきて、どんなに歌も踊りも完璧になっても、やっぱりそれって『藍の華』ライブの完成じゃなくって、今日こうやってみんなが、お客さんが、ジョジのみんながニン(ニンライト)を振ってくれて、ハミングで一緒に歌ってくれて、それで『藍の華』ライブが完成したんだなって思っている。やっと完成したね。

あと1曲1曲の意味が、こうも変わってくるんだなって、歌いながら今日はいっぱい感じて、それが切なさだったり、嬉しさだったり、改めて音楽の持つ力、そういうのをすごい噛み締めた1日だったなって思っている」(鈴木ヒナ)

 
「何より、やっと会えたね。あー本当に、もう泣いちゃう。やっぱり、ずっとずっと会いたかったし、なんだろうな、『藍の華』と『希織歌と時鐘』は、やっぱり本当の完成の景色はこうだったんだなって、いっぱい感じながら今日は歌いました。いっぱいみんなのコメントも流れたし、遠距離のみんなもずっといてくれたし、『ああ、これが完成形なんだ』ってすごい嬉しかった。泣かないようにしようとしてたのに、なんですぐ泣いちゃうんだろう。

一番感じたのが、2年間こうやって会えてなかったじゃん。その中でさ、CDもリリースしたりアルバムもいっぱい出して、初めてこうやって会場のみーんなで一緒になって、初めてのはずなのに、みんな全部揃ってるの。色もすごい綺麗に変わっていったり、元々準備してくれてて虹色になったりとか、乗り方がすごくて。遠くにいたけど、2年間も会えなかったけど、ヒメたちの曲を聴いて想像してくれていた景色が一緒だったんだと思って、すごい嬉しかった」(田中ヒメ)

 
だから今回のタイトルは「アイタイボクラ」なんだと腑に落ちて、見事なタイトル回収に心の中で拍手をした。

内容を今に合わせて一部アップデートするというのは、映像作品としての意味合いも強いVTuberのライブだからこそできる話なのかもしれないが、あまりの「顧客が本当に求めていたもの」そのままの体験に「今までコロナ禍で無観客化せざるを得なかったライブ、全部同じように再演すればいいのでは?」と思わせるぐらいの衝撃を受けた2日間だった。


「良いものを提供して楽しむのが幸せだから」

ほかにもライブで触れておきたいことはいっぱいある。新型コロナの感染拡大防止のために飛沫を飛ばさせないようにしつつ、観客の声にこだわっているというのも伝わってきた。

今回も、以前無観客で開催するにあたってファンから集めた声をミックスして流していたが、それがお笑い番組における録音の笑い声のように、自分の気持ちを代弁してくれるように会場で機能していた。口を閉じたまま声を出すハミングを使った応援も、声を出したいけど飛沫を飛ばさない折衷案としていいアイデアだった。じゃんけん大会で勝ち残った1人が、ステージに上がって彼女達とセルフィーを撮れるというMCパートも、リアルでしかできない仕掛けで大いに盛り上がった。

 
しかし、それ以上に語っておかなければいけないのが、速報記事でも書いた彼女達の運営「田中工務店」が「株式会社LaRa」として法人化し、「Studio LaRa」名義に変更するという話だ。

2日間の最後には、田中工務店の代表、中島さんからの手紙をHIMEHINAが読み上げる(原文はこちらでも読める)。

HIMEHINAは、2017年の冬、「とある会社」の片隅で数人のメンバーで立ち上げたプロジェクトであること。

田中ヒメが生まれ、鈴木ヒナが空から降ってきて、歌を歌い始めた頃に10畳ほどのスタジオに集まり、サークル活動のようにみんなで朝まで時間を共にして制作を続けてきたこと。

やがてプロジェクトが大きくなって、工務店のメンバーが入れ替わったり、環境も変化して身動きが取りづらくなるようなこともあったこと。

5年目の今、「動画勢」と呼ばれる自分達のスタイルが時流にあっていないのは理解しているが、ヒメヒナという生命を守るために貪欲に挑戦していきたいこと。


そんな現状を話しながら、この1年で3つの調整を行なってきたことを明かした。

ひとつ目は「とある会社」が持っているHIMEHINAの権利を1億円で買い取ったこと。ふたつ目は1億円かけて、彼女達のためにスタジオを新設したこと。

手紙によれば、工務店メンバーは原価を計算せず採算度外視でものを作ってしまうため、年間の収支はトントンだという。それでも「良いものを提供して楽しむのが幸せだからです」といってのけるが、貯金はしていないため2億円は丸々借金になってしまった。

そしてみっつ目が、継続的にHIMEHINAを支えていくため、前述のようにサークル活動をやめて株式会社LaRaを設立し、田中工務店を「Studio LaRa」名義に改めることだ。社名には、左のヒメ・右のヒナのための会社という意味が込められているという。

最後にHIMEHINAの楽曲で作詞を担当しているゴゴさんの言葉を引用してこう締める。

「十年後の僕らが、幸せに満ち溢れていますように」

 
HIMEHINAが読み上げる手紙を聞きながら、筆者が思い出したのは彼女達のオリジナル曲「ララ」の「子ども達を想って泣きましょう 笑って泣きましょう いつか未来が輝く様に」という歌詞だった。

当たり前の話だが企業は、売上と利益を増やすことが目的のひとつだ。そのビジネス的な側面は、案外ものづくりと相性が悪いこともあり、コンテンツ業界ではいまいち収益がのびないため不完全燃焼で終わっていくプロジェクトも少なくない。しかも、HIMEHINAの主戦場は「勝ちパターン」が最初から見えていなかった激動のVTuber業界で、山師も集まりやすい。

そんな中において、HIMEHINAが5年間目を迎え、いまだにファンを増やし続けているのは、ひとえにLaRaのチームが採算度外視でクオリティーを優先させてきて、アーティストとしての彼女たちの才能を最大限に引き出した作品を生み続けてきた結果だろう。だからこそ、次の音楽も、次のライブも、きっと素晴らしい体験させてくれるだろうと、ファンもずっと信頼してきたのだ。

 
コロナ禍のモヤモヤを払拭して、幕開けを予感させるような希望の光を体感させてくれた「アイタイボクラ」。今回初めて知ったという方は、ぜひアーカイブで予習しておいて、次のライブはチケット争奪戦に参加してほしい。

●Day1「藍の華」 

●Day2「希織歌と時鐘」


(TEXT by Minoru Hirota、Photo by 釘野孝宏)

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