「ディスクロニア: CA」エピソード1レビュー 「初めてのVR」でぜひ遊んでほしい、物語に入り込む体験

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MyDearestとイザナギゲームズはは9月23日、VR捜査ゲーム「DYSCHRONIA: Chronos Alternate」(ディスクロニア: CA)のEpisodeⅠをMeta Quest向けに発売した。価格は2208円だ(購入ページ)。

MyDearestが過去に発売してきた2019年発売の「東京クロノス」、2020年の「ALTDEUS: Beyond Chronos」と世界観が共通する「クロノスユニバース」の新作で、今冬以降に発売するエピソード2、来春以降のエピソード3と合わせて3部での展開予定だ。

ここ1年ぐらい、VRChatなどのメタバースがらみで一体型VRゴーグルの「Meta Quest 2」が気になっているという方も多いはず。「ディスクロニア: CA」のゲーム自体のレビューは他のメディアやインフルエンサーが記事や動画で投稿していることもあって、本記事ではVR初心者向けにもう少しローレベルな話から入っていきたい。

元々、普通にレビューを書いていたのだが書き直して、最終的にあんまりレビューっぽくなくなってしまったのはお許しください。

 
●ディスクロニア: CAストーリー
海上都市「アストラム・クローズ」。犯罪発生率0.001%。あらゆる犯罪が「夢」によって未然に防がれる場所。「楽園」と呼ばれるこの都市で、都市の創設者ラムファード博士が殺害されるという「起こるはずのない」事件が発生する。特別監察官に着任した「ハル」は、都市からの要請を受け、この異常事態を解明すべく捜査に当たる。

なぜ、博士は殺されたのか。この美しい都市に一体何が起きているのか。左手に宿る「隠された過去」を暴く能力で真実に近づくほどに、危険は増していく。12年間動くことのなかった時計塔。その終末の鐘が鳴り響くとき、最後の7日間が幕を開ける──。


意外と知られていなかったVR体験?

話が突然変わって恐縮だが最近、筆者が衝撃的だったのは「東京ゲームショウ2022」のMeta Questブースにて、体験のために200分待ちの行列ができていたことだ。

Quest 2は2020年10月の発売からもうすぐ2年が経とうというハードウェアで、会場で遊べた8本のゲームも5本が既存タイトルだった。にも関わらず、開場から1時間ほどでテーマパークの超人気アトラクション並みに行列ができていた(レポート記事)。

「これはひょっとして、VRに興味があっても体験できてない人が多かったのでは……?」

弊媒体(PANORA)自体は2014年11月よりVR業界を追っており、もうすぐ8年目。最初にVRゴーグルが集中して発売された2016年の「VR元年」から6年経っているわけで、てっきりほとんどの人が体験しているものと思い込んでいたが、体験会が激減したコロナ禍もあってか、全然そんなことはなかったのだ。

VR業界では、「百聞は一見にしかず」ということわざになぞらえて、「百見は一体験にしかず」という言葉が使われる。視界をすべて映像に覆われ、枠のない世界を頭を動かして好きな方向を見ることができ、ハンドコントローラーでその世界のものに触れる──。その体験は文章や画像、動画では絶対に伝わらず、究極的には被って見ないと面白さが体得できない。

パッと見でプレイヤーが何を見ているかわからないこともあり、未経験者にとってなんだか怪しさまで感じさせてしまうVRだが、一度かぶってみると「ああ、これは確かに新しいし、面白い!」と感じさせる魅力があることがわかるはず。

なので、文章でVRの魅力を伝えること自体が矛盾しているのだが、それでも興味を持ってもらえるように、もう少し初歩的な話から始めていきたいというわけだ。


考えるな、感じろ 感じてから、考えろ

さて、肝心の「ディスクロニア: CA」だが、その面白さは一言でいえば「物語に入り込める、触れる体験」に集約されるだろう。

本作はジャンルとしてはアドベンチャーになる。プレイヤーは特別監察官に着任したハルとなり、舞台となるアストラム・クローズの世界を探索して、都市の創設者であるラムファード博士博士が殺害された理由を探っていくというストーリーだ。

その謎解き捜査を、自分の目で世界を見回し、自分の手で世界に触れて進められるというのがVRアドベンチャーならではのよさになる。

従来、アドベンチャーゲームというと、その世界はテレビやPCのディスプレイ、スマホの先にあって、プレイヤーはゲームコントローラーを通じてコマンドを送り、主人公に指示を出すというのが一般的だった。あくまで別世界で展開されている物語を、画面を通じて体験している状態だ。

それがVRの「ディスクロニア: CA」なら、自分の目線=主人公の目線で物語が展開していく。繰り返しになってしまうのだが、プレイヤーはまさにハル自身で、彼の目で彼と同じものを見て、コントローラーを通じて手で触ってあちらの世界に直接干渉して、物語を進めることになる。

同じ一人称の視点でも、テレビやPC、スマホといった平面のディスプレイで体験するのと、VRゴーグルで本人になるというのでは、感じ方が別物ということだ。

 
これが何を意味するのか。それはゲームなのに別世界を体験するだけで楽しいという要素につながってくる。

ゲームというのは、相手を倒す、ポイントを稼ぐ、生き残る……といった遊びのルールに縛られており、プレイヤーはその範囲でうまくやれたかどうかで楽しさを得ることが多い。それがVRなら、まるで絶景に旅行に来たように、世界にいるだけでも心を動かされることも多い。

「ディスクロニア: CA」でいえば、まずタイトル空間(画面ではなく空間なのだ)で、そびえ立つモニュメントとその周りを4つの光のオブジェが回っているところを眺めているだけでも、なんだかチルな気持ちになってくる。観光名所にある光のオブジェを見ている感覚に近いだろうか。首をあげると、モニュメント自体の大きさとともに、自分が立っている建物の天井の広さも感じられて、そこでも「おおっ」と心が動かされる。「なんかきれい」「でけー」と語彙力が低下したような感想になるが、これが従来の平面ディスプレイのゲームでは得られなかった直感的な面白さだ(そして、このシーンの意味も後程わかるだろう)。

ゲームの作中でも、そうした直感で伝わってくる空間はいくつも出てくる。ネタバレになってしまうので、冒頭の部分だけ紹介すると、開始直後、夜空に囲まれた静謐な暗闇を、コントローラーのスティックを倒して歩いていくシーンは、本能的な怖さと光の綺麗さが感じられ、これから起こる何かの大きさを期待させる。

扉を抜けると、そこから一転して、空が赤く包まれて崩壊した世界が出現。ナビゲーターロボットのリリィに導かれつつ、ロボットから隠れながら逃げることになるが、ここでも巨大な剣のような落下物が降ってきて身の危険を感じさせる。

最初の見せ場となるのが、幼なじみのアッシュと会った後の「拡張夢」の空間だろう。主人公のハルは現実空間と拡張夢を行き来できる能力を持っており、アッシュとの会話から右コントローラーのAボタンを押し続けて拡張夢にダイブすることになる。

この切り替わった空間が、事前にも動画で告知していたように、巨大なクジラをはじめ、5000匹以上の光り輝く魚に囲まれるという圧巻の体験だ。本当は市民たちのところに移動して話を聞くというミッションがあるのだが、水族館の水槽を前にしたように、だらっと座りながらいつまでも眺めていたい気持ちになる。

ゲームでは後程、この拡張夢の世界でストレスを抱えて人間の姿で出現している市民をケアするメンタリングというミッションを行うのだが、まるでプレイヤー自身もメンタリングされているような癒される気分になる。謎解きを進めるだけでなく、ときおりアストラム・クローズの作り込まれた世界をぜひ堪能してほしい。

そして、この後のオープニングの360度ムービーも入り方がめちゃくちゃカッコいい。話を進めると、ラムファード博士が死んだという事実が明らかになり、空間ごと切り替わって、シルエット化された登場人物とともにクレジットが表示されるオープニングが始まる。

今までの導入のドキドキ展開で「なんだなんだ?」と気にならせておいて、雰囲気をガラッと変えたオープニングムービーでさらに引き込む──。映画やアニメなどでもよく見る流れかもしれないが、わかっていても「これだよこれ! カッケー!」となってしまうこと請け合いだ。VRならではの空間演出というのは、まだ定石が出尽くしておらず、これからどんな表現が生まれていくのか楽しみだ。


視点だけでない、触れるから主人公に「なれる」感が高まる

「世界に触れる」という点もVRならではの話で、しかもアドベンチャーゲームと相性がいい。

テレビやPC、スマホで遊ぶアドベンチャーは、コマンドで選択したり、画面の一部を選択することで、部屋の一部を調べることになるが、それが「ディスクロニア: CA」のようなVRアドベンチャーなら、自分の手や体を使って捜査できるわけだ。

単純に移動ひとつとってみても、遠い距離は左手スティックを親指で前に倒して動くことになるが、近い距離でQuest側の設定で歩ける「歩行モード」を選んでいるなら自分の足で歩いて近づけばいい。建物や部屋から出たり入ったっりする際も、ドアで「開ける」コマンドを支持するのではなく、手のアイコンがあるところに自分の手を重ねて開ける。

具体的にいえば、ラムファード博士の殺害現場である彼の部屋を捜査する際、血痕やPC、杖、棚にあるものなどに歩いて行って、直接手を伸ばして触って調べられる。立っていて手が届かない下にあるものは、歩ける「歩行モード」なら体で座るか、座ってプレイの「静止モード」では親指でアナログスティックを押し込んでしゃがめば見たり掴んだりできる。細かい話だが、こうした直感的な操作の積み重ねが、別世界に主人公としている感覚を自然と醸成してくれるのだ。


触れるという点でいうと、ハルの能力である「メモリーダイブ」も、自分で能力を発動している感をビンビン感じられる。まず中指のグリップで手に握ったものを左手首に近づけると、青い光の輪が点灯して回転し出す。そのまま左の人差し指でコントローラーのトリガーを弾き続けると、輪の回転が早くなって光に包まれ、タイムリープのゲートがこちらに迫ってくる演出が入り、過去の世界に遷移する。この一連の流れが、めちゃくちゃ「厨二病」を刺激する感じでとてもいい(いい)。

小説を読んだり、アニメや映画を見て、「この作品に自分が入ったらどう見えるんだろう……」「自分がこの世界で主人公なら……」と妄想をしたことがある方も多いはず。それがVRなら、今まで説明してきたようにまさに物語の中に入れて、テレビやPC、スマホのような「枠」がなく、上下左右前後のすべての方向を見た上で、さまざまな方向からの音を感じ、なんなら触ってその世界を堪能できるわけだ。

「なろう系」小説は読者のそうなりたい欲求を受け入れるジャンルなわけだが、その観点でいえばVRは「なれる系」だろう。かつて池袋にあったVRアミューズメント施設「MAZARIA」では、「マリオカート」や「エヴァンゲリオン」、「ドラゴンボール」といった有名IPになれるコンテンツが人気だった。その「なれる」をずっとオリジナルタイトルで作り出しているのがMyDearestで、最新作が本作になる。


次元を超えるキャラクターとの触れ合い

だいぶ長くなってしまったが、もうひとつVRならではのよさとしてキャクターと対面できることにも触れておきたい。

日本のVRコンテンツの特徴として、「なれる」だけでなく、初音ミクやキズナアイなど、「推し」のキャラクターに会いに行けるコンテンツも多くつくられてきた。

しつこい言い方になるものの、従来、アニメや映画、ゲームなどのキャラクターはどんなに頑張っても画面の向こう側の存在だったが、「枠」のないVRなら目の前にいて、頭を近づければ近くで見られるし、手を差し出せば触ることも可能だ。キャラクターがこちらを見つめてくれて目線が合うこともVRならではのよさだ。

「ディスクロニア: CA」でいうなら、間違いなくナビゲーターロボットの「リリィ」とのふれあいが、そうしたVRならではのキャラクター体験を実現している。常に主人公のかたわらにいて、目線を合わせるとこちらを見ていてくれるし、ナデナデを要求(ファービー以外で久しぶりに聞いたよ)されてなでると笑顔を見せてくれるなど、細かい所作がいちいちかわいい。

いわゆる「RPGの街の人」のようなNPC感が前面に出ないように、なるべく興醒めさせずに、実在感を失わせないように設計しているのが伝わってくる。

 
まとめると、VRの「これって新しい体験だよね」の基礎をきちんと押さえて、丁寧に作られた作品ということだ。

MyDearestは2016年の創業、2017年の第一作「Innocent Forest」リリースからずっと「VRで物語に入る」を突き詰めてきたブランドだ。一時期のブームで「いっちょ噛み」するわけでなく、ビジネスとしてまだ爆発的に伸びていない分野に賭け続け、今なお作品を重ねてきている。

演出面だけでなく、Quest 2という限られたグラフィック性能の中でどれだけ効果的な表現を引き出せるかという点でも、VRのノウハウを蓄積してきている。そうした職人のチームが生み出した作品が、映画1本分+ドリンクぐらいの値段で遊べるというのはだいぶお得なのではないだろうか?

ゲームといえば、今や遊ぶこと自体だけでなく、ネット経由で誰かとつながるのが目的だったり、自分でプレーせずに実況を見たりと消費の選択肢が増えてきた。エンタメ全体を見ても、倍速再生や切り抜きが当たり前なコスパが求められる時代だ。一方でVRゴーグルは、ながらでスマホを見ることもできないし、リアルタイムで実況するのも難しい、一部だけを切り出してもなかなか伝わらない、最先端なんだけど時代に逆光しているようなハードでもある。

物語を読むということは、単純にストーリーを追うだけでなく、自分自身の過去の経験と照らし合わせて向き合う側面もあるだろう。だからこそ、周囲をシャットアウトして、目の前の体験だけに贅沢に没入できるVRで、アドベンチャーを体験する価値があるのだ。次々と切り替わる作り込まれた世界に「テーマパークに来たみたいだぜ」と楽しめる本作。ぜひこのタイミングでQuest 2を手に入れて遊んでおいて、VRの可能性に触れてほしい。

 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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