「世界一のVRアイドル」を目標に、2018年3月のデビュー当時からライブやバーチャル握手会など「現場」を中心とした活動で人気と評価を高めてきたVRアイドル・えのぐ。
毎年、バーチャルアイドルとしては異例な数のライブに出演してきたが、「年間50公演に出演」という目標を掲げた2022年は前年までをさらに上回るハイペースでライブに出演。そして、12月28日に豊洲PITで開催された2022年最後のワンマンライブ「大絶響祭 2022 WINTER ☆ Beat of Stellar」(大絶響祭 WINTER)で、その目標を見事に達成した。
ここでは、えのぐの2022年50公演目のライブで、2022年末でのアイドル活動引退を発表していた夏目ハルさんの最後のライブでもあった「大絶響祭 WINTER」の第二陣(夜公演)をレポートしていく。
本公演は、ニコニコ生放送でリアルタイム配信され、タイムシフト(アーカイブ)は2023年1月26日23時59分まで視聴可能。全編の視聴には有料チケットの購入が必要だが、冒頭の3曲は無料だ。
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ビッグバンドアレンジに合わせたパフォーマンスを披露
えのぐライブ史上最大人数のバンド編成で開催された「大絶響祭 WINTER」。ライブが開演し、最初に聴こえてきたのはドラムのリズム。まだ、えのぐの4人の姿は見えず、ステージの向かって左にドラムのタイヘイさん、ベースの越智俊介さん、マニピュレーターの平林昌義さん、右には、ギターの香取真人さんとキーボードの岡島沙予さんが並んでいる。えのぐのワンマンライブでは、お馴染みのバンドメンバーだ。
続いて、ホーンの音が響き出すのに合わせてステージの中央にも明かりが差すと、サックス、トロンボーン、トランペットの奏者10人が2列に並んで演奏する姿が見えてきた。総勢15人のビックバンドによる生演奏のOverture。アイドルやバーチャルタレントのライブで、これだけ重厚な生の音を聴いたのは初めての経験で、ステージ上の光景も壮観だ。
続いて、ステージの上部に設置されたバーチャルなステージ(スクリーン)に、えのぐの4人(鈴木あんずさん、白藤環さん、日向奈央さん、夏目ハルさん)が登場。「Brand new stage」「ショートカットでよろしく!」「Armor Break」と曲調の異なる3曲を続けて披露した。1曲目の「Brand new stage」で、夏目さんが歌詞を変えて「今年で一番楽しいライブにしようね」と叫ぶと、会場の空気が一気に高まる。新型コロナの感染予防対策のため会場が声出しNGで無ければ、絶対に大きな歓声が沸いただろう。
15人編成のビックバンドが演奏する曲は、どれもCDや配信などで聴く音源とは異なるアレンジだったが、特に変化の大きさに驚かされたのが、えのぐの楽曲の中でも最もロックな曲の一つ「Armor Break」。イントロから驚くほどスローテンポで、まるで別の曲のようにムーディーな雰囲気。アレンジに合わせた4人の歌声は艶っぽく、ダンスもしなやかだ。「Armor Break」の大きな見どころ、日向さんのソロダンスもいつものリズミカルでキレキレのダンスではなく、アダルトなムードを放っていた。
開演直後のパフォーマンスからいつもと異なる大人な姿を披露したえのぐだったが、MCでは、すぐに明るく可愛い4人に戻って、ハイテンションに客席に手を振り続けていた。鈴木さんは、この公演で年間ライブ50公演出演という目標を達成したことを発表した後、今日のライブにかける熱い思いを語る。
鈴木「今日がえのぐ4人体制でのラストライブです。4人で活動してきた約5年間をかけて、バーチャルアイドルの歴史に残る過去最高のステージにします! 豊洲PITのみなさん、ニコニコ生放送のみなさん! 全力の応援を笑顔でよろしくお願いします!」
客席のペンライトがさらに激しく振られる中で始まった次のブロックの5曲は。いつものバンドの5人の演奏でパフォーマンス。それだけに過去のライブからの成長や変化が分かりやすくもあった。5曲目の「Possible」は、2022年3月に初披露された楽曲だが、鈴木さんのサビのボーカルの緩急の大きさや、白藤さんのラップパートの力強さなど、はっきりとした成長が感じられる。
デュエット曲が2曲続いた後の8曲目「Dreamin’ World」は、2020年9月にリリースされた1stアルバムの表題曲。フルートも加えたスローテンポなアレンジは、4人の歌声の安定感がさらに増していたからこそ、このアレンジでもより魅力的に聴こえたのだろう。
4人のシアターダンサーもステージを華やかに彩る
えのぐの4人が一旦退場した後、ステージが明るくなると、ホーン隊も含めたバンドメンバーが再び総登場。スクリーンに映るバンド紹介映像とともに、お洒落なジャズを演奏していく。続いて流れ出したのは、えのぐの楽曲の中でも特に激しい曲「DDD」こと「Defiant Deadman Dance」のイントロ。そしえ、えのぐが登場すると、下のリアルステージには、シルクハットと煌びやかな衣装を身に着けた4人のシアターダンサーも登場。えのぐの4人が歌う高速アレンジの「DDD」とビッグバンドの演奏に合わせて、ミュージカルやショーのような華麗なダンスを踊り続ける。
第一陣(昼公演)で3人のフリースタイルバスケットボールプレイヤーが登場したときにも感じたことだが、最初は何が起きるのかという感じで観ていた客席が、そのパフォーマンスを観るうちにどんどんテンションが高まっていく光景を観ているのも楽しい。
3曲目の「Armor Break」では4人のダンスから色気を感じたのだが、シアターダンサーのパフォーマンスから放たれる大人の色気は、また別のもの。プライベートも含めて、普段のライブ会場では観たことがないステージだった。そして、ダンサーのパフォーマンスに引っ張られたのか、4人の歌とダンスもますます熱く力強いものになっていく。普段は可愛く綺麗な歌声の夏目さんが、高音を維持したまま力強く「進めー」と叫んだ場面は特に印象的だった。
遊び心満点でダンサーのパフォーマンスとも相性ぴったりな曲「ギザギザコミュニケーション」では、夏目さんが特技のボイスパーカッションを披露。バーチャルな空間から届くリズムに乗せて、リアルな舞台でダンサーが舞う。これまた観たことが無い不思議な関係性のステージが生み出されていた。
11曲目は、えのぐの魂の曲「BRAVER」。比較的抑え目のアレンジで、メロディーの印象は大きく変わらないが、爽やかに響くホーンの音が華やかさを加えている。熱いアイドル活動を続ける4人には、いつもの熱い「BRAVER」がとてもよく似合うが、爽やかで青春ソング感をさらに増した「BRAVER」も新鮮だった。
12曲目の「スタートライン 2022ver」でライブがクライマックスに差し掛かったことを感じていると、白藤さんが「ラスト3曲、声は出せないけど、心の中で全力で叫べー!」と煽る。
続く「絵空事」の後のMCでは、鈴木さんが、アイドル活動を引退する夏目さんへの思いを語った。
「2022年限りでハルちゃんはアイドル活動を引退します。でも。5年間一緒に世界一のVRアイドルを目指した毎日を私たちも皆さんも忘れないし、ステージに立っていなくても、アイドルを名乗っていなくても、ハルちゃんは私たちや皆さんの人生の中でアイドルです。だから、4人の世界一のVRアイドルを目指す航海はまだ続きます。絶対、世界一のVRアイドルになるので、一緒にVRアイドルの火を燈しましょう!」
MCに続く「燈し火」のラストでは、ホーン隊やシアターダンサーだけでなく、第一陣に出演していたフリースタイルバスケットボールプレイヤーも登場。えのぐや会場のファンと一緒に大きく左右に手を振った。
ライブ本編最後の曲は、11月にリリースした2ndアルバムの収録曲「僕らへの詩」。4人は、5年間の日々を綴ったような優しい楽曲を情感込めて美しく歌い上げた。バンドメンバーに続いて、えのぐの4人も退場すると、当然のようにアンコールを求める拍手が会場中から響いていく。
アンコールでは、夏目さんがメンバーへの手紙を朗読
アンコールに応えて、ステージに登場したのは夏目さん。優しくしっかりとした口調で、えのぐを支えるファン、スタッフ、両親、メンバーたちへの思いを綴った手紙を読んでいく。客席のあちこちから涙を堪えているような気配を感じたが、夏目さん本人はずっと笑顔。ライブ前にPANORAで公開したインタビューで語ってくれた「笑顔で最後までアイドルらしく」という目標を完璧に実現していた。
手紙を読み終えた夏目さんは、「しんみりするのはここまで」と語って、「いでよ、あんずー」と叫んで、鈴木さんを召喚。えのぐの楽曲の中でも屈指のキュートさを誇るデュエット曲「午前0時のプリンセス」を披露した。王道のアイドルソングのパフォーマンスで、「アイドル夏目ハル」の存在感をさらに濃く焼き付けたあとは、鈴木さんと入れ替わりで登場した日向さんとのデュエット曲「僕たちの青春ロード」を熱唱。高校の同級生でもある二人の友情も感じる楽曲で、さらに涙腺がゆるんだ人も多かったはずだ。
4人が再集合してのMCでは、これまでえのぐのほとんどの楽曲で夏目さんが担当してきたハモリパートを2023年からは白藤さんが受け継ぐことを発表。2代目ハモリ担当としての意気込みを答えるとき、白藤さんは少し涙声になったのだが。すぐに立て直して笑顔に戻った。PANORAのインタビューでは「絶対に泣く」と諦め気味だった白藤さんも、「笑顔で」という思いは強かったようだ。
アンコール最後の曲は、第一陣で初披露されたばかりの最新曲「LIVE Ⅳ LIKE」。夏目さんが「これからの未来を」と歌いながら、白藤さんに何かを手渡すような動きをして、頷いた白藤さんは、そのすぐ後に鈴木さんと綺麗なハーモニーを響かせる。MCでのハモリ担当に関するやりとりが、そのまま重なるようなシーンだった。
5人のバンドメンバーやスタッフ、ライブを見守ってくれた人々に改めてお礼を述べた後、「以上、VRアイドルえのぐでした」といういつもの挨拶をして4人は退場。ところが客席の拍手は鳴り止むどころか、ダブルアンコールを求めるハイテンポな拍手に変わる。
そして、その思いに応えて、えのぐの4人がステージに帰還。白藤さんがイケボで語った「みんななら。もう1回アンコールしてくれると信じてたよ(笑)」という言葉には少し笑ってしまった。ダブルアンコールがあることは珍しいだけに、きっとかすかな不安は感じていたのだろう。日向さんが「このままみんながいっぱいアンコールをしてくれたら、ずっとライブ続けていい?」と尋ねると、白藤さんはすぐに同意。会場も盛り上がったが、鈴木さんが「私だってやる気は満々だよ?」と言いながらも、しっかりとツッコミを入れる。
5年分の思いを込めた4人でのダブルアンコール
「このアンコールの時間が本当に4人で立つ最後のステージになります。今、この瞬間から次にステージを下りる数分間に、私たち4人の5年分の経験も思いもすべて込めて出し切ります。この刹那が、鈴木あんず、白藤環、日向奈央、夏目ハル、4人の『Beat of Stellar』です。絶対に目を離さないでください!」
鈴木さんのMCに続くダブルアンコール最初の曲は、デビュー曲「えのぐ」。どのライブで、どのタイミングで聴いてもグッと胸に迫る曲だが、このタイミングでは完全に涙腺ブレーカー。涙声になりながらも必死に立て直して歌う白藤さんの姿や、きっと同じような思いを抱きながらも堪えているはずの鈴木さん、日向さん、夏目さんの思いを想像すると、さらに危険だった。
20曲目、4人の自己紹介曲「e☆Jump!→Dream!!」で、楽しくハイテンションなパフォーマンスを披露した後は、一気にギアを変えて2度目の「僕らへの詩」。サビでは、夏目さんが一人一人のメンバーと順番に向き合いながら歌声を重ねていく。
「アイドルになって良かった! この4人で活動できてよかった! 幸せだった! そういう気持ちを全部込めて歌います。聴いて下さい、『LIVE Ⅳ LIKE』!」
ついにこの曲で終わってしまう4人のえのぐによるライブ。しかし、4人のパフォーマンスからは、寂しさや悲しさはまったく感じられない。いつもどおり全力で熱く楽しいえのぐのライブだ。鈴木さんは最後の最後に『ステージに立つ人数は変わりますが、これからもえのぐをよろしくお願いします』と叫び、会場には大きな拍手が鳴り響く。
鈴木さん、白藤さん、日向さんは、ひとりずつ夏目さんとハイタッチをしてから退場。ステージに残った夏目さんは「本当に、本当に、ありがとうございましたー!」と叫び、深くお辞儀をすると、笑顔のまま大きく手を振りながらステージを下りた。すると、ステージには、大きなフラッグが出現。そこには観ているだけでこちらが笑顔になりそうな夏目さんのイラストと「ハルちゃん大好きだよ」という言葉、そして、メンバー一人一人からの愛にあふれたメッセージが書かれていた。
「いつも優しく支えてくれてありがとう。ハルちゃん大好きだ!!!! 鈴木あんず」
「一緒にアイドルできて、えのぐになれて良かった!!! ハルちゃん大好きよぉぉぉぉ 白藤環」
「ハルと一緒にえのぐになれて楽しかった!ありがとう 日向奈央」
最後の瞬間まで笑顔で、アイドルとしてのラストライブを楽しみ、ファンを楽しませてくれた夏目さん。アイドルとして活動する姿をもう観ることができないのは、本当に残念なことだが、アイドルのときと同じく新しいフィールドでも、さまざまな挑戦をしながら成長し続けていくことだろう。
もちろん、アイドルとしての活動を続ける3人も、これまで同様、いやおそらくは、これまで以上の熱量で「世界一のVRアイドル」への道を突き進むはず。3人体制になったことで2代目ハモリ担当に就任した白藤さんのように、新たな変化は確実に生じるはず。海外公演も決まっている2023年。新生えのぐの本格的な始動が楽しみだ。
●「大絶響祭 2022 WINTER ☆ Beat of Stellar」第二陣セットリスト
M01. Brand new stage
M02. ショートカットでよろしく!
M03. Armor Break
M04. Welcome to Live
M05. Possible
M06. Too good
M07. one and only
M08. Dreamin’ World
M09. Defiant Deadman Dance
M10. ギザギザコミュニケーション
M11. BRAVER
M12. スタートライン 2022ver
M13. 絵空事
M14. 燈し火
M15. 僕らへの詩
*アンコール①
M16. 午前0時のプリンセス
M17. 僕たちの青春ロード
M18. LIVE Ⅳ LIKE
*アンコール②
M19. えのぐ
M20. e☆Jump!→Dream!!
M21. 僕らへの詩
M22. LIVE Ⅳ LIKE
●配信情報
・視聴ページ
第一陣:https://live.nicovideo.jp/watch/lv339349141
第二陣:https://live.nicovideo.jp/watch/lv339357533
・チケット価格(税込):各4800円
・配信チケット販売サイト:https://dwango-ticket.jp/project/tGUQ52jNIr
・チケット販売期間:12月16日(金)18時00分 ~ 2023年1月25日(水)23時59分
・タイムシフト視聴期間:2023年1月26日(木)23時59分まで
(Text by Daisuke Marumoto)
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