ファッションブランド・fale展示会「WNDRER」レポート リアルやバーチャルの曖昧な境界を漂泊する旅

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ファッションブランド「fale」は2月24〜26日、ブランドとして2回目となる展示会「WNDRER(ワンダラー)」を東京都渋谷区「CLspace Shibuya」で開催した。

faleが販売している服やアクセサリなどは公式サイトで購入できるが、展示会では実際に見たり試着できるほか、faleの世界観そのものを体験できた。今回、展示会を体験、取材したのでレポートしていく。

取材を通して、販売されているアイテムの型紙データが公開されていて、二次創作を楽しんで欲しいと言っていたのが印象的だった。聞いたところによると、Blenderにデータを持っていけばVRChatのアバター用の服にすることも可能だという。こんな面白い展開をしているファッションブランドがあるなんて知らなかった!


faleとは

faleは、VRプラットフォームSTYLYのデザイナーでxR × Fashion領域で活動するawaiさんが中心となって生まれたファッションブランド。

ブランドコンセプトは「多層化していく社会で、フィジカル、デジタル、ナラティブを漂泊し、身に纏う人を拡張する装いをデザインする」。一見すると難しく感じるが、販売されているアイテムにその精神性が宿っている。「Module」(モジュール)、「Layer」(レイヤー)、「Interface」(インターフェース)と名付けられたアイテムがブランドの中核を担っているが、これらはボタンで袖や襟が着脱式になっていたり、重ね着することが前提のアイテムとなっている。例えば職場や友達と遊ぶときなどのTPOによって話し方や態度を変えるように、装いもまた場によって変えることができるという拡張性があるということだ。


二次創作を楽しんで欲しい faleが目指す服と人間の曖昧な関係

CLOデータのダウンロードページ・スクリーンショット

faleのオフィシャルページでは、実際に販売されているアイテムのCLO(クロ)データが無料で配布されている。CLOとはアパレル向けの3Dモデリングソフトのことで、faleのアイテムもCLOで作られているという。つまり販売している服の設計図を配布しているということであり、なんと、ガイドラインで許容されている範囲内での二次創作が可能とのこと。

ガイドラインでは一般的な二次創作と同様の用途での使用が許容されており、例えば襟や袖が着脱できるコート「Module_Coat」のCLOデータを利用して自分好みの袖を縫製したり、CLOデータをBlenderにインポートしてアバター用の衣装にしてもいいという。オフィシャルページにはCLOの使い方を紹介するページも用意されているので、興味がある方は触ってみると楽しいかもしれない。

CLOの面白い点として、リアル側のものをデジタルで利用できるし、デジタルデータとして作っていたものをリアル側に橋渡しできるというところがあるという。awaiさんによると「作る人と着る人の境界も曖昧にしたい」という意図もあるとのこと。

近年、ファッションブランドがブランドアイテムを纏ったオリジナルアバターを販売するケースも出てきた中で、メタバースやVRのアバター文脈から見ても、かなり自由なファッションとの関わり方に感じた。

ここからは、WNDRERの展示内容について紹介したい。


世界を漂泊する旅「WNDRER」

展示会のタイトルであるWNDRERとはブランドコンセプトでもある漂泊をする「漂泊人」を表現しているという。それは、帰る場所があって旅をすることではなく、定住する場所を持たない人が旅をし続けることであり、リアルにもバーチャルにも定住せず、何かを探しながら旅をしているという自由な考え方が体現されている、素敵なコンセプトだと感じた。

ミューズのアクリルスタンド

本来、ファッションブランドの発表ではブランドのコンセプトを体現する人間像としての「ミューズ」をモデル務め世界観を表す。faleはバーチャルに拡張されているブランドということもあり、バーチャルに寄っている方イメージとして伝わりやすいという考えから、WNDRERの世界観を体現するミューズとしてEn(エン)Ill(イル)という二人のキャラクターが作られたという。

例えば「歌い手」はリアルな身体を持った歌手であるが、顔を出さずにイラスト越しに活動しているし、ライブでは自身が登場することもある。 そのような、どちらにも行ける自由さや曖昧さがfaleの目指す世界観だという。


ARで拡張されるブランド体験

拡張される「窓」

awaiさんによると、faleが表現する世界観を体験するために、洋服やイラストで表現する中のひとつとして、ARコンテンツも展開しているという。これは「ブランド体験を拡張する」という意味での「AR(Augmented Reality / 拡張現実)」とのこと。

ARコンテンツはSTYLYで作成されており、STYLYMobileアプリで体験可能。

窓に近づくと、床の方にWNDRERの旅のお供キャラクター「NKMT(ネコマト)」が現れ、「Are you a “WNDRER” ?」と表示されるので、「YES」をタップするとWNDRERとしての旅が始まる。

現実の窓がバーチャルに拡張され、faleのコレクションが表示される。左右の矢印をタップすることで、さまざまなスタイルを鑑賞できる。

拡張された世界はポスターのイラストをもとに作られている。ポスター前でイルがコレクションをスマートフォンで見ている様子が見て取れるが、近づきすぎるとイルがいなくなってしまう。

その儚さがちょっと楽しい。

旅のお供であるキャラクター「ネコマト」。二人のミューズもそれぞれ伴っているが、ほかのネコマトの中から、自分好みのネコマトを探すことができる。


展示全てが世界観の構成要素

awaiさんによると、ARを体験することでブランドの世界観を体験できたり、イラストの世界観とARコンテンツがリンクしたりすることで全てが密接に関係しあっており、WNDRERというナラティブ、つまりfaleが創造したキャラクター達が生きている世界「そのものを着れる洋服」というイメージで製作しているという。

WNDRERではARでの展示もあり、キャラクターとして描かれたミューズもいる中、もちろん多数のファッションアイテムが展示されている。基本的には試着することができた。

フーディは袖が着脱可能
チェーンブレスレットを通すと、強めのアクセントになって面白い

特徴的なのが、同じ世界観ではあるものの、着る人やシチュエーションによって着こなしが自由になること。ジャケットやフーディの袖が着脱可能になっていたり、コートの襟が取り外せたり、ブレスレットを通す穴がついていたりする。

世界観を描いたキャンバスアート

また、世界観を表現した絵も販売されている。

聞いたところによると、展示に来る方はファッションが好きな方はもちろん、イラストや漫画といったカルチャーのフォロワー層も訪れるという。ファッションブランドの展示といっても服が展示されているだけでなく、さまざまな要素があり、WNDRERというナラティブのもと、あらゆる境界が融け合っている。

展示会はすでに終了したが、現在もfaleオフィシャルサイトで展示されていた各種アイテムの購入が可能だ。アイテムは受注生産方式で、購入期間は3月12日まで。もちろんCLOデータをダウンロードして二次創作に励むのもいいだろう。

(TEXT by ササニシキ


●関連リンク
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