【独占取材】バーチャルキャストはソーシャルVRに進化する──岩城CTO・山口CVOに聞く資金調達の理由

バーチャルキャストといえば、「ちょっと間違った未来をつくる」を標語にドワンゴとインフィニットループが2018年に立ち上げた企業だ(関連記事)。

VR空間においてリアルタイムでコミュニケーションできる「バーチャルキャスト」を始め、3Dアバターの標準規格「VRM」、アイテム・背景データのフォーマット「VCI」、VRMやVCIを各種VRサービスで利用するための流通プラットフォーム「THE SEED ONLINE」など、わずか1年半ほどの間に矢継ぎ早に新サービスを立ち上げてきた。

そして10月1日、なんと川上量生氏個人がバーチャルキャスト社に単独で出資するというニュースが飛び込んできた。一体、この資金調達で何を実現したいのか。同社のCTO・岩城進之介氏とCVOの山口直樹氏にインタビューしたところ、ソーシャルVRプラットフォームを目指すという壮大なビジョンが示された。

一度買ったアイテムを他のアプリにも持ち込みたい

──バーチャルキャストというとアバターを使った配信ツールのイメージが強かったですが……。

岩城 そうですね。ただ今後は、ぶちゃけるならVRChat的なソーシャルVRのほうに振っていきます。VRMをリリースしたあとに、色々な世界に持ち込めるアイテムや背景がほしくてVCIをつくりましたが、アイテムや背景だけあっても仕方ないので、きちんと世界まで設計しようと計画してきました。

 
──といわれると?

岩城 例えば、VRChatでバーチャルマーケットのようなイベントに参加して目の前で売っているアイテムがあったら、その場で買いたいですよね?

 
──確かに。

岩城 そして買ったら、そのアイテムを持ってオフ会に行きたいですよね。THE SEED ONLINEでは購入APIを用意していて、VR空間上から直接購入すると、買ったものが自分の持ち物として登録される。今のところはバーチャルキャストだけですが、将来的にはほかのアプリにも持っていけるようにしていきたい。

 
──バーチャルで一度買ったものが、他のアプリにも持っていける! すごくいいですね。

岩城 ただ、この話を実現するにはハードルがあって、自分が買ったアイテムは、買っていない他の人から見えるのかという問題が出てきます。つまり、同じ空間に一緒にいる他の人の環境にもアイテムのデータがダウンロードされないと表示できないわけです。この辺のつじつまを合わせなければいけない。

バーチャルキャスト単体で管理しているうちはいいのですが、横展開しようとするとSDKとして提供する必要がありますが、じゃあSDKを持っていたらどんなアイテムでも入手できてしまうのか。この問題を解決する必要がある。

とにかくやりたいのは、VR空間内で買い物をして、買ったものをそのまま持ち帰りたい!ということです。ライブ会場でペンライトを買ったら、その場で使いたいし、持って帰ってうちでも遊びたい。

 
──確かに。部屋に飾ったりしたい。

岩城 それが自分の家でも、外に行っても、ライブのサービスでも使える。他の誰かが持っているアイテムに興味をもったらやっぱり買いたいじゃないですか。それを実現したいわけです。これもアバターを含めてVRの中で買い物できたり、それを他の世界に持っていくエコシステムというのがすごく欲しくて、それをひたすらつくっています。

実はVTuberの配信ツールとして番組やライブで数多く利用

 
──そもそもバーチャルキャストがどういった流れで立ち上がったか教えてください。

山口 自分自身で生放送をしていて、どうやったら一番耐えうる形になるかというのを追求していってたら今のような形になった感じです(関連記事)。ちょうどVRの盛り上がりがあって、ドワンゴさんにも注目いただいて、じゃあ一緒にやりましょうということでバーチャルキャスト社を始めました。

それで配信ツールとして広がっていき、VRMやVCIなど、次々と新しい要素を追加していきました。これを配信だけで終わらせるのはとてももったいないので、今後は配信もできるコミュニケーションツールとして進化させていきたい。自分で生放送をやっていて思ったのが、一人だと話すネタが尽きがちなんです。でも多人数がいて、その空間でいろいろ会話できるコラボ番組だと進行しやすかったりします。

 
──当初からフレンドの空間にお邪魔する凸機能が備わっていたりとか、多人数を前提にされてました。

山口 バーチャルキャストの立ち上げ時に必須項目としたのが、自由にアバターを好きに入れ替えられるようにすることと、多人数が参加できるようにするということです。

 
──そのコンセプトが脈々と続いているからこそ、バーチャルキャストがVTuberのコラボ配信ツールとして定番の地位を築けたという。配信ツールとしての躍進はすごくて、VTuberのライブや番組で数多く活用されてきましたよね。

岩城 そうですね。Abema TVで放送していた「にじさんじのくじじゅうじ」などはバーチャルキャストを利用しています。

 
──技術にあまり詳しくないVTuberファンから見ると、異なる運営のVTuberが同じ生放送やイベントに登場しているのは何も感じないかもしれませんが、実はキャラを動かすシステムや設定が異なっていて、その差を調整しようとするとものすごい手間がかかる。そこにうまくVRMとバーチャルキャストがハマった気がします。

岩城 実はバーチャルキャスト社の中にも二系統あって、一般に公開しているバーチャルキャストのほか、「バーチャルスタジオ」というのもあります。VTuberムーブメント初期の2018年2月に配信したねこますさんの生放送がルーツで、あそこから脈々と続いているのです。

 
──ひょっとして2018年4月の月ノ美兎ちゃんの生放送もバーチャルスタジオですか?

岩城 そうですね。バーチャルキャストができる前からやっていたことで、あれもVRMを利用していて、VRMの実験場だったりします。VRMは、バーチャルキャストの構想と並行して立ち上げていて、机上で設計しても実用に耐えないものになるので、自分たちで使いながらつくっていたわけです。その実験場にしていました。だから一番最初のVRMフォーマットで作られた3Dモデルは、ねこますさんという。

 
──そんな歴史が!

岩城 そんな実証実験とフィードバックを重ねてVRMフォーマットはできてきたわけです。そういう意味で、実験場としての放送システムと、それをコンシューマー向けにパッケージ化したバーチャルキャストと二系統存在していました。

 
──電脳少女シロちゃんを起用した2018年のE3生配信も、業務用のシステムを使っていたという?

岩城 そうですね。ほかにも地上波のテレビ番組などにも使われています。

 
──配信だけでなく、リアルのライブでも使われていたり? 例えば、2019年のニコニコ超会議で開催したVTuber Fes Japan 2019のライブとかも?

岩城 それもスタジオのほうですね。ほかにも2019年1月に開催した樋口楓さんのライブ「KANA-DERO」も協力させていただきました。実は弊社としてさまざまなVTuberイベントを一緒につくってきていますが、でもあまり知られていなかったりする。同じように、バーチャルキャストもコミュニケーションツールとしていろいろなことが可能なのに、単なる配信ツールとしてとらえられることが非常に多い。だからわれわれがどこに向かっているのかをみんなに知ってほしいわけです。

 
──イメージ的には、当初は顔をだしたくない「生主」(生放送の配信者)が利用する感じで、業界の貢献度を考えると配信ツールという立ち位置だと思っていました。

岩城 立ち位置的にはそういうイメージかもしれませんが、VCIができてスクリプトが動かせるようになって、例えば、釣りやボウリング、対戦車戦みたいなゲームが遊べるように、やれることの幅がすごく広がったんです。われわれがコンテンツを作らなくても、ユーザーさんが作ってくれて可能性を大きく広げてくれています。

VRChatに出てくるアイテムは、アバターかワールドに紐づいている設定です。バーチャルキャストはそうではなくアイテムはアイテムとして独立しているので、例えば、シューティングゲームにしても、THE SEED ONLINEから好きな銃を探してもってきて遊べるわけです。これがアバターを作り直す必要はなくて、自分が好きなアイテムを取り込んで、みんなが集まってくるだけで実現できるのが新しい。FPSだったら、自分に弾が当たらないように鎧をつくってもいいだろうし……。

 
──えー!それはゲームバランス的にアリなんですか!?

岩城 それがありかどうかは集まっている人が決めればいいわけで、一つの世界に止まらず、自分たちの工夫でいくらでも拡張できる世界をつくりたい。これって考えてみれば、リアルの世界でも同じで、遊び場に行ったらその場にあるものだけ使わなきゃいけないというルールはなくて、自分たちが家からもっていったものを使って遊べますよね。それが今、バーチャルキャストの中ではすでに実現できていて、新しい遊びが開発されているわけです。もはや放送ツールといっている場合じゃなくて、かなりいろいろなことができてだいぶ成熟してきている。

ただ、放送ツールというスタート地点から始まってきているので、自分だけのワールドをカスタマイズする機能などはまだ不足しています。その辺を整備していきたいです。

VRならではのタイムシフト体験を

──その将来に至るために具体的にどんな取り組みをしていますか?

山口 今取り組んでいるのは音声品質の向上ですね。今まで同じ空間にいるユーザーごとに1対1で通話する仕様だったので、6人ぐらいが限界という感じだったのですが、今後はサーバー側に送ってミキシングする形式に変更するので、理論上、何人でもいけるようになります。

岩城 いままで人数が増えると、どんどん音声のトラフィックが増えて帯域を圧迫していたわけですが、サーバーに送ってミックスして戻すという形になるので、ぶら下がり放題です。

 
──人数の壁が取り払われるのは大きいですね!

山口 そうなんです。現状、人数を増やすためのボトルネックが音声の通信にあるのですが、そこを解消しようとしています。すると次にボトルネックになるのがレンダリング(描画)になります。

岩城 そこでレンダリングのネックはどう解消するかというと、THE SEED ONLINEにあるVRMをダウンロードする際、ポリゴン数を指定しているとその数値まで自動的に落としてくれる機能を実装しています。

山口 ほかにも、マテリアルとかメッシュとかバラバラなのをぎゅっとまとめて軽量化します。そのあと任意のポリゴンに調整してくれるわけです。

岩城 VRMにはヒントになる情報がいっぱい含まれているので、例えば一番重要になる表情だけは落とさないでリダクション(削減)する仕組みを調整してます。

 
──リダクションが必要になるそもそもの理由は、ユーザーによって動作環境が異なるからという?

岩城 それもあります。遅いマシンでは軽いモデルをダウンロードできるというのを動的にやってくれる仕組みを構築しています。

山口 あとは電子透かしで誰がダウンロードしたかという情報を入れていて、それがたとえネットに流出したとしても、誰がやったのかがわかる仕組みを入れています。

岩城 もうひとつ、冒頭でも触れたようにTHE SEED ONLINEのSDKを持っている人がなんでもデータをダウンロードできる状況になってしまうと辛いので、今、VRMをダウンロードする段階ではメッシュがランダムになるような仕組みを入れています。Unityに読み込んでもメッシュがぐちゃっとなっているのでメッシュが抜けないけど、レンダリングするとなぜか綺麗になるという。

 
──暗号化の仕組みをつくっているという。

岩城 スクランブルVRMといいます。これもサーバーサイドで処理しています。まとめるとメッシュやマテリアルの最適化、ポリゴンのリダクション、電子透かしの埋め込み、暗号化。それをずっとつくっていたわけで、これがようやく公開できる目処が立ってきたわけです。

 
──着々と整えてきたわけですね。

岩城 ずっとやってきてようやく下回りが整ってきたので、VRMが使える世界としてのバーチャルキャストがようやくできる感じになってきたわけです。

山口 実際今、配信ツールとしか思われていない節もある。niconicoのテレビちゃんがはいっているロゴのイメージが強いのかな、というところからいま再検討をしていて、「配信ができる」ツール、から、「配信もできる」ツールに変え、バーチャルキャスト2.0を12月に公開予定です。 何ができるかといえば、今は配信する人に対してスタジオが生成されてそこに誰かが来るようになっていますが、それをやめて、まず自分の部屋が持てて、その部屋で好きなことをできるようにします。その部屋を配信スタジオにしてもいいですし、VCIを使ってゲームができる遊び場にしてもいいという感じです。昔のインターネットを作りたいのです。

 
──おお! 思い返せば2000年前後、みんなホームページを作っていましたね。

山口 例えば、広田さんがホームページを作りました。山口もホームページを作りました。じゃあ相互リンクしましょうという感覚で、配信スタジオがあったり、ゲームがあったり、映画館があったりというそういうリンクの世界を広げていって、世界を構築していってもらう感じです。

 
──Yahoo Japan!のようなディレクトリ型で各世界にアクセスしやすい検索サービスもでてきそうですね。

山口 だから配信はその中の一つになります。そんな世界をバーチャルキャスト2.0を皮切りに構築していきたい。

 
──そういえば少し前のバージョンからバーチャルキャストにも、配信しなくても知り合いとコミュニケーションだけできる機能をつけていますよね?(関連記事

山口 そうなんですよ。でも全然浸透していない。niconicoのアカウントを持っていないとバーチャルキャストが遊べないと思っている方も多くて……。

岩城 なので、テレビちゃんの姿をロゴから外すところから始めようという。

山口 配信しなくても遊べるのに、自分は生主じゃないから関係ないという方も多かったりするんです。

 
──もったいない。

山口 まずはそこを変えていきたいです。さらにTHE SEED ONLINEでフレンド機能を追加して、それをバーチャルキャストでも使えるようにして、例えば部屋に権限設定して友達が何をできるのかを指定できる。で、権限設定をTHE SEED ONLINE側に持たせることによって、バーチャルキャスト以外のアプリでも適用できる仕組みを構築しています。

あとは冒頭でも触れたようにアイテムの売買もバーチャルキャスト内でできるようになります。例えば、自分の被っている帽子を「売り物です」と自慢しながら欲しい人に売り歩くとか。

 
──新しい!

岩城 ほかにも音声周りのシステムががらっとかわるので、いっぱい人が同じ空間に入れるようになるだけでなく、デスクトップモードのようなフルVRじゃなくても見るだけでカジュアルに参加するような参加がやりやすくなるんですよ。

 
──というと、例えばネットで知って、なんか盛り上がってるから手元のスマホでちょっとだけ見るみたいなことが簡単にできるという?

岩城 そうそう。そういう参加もしやすくなるわけです。バーチャルキャストの空間を神視点で俯瞰できる「箱庭ビューワー」と呼ばれるものも作っていたりします。要するに、VR空間に入ると、その場にいる人たちと話さなければいけないプレッシャーを受けますが、コミュニケーションをとりたいわけではなく単純に見たいだけの人におすすめです。

 
──面白い発想ですね。

岩城 いままでのストリーミングはカメラで切り取られた視点を見るしかなかったのが、その空間を覗きこむことができるようになる。

山口 もっといえば、ARKitやARCoreなどのスマホのAR機能を使って、見たい方向からスマホをかざすだけでバーチャルキャストの空間が見られるということを考えています。

 
──それはスゴい。

岩城 現状でもルッキンググラスにも対応しているのですが、要するに平面のディスプレーでも立体感を持ってバーチャルキャストの空間を体験できるようになるわけです。画面をつつくと何か干渉できたりとか、中と外でコミュニケーションできるようにもしていきたいですね。それとは別に、仲間内だけで遊びたい人は先ほどいったように閉じた交流もできる。色々なコミュニケーションができるように対応していきます。

 
──ソーシャルVRというとVRChatが存在感を出していますが、そこにガチで切り込んでいく感じですね。VRChatは自由度が高いですが、独自アバターを利用するためにUnityが必要だったりと、技術に詳しくない人にとって若干手順が複雑だったりします。

岩城 そこをバーチャルキャストでは、Vカツやカスタムキャスト、VRoidなどのVRM対応アバター作成ツールを使って楽にしていきたい。さらにバーチャルの部屋についても、もっと簡単につくれるように変えていきたいです。

 
──今までずっとやってきたことが、ここに全て集結しているという。

山口 あとはVRタイムシフトも実装します。

岩城 ずっと前から仕込んでいましたが、何を記録して何を再現すべきなのかという議論をしていました。

 
──単純に過去のVTuberライブなどの大きなイベントをもう一度体験できるようになるだけでも大きいと思いますが。

岩城 ただ、丸ごと記録した空間を追体験するだけだと、「うーん、だから?」となってしまう人もいます。われはれはもう少し遊べるネタにしてもらいたい。例えば、複数の登場人物が出てくる演劇を一人でやるとかにも使うとか……。niconicoと同じように、過去に訪れた人たちが折り重なって遊べるような空間を作っていきたい。

 
──いやー、それは面白い発想! 今までniconicoでコメントでやっていたことが、非言語的に行動でできてしまうという。

山口 はい。だからやってみないとわからないことについてどんどんチャレンジしていっています。

岩城 「それって面白いんじゃないか」という仮説を立てて、いろいろと試せるプラットフォームとして育てていきたいのです。いままでやってきたすべてが今に繋がっているので、ぜひ今後とも期待していただき、実際にバーチャルキャストを使ってください。

 
 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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