バーチャルキャラクターがビジネスとして期待される昨今、AITuber(あいちゅーばー、AIを活用したバーチャルYouTuber)の開発者たちが集結した座談会を開催。過去から現在、そして未来に向けた取り組みや機能、さらにはファン層の変化や新たなビジョンについて語りあった。AI技術の進化とともに成長し続けるAITuber業界の現状と将来像を探る、興味深いディスカッションをお届けしたい。
明渡隼人(あけどはやと):6年目のスタートアップ株式会社Pictoria代表取締役。VTuberが盛り上がり始めた頃に、もともとゲーム好きだったこともありバーチャル領域にコミット。斗和キセキなどのバーチャルYouTuberをプロデュースしつつ、2年半前にAIVTuber紡ネンをリリース。3月にAITuberプロダクション「AI CAST」を発表した。
あき:AITuberしずくの開発者。アメリカ在住。UCバークレーの研究者で、本業は自動運転の研究。ChatGPTに触れ、女の子キャラクターと会話する夢を実現すべく、AITuber制作に取り組んでいる。
玉置絢(たまおきじゅん):株式会社バンダイナムコエンターテインメント勤務のゲームプロデューサー。VRとAIの融合に興味を持ち、AIを使ったエンターテイメントを5年以上模索。YouTube上でゲーム実況をするAIキャラクター「ごらんげ」やガンダムメタバース上で活動するAIキャラクター「プロジェクト・メロウ」などを進めている。
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AITuber開発のきっかけと背景
──そもそも、どうしてAIでコメントに応答しながらライブ配信をするキャラクター、いわゆるAITuberを開発しようと思ったのでしょうか。
明渡 VTuberというビジネスが確立したことで、バーチャルキャラクターによるライブ配信がビジネスとして期待されるようになりました。そんな中で、バンダイナムコエンターテインメントの玉置さんと一緒にAIを使ったエンターテインメントについて共同研究をするようになり、紡ネンを通じてVTuberとの違いを研究・検証してました。
玉置 PictoriaさんがバーチャルYouTuberの斗和キセキさんをやっておられて、「サマーレッスン」などVRコンテンツの制作をしていた僕は同じVR業界にいる者として繋がりがありました。
あき 僕は対照的に、ChatGPTなどでAIが注目されるようになって、急にこの分野に参入した側です。プログラミングを通じて、AIキャラを表現したいと思い、開発を始めました。しずくも最初はLINE Botを使ったキャラクターからスタートしました。
──今みなさんがプロデュースしているAITuberについて教えてください。
明渡:紡ネンはデビューして、もう2年半が経過していて、暖かいコミュニティがあります。また、今年3月にAI CASTという(AITuberの)事務所を立ち上げ、最初のキャストとして2人組の魔法少女アイマインをデビューさせました。
あき しずくはリスナーからTwitterのリプライとして送ってもらった画像についてコメントしたり、歌を歌ったりと、新機能をどんどん追加しています。振り切れた発言は楽しんでもらえるみたいで、リスナーのコメントに対して全肯定したり全否定したりする配信もしたことがあります。とはいえ、毎回極端でもそれはそれでありがたみがなくなってしまうので、加減を研究していきたいと考えています。
玉置 バンダイナムコエンターテインメントでは、麻雀ゲームを実況配信しているごらんげ(ゴー・ラウンド・ゲーム)と、ガンダムメタバースにAIのキャストとして登場することを目標としたプロジェクト・メロウの2つを「プレイBYライブ」というプロジェクトとして進めています。ごらんげはAIキャラを通してゲームを遊ぶことがコンセプトで、「指示厨大歓迎」なラジコン感覚でゲーム実況配信を楽しむことが目的です。プロジェクト・メロウでは最初の実験として、ガンダムメタバースに関連してクイズ配信を行いました。(*指示厨とは、配信者に対してあれこれと指示するリスナーを表すネットスラング。人間の配信者に対しては嫌われる行為だが、そこをあえて歓迎するというコンセプト)
AIの技術的な壁はキャラクター性でカバー
──AITuber開発において難しいところはどんなところでしょうか?
玉置 ChatGPTのような言語生成をするAIと、ゲームをプレイするAIを組み合わせようとしたときに、腕前に合わせて喋ることを変えていかなきゃいけないんですよね。ところが、現状は別々の仕組みなので、連動させるのが難しい。
あき 言語モデルにゲームのルールを軸に腕前というパラメーターをフィードバックできればいいのだとは思いますが、それはもう研究レベルの話ですよね。
明渡 おっしゃるとおり、言語モデルは定量的な分析が苦手。解決策があれば僕も知りたいです。
玉置 定量的な不完全な部分はキャラクター性でカバーするのがいいかとは思っています。丁寧語しか生成出来ないなら、丁寧語でしか喋れないキャラにしたり。数字の扱いが苦手なら、数字の扱いがテキトーな性格にしたりですね。
──現在(取材時は2023年4月下旬)のAITuberのファンはどんな人たちだと感じていますか?
あき いまは技術寄りの人が多いですよね。プログラミングの経験があって自分でAITuberを作ってみたい人などもすごくファンに多いと思います。さらには、AIイラストでAIに興味を持った人も多くAITuberに流れている気がします
明渡 うちの紡ネンのファンは4パターンいまして。斗和キセキの時からPictoriaという会社のファンになってくれている人、人間による生配信には疲れて来たけど生配信を見るという習慣は残っている人、AIという技術好きな人、新技術の行く末を見守りたい人。どの層が増えるかはこれからですね。
玉置 ごらんげやプロジェクト・メロウに注目してくれている人は紡ネンのお客さんと重なる部分があると思います。AIに興味ある人が多い。VOCALOIDの進化と似ている気がします。最初のVOCALOIDのファンはVOCALOIDという技術に興味があって自分も使ってみたい人でした。それがだんだん、単純に音楽として好きだからVOCALOIDの曲を聴く人が増えていった。同じようなファンの発展があると思っています。
技術の裾野が広がることで、可能性が増えていく
──これからのAITuberの目指す姿とは?
玉置 弊社はゲームが得意な会社なので、カジュアルにだけゲームに触れたい人もYouTube経由で楽しめるような入口としてAITuberを活用していきたいですね。基本的にAIがゲームを遊んでくれているんだけど、時々自分もコメントでちょっとプレイに介入できるようなカジュアルさです。
あき 人間のような魅力を目指しつつ、人間にはできないことも探っていきたいですね。人間だったら同時に一人しか存在できませんが、AIなら同時に複数存在することも出来る。たとえばYouTubeでは日本語でコミュニケーションし、Twitchでは英語でコミュニケーションしたり。それらは裏では経験として統合されて成長していったり。
明渡 僕はAIが分からない人にも広がってほしいと思っています。今はAIだから興味を持ってもらえていると思うんですが、それがいつか当たり前になったとき、AIであることそのものはメリットじゃないはずなんです。だから、なにか実質的なメリットを提供して、そのメリットはAIという技術のおかげと評価されるべきだと思っています。AIであることを意識しないような、ただの面白いコンテンツになってほしいです。
──この先、着手してみたい機能はありますか?
玉置 ごらんげもメロウも現状は人間が書いたシナリオがベースになっていて、そのシナリオをどういうタイミングでどういうふうに出すかの部分が独自のAIになっています。まだChatGPTのような言語生成AIではないので、次は言語生成の要素を足していくことをやっていきたいですね。
あき どのコメントを拾ってリアクションするかのモデレーションは大事ですよね。バンダイナムコさんは企業としてそこを内製できているのは強みだと思います。しずくの開発で言えば、コメントの全体の流れを掴んで印象的な言葉を選んだりとかはやってみたいですね。あと、ゲーム実況をやりたいですし、他のAITuberとのコラボも考えています。
明渡 うちは「てぇてぇ」を再現したいって思いますね。アイマインを最初からコンビで出した理由でもあるんですが、単体で完結させるのではなく、キャラ同士の会話や関係値の魅力を見せていきたい。(※「てぇてぇ」とは「尊い」から転じたネットスラングで、主には女性キャラクター同士の仲睦まじいやりとりを指す)
──すごいスピードでAI関連の技術が発展していますが、今後、AITuber開発にどんな影響があると思いますか?
明渡 現在はAITuberの開発やプロデュースに力を入れていますが、いずれ誰でも理想のキャラクターが作れるように一般化したとき、その中で使えるツールだったりをちゃんと作れているといいなとは思っています。
あき 技術の進歩は良い方向にも悪い方向にも影響を与えます。良い方向としては、開発が加速し、新たな実現可能性が広がります。しかし悪い方向としては、開発の方向性が読みづらくなることですね。個人で頑張って時間をかけて開発したものが大企業の力で一瞬でひっくり返るかもしれない。でも、やっぱり最初にやった方が面白いじゃないですか。なので、まあやるしかないんですけども。このあたりのバランスですよね。
玉置 企業という組織で開発する難しさは、トレンドの変化に追いつくことです。組織力が重要で、技術のどの側面に焦点を当て、どのようなバリューを提供するかを考えないといけない。ゲームエンジンの話に近いと思っていて。ゲームエンジンの登場によって、エンジニアではなく、プランナーやデザイナーもゲームのプログラム部分に触れるようになった。同じように、AIのメリットをデザイナーやプランナーに享受してもらうことが重要だと考えています。
──この記事を読んで興味を持ってくれた人に、伝えたいことはありますか?
玉置:AITuber開発者が集まる「あいちゅーばーわーるど」にみんな来て情報交換してほしいですね。saldraさんという方が管理人です。
あき しずくには今後もいろんな機能とか追加したり、ユーザーとのインタラクションとかを重視して頑張っていくので応援よろしくお願いします。
明渡 いま弊社が作っているものは6月以降にどんどん出始めるので、ぜひ楽しみにしていてください。
(Reported by 松xR)
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