バンダイナムコエンターテインメントは8月26日、ベルサール秋葉原にて「ソードアート・オンライン」(SAO)のゲームに関するイベント「SAO ゲーム攻略会議 2023- CONNECTING –」を開催。
SAOのゲームシリーズが10周年を迎えたことを記念しての実施で、出演声優をはじめとする関係者を迎えたトークショー、物販、コスプレイヤーを迎えての撮影スポットなど様々な企画を展開した。
中でもXR専門のPANORAとして注目したのが、この1日だけしか提供しないという貴重な技術デモ「ソードアート・オンライン Revenge of the Gleam Eyes」。XR技術を活用してSAOの世界観を存分に味わえるコンテンツに仕上がっていたので、その魅力をレポートしていこう。
自分の手でSAOのメニューを操作できる!
SAOといえば、VR(人工現実感)やAR(拡張現実)をテーマに小説・アニメ・ゲームなどで展開されてきた作品だ。そのため、ここ10年ほどのXRムーブメントにおいても、何度もコンテンツがつくられたり、VRメタバース上でイベントが行われてきた。
特にXR技術はゴーグルやモーションキャプチャなどのハードウェアがめちゃくちゃ進歩するため、SAOではそのときどきで最先端のものを取り入れて、異なるアプローチで作品の世界観を再現してきた状況だ。ちなみにXRとは、VR/AR/MR(複合現実)などの「なんとかR」をまとめた総称になる。
その点でいうと、今回の「Revenge of the Gleam Eyes」は、一体型のVRゴーグル「Meta Quest Pro」(以下、Quest Pro)を使い、VRとMRを体験させてくれる内容だった。
ざっくり説明すると、プレイヤーは剣を取って作品でおなじみの第74層ボス「ザ・グリームアイズ」と対峙して撃破するという流れになる。筆者的には、
・一体型だから実現できる自由度
・扉を開けると切り替わるMRとVR
・素手とコントローラーの両方で世界に干渉
・みんなやりたかった(!?)ソードスキル体験
という4点が印象的だったので、一連の体験を説明しつつ細部にも触れていこう。
「Revenge of the Gleam Eyes」の試遊エリアは、ほかの場所とは異なり、造作物のみの謎の空間となっていた。最初に案内されたのはこのエリアの左手側にある壁で区切られた場所で、ここでQuest Proをかぶって所定の位置に立ち、MRパート体験を開始することになる。
ここでいい仕事をされていたのが、説明を担当するスタッフさん。長袖のローブをまとってQuest Proを装着した女性の方で、声を張った演技でプレイヤーが置かれた状況や次にすべきことを指示してくれたのだが、まずこの世界観に沿っての解説がとても大切だ。
というのも、出先でのVR体験(ロケーションVRという)というのは、いかにプレイヤーの気持ちをコンテンツの世界に入らせるかで没入感が変わってくるからだ。来場者は間違いなくSAOが大好きな方々だが、それでも大体の人は自分がVRゴーグルをかぶって別世界で熱狂している姿を冷静に想像するなど、恥ずかしがってフルの気持ちで遊べないことが多い。そうした気持ちをまずスタッフの演技で突き破って、自分を解放していい雰囲気をつくってくれるのが嬉しい。
そうして誘導されて、腕を前に突き出して手を広げると、ゴーグルが手を認識し、キリトのグローブ付きのCGの手が現れる。もう少し詳しく説明しておくと、プレイヤーはゴーグルをかぶっているものの、Quest Proの正面につけられたカメラで周囲がそのまま見えており、手の部分にCGの手に重なっている状況だ。そして手や指を動かすとCGも追従する(ハンドトラッキング)。こうした現実とCGを複合させた体験をMRといい、単純にCGが現れるARと区別して言われることが多い。
そして人差し指を出して空間を上から下になぞることでSAOのメニューを出現させて、また指でボタンを押すことで過去のザ・グリームアイズとの戦いの映像が目の前に無数に展開されて確認できるようになる。この辺、SAOファンとして見慣れた光景なわけで、コントローラーではなく自分の指で体験できることが感動だろう。
……と思いきやここで突然、ザ・グリームアイズが左側の壁を突き破って出現。巨体を揺らして右手側に抜けていった。ヤツを追うためにアイテムを準備するという話になり、奥にあるテーブルでポーションや転移結晶などを準備することになる。ポーションは口に持っていくと「ゴクゴク」という効果音と共に飲むことが可能だった。現実では何もない長テーブルを漁っている謎の人物に見えるが、MRの世界ではポーションが4つ並んでおり、自分の手で持ち上げることが可能だった。
結果的にこのパートはSAOのアイテムに触れ合えるだけで、特にゲーム結果に影響があるわけではなく、直後にMeta Quest Touch Proコントローラー」を両手に持つことで剣を装着することになった。
……のだが、この後ザ・グリームアイズと戦うことがわかっていたため、武器らしい武器が置かれていないことに焦り、せめてこれで戦おうと青いレンガのような転移結晶を両手に持って、「今回はずいぶんパワーで戦う感じなのね」などと考えて備えていた筆者だった。後から振り返るとちょっと恥ずかしなエピソードだ。
MRからVRへ、リアリティーの境界をまたぐ体験
お次は、このMRエリアを抜け出してVR試遊エリアに移り、いよいよ本編とも言えるザ・グリームアイズとの対決になる。
ここで面白かったのが、MRからVRに切り替わるという体験だ。具体的には、試遊エリアに見える扉まで歩いて行き、くぐると今まで見えていた周囲の光景から、ヒロインであるアスナが待っている第74層の世界に入り込むという感じになる。
さらっと自然にやってのけているが、PCにつなぐケーブルに縛られない一体型で、実用範囲の精度とカラーで周囲を表示してくれるカメラ機能を備えたQuest Proが昨年10月に発売されたことにより実現できるようになった体験でもある。
このMR→VRが上手いのは、今までVRが初めてという人に使い方を説明する際、ゴーグルをつけたままだとコントローラーが見えないため、どこを押せばいいのか直感的にわからなかった問題を解決できる点だ。そして特別な機材を追加せずにCGの「濃度」をいじって、完全にリアル〜完全にCGの間でXRの体験をデザインできる点でも新しい。
しかも「Revenge of the Gleam Eyes」は4人同時に体験できるコンテンツだが、ザ・グリームアイズと戦う際、お互いがぶつからないように、試遊エリアを4つに割って、プレイヤーごとに異なる位置に扉を表示させて自然に誘導していたのがスマートだと感じた。
そうこうしているうちに、ザ・グリームアイズが目の前に出現。VRだからこそできる「デカ過ぎんだろ……」と巨体を見上げているうちに、話が進んで大剣が振るわれてこちらに攻撃を仕掛けてくる。攻撃を受けてしまう前にスローモーションになってくれる親切設計なので、自分のコントローラー=剣を振って当ててガード(「パリィ」)。相手がひるんだスキに、今度はこちらがソードスキルを発動して反撃する……というのを繰り返すことになる。アスナも一緒に戦ってくれているはずなのだが、彼女を見ている余裕がないくらいの忙しさだった。
ここでも一体型VRゴーグルのよさが存分発揮されており、攻撃のたびにザ・グリームアイズがプレイヤーの周囲を飛び回るという仕掛けになっている。ロケーションVRに多かったPCにつなぐVRゴーグルでは、プレイヤーをぐるぐると回すような演出を入れるとケーブルのひねりが気になるところだったが、ケーブルレスなのでその辺の心配がないというわけだ。
ソードスキルの発動も、所定の準備動作をすると勝手に発動するという原作に忠実だ。プレイヤーが空間に表示されたポーズをとった上で右コントローラーのトリガーを引くと、ザ・グリームアイズのところまで一気に近づいてくれる。あとは剣を振ってざくざくダメージを与えればいい。
このポーズを取って攻撃するという点が、「キリトみたいなあれやりたかったよね!」的な要素でとてもよかった。正直に告白すると、久しぶりのオープンな場でのロケーションVR体験で恥ずかしがってしまったが、知り合いしかいない空間なら技名を叫んでいたかもしれないぐらいだ。
体験できるソードスキルもバリエーションがある。最初にプレイヤーに渡される剣は1つなので、ソニックリープ、バーチカル・アーク、ホリゾンタル・スクエアと片手剣のスキルしか発動できない。
ザ・グリームアイズを追い詰めていきアスナが一撃を加えた後、エクストラスキルの二刀流」が解放される。メニューを操作してもう1本の剣を入手し、最後はスターバースト・ストリームで決め──。シビれるほど完璧な流れだ。
ザ・グリームアイズを撃破するとアスナに感謝されて、最後にスコアとランクが表示されて体験終了となる。筆者は「SS」だったのだが、「SSS」まで用意しているとのこと。恥ずかしがらず、きちんとキリトになりきって素早く技を繰り出していたらよりハイスコアになっていたのかもしれない。
技術の進歩でSAOの世界がよりリアルに
今回の「Revenge of the Gleam Eyes」を体験していて思い出したのは、昨今のVRムーブメントの初期である2014年に米国のAnime ExpoにてOculus RiftのDK2(2世代目の開発キット)で体験したSAOのコンテンツだった(筆者の寄稿記事)。
このときモチーフにしていたのもザ・グリームアイズ戦だったが、当時はモーションコントローラーなどで戦える要素などがなく、一方的にアスナに助けてもらうという内容だった。あれから9年、キリトになりきって自分の手でザ・グリームアイズにトドメを刺せた。VRを取り巻く環境は劇的に進化していて、ゲームの名作が進化したハードでリマスターされるように、バーチャルの体験も大きく変わっていくのだなぁと実感した取材だった。
コロナ禍によって、ゲームセンターやアミューズメント施設で提供されていたロケーションVRは壊滅的に減ってしまったが、PICO 4やVRXなどMRにも使える一体型VRゴーグルが増えている流れもあり、これからも新世代のコンテンツが登場してきそうな予感も受けた。
1日限りの体験だった「Revenge of the Gleam Eyes」。またの機会が用意されれば(してほしい)、ぜひ体験してほしい。
©2020 川原礫/KADOKAWA/SAO-P Project
©Bandai Namco Entertainment Inc.
(TEXT by Minoru Hirota)