ECサイト構築プラットフォーム「futureshop」を提供するフューチャーショップは11月10日にVRChat上に専用ワールド「FUTURE 20th SQUARE」をオープンした。
先日も横須賀市がVRChat上に公式ワールドをオープンしたり、カシオがBoothでアバター用のG-SHOCKのモデルを販売するなど、2023年はさまざまな企業によるVRChatを基点とするカルチャーに沿った展開が活発だ。ECサイトとはインターネット上で買い物ができるウェブサイトを指すが、今回ワールドをオープンしたフューチャーショップは、そうしたECサイトを開設できるプラットフォームを運営する企業だという。
横須賀市やカシオのように、自社のプロダクトや強みを全面に押し出したワールドをプロモーション的に活用する企業や団体はあったが、そういったものを持たないプラットフォームを提供している企業がVRChatという別のプラットフォームにやってくるとなると、少し話が変わってくる。
サービスリリース20周年という節目を迎える「futureshop」がその記念としてVRChat上にオープンしたのは、その社名の通り、未来の買い物の姿として「メタバース上で買い物できる未来」を表現したものだという。当日オープニングイベントで登壇した星野社長によると「今はまだネット上で思い出を作りながらショッピングはできないけど、バーチャル空間ならそれが可能かもしれない」とのこと。
もちろん現在のVRChatでその場で決済するような仕組みがないため本当の意味での買い物はできないが、ECサイトのプラットフォーマーが想像する「未来の買い物体験」とはどういったものなのだろうか?
オープニングイベントでのワールド巡りを通じて紹介したい。
FUTURE 20th SQUAREでの買い物体験
「FUTURE 20th SQUARE」はヨーロッパの広場で開催されるクリスマスマーケットのような、きらびやかで温かい雰囲気のワールドで、そのメインは未来のショッピングの姿を体験できる「体験型バーチャルポップアップ」にある。ショップは全部で6店舗あり、そのすべてにVRChatならではの異なるギミックが実装されているところが面白い点だ。
たとえば伊藤久右衛門のブースでは、人気メニューのパフェバーを作る体験をすることができる。このギミックがかなり凝っていて、冷蔵庫からバーを取り出し、ソースやクリームを塗ってからフルーツをトッピングして完成するというものになっている。もちろん、完成したパフェバーを食べるギミックも実装されている。
なんと当日デモンストレーションを行ったのは、伊藤久右衛門ウェブ事業部部長。部長職という、決裁権も持つような役職の方がVRChatに自らやってくる様子には、否が応でも感銘を受けてしまった。
このほか、格之進、京橋千疋屋、治一郎、北海道 北釧水産、モロゾフの店舗があり、全部で6店舗並んでいる。そのすべてに異なるギミックが実装されているところが見どころだ。
バウムクーヘンを手回しで焼くギミックや、かにしゃぶを作るギミックなど、かなり細部までこだわって作られているため、是非、親しい人と遊びに行って楽しんで欲しい。
これらのポップアップショップはギミックが楽しいというのもあるが、人参の立体的な切り方や豆腐の角の微妙な丸みなど、モデルが細かくできている点は見ていて純粋に楽しい。
現時点ではワールド上に通販ページへのリンクなどがないため直接買い物をすることはできないが、VRChat上のギミックで遊んで興味を持ったらぜひ、お店の名前を検索して通販で購入して欲しいとのこと。
取り寄せしたうえで、ワールドで集まった友達同士で食べるというのも楽しいかもしれない。
遊覧飛行、花火、クリスマス。きらびやかな世界観を楽しめる
ポップアップと並んで「FUTURE 20th SQUARE」で楽しめるものとしてライドコンテンツがある。ワールドの上空を気球や飛行船などの乗り物が飛んでおり、上空から観覧飛行することができる。
乗り物内部にある椅子は高さや方向を操作できるようになっているため、いろんな方向を見たり写真を撮ったりすることができるのも嬉しいポイント。写真左にあるボタンを押すことで、ワールド上空を飛んでいる乗り物が発着場に現れる。
全部の乗り物に乗ると何かが起きるという嬉しい仕掛けもあるという。遊びに行った際はぜひ全制覇してみよう。
広場にある噴水の近くにコインとインゴットがあり、それを両方投げ入れると噴水が輝く演出も。メダルとインゴットそれぞれひとつだけではこのインタラクションは動かないため、二人で投げ入れるという事になる。
会場内ではタイミングが合えば花火も上がる。広場の中心の聖堂のような建物の上に上がる花火はとにかく綺麗で楽しい。
美しいイルミネーションや花火を楽しむワールドはもちろんここだけではないが、二人乗りの遊覧飛行や二人で動かす噴水のギミックなどを楽しめるクリスマスマーケットなど、ここまでリア充的な雰囲気のワールドになっているのは特筆すべきポイントだと感じた。
Eコマースで実現できなかったことが、バーチャルならできるかも?
取材したオープン初日には、Kuさんと初吹音さきさんによるオープニングミニセッションが行われるなど、出だしからクリスマスムード満点。イルミネーションも相まって、特別な時間を感じさせる素晴らしい演奏だった。
オープニングイベントで登壇したフューチャーショップ代表取締役の星野さんによって、20周年を記念してワールドをオープンしたことや、「なぜVRChat上に記念ワールドを作ったのか」について話があり、星野さんが「まずはこちらを見てください」と会場内で流した動画が以下になる。ワールドを紹介した動画になるので、どんなワールドか興味がある方はぜひご覧いただきたい。
現地ではカップルがデートを楽しむような様子に「デートスポットだ、素敵」という声や「おいおい随分と楽しそうじゃないか!」といった声が上がった。
正直に言うとVRChatではあえて避けられてきた見せ方のようにも感じたが、司会進行のモーリーさんも「充実した映像に心の声が漏れている方もいましたけども、みなさんの気持ちも代弁しつつ、昔を思い出して胸がキュンキュンしました」と感想を述べた。
それを受けて星野さんはこのように続ける。
「待ち合わせをしてデートをした思い出や、あの時お揃いで買ったマグカップを今でも愛用してるなあ、とかありますよね? 我々は20年、Eコマースプラットフォームを開発してきてるわけですが、この20年でウェブの技術が驚くほど進化してきました。Eコマースはどんどん利便性が高くなり、表現力も上がってきましたが、ウェブやスマートフォンでもどうしても実現できなかったことがあります。
それは、ネット上で思い出を作りながらショッピングはできないということです。でも、バーチャル空間ならそれが可能かもしれない。その思いが、このプロジェクトに私たちを駆り立てました。
ここで待ち合わせをして、美味しいスイーツやお料理を家族や恋人と楽しみながらお買い物をしていただく未来。そんな未来を“妄想”するために作られたのがこの、FUTURE 20th SQUAREなんです」
なんて熱い想いが込められているんだと感動してしまった。プラットフォーム側の企業がなぜVRChat上にワールドを作るのだろうと思ったが、インターネットによって場所から解放され便利になった「買い物」というものに再び、思い出に紐づく「体験すること」を組み合わせられるかもしれないという願いを、VRChat上にワールドとして表現したものだったのだ。
現在、スマートフォンアプリで数回タップすれば、早ければ翌日には宅配ボックスに届いてしまうほど買い物は便利になったが、それゆえに「あの時の思い出のマグカップ」のようなものがどんどんなくなってしまっている。しかし、バーチャル空間で待ち合せて街を散策しながら買い物できるようになった未来は、家にいながら遠い都市の海産物を買ったり、一緒に花火を見て思い出を作ることもできる。
リア充との対極にあると思われがちなメタバースに「体験することで思い出を作れる場」としての可能性を追求して作られたのが「FUTURE 20th SQUARE」というわけだ。
最近では、担当者がVRChatにハマっているがゆえにVRChatユーザーに刺さるプロジェクトを発表する企業が出てきたが、質疑応答の中でなんと星野さんが実は「Second Life」15年来のヘビーユーザーだという話が出た。言うなれば、バーチャルカルチャーの古参とも言える方だったからこその企画力だったと感心してしまった。
どんどん便利になっているインターネットの買い物体験に、現実のお出かけのようなエモーショナルな部分を追加することが、20年間ECサイト構築プラットフォームを提供してきたフューチャーショップだからこそ追い求める、次の20年の新しい消費者との関係を模索するための場所として、これからもプロジェクトを続けるという。
(TEXT by ササニシキ)