七海うらら、2ndワンマン「Parallel Show “Prism”」豊洲PITフォトレポート 覚悟の歌姫が伝える本当のポジティブ

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エイベックスが運営するクリエイターエージェンシー・muchoo(ムチュー)は3月、所属するパラレルシンガー・七海うららの2ndワンマンライブ「Parallel Show “Prism”」を東京/大阪の2箇所で開催する。4日、その東京公演を豊洲PITにて実施し、約2時間、集まった観客を熱狂させた。

大阪公演を3月30日に控えており、ネタバレ防止のためにセットリストは伏せるが、さまざまなタイプの歌を見事に歌いこなす彼女の生歌に感動し、改めてライブ体験のよさを実感した。

「パラレルシンガー」の名に相応しい、リアルやバーチャルを行き来する演出にも驚かされた。VTuberのライブというと、LEDや透明スクリーンにキャラクターの姿を投影することが多いが、彼女は元から顔出しなしの生身とキャラクターの両方で活動することを明言しているスタイルで、ライブでもまず生身で登場。

途中、バーチャルの姿にスイッチしてカバーメドレーを歌った上で、リアル側を新衣装に「お色直し」し、リアル/バーチャルの姿でデュエットするという斬新なステージを展開していた。その際、「ワンオペやな」と呟いて笑いをとっていたのも印象に残っている。

2023年8月、渋谷Spotify O-WESTで開催した1stワンマン「Parallel Show」から7ヵ月。にじさんじも、ホロライブも、神椿も、数々のトップVTuberたちがライブを開催してきた豊洲PITのステージに立ち、ますます勢いづいている七海うらら。せっかくなので、彼女の魅力についても紹介していこう。


2023年を代表するVシンガーの1人

七海うららを一言で表すなら、力の源泉だろう。

エンパワーメント……この文脈では「自信を与える」や「力を呼び覚ます」といった意味で、彼女の歌声はリスナーの心に届くことで、眠っていた勇気を奮い立たせて、困難な状況にも立ち向かわせるくれる。

その理由は2つあり、まず本人も「七色」と呼ぶさまざまなタイプの曲を歌いこなす歌声の説得力があったうえで、彼女自身が乳がんのがんサバイバーで、闘病中にエンターテイメントに救われたという表現者になりたい強い動機も持っているからだ。


彼女がTikTokに動画投稿を始めたのは2019年11月。当初はバーチャルの体はもっておらず、ネットクリエイターとしてはよくある顔出ししないスタイルで、イラストや弾き語りなど幅広いジャンルを投稿していた。YouTubeでの投稿も始めた2020年からは、徐々に歌ってみたの投稿も増えていく。

ひとつの転機になったのが、2021年にエイベックスが実施したオーディション「こはならむ『迷えるヒツジ』楽曲カバー選手権」に応募して、グランプリを獲得したことだ。その副賞として、2022年4月にオリジナル楽曲「あたしワールド」をリリース。

Vシンガーとしてバーチャルの体を持つようになったのは2022年6月で、7月にはmuchooに加入。その後、YouTubeショートなどで一気に注目を集めてVTuberの活動半年でチャンネル登録者を約25万人増やした。

そこから2023年が怒涛の展開だ。5月に「ダイヤノカガヤキ」でエイベックスからメジャーデビューを果たし、6月に「Trigger」、7月に「Seventh Heaven」とシングルを3ヵ月連続でリリースした上で、8月に1stワンマンの「Parallel Show」を開催。「Seventh Heaven」は題38回東日本女子駅伝のテーマソングに、11月の4thシングル「茜光」が「世にも奇妙な物語’23 秋の特別編」の挿入歌にそれぞれ起用されるなど、メディアの露出も増えていく。

PANORAでも4月に2023年に注目しているVTuberの1人として紹介したことがった。同じ4月、ニコニコ超会議のVTuberライブ「VTuber Fes Japan 2023」で存在感を示したこともあって筆者もこの頃から聴くようになり、「ダイヤノカガヤキ」や「Seventh Heaven」といった正統派な曲調だけでなく、「ガールズストラテジー」や「のんすとっぷらいふ!」のようなコミカルなオリジナル曲もあり、不思議な魅力があるVシンガーという認識を持っていた。

リアル/バーチャルの両方で活動しているというのも、当時としてはまだ新しかった。VTuberの業界は、始祖であるキズナアイの時代から「魂の人」(演者)を表に出さない慣習があったが、彼女は「パラレルシンガー」を名乗り、顔こそ出さないものの最初から生身での活動を前提としていたのが印象的だった。


誰かを勇気づけるアーティストとしての覚悟

そうしたVシンガーとして飛躍していく中、筆者が違う角度で彼女を見ることとなったのが2023年9月、ピンクリボン運動のオンラインイベント「もっと 知って 乳がんのこと」への出演だった。そこから2019年3月、乳がんになって片胸をすべて摘出したことを知り、当時の闘病生活を綴ったブログに行き着いた。

若くして理不尽で超えられない壁に当たったときの絶望というのは、外野がこんな文章でさらりと書いていいわけがないほど深いものだったはず。手術に臨む前手術が成功した日無事に退院と、入院中の投稿を読んでいるだけでもその大変さが伝わってくる。

そのブログの中で印象的なエピソードだったのが、死の淵にあってもファンのためにプロを貫いた「推し」の存在だった。

LDHの音楽やアーティストが好きでよくライブに行っていたという彼女。そんなLDHで2018年、「FANTASTICS」に所属していたダンサー・中尾翔太が22歳の若さで胃がんで亡くなった。彼が最後のブログに綴っていたのが、EXILEの「Turn Back Time feat. FANTASTICS」の紹介と「この歌を聴いて、僕と同じく、病気と闘っている方や、夢を追ってる方はとてもパワーがもらえる曲だと本当に心から思います‼️」という言葉だった。闘病する彼に自分を重ね合わせて、曲に力をもらって手術を乗り越えた……という話なのだが、そんな彼女だからこそ、誰よりも歌の力を知っているはずだ。


そして絶望の淵を見た人間だからこそ、アーティストとしての覚悟も違ってくるはず。

2022年8月、muchooの加入後に書かれた「第二の人生」というブログで書かれた

「身体はまだ動くのだから。
死ぬこと以外
かすり傷だろう。」

という言葉。そして歌い手ではなく、アーティストとして聴いた人が前向きになれる曲を発信していきたいという宣言。何かを強く信じることでその想いが行動の端々に現れ、やがては夢が現実として引き寄せられる──。

このブログ投稿後、彼女はYouTubeチャンネル登録者数が爆伸びして、メジャーデビュー、1stワンマンと、まるで物語の主人公のような快進撃を続けている。辛い状況にあった人に、埋め合わせのように幸せが訪れてくれるとは限らない世の中において、絶対に幸せになると決めた人の意思が起こした奇跡だ。


そうした流れを知っていると、メジャーデビュー後の曲の歌詞に綴られている言葉の重みが全く変わってくる。

「走れ 走れ 飛び込んでいけ
 私にしか救えない命の元へ
 ほら 伝えに行こう
 後悔が無い人生なんか簡単に作れるはずだ
 ”時は満ちた”まで待てるか 行け choice is mine
 憂いを捨てろ!」
(「Seventh Heaven」より)

Vシンガーをはじめとするネットでの活動は、誰でも手軽に始められるからこそ、多くの人に知ってもらうためには自分はどんな存在で、誰に何を伝えたいのかという立ち位置が大切になる。だから七海うららの歌う応援歌は、何かを成し遂げたい、逆境を切り抜けたい人にとって、圧倒的に本当の言葉として届くのだ。

豊洲PITのステージでも、実は前日に祖父の葬式に参加していたにもかかわらず、MCで辛いことがあってもこの空間にいることで少しでも忘れられるといいなと伝えていたのが印象的だった。一方で、トークは全然湿っぽくなく、ステージから「ブルーベリー食べてきたからみんなのことがよく見える」といった大阪のおばちゃんのノリというギャップが面白い。

今回の記事で興味を持った方はぜひ3月30日、松下IMPホールにて大阪公演が開催される。Vシンガーには珍しく、ネット配信なしというプレミア体験なので、ぜひ現地で参加して今勢いのある彼女を見ておいてほしい。

(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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