VTuberと音楽にまつわる環境・状況は、2023年から2024年にかけて大きな変動期に差し掛かっている。これは黎明期からシーンを楽しんでいる人、もしくは1年ほどの間でファンになった人でも体感している部分だろう。
シーンの潮流・社会環境の変化などを踏まつつ、潮流は大まかに3つに分かれ捉えることができそうだ。
1. 2017~18年に起こったVTuber四天王を中心にしたVTuberブームから、コロナ禍直前の2020年始めまで(第1次)
2. 2020年3月からコロナ禍によって「強制インドア生活」を強いられ、徐々に社会生活が戻ってくるなかで、にじさんじ・ホロライブが大きく支持されるようになった2022年まで(第2次)
3. コロナ禍にまつわる諸問題がクリアとなり、音楽ライブやイベント興行が復活、シーンの成熟によって新しいタレントが登場してきた2023年から現在まで(第3次)
こういった時期・年数を区切ってみつつ、タレント達や環境にも当然変化が現れている。
ホロライブ・にじさんじの躍進
まずトピックとして挙げたいのが、大手VTuberグループであるホロライブ・にじさんじが大きなファンダムを築き上げ、それまでのシーンでは有り得なかっただろう大規模会場を使ったイベント開催が続いていることだ。
それぞれ場所は幕張メッセ・東京ビッグサイトの2箇所で開催しており、筆者はそのどれにも取材として参加した。同会場で開催される著名な音楽フェスや即売会と比較しても遜色ないレベルだった。
ホロライブ・にじさんじに所属しているタレントらが快進撃をスタートし、星街すいせい、Mori Calliope、宝鐘マリン、葛葉、Nornis、ROF-MAO、緑仙らを筆頭にそれぞれが活躍を場を広げているさなかにある。
両プロジェクトが大きく飛躍するようになったのは、メジャー音楽レーベルと様々な形で契約・サポートを受けるようになったからであろう。
にじさんじとホロライブは以前からそれぞれ自社から音源を販売していたのが、にじさんじを運営するANYCOLORはユニバーサルミュージック内のレーベル・Virgin Musicとの共同音楽レーベルを2つ(Altonic Record/RFMO Record)立ち上げ、ホロライブを運営するカバーは同じくユニバーサルミュージックとの共同レーベル「holo-n」を立ち上げた。
その前から両社の所属タレントはビクターエンタテインメント、ランティス、ソニー・ミュージックレーベルズといった音楽レーベルに所属・音楽活動をしていたが、より「タレント・ファースト」に動けるような制作スタンスへと変わっていたことが伺える。その結果、にじさんじ・ホロライブともに所属タレントの音源リリース・関連ライブイベントの開催が劇的に増加。
この後に触れるが、この2つのプロジェクトから様々なヒットソングも生まれており、言うまでもなくシーンを牽引しているといっていいだろう。
追従するソロシンガー・グループらの台頭
ホロライブ・にじさんじが牽引しているあいだに、他のタレントらにも大きな変化が起こっていたことも、2つ目のトピックだろう。
活動している面々の男女比でいうなれば女性アーティストが多数の状況なのは昔から変わりないが、コロナ禍以前から活動をつづけてきた面々が、ワンランク上のステージへと乗り上がったのだ。
女性グループにまず目を向けてみると、えのぐ・まりなす・GEMS COMPANY・Palette Projectといったアイドルグループを筆頭に、ヒメヒナ・KMNZ・LiLYPSE・VESPERBELL・Marprilといったガールズグループも活動も存在感を強めており、オンライン・オフラインかかわらずさまざまなイベントに出演し、主催イベントも開催できるほどとなった。
つぎに女性ソロシンガーに目を向けてみれば、先日キングレコードからデビューを果たしたHACHIを筆頭に、音ノ乃のの、龍ケ崎リン、MaiR、朝ノ瑠璃といった面々がメジャーレーベルから音源をリリース。天神子兎音、富士葵らは一度メジャーと契約したのちに個人事務所を設立し、そこから音源をリリースするようになっている。
プロジェクト・事務所単位としても、KAMITSUBAKI STUDIO・RIOT MUSIC・Re:AcTなどが着実にメンバーを増やしながらファンダムを築いている。
とくにKAMITSUBAKI STUDIOの勢いはとても強く、武道館・代々木第一体育館といった会場でライブを開催してきたが、2024年をリアル会場ライブシリーズ「KAMITSUBAKI WARS 2024」をスタートさせており、この夏にはパシフィコ横浜でのライブを予定している。ここにホロライブやにじさんじに所属する女性メンバーが加わってくるのだから、頭数・拡散力・影響力はやはり図抜けてると言えよう。
最後に男性なのだが、ソロ・グループともに流石に活躍している面々は少ない。MonsterZ MATEとピーナッツくんといったヒップホップに影響を受けた2人に、トラックメイカーとして活躍するぼっちぼろまるも加わってくるだろう。ここに男性がメインにしたホロスターズやにじさんじの面々が加わるのだが、リスナーからの支持やそもそもの人数が違いすぎるゆえ、やはり女性タレント側が大きな存在感を放っている。
TikTokやYouTubeを通してヒットソングが生まれている
最後のトピックとしては、年を追うごとにヒットソングが生まれているという点にある。
これは「VTuberシーンが好きなファンの中で」という注釈がついてしまうような、シーンの内側でヒットするという手合ではなく、シーンの外側へと飛んでいくような優れたポップソングとしてのヒットである。
これはランキングチャートでの再生回数や販売枚数などではなく、TikTokやInstagramなどでの楽曲使用などを含めた影響力という点で、一般的なシンガーやバンドらとも比較しても負けないようなヒットソングが生まれているのだ。
さくゆい「さくゆいたいそう」
ぼっちぼろまる「おとせサンダー」
ピーナッツくん「刀ピークリスマスのテーマソング2022」
宝鐘マリン「美少女無罪?パイレーツ」
しぐれうい「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」
星街すいせい「ビビデバ」
HIMEHINA「愛包ダンスホール」
こういった動きに合わせて、彼らとともに多くの有名コンポーザー・ミュージシャンとの共作する機会が増えている。
Mori Calliope「I’m Greedy」(JP THE WAVYとの歌詞共作)
花譜「愛のまま」(くるり・岸田繁が歌詞・作編曲を担当。歌詞は花譜との共作)
Nornis「Transparent Blue」(亀田誠治による作詞・作曲・編曲を担当)
もちろんこういったコラボレーションを打ち出せる面々は限定的ではあるものの、「VTuberがシンガーやアーティストとして見られる」認識が広まっているのは事実であり、より面白い変化が見込まれるのではないかと思う。
このように大局を見てみると、シーンの潮流は「1周回った」どころか「2周も3周も回った」といっても過言ではない。音楽系バーチャルタレントやVTuberの音楽に、すこしずつスポットライトが当たっている状況なのだ。
そこで筆者は、音楽系バーチャルタレントやVTuberの音楽にフォーカスした新連載「Pop Up Virtual Music」をスタートすることにした。
最新リリースからの注目楽曲、または過去のヒット曲について触れたり、アーティストにフォーカスした内容を予定している。是非注目してほしい。
(TEXT by 草野虹)