2018年7月26日に「星乃めあ」名義で活動をスタートさせ、ゲーム実況に歌ってみた動画、そして歌配信を中心にこれまで長く活動してきた。
2019年からオフラインのライブイベントに出演していくと、デビューから約2年後の2020年4月にファーストアルバム「START!!」を発表。2021年2月には「星乃めあ」から「MaiR」へと名前を変え、さらなる飛躍を目指した。
言うに及ばず、当時はコロナウイルスが世界中に広がり、感染拡大を防ぐために社会全体がさまざまな対策を強いられていた。それまでの日常であれば当たり前だったことすらも咎められ、あるべきだったイベントは見送られる。そのような状況で「アーティスト活動」が順当通りに行くわけがない。”本来あるべきだった”活動ができず、失意の内に活動をやめたアーティストは幾人もいるだろう。
そんなタフな状況においても、MaiRは歩みをとめなかった。
日々の配信活動、オンラインのライブイベントに出演、そしてオリジナル楽曲の制作・リリースを続け、「暴想INVENTION (feat. コーサカ)」「Shout My Life」を引っ提げたアルバム「paint the STAR」を2021年11月にリリースした。
そして2023年2月26日にビクターエンターテイメントよりメジャーデビューすることを発表し、4月26日にメジャーファーストアルバム「未完星」を発売した。それに合わせて、新衣装・3Dビジュアルが一新され、現在の青とピンクのウルフカットが特徴的なルックスとなった。
5月27日にKT Zepp Yokohamaで開催された「MaiR 3rd ONE-MAN LIVE ASTRO ROCK」も大きな盛り上がりを示し、カバー曲オンリー「衝動 – shodo -」や対バンイベントへの出演も果たしてきた。つい先日にはCampfireを通じたクラウド・ファンディングを成功させ、全公演入場無料(事前予約制)のライブツアー「ロックンロールスクールツアー2024」を6月末からスタートさせる予定だ(関連ニュース)。
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シーンの黎明期から現在まで活躍するMaiRのなかでも、いちばんに再生されている楽曲はなんだろうか。意外に思われるだろうが、アメリカ・カリフォルニアに拠点を置くクリエイター・チームOFFLINETVとのコラボ曲「BREAK OUT」である。
あるいは自身のYouTubeチャンネルにて続いている3D LIVEシリーズ「Shout My Live」にも引っ掛けた「Shout My Life」も彼女にとって重要だろう。
とはいえ筆者がここであげておくべきなのは、飛躍となったアルバム「未完星」発売前に6ヵ月連続シングルリリース、その第1弾となった「Survivor」だ。
SILHOUETTE FROM THE SKYLITのギタリストにして活動したのち、DECO*27の「ヒバナ」「アニマル」「シンデレラ」の編曲を担当するなど作曲家としてキャリアを積んできたRockwellが作詞・作編曲を担った1曲は、ラウドロック流儀の激しいギターサウンドとシャープなドラムサウンドのなか、MaiRのパワフルなボーカルが炸裂している。
「VTuberとして活動する前から音楽活動をやっていて。最初はネットカルチャーには詳しくなかった」と振り返るMaiRは、以前からNIGHTMARE、Acid Black Cherry、coldrain、SiMといったメタルの影響を色濃く残したロックバンドを、そして女性×ロックという視点からLiSAの影響を受けている。
「Survivor(≒生き残り)」というタイトルに思うところは多い。2018年に起こったVTuberブームから多くのVTuberが、彼女にとっての同期が消えていったこと。コロナ禍のなかで志半ばで活動を辞めてしまったり、あるいは命を落としてしまった者。
ねぇ 期待していた未来は?
ねぇ 約束された答えは?
ねぇ 色褪せた感情はどこに行ったの?
「生き残った者」としての歌い始めの言葉を読めば、その重みはイヤというほど伝わってくる。MiaRの歌声はアグレッシブなギターサウンドとともに自問の声のように響きながら、サビでは勇敢かつタフに生きるSurvivorのヴァイブスを高らかに打ち鳴らす。
一転、急転、突発的。脈絡がないわけではないが、突如として発せられるエナジーは「怒り」のようですらある。それは、歯がゆい思いを抱えていた数年、情けなさすらあった自分自身、いや「自分を塞ぐもの全て」への反逆か。いずれにせよ、この曲のハイボルテージのパワーは同曲リリース後のライブでは必要とされているようで、ライブ冒頭で歌われることが多いようだ。
VTuber~バーチャルタレントの音楽は、キュートさやクリーンさが求められ、表現されることが多い。だが、ある種のマッドネスや怒りを含んだこの曲のパワフルさは、それだけでも異端に見られるだろう。MaiRを知るうえで外すことのできない1曲に挙げられるはずだ。
(TEXT by 草野虹)
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