「Pop Up Virtual Music」第3回目に取り上げるのは、RIOT MUSIC所属のバーチャルシンガー・凪原涼菜(なぎはらすずな)である。
2020年9月13日にSNSに初投稿、19日に「アンインストール」のカバー動画を投稿し、活動をスタートした。
以来これまで4年近く活動を続けている凪原、彼女が所属するRIOT MUSICはいくつかのレーベルが立ち上がっており、道明寺ここあ、松永依織、長瀬有花ら20名近いシンガーが在籍している。実は凪原のYouTubeチャンネル登録者数は40万人を越えており、道明寺・松永・長瀬といった自身の同期や先輩を抑え、RIOT MUSIC内でYouTubeチャンネル登録者が最も多いのだ。
デビュー当初にはライブ配信も行なっていた凪原だが、現在はほとんどライブ配信はしておらず、歌動画を投稿することが専らである。そんななか、ここ1年で彼女が注目を集めたのはショート動画である。持ち前のクリアな声色、広い声幅を活かして、「多重コーラス」「5声コーラス」と称してさまざまな楽曲を表現していった。
メインメロディ以外のメロディやパートを声で表現してかみあわせた内容で、おおよそポリフォニーともいえよう。
その選曲も00年代から2010年代のアニソンやボカロ曲が中心となっており、歌動画のラインナップもそちらに傾向が偏っている。2024年4月には、声優、アニソンシンガー、2.5次元俳優らが参加するカバーソングプロジェクト「CrosSing」に出演して「甲賀忍法帖」を歌っている。
そんな凪原のなかから1曲を選ぶとするなら、筆者は「暁光」を選ぶ。読み方は「ぎょうこう」、暁という言葉が入っているように、夜明けごろの空の光を意味している。作詞・作曲を担当したのは、「天ノ弱」「残響」といったボカロ楽曲を制作し、luz、ウォルピスカーター、朝日南アカネといった歌い手・VTuberらに楽曲を提供してきた164だ。
弦楽器の音色、ボーカルのメロディ、コーラスが複雑に絡んでいくのがキモであり、リズムに比べてボーカルのメロディ・言葉の譜割りが大きくゆったりなっているので、実際のグルーヴと聴き心地に多少のギャップがあるというのも、この曲の重要な部分であろう。
サビ部分などでクリアな声色を全面に押し出した凪原のボーカルに対し、歌詞はまるで生きることへの後ろめたさを綴っている。前向きな気持ちで生きていきたいが、その実、過去の出来事に後ろ髪を引かれる、そんな妙なしこり・ギャップ・違和感が最後まで渦巻いている。
このギャップ・違和感は楽曲の構造から編み出されており、凪原のブライトな歌声だからこそ存分に魅力を発揮しているといえる。彼女はこの曲に対し「はじめて聴いたとき、生まれる前からこの曲を知っているような感覚がありました。そのくらい、わたしという1人の人間にフィットした楽曲です」とコメントしているが、彼女の声色・ボーカルテクニックなどを踏まえても、彼女の魅力を引き出すにピッタリではないか。
明るければ明るく、暗ければ暗く、聴いているこちらがビックリしてしまうほどに大げさなアレンジメントやボーカルで表現した楽曲は、実際多い。ある種の濃さ・大味さでリスナーの興味関心を惹くのは間違いない。
だが一方、細やかに、微細に、なにより繊細なタッチと力加減が求められる表現もあり、大味なだけでは表現することができない感情の行き来やヴァイブスもある。凪原の持つ声色とボーカルテクニックは、その繊細なタッチと力加減を十全に表現できるはず。
凪原は、自身が所属するレーベル・Meteopolisが6月9日に開催するイベント「Meteopolis Carnival」に、同事務所所属の神崎茜、初瀬川岬らとともに出演予定となっている(ニュース記事)。初の2部制ライブ「哉醒 -SAISEI-」でどのような姿・パフォーマンスを見せてくれるのだろうか。
(TEXT by 草野虹)
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