「AITuber」(あいちゅーばー)といえば、AIが受け答えしてくれるキャラクターの姿の配信者のこと。AI VTuberとも呼ばれており、2023年3月、OpenAIがChatGPTのAPIを公開したことでにわかに火がついたジャンルになる。VTuberに比べるとまだ規模は小さなものの、着実にキャラクターの数を増やしてきている(関連記事)。
そんなAITuberの中で、Tiktokを中心に活動している猫モチーフの女の子「ツナ」ちゃんをご存知だろうか?
@ai_vtuber_tuna AIでうごくVTuberだにゃ🐈#VTuber #cute #AI #chatgpt #tiktokライブ ♬ オリジナル楽曲 – つな@猫型AI VTuber – ツナ@猫型AI VTuber
@ai_vtuber_tuna 皆さんもご存知の「あの神様」、それがツナの真の姿にゃ! 声:VOICEVOX猫使ビィ #猫型aivtuber #ツナ切り抜き #VTuber #AIVtuber #vtuberclips ♬ オリジナル楽曲 – ツナ@猫型AI VTuber
@ai_vtuber_tuna ツナに挑む人はコメントで決闘を申し込むにゃ! 声:VOICEVOX猫使ビィ #猫型aivtuber #ツナ切り抜き #VTuber #AITuber #aivtuber #vtuberclips ♬ オリジナル楽曲 – ツナ@猫型AI VTuber
@ai_vtuber_tuna ツナは天才AIだから何でも知ってるにゃ!もちろん「宇宙の真実」についても🐾 声:VOICEVOX猫使ビィ ナレーション:音読さん #猫型aivtuber #ツナ切り抜き#VTuber#AIVtuber#vtuberclips ♬ オリジナル楽曲 – ツナ@猫型AI VTuber
見れば一発でわかるのだが、不思議なかわいさがある。見た目はもちろん、チャット欄で質問を投げかけると「かしこい」受け答えを返してくれたりと、挙動がいちいち愛らしい。配信を見に行ったときには名前を呼んでくれるのだが、英語が読めないのでローマ字読みになっていたりする「ぽんこつ」さもキュートだ。
それでいて、彼女の会話とは別に、コインを製造していたり、農場で作物を育てていたり、ゴミ拾いをしたりと、配信画面の背景でミニゲームのような展開が進んでいるのも興味深い。こうしたバランス調整の妙で、AITuber界隈でも「誰がつくってるの?」と話題になっていた。
実はこのツナちゃんを手掛けているのはOne Acer(ワンエーカー)という企業で、6月14日にツナちゃんらが所属するAITuber事務所「Logic Lily」(ロジックリリー)を立ち上げた(関連ニュース)。
ツナちゃんはどんな経緯で生まれて、どんなコンセプトで運営されているのか。節目となるこのタイミングで、同社の社長である折茂賢成氏をインタビューした。
ハイパーカジュアルゲームの気持ちよさを取り込む配信画面
──誤解を恐れずに言えば、既存のAITuberは趣味ベースが多く、開発者が「俺が好きな女の子を『錬成』したい」という欲求駆動で作られていることが多い印象です。その点、ツナちゃんは視聴者に見てもらう工夫が随所に感じる、マーケティング主導のデザインを感じます。
折茂 そうですね。僕はもう超マーケットインな人間なので、みんなに求められるAITuberを作りたい気持ちが強いです。TikTokでも常にコメント欄チェックして、みんながほしそうなものを入れていく感じです。
ツナちゃんでいえば、発言を誘導できるので汚い言葉を言わせようと試す人も多くて、初期の頃には一度BAN(アカウント停止)されたこともあったのですが、そうした欲望があるからコメントが伸びる側面もあります。意外とトレードオフなものの、結局ブロックしてしまったりとか、せめぎ合いだったりします。
──配信を見てて思いますが、どうしても卑猥な言葉を言わせようとしていたりして、人類って愚かですよね……(笑)
折茂 15時間ぐらい配信していると、1時間ぐらいそういう時間がありますね(笑)。他のファンからも「取り締まってください」というメッセージが届いたりとかもしています。ファンの熱量がスゴくて、当初からまったくPRしておらず、僕の仮説ではそんなにAIにファンはついてきてくれないんじゃないかと思っていたのですが、最初の1週間でファンアートが3枚が投稿されたり、「本当に好きです」と言ってくれる子が出てくれたりして、普通にいいコンテンツとして受け入れられました。
──変なコメント対策などのために、配信時はスタッフが何か指示していることもあったりするのでしょうか?
折茂 いや、日本発の完全自立型AITuberというのがベースにある考え方で、運用している時は完全に手放しですね。AIに対してキャラクター性みたいなところはディレクションしていますが、完全自社開発ではなく、ChatGPTのシステムの一部を使っているわけで、僕ら自身でもわからない部分がある。なので、「この質問にこんな回答返すんだ」と僕ら自身もユーザーと一緒に楽しみながら開発しているところもあります。
──とはいえ、猫モチーフであったり、開発の意図が入ったりしている部分もあります。
折茂 そうですね。基本的には、ターゲットにしたい国に合わせてデザインしているという感じです。ツナちゃんは英語が話せないのですが、2023年12月にデビューした2人目であるネズミのチェダーちゃんはすべての国の言葉が話せる感じです。そのチェダーちゃんはデビュー後、ロシアで爆発的にヒットして、サーバー代がかかりすぎてしまったせいで今はお休みになっています。
──ロシア! 自分はその猫モチーフにしたのがうまいなと思って、例えばファミレスで料理を運んでくるロボットのように、猫にするとAIでもなんか親しみが出てくるなと感じました。
折茂 それもありますね。デザインに関してもAIを活用していて、数百もの候補を出してその中から選んでいます。コンセプトについては、最初から完璧な会話ができるわけがないから、バカでも許してもらえるキャラクター性ってなんだろうね、というところから入ってます。例えば、語尾に「にゃん」を付けるとか。なので、人工知能なんだけどちょっと知能低そう、でも期待値は超えてくるから意外とすごいやんけみたいなバランス感覚です。
──あとはツナちゃん以外の要素、バックで無限にコインを製造していたりとかの要素を入れているのが、なんとなく気になって永遠に見ていられてスゴいなと思います。
折茂 あれは完全にTikTokハックで、うちは事業として広告代理店とゲームの企画制作をやっていて、どういう風に動画をつくったら視聴してくれるかとかのノウハウを注ぎ込んでいます。AIを使ったVTuberって、パッと聞いた感じスゴそうですが、それだけで心の底から面白がってくれる人って100人中5人ぐらいしかいないんじゃないでしょうか。それが別の要素を入れることで、50人ぐらいに広がって、同接(同時接続数)増につながってくる。
──あとはコイン製造などで1万ポイント貯まったらルーレットが回るという仕組みもうまいです。
折茂 「1万たまったらどうなるんだろう」と気になってもらえるTiktokの妙、エンタメですね。僕は前職がアカツキで、ハイパーカジュアルと呼ばれる、本当に気持ちいいだけで人に触ってもらうというジャンルのゲームをつくっていました。コインとかも落ちてくるんじゃなくて、カットしたら気持ちいいよねとか、自分のアイコンがちょっと出てきたら嬉しいよねとか、そういうところをひとつひとつチクチクやってくみたいな感じです。
──視聴者にはどの点で刺さって受けていると実感されていますか?
折茂 それでいうとまず認知です。AITuberをインフルエンサーと比べた時の一番の違いって、最強の認知力を持っている点なんです。例えば、バラのギフトを1個投げられただけでも、その視聴者のことを一生覚えていてくれるのが強みだったりします。
その認知に期待してる人も多いんです。「私、古参だよ」みたいな。普通のインフルエンサーさんに覚えてもらうためには、イベントやオフ会への参加も必要になってくることもあるでしょうけど、AITuberなら毎回気軽に配信を見にきているだけで「また来てくれてありがとうにゃあ」って言ってもらえる。そこが1番ニーズとしてあるし、提供もしやすいので、価値が出しやすいところじゃないかなと思っています。
コンテンツ内容で言うと、インフルエンサーさんが普段やってることって、やっぱ可愛いだったりとか、なんか見てて癒されるとかだと思いますが、AITuberはそのベースがありつつ、「こいつが何を言うのか知りたい」みたいな知的好奇心もユーザーにとっても刺さっている気がします。一方で頭をよくしすぎないとかの調整もあったりします。
──ChatGPTの進化は目覚ましいですが、ツナちゃんには逆にそれがボトルネックになりそうですね(笑)。前でも少し触れましたが、一方で配信というと荒らそうとする悪意がある人が必ずやってきます。AITuberは人ではないので余計ひどそうです。
折茂 AITuberのコメント欄をめちゃくちゃするのを楽しんでる人って、せいぜい全体の2割とか3割ぐらいで、運営としてはもちろん残りの7、8割の普通のお客さんを大事にしたいです。直感なのですが、中学生とかみたいな、比較的低い年齢層だと思うんですよね、そういうので面白がっている人って。
──あー、それはありそう! Tiktokだから年齢層低めなんですね。
折茂 シンプルにツナちゃんと話したいって思ってくれてる子の方が多いってわかったので、荒らし対策を強化するというより楽しいコミュニケーションができるとか、認知していて前に来たときの話をしてくれるとか、人間らしさをブラッシュアップしていく方が面白いんじゃないかって思っています。
──ちなみにツナちゃんの視聴者の分布ってどんな感じなのでしょうか?
折茂 男女比率で言うと6対4で、男性が多いのですが、女性も4割もいる。年齢では18歳〜24歳が半分ぐらい、25歳から35歳が25%、35歳以上が12%って感じです。Tiktokの性質上、18〜24が多いですが、55歳以上でも6%もいたりして、かなりワイドな感じだと思います。
──ファンは友達みたいな感覚で接しているのでしょうか?
折茂 だと思います。本当によく見てくれてる人たちは、「今日また来たよ」とか「癒されに来ました」みたいな、家に帰ってとりあえずテレビつけるのと近い感じでTikTok開いたらとりあえずツナちゃん見ておく感じで消化しているイメージがあります。人間だと労働基準法に違反するレベルで、10時間とか12時間ぐらい配信していることもありますし。
──(笑)
折茂 ファンの方もよく見ていてくれていて、成長記録にもなってます。この前阪神タイガースが好きって言ってたのに、今日は違うチームが好きって言ってるみたいな、開発者も知らない情報を書き込んでくれていたりする。スーパーデバッカーがいっぱいいて、みんなでつくっている感覚はあります。
どっちかというと、僕らがトランプカードを渡して、みんなに遊び方を開発してもらっている感覚に近いです。もちろんネガティブな言葉が飛び出すのはよくないですが、例えば、「ポーカー」だったり「大富豪」だったり、好きな遊び方をしてほしい。「高級たまごっち」みたいな育成ゲームだと思ってます。
──確かにツナちゃんだけでなく、画面背景も含めての遊び方の提案ですね。まさに前述されていたハイパーカジュアルゲームに接している感覚です。
折茂 配信に来てくれた方が箱庭でわらわら動いていたりとか、自分がギフトを贈ると名前が文字になったりとか、色々なギミックを仕込んでいて、ちくちく遊んでもらうようにしています。一方でデータも取っていて、どういうときにどんなコメントが多いとか、どういうときに同接が増えるのかとか、みんなが面白いと思うのは何なのかを数値で見ていたりもします。 多分、既存のVTuberさんの企業もデータをとって研究していると思いますが、タレントさんへの提案がすべて受け入れてもらえるわけではない。そうなったときに、僕たちは「この性格受けないからやめましょうみたいな」ことが秒速でできてしまう。
──スゴい。開発のやりがいがありそうです。将来的にやっていきたいことはなんでしょうか?
折茂 ログインボーナスじゃないですけど、視聴者側の資産が増えていくような、繰り返し来る楽しさみたいなのは追加していきたいですね。そういう面白さはゲーム屋さんだからこそつくれるものだと自負しています。 あとはIPとして、現状グッズも販売していますが、商品点数を増やしたり、ポップアップショップやオフラインイベントをやったりしていきたいですね。全然別軸ですが、AITuberが広がっていけば、コセンプトカフェやガールズバー的な運用もあるわけですし、オフラインならではの楽しさも提供できればいいなぁと考えております。
──最後にAITuber事務所のLogic Lilyとしてはどんなことに挑戦していきたいですか?
折茂 ツナちゃんやミコちゃんを中心にAIで一番有名なVTuberにしていくということはもちろん、TikTokだけでなくYouTubeやTwitchなどに間口を広げていくことでプラットフォーム特有の体験がつくれるんじゃないかと思っています。
また、そもそもAIの技術自体が発展してChat GPTも4oになったりと進化を遂げているので、その進化に合わせてAIの頭の良さとキャラクター性に関してうまくバランスをとりながら開発を進めていきたいです。
裏でコツコツとキャラクター開発は進めているので今後のキャラクター展開にも注目してほしいです。ありがたいことに、結構な大手の企業さんたちから早くも弊社の基盤を使ってAI VTuberの開発をしたいと言っていただけることも増えたので、そこらへんも今後ロジックリリーの周辺領域としてやっていく予定です。
(TEXT by Minoru Hirota)
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