期待の一体型MRゴーグル「PICO 4 Ultra」レビュー 装着&セッティングが15秒で終わるトラッカーも欲しくなるぞ!

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身体ごとVR空間にダイブできる感覚が見事です。

スタンドアローンのXRヘッドセット「PICO 4 Ultra」が新たに発表されました(ニュース記事)。2022年10月に発売されたPICO 4から順当なアップデートとなったこちらのモデル。アンダー10万円で購入できるXRヘッドセットとして気になっている方もいるでしょう。メーカーから事前にお借りした製品を用いて、PICO 4、Meta Quest 3の比較も取り入れながらレビューしていきましょう。


Quest 3+有料オプションのヘッドストラップつきに相当する

左からPICO4、PICO4 Ultra、Meta Quest 3を並べてみました。

PICO 4PICO 4 UltraMeta Quest 3
価格4万9000円8万9800円7万4800円
プロセッサーQualcomm Snapdragon XR2Qualcomm Snapdragon XR2 Gen 2Qualcomm Snapdragon XR2 Gen 2
メモリー/ストレージ8GB/128GB12GB/256GB8GB/128GB
ディスプレー片目2160×2160ドット片目2160×2160ドット片目2064×2208ドット
リフレッシュレート90Hz90Hz120Hz
視野角横105度/縦103横105度/縦103度横110度/縦96度
PPD20.6PPD20.6PPD25PPD
ビデオパススルーカラー・平面カラー・立体カラー・立体
イヤホンジャックなしなしあり
WIi-FiWi-Fi 6Wi-Fi 7Wi-Fi 6e
重量585g580g515g(Eliteストラップ装着時は675g)

PICO 4とほぼ同じ形状で性能アップを果たしたPICO 4 Ultra。価格やスペックをさっと見てみると、Meta Quest 3の方が安いし軽いし画質もいいのでは、と感じます。

しかし忘れてはならないのが、Meta Quest 3に付属するヘッドストラップは軽量であることを重視したもので、装着感はイマイチだしフロントヘビーで疲れやすい。対してPICO 4 Ultraは、Meta Quest 3よりメモリーもストレージも多く、ホールディングに優れたヘッドストラップを採用。重量バランスにも優れています。

画質=PPDに関しても、PICO 4 Ultraの方がトータルとしての視野が広いために数値上の画素密度が下がったものであり、ほとんど差はありません。ただしMeta Quest 3発売当時のPICO 4は鮮やかに見せるためかディスプレイ輝度が明るく、その弊害としてハイライトの白飛びが起きていました。最新型のPICO 4 Ultraは映像チューニングを変更したようで、白飛び/黒潰れが起きにくくなっています。

スペックを端的にまとめると、性能を考慮すれば価格帯はほぼ同様、装着しやすく動いてもずれにくいヘッドバンドを込みとして捉えるなら、ライバル機よりも軽量なXRヘッドセットとなります。


リアルな立体パススルー、空間ビデオ撮影機能が追加された

PICO 4と比較すると、前面パネルに備わるカメラアレイ以外の差はないといえます。内部的には最新世代のプロセッサーを用いたことで処理能力がアップしていますが、様々なアプリを駆使するか、VRChatで人が多く集まるワールドインスタンスに行かなければプロセッサーの差は体感しづらいかも。

PICO 4 Ultraのカメラアレイには、立体視が可能なビデオパススルー/空間ビデオ・写真撮影用の3200万画素デュアルRGBカメラと、iToF深度センサーが組み込まれています。

ビデオパススルー状態でスクリーン?ショットを撮ってみました。画質は悪くありません。また近い位置に手や、他のオブジェクトがあっても背景が歪むことがほとんどなく、Apple Vision Proのような高精度ビデオパススルーのクオリティにかなり肉薄しています。

内蔵のカメラアプリを用いて空間ビデオ、空間写真を撮影してみました。色味は濃いはずなのにやや浅さを感じるもの。HDR処理をしているのでしょうか。影がある部分の輝度を持ち上げて、情報としての見栄えが良くなっています。

明るい場所で撮影すると多少の違和感がありましたが、暗い屋内に入るとこの映像チューニングが功を奏して見通し力が上がります。解像感を犠牲にしているところもありますが、PICO 4 Ultraで撮影した空間ビデオはそのままPICO 4 Ultraで立体再生が可能なため、材質ごとのニュアンスが減ったルックであってもリッチな映像だと感じとれます。

空間写真の方も印象は空間ビデオと変わりません。なお気になる解像度ですが、空間ビデオも空間写真も片目2048 × 1536ドットのエリアを映像・写真として記録します。3200万画素デュアルRGBカメラの解像度をフルに使うわけではないということは留意するべきです。

個人的に「これだよ!これ!」と感じたのは、撮影した空間ビデオ・写真を直接TikTokにアップロードできる機能です。PICO 4 Ultraを開発したPico Technologyは、TikTokを運営するByteDanceのXR部門。グループ会社で連携することで、PICO 4 Ultraで撮影したコンテンツを外部に向けて発信・シェアできます。

魅力的なコンテンツがあってこそ、デバイスに興味を持つ人が多い現代。撮影したデバイスだけでしかみられない・楽しめないとなると、情報が引きこもってしまいます。この問題に対して積極的に取り組んでいるByteDance・Pico Technologyのエコシステムを高く評価します。

可能であれば近い将来、YouTubeにもVR180準拠のコンテンツとして、他アプリを通さずにアップロードできるようになればいいのですが。 


縦位置スクショ、シネマライクな広角スクショも可能

TikTokにアップロードできる機能のほかにも感銘を受けたポイントがあります。それが縦位置/超広角スクリーンショット・動画キャプチャーができるところ。ライバル機であるMeta Quest 3は、本体だけだと視野の狭い正方形または16:9の横位置キャプチャーしかできなかったのですが、PICO 4 Ultraはスマートフォン向けSNSにマッチした画角かつ、周囲の状況がわかりやすい広角キャプチャーが可能です。

この機能があるなら、他のSNSに写真や動画をアップしたくなること確実です。


持ちやすくなったコントローラー

左からPICO 4 Ultra、Meta Quest 3、PICO 4のコントローラを並べてみました。位置トラッキングのために装備されていたリングがなくなっています。

PICO 4 Ultraのコントローラを手で持ってみると、ずっしりとした重みを感じます。バッテリーは1コントローラあたり単三電池2本を使用していますし、耐久性を重視したのかハウジングにも厚みを持たせているようです。

アクションゲームで遊んでみると、リングパーツがなくなったぶん動かしやすくなったと感じます。ただしVRChat中にテーブル上のドリンクを取る時、PICO 4ならリングパーツを小指に引っ掛けておけたのですが、PICO 4 Ultraは手首のストラップで吊り下げてしまうと他の皿やグラスにぶつかってしまう危険性があるため、コントローラはテーブルの上に置くことをおすすめします。


スタンディングなら安心して使えるトラッキング精度

PICO 4 Ultra発表時に話題となったのが、PICO Motion Trackerです。足首につけることでヘッドセット、両手のコントローラと合わせて5点トラッキングを可能とします。さらにAI補正により、全身24箇所の骨格を読み取るフルトラッキングセンサーシステムとなります。

他社の同様の製品はリアルトラッカーが5つ前後のセットとなることから4〜5万円ほどの価格となりますが、PICO Motion Trackerの価格は1万1800円。対応するのはPICO 4 UltraなどのPICO 4シリーズと、PICO Neo3です。

装着は極めて簡単です。マカロンサイズのトラッカーをバンドにはめ、バンドを足首に取り付けて、専用アプリでペアリング・キャリブレーションを行うだけ。慣れれば15秒ほどで準備が整います。

実際にPICO Motion Trackerを装着して動いてみたところ、忖度抜きで他のフルトラッキングセンサーが色褪せてしまいました。装着が簡単なのに動きの精度が十分に高い。そして筆者宅は楽器類のメタルスタンドやスピーカーの磁気の影響で、インサイドアウト環境用のフルトラッキングセンサーを使っていると次第に、勝手に腰が捻ってきて気がつくと大変な姿勢となってしまうのですが、IMUセンサーと12個の赤外線センサーを用いたPICO Motion Trackerは1時間経っても背筋真っ直ぐのまま。これは使えます!

……と思っていたのですが、意外なところに罠がありました。AIによる姿勢補正の影響か、アバターによっては腰が前側に出てしまう。アバターにぴったりサイズの服を着せていると、肌が服を突き抜けてしまうことがありました。Unity上での再調整が必要になるやつです。

もう1点、VRChatホストクラブ営業時にソファに座って接客をしていたら、時間と共に足が地面を突き抜け、座り姿から立ち姿へと変わってしまったのです。足の下が地面の位置となるデータを保持していないのでしょうか。

座る、寝るといった動きも再現してくれるPICO Motion Trackerですが、苦手な使い方もあるのでしょうか。引き続き調査を進めます。

     

PICO 4対応オプションはそのまま流用可能

基本形状がPICO 4と同一のPICO 4 Ultra。JINSで作ったPICO 4の補正レンズはそのまま装着できました。買い替えをするユーザーがどれだけ存在するかイメージしにくいのですが、朗報といっていいでしょう。

さて、まとめとしまして。PICO 4 Ultraはとても良質なXRヘッドセットとなりました。PICO 4から大幅に価格が上がりましたが、現在PICO 4の品切れ状態が続いていること、Quest 3よりやや高いけど、構造的にVRゲーム向けのため、エンタメ目的で使うのであればおすすめできます。

PICO 4ユーザーが買い替えるべきかというと悩みどころ。Qualcomm Snapdragon XR2 Gen 2の処理能力を活かせるユースケースがどれだけあるか。現時点ではほとんどないかも…と感じています。しかし今月のMeta Connect 2024で発表されると噂されている廉価版のMeta Quest 3S(仮)もQualcomm Snapdragon XR2 Gen 2を積むでしょうし、今後はこのプロセッサをリファレンスとしたアプリ開発が進みそう。そう考えると、PICO 4ユーザーもPICO 4 Ultraへの買い替えを考える時期が来るのかもしれません。

(TEXT by 武者良太


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