3Dの姿でデビュー予定が白紙に…… たった一人で戦ってきた「柚子花」が語る、バーチャルアイドルへの情熱

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ネットを中心に活動するVTuberと並び、バーチャルの存在で最近目立ってきているのがバーチャルアイドルだ。キャラクターの姿というのはアニメやゲームと同じだが、ファンと同じ時を生きて、音楽ライブや接触イベントで直接対話できるというのが新しい。

女性なら、えのぐ、まりなす(仮)、GEMS COMPANY、Re:AcT、Palette Project、ReVdol!といったグループで活動していることが多いものの、そんな中、企業に所属せずに個人勢として1年以上戦ってきたタレントがいる。それが今回インタビューした柚子花(ゆずは)さんだ。

彼女の人生(V生?)は波乱の幕開けだった。元々、2018年10月にオーディションを実施したVTuberアイドルユニット「ゆるべ~る」のメンバーとして活動するはずだったが、デビュー前にプロジェクトが解散。企業のバックアップなしに、個人として2Dの姿で活動をスタートすることになった。

普通は諦めそうなところ、彼女はなぜ個人勢としてでもバーチャルアイドルになりたかったのか。歌、朗読、声優など、ジャンルを変えて様々なことに挑戦するのはなぜか。

話を聞くと、不登校を救ってくれたアイドルというキーワードが浮かび上がり、さらに持ち前のバイタリティー、そして周囲で支えてくれる人々と「ゆず派」(ファン)の存在が今の彼女を輝かせていることが明らかになった。

 
*本インタビューは、PANORA主催のオンラインイベント「ネットおしゃべりフェス 2020.7」において、ファンより贈られた「進化ギフト」の報酬となります。


まさかのプロジェクト解散、「個人勢」でソロデビュー

──柚子花さんといえば外せないのが、「オーディションに受かって3Dモデルのバーチャルアイドルとしてデビューするはずが、途中でプロジェクトが潰れて2Dのまま放り出された」というエピソードです。にわかに信じがたいですが、本当の話なんでしょうか。

柚子花 事実です。

 
──マジですか!? VTuberさんは濃いキャラクターが多いので、デビュー時に少しでも強いエピソードを出して目立とうという「プロレス」ではないかと疑ってましたが……。

柚子花 それだったらもっとプラスの話にしたいですよね。ガチのエピソードですし、デビューする予定だった会社はなくなりました。

 
──そうなんですね……。

柚子花 他に2人いて、最初はその子たちが戻ってくるのを待って準備していたのですが、やはり企業じゃないなら活動できないなと離れていっていってしまったんです。

 
──バーチャルなのに、いきなりのリアルハードモードですね。それで2Dの体をもらって活動を始めたという。

柚子花 その2Dの体も、イラストがあってパーツ分けされていただけだったので、たまたま知り合いだったコトタマさんに頼んで動かせるようにしてもらいました。

 
──えええっ。逆にそんな何も整っていない状態でよくVTuberをやろうと思いましたね。

柚子花 そうですね。本当にいろいろな方の助けがあったからなんとかなったという感じです。実はそれまでVTuberのオーディションを20回ぐらい受けていて、引くに引けなくなっていたというか、「こうなったら絶対にデビューしてやる」という気持ちでした。

 
──覚悟が違う!

柚子花 結果的にバズって注目を集めて記事を書いてもらえたりしたのでよかったのかな? よくはないか。

 
──VTuberというと歌やゲーム実況、雑談などさまざまな活動ジャンルがありますが、当初どういう方針で行こうと考えたのでしょうか?

柚子花 もうとにかく他の2人の土壌を整えるために、アイドル方面で伸ばしていけたらなぁと。あとのきは、うまく転べばいいなとがむしゃらに人を集めて頑張っていました。

 
──元々、VTuber界隈で知り合いが多かったという?

柚子花 いや、全然。エハラ(エハラミオリ)さんとかも、つながりがなかったです。

 
──なんと。エハラさんは特にTwitterでのプロデュースが上手いので、その辺、最初から「仕込み」で手伝ってもらっていたのかと。

柚子花 「オーディションに受かって〜」のキャッチコピーを考えてくれたのはエハラさんですが、動画とかも「つくっておいて〜」でというゆるい感じで振られてこちらでやっています。

実はデビュー予定だった3人のうち1人が脱落し、2人で一緒にやろうという話で進めていて、心許ないので誰か協力してくれる人を探していたんです。そこで当時、斗和キセキちゃんのプロデュースでエハラさんがバズっていて、ワンチャン頼めないかと連絡したところ、「面白そうだし、手助けするよ」とフワッとした感じでつながりができました。もちろん資金提供とかは何もないです。

 
──じゃあ、本当に何の後ろ盾もないままのデビューだったんですね……。

柚子花 そうです。でもこれをやらなかったら、もう道がないなって。個人で発注して始めるよりは、企業で作ったクオリティーの高い「ガワ」があればいいかなって。

 
──本当によくやろうと思いましたね。しかしアイドルとしての土壌を整えようとしたけど、結局他のメンバーは戻ってこなかったから1人でデビューするかみたいな。

柚子花 でも1人でやろうと決心したのは割と最近です。

 
──ずっと待っていた感じだったのですね。

柚子花 そうです。そうなんです。がんばりました。


「好きなアイドルがちゃんとアイドルだったから、きちんとアイドルをやりたい」

──アイドルグループから始まった柚子花さんのVTuber活動ですが、今でも目指してるのはアイドルなんでしょうか。

柚子花 間違いなくそうです。アイドルに憧れてVTuberになったところはあります。

 
──元々、女性アイドルが好きだったという?

柚子花 そうです。「ぜんぶ君のせいだ。」というアイドルがいて、そのステージパフォーマンスがすごくアツくて、アイドルだけどシャウトとかするんですよ。アイドルというカテゴリーじゃないのかな。キャッチコピーは「病みかわいいで、世界征服!!」。

 
──柚子花さんに「病み」のイメージがはあんまりないですが……。ってそういやヤンデレを演じた動画もあげられてましたね。

柚子花 あれはもともと「Skeb」というサービスで「ゆず派」さんがリクエストしてくれたもので、納品したデータを流用して動画化したものです。別に柚子花はヤンデレじゃないですよ。でも病むときは病みます。他の2人が戻ってきてもやっていけるのかなメソメソ……みたいな。

 
──ネガティブ思考のイメージがなくて、むしろパワフルに感じてました。

柚子花 そうですね。一晩寝たら大体忘れちゃう。FANBOXの会員限定で「お気持ち長文」を書いたりすることもありますが、でもTwitterには出したくないなって。

 
──きちんとアイドルしてますなぁ。

柚子花 好きだったアイドルが、ちゃんとアイドルだったから、きちんとアイドルをやりたいなって。

 
──子供の頃からアイドルに憧れていたりしたんでしょうか?

柚子花 いや特には。大人になったぐらいでアイドルにどハマりしちゃって。友達が好きで布教されて、CDを聞いたりして「あっ、曲いいなと」思って、アイドル現場って行ったことがなかったので好奇心で行ってみてハマりました。

 
──じゃあ柚子花さんが目指す理想は、「ぜんぶ君のせいだ。」だという。

柚子花 それもちょっと違うなって。「推し」のやっていたことを自然と取り込みながら、自分のやりたいことに合わせていきたい気持ちです。

 
──しかし、朗読や声優に挑戦されたりと、バイタリティーがスゴいです。

柚子花 朗読は、最初リスナーさんと企画会議みたいなのをやって挙げてもらって始めたんです。「小学校の頃に朗読で褒められたことがある」みたいなのが原点です(笑)。自分ができることが本当に分からなくて。

 
──えっ、そんな流れで。元々演劇部だったりで、役者のトレーニングとかしてきたのかなと勝手に思ってましたが。

柚子花 全然ないです。むしろ吹奏楽部でした。特に声優さんが好きで演技を聞いていたとかもないです。

 
──じゃあ、本当にアイドルを目指してから始めたんですね。それにしてもなんでもチャレンジして自分のものにしようとする姿勢は尊敬できます。

柚子花 ありがとうございます。何でもできるようになりたいです。

 
──今一番頑張っていることは?

柚子花 音楽方面で、ソロライブをやりたくて、曲数を増やそうといろいろな人とがんばっている状態です。今、自分だけの曲は2曲あるんですが、それだけだとソロライブは厳しいので。ライブハウスの中に自分の世界を創って、ステージパフォーマンスでみんなの感情を高めて、泣かせたりとか、そういうのをやりたいです。

 
──なんかアイドルアニメの1話で主人公が先輩アイドルのステージを見て目覚めるみたいなエピソードじゃないですか。

柚子花 そうかもしれません(笑)。柚子花自身、アイドルに無茶苦茶突き動かされたというか、「推し」にそれだけの熱量があったんです。

 
──それは「推し」からエネルギーをもらって、生きる活力が湧いてきたみたいな話ですか?

柚子花 そうですね。

 
──アイドルにハマった当時、自分自身に元気がなかったとか?

柚子花 そうですね。当時、不登校で引きこもりしてて……。

──えええっ、普段のパワフルさからは、そんなイメージがまったくなかったです。

柚子花 人と仲良くできなくてとかじゃなくて、普通に学校に行けなくなってしまって。昔のことを忘れがちなのですが、だんだん外に出るのが怖くなってしまったみたいな。誰かと大喧嘩したとかではまったくなく。

 
──でもそこで友達がきっかけでアイドルの存在を知って、元気をもらってという。

柚子花 友達も実はネットの友達なんですよね。

 
──じゃあ、ネットで自分の人生がひらけて、その恩返しを今ネットでやっているという。めちゃくちゃカッコいい話じゃないですか……。

柚子花 そんな感じですね。でも、初めてライブに行った時は、めちゃくちゃ怖かったんです。友達が遠いところに住んでいたので1人で行かざるを得なくて、なんかタバコを吸ってる人たちが入り口にいっぱいいるし、物販のところにいる社長さんもめちゃくちゃいかつかったりとか。

 
──ちょ(笑)

柚子花 あと最初に観に行った「箱」が縦長で、後ろの方だったのでアイドルが全然見えなかったりとか。どうしても観たくて、飛び跳ねていたら楽しくなっちゃって。でも怖かった……。

 
──でもそこで一歩を踏み出してよかった。

柚子花 そうですね。そこからライブにも結構通うようになりました。


多くの方に助けられて今の柚子花がいる

──そういうアイドルへの憧れがあったうえでのVTuber活動だったんですね。ネットおしゃべりフェスにご出演いただいたときにもファンとの距離感が絶妙で、過去最大のシャンパンタワーが立ったり、ギフトがほとんど売り切れたりと、「ゆず派」さんたちと築いてきた信頼感が違うなと感じました。

柚子花 うーん、なんか元々私の初配信って好奇の目で見られることが多くて、怖かったんです。でもその後、何回か配信しているうちに、「あっ、ついてきてくれる人がいるんだ」って。だから信頼という話でいうと、まず柚子花の方からあるんです。だからちゃんと近くで見ようって。

 
──めちゃくちゃファンは嬉しいと思います。

柚子花 初配信って、そこで見て終わりの人が多いじゃないですか。でも、2、3回きてくれたら、「あっ、この人興味あるんだ。敵じゃないんだ」って思って。ある意味、炎上の中でのデビューみたいな感じだったので、ネットが怖かったし、一瞬の知名度を利用しようとする方もいるんじゃないかと思っていたので、結構怯えていました。あまりに怖くて、最初の頃、Twitterで相互フォローになってDMがきてもガン無視していたりして、アプリの履歴見返したら「あっ、ヤバ」みたいな。

 
──本当に怖かったんですね。

柚子花 怖かった……。バズったツイートも通知をオフにしていたから、リプライも見ていません。そこでダメージを受けたら一生活動できないと思ったので、防御です防御。だから「クリミナルガールズX」のオーディションの話も初日にもらっていたのに気づかなかった。

 
──ちょ(笑)。でも数回きてくれて、支えてくれる人の存在がわかるようになったから、自信を持って活動できるようになったという。

柚子花 そうですね。一方でファンには「ガチ恋とかやめろ」と表立って言ってます。面倒くさいので……。

 
──だからM気質のあるファンが多いんでしょうか?

柚子花 やだー! 勘弁してほしい……。でも確かにMが多い。

 
──(笑)。ファン以外に支えている方々も多いと思います。

柚子花 たくさん助けてもらっています。姐川ママはいろいろなタイミングでファンアートを書いてくれますし、先ほど話に出たコトタマパパも初配信終わった後にFacerigの設定を見直してくれたりと、いろいろサポートいただいてます。エハラさんも、8月に出演したMarprilのアルバムリリース記念ライブ「Do the city hop」の話を持ってきてくれました。ありがたいです。

あとは3Dモデラーのつみだんごさん。もともとファンアートで3Dモデルを作ってくれていて、それを1周年のタイミングで「使わせてください!」とお願いしたらご快諾いただいて実現した形です。もうデビューしたその月に3Dモデルを作ってくださっていて、新衣装も快く協力いただけるので、本当に今後ともよろしくお願いしますという感じです。

 
──個人勢のVTuberって1人でもできないこともないですが、多くの才能に支えてもらったほうがよりいいものになることが多いでよね。でも快く協力してもらうためには、そもそも本人に魅力や才能がないと難しい。

柚子花 ありがたいです。あとは、ヨシナちゃんやゆうき(蒼乃ゆうき)ちゃん、Marprilの2人も友達としていっぱい支えてくれています。このご縁も大切にしていきたい。企業とかいろいろすっ飛ばして仲良くなっていて、みんな自分よりもすごいところがあるのでやる気も出てきます。

 
──尊敬しつつも、負けねぇぞという。そんな多くの人に支えられている柚子花さんが、今後注力していきたいことは?

柚子花 間違いなくアイドルですよ。

──アイドルひとつでも、武道館を目指すような大きな夢を抱いたり、小さな箱で触れ合える距離を大切にしたりと、いろいろな方向性があります。どんなゴールを目指していますか?

柚子花 理想をいうと、お客さんの声が聞こえる環境でリアルタイムでライブをやりたい。「ゆず派」さんの中にも大きな声で応援してくれる方がいて、現場でもMCのときに結構レスをもらうことがありました。そんなやりとりをいっぱいできたらいいなって。あとは、ちゃんと歌って踊れるようになりたい。1年前からボイトレにも通っていて、全然上達しないんですが……。

 
──えっ、そんな努力してること全然表に出してないじゃないですか。

柚子花 fanboxとかでは言ってるんですけどね。

 
──夢に向かってめちゃくちゃ努力してますね。個人勢だと外からのプレッシャーがないので、よほど自分でやろうと思わない限りトレーニングにまで通わないと思います。素直にスゴい。

柚子花 その辺は反骨精神というか、企業勢に負けたくなかったんです。もともと企業だったら、そのくらいのクオリティーに自分はなっているはずだと思って、個人でもやってやろうじゃないと。一人ぼっちでもやるんだと続けてきた感じです。だからライブが超やりたいんですが、昨今の情勢を考えると難しいところもあります。

 
──clusterやVARK、SHOWSTAGEなどのXRライブプラットフォームもあります。

柚子花 そうですね。やりたいです。VIVEアンバサダーになって、借りられるようになったのでフルトラできるようになったんですよね。だからアンバサダーの期間中にミニライブとかができたらいいなと考えています。ぜひこれからも応援よろしくお願いします。

 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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