VTuber・九条林檎の夢が詰まったVR演劇集団「IMGN」、初公演「HamonicA」が表現する世界

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ソニー・ミュージックエンタテインメントの「VEE」所属VTuber、九条林檎(くじょうりんご)さんがプロデュースする、メタバース上で活動する劇団「IMGN(イマジン)は、結成後初となる舞台作品「HarmonicA(ハーモニカ)」を、6月12、13、16日の3日間、VRChatにて公演する。

今回、初演の前日に行われた最終リハーサルに参加させていただいたが、VRの良いところを全面に感じさせる、VRならではの演出と言語の壁を超えるパフォーマンスを実感した。林檎さんという、強いパーソナリティを発揮するVTuberが主宰する劇団にも関わらず、本人が裏方に徹していたところもプロデュースに長けた彼女らしいさを感じ、舞台上にはいなくても「九条林檎」の存在が伝わってエレガンスな雰囲気が漂っていたのが印象的だった。

個人勢を経て、ソニー・ミュージックの「VEE」所属となってもデビュー当時から変わらずにクリエイティビティを発揮する林檎さんが主宰する劇団がどのようなものなのか。そして「音楽劇」とは何なのか。本人に直接伺った話をふまえ、レポートしたい。


劇団「IMGN」と、初公演「Hamonic_A」

劇団「IMGN」(イマジン)は、林檎さんが中心となって結成した、メタバース上での舞台演劇の制作を目的としたクリエイター集団。メンバーにはイラストレーターやエンジニア、3Dモデラーなど、メタバース上での表現をするには欠かせないクリエイターが参加している。

林檎さんの話によると、2018年12月のデビュー当時から演劇やミュージカルといった活動をしたいと考えていたおり、今回、約4年半越しの念願が叶って初公演を迎えたというわけだ。

そんな林檎さんの夢の実現である「Hamonic_A」は「世界を救う旋律を奏でる旅」というテーマを軸とした作品になっている。詳しいストーリーは見るまでのお楽しみだが、旋律を奏でて魔物と戦ったりするファンタジックな世界観を、自在な光の表現や、視界そのものを支配するというVRならではの演出で表しているところが見どころだ。

青年と少女
仲間との出会い

キャストにはダブル主演として、VTuberユニット「えにしん」所属のVTuber・花琴いぐささん、VRアクター / VRインプロ 白紙座 主宰のめどうさんのほか、Avatar2.0 Project所属 VTuber九条茘枝(くじょうらいち)さん、個人勢 VTuberの柑橘るいさん、東雲めぐさんが出演。

演出・パーティクルは Aratakaさん、じゃぱぁさん。モデリングはカキノキさん、audamanさん、愛守ノユリさん。その他、VRChatでのイベントに馴染みがある方にとっては名の知れた豪華なメンバーがクリエイターとして参加している。


林檎さん自身は脚本とプロデュースのほか演技指導、振付など、演劇のさまざまな部分を手掛け、今回は出演はしていない。制作進行の育良啓一郎氏によると「舞台やワールドの制作と演じること以外は全部林檎様みたいなところがあります」とのこと。本編に登場しなくてもファンにとっては、世界観の端々に領主様の存在を感じられるのではないだろうか。

本人は舞台上にこそいないものの、本編に登場する村人のモーションアクターを務めたという。本公演が所属元のソニー・ミュージックエンタテインメント「VEE」が後援しているということもあり、ソニーグループに関係するスタジオや機材を使用しているかと思っていたが、自分でモーションキャプチャースタジオを借りて制作したというから驚いた。彼女のクリエイターとしての矜持やインディペンデントな魅力を感じる一幕だった。ぜひ、登場する村人の繊細な動きの演技にも注目してみよう。


「1から100までマイドリーム」九条林檎が語るVR音楽劇とは

九条林檎様(思わず様付けしてしまうオーラがある)

「HarmonicA」は「VR音楽劇」と銘打った演劇作品だが、音楽劇というものが何なのかピンと来ない方も多いのではないだろうか。かくいう私も耳馴染みのない言葉だったが、実際に体験してみてなんとなく感じ取ることができた。

音楽劇にはもちろん台詞もあるが、それよりもエモーショナルな音や光の演出と、その演出に演者の動きが完璧に合わさることで雄弁に物語を形作っているという、演出と演者の動きで話の流れやメッセージが伝わる内容になっていた。フィギュアスケートの演目を見ているような身体表現の美しさにも近いかもしれない。

言語の壁を超えるような演出に、身振り手振りで表現できるVRというメディアの良さや、VRだからこそ体験できるスタイルのようなポジティブな希望を感じたので、九条林檎氏に何故このようなスタイルでの演劇をしようと思ったのか聞いてみたところ、このように語ってくれた。

「もともと、VRに限らずエンターテインメントの中で、音と光での表現がもっとも贅沢だと思っている節があった。今回は一番最初の公演だったから、それを「たっぷりやりたい」という想いがあったんだ。
今のような音をメインにした劇にしようと決まった時に、通常の演劇と同様に劇伴を用意したりしていたんだが、やっぱり好きなんですよ、特にジョージ・ガーシュウィンのような豪華で明るい楽しい楽曲が。
それで「音と光と主演二人からなる三位一体を引き立たせたい」と思って、この形になっていた。VR音楽劇は1から100までマイドリームという感じだ。
音楽と光とキャストを主役にしようとしたら、言語を超えていた。素晴らしい副産物です」

ジョージ・ガーシュウィンの楽曲が好きと語る林檎さんの想いが反映されるように、「パリのアメリカ人」や「I Got Rhythm」をHarmonicAのためにアレンジして使用されているという。

九条林檎はさらに、キャストひとりに対して1時間は語れると言いながら、主演について語る。

「いぐさ氏は演技指導で伝えたことは少なかったのに、そこからの読み取り力が本当にすごい! 最初は動きが硬かったのに、1伝えたら100練習してくれたおかげで見違えるほど美しい表現をするようになった。
めどう氏も本当にすごい人材。「主演は初めて」とおっしゃっていたんだが、全然そうは見えないでしょう? 実は、我が4月の頭に振付をしたのだが、当時は全くダンスの経験がなかった。足を左右逆に置いてしまったりタイミングがずれたり、といった問題があったにもかかわらず、この二か月間で素晴しいレベルまで持ってきた。尋常じゃない努力ができるし、表現力が備わっている。
めどう氏が、今回の劇で世界に見つかって欲しいと思う」

ダブル主演の青年役のめどうさんは今回はじめて知ったのだが、もう一人の主演・花琴いぐささんとともに美しい動きで物語を全身で表しているところに感激した。二人が動くシーンは演出も相まって宗教画のような厳かな存在感を見せているので、ぜひ多くの人に観劇して欲しいと思う。

最後に、今回偶然の副産物だったという言語の壁を超えるような演出を今後も見たいと言うと、林檎様は不敵に笑う。

「ははは。どうだろうな、次は台詞を盛り盛りにするかもしれないし、逆に最初から最後まで台詞を喋らないのもありかもしれない」


「Hamonic_A」を観劇するには

開演前

Hamonic_AはVRChatで3日間、全5公演行われる。

参加方法は開場時間になったらVRChat上でIMGN公式アカウント(VRC ID: imgn_official)とフレンドになった上でリクエストインバイトを送ること。直前にフレンド申請をすると承認が間に合わないこともありうるので、事前にVRChat公式ウェブサイトから申請しておくとよいだろう。定員は限られており全員が入場できるわけではないため、早いもの勝ちとなる。開場時刻10分前に先行入場できる事前抽選に当たった方も入場が確約されているわけではないため、必ず10分前に入場するようにしよう。

スムーズな観劇のためにいくつかVRChat上の設定を事前に行うことが推奨されているので、操作に不慣れだったり不安がある方はあらかじめ設定しておくとよいだろう。

また、会場は負荷軽減のため、会場限定の軽量化されたアバターが設置してある。もし着替え方がわからなかったり、トラストレベルが足りなくて着替えられない場合は会場内のスタッフに尋ねよう。

観劇用のおそろいのアバター

【公演スケジュール】

6月12日(月)
開場 21:00 / 開演 21:30

6月13日(火)※2公演
開場 20:00 / 開演 20:30
開場 21:30 / 開演 22:00

6月16日(金)※2公演
開場 20:00 / 開演 20:30
開場 21:30 / 開演 22:00

(TEXT by ササニシキ

関連リンク
IMGN公式 Twitter
九条林檎 Twitter