2024年11月2日、KAMITSUBAKI STUDIO・PHENOMENON RECORDに所属する花譜(かふ)、理芽(りめ)、春猿火(はるさるひ)、ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)、幸祜(ここ)ら5人によるバーチャルアーティストグループ「V.W.P」(Virtual Witch Phenomenon)が、セカンドソロライブ「現象II(再)-魔女拡成-」を幕張メッセの幕張イベントホールにて開催した(アーカイブページ)。
2022年4月に豊洲PITで初めて開催されたワンマンライブ「現象」から約2年半、今年1月に開催した「神椿代々木決戦二〇二四 V.W.P 2nd ONE-MAN LIVE『現象II-魔女拡成-』」から数えると約10ヵ月ぶりとなるV.W.Pとしてのソロライブである。
人工ライブ開催前にはメンバーの1人である幸祜が持病の影響もあり出演辞退、彼女の歌声をベースとした歌唱ソフトウェア「音楽的同位体 狐子(ここ)」が代役を務めるということで、不安に思った方もいたかと思う(ニュース記事)。だがこの日会場にて表現されたのは、出演した花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒4人の充実したパフォーマンスと、「幸祜へ届け!」とほとばしってきそうなほどのエネルギーだった。そんなライブの全容を追いかけてみよう。
2024年11月2日・幕張は、多少の雨模様にあった。関西地方・中部地方では雨がザァっと降り注ぎ、ここ東京・神奈川・千葉県でも小雨が降っていた。
雨から逃げるようにそそくさと会場に入った観客は多いだろう。入場開始から早い段階で客席が埋まってみえたほどだ。開演時間の17時を迎える直前からステージのスクリーンではカウントダウン映像が流れ始め、ライブへと進んでいった。
5人のメンバーそれぞれのモチーフが絡み合うオープニング映像から、バンドメンバーとKAMITSUBAKI STUDIOによるオーケストラプロジェクト「KAMITSUBAKI PHILHARMONIC ORCHESTRA」による演奏が会場を盛り上げる中、この日の主役たるV.W.Pのメンバーが登場した。
ステージのせり上がりを使ってゆっくりと現れた5人、そのままこの日最初の楽曲「共鳴」を歌い始めた。サイドステップで半身になる簡単な振り付けをしながら、ボーカルをリレーしていく5人。バンド隊のハードな出音とポップな曲調があいまって、会場を盛り上げていく。
間髪入れずに2曲目「輪廻」が始まると、「神椿幕張戦線 Day1!始まりました!」と元気よく花譜や理芽たちが会場へと呼びかける。ザラついた音のギターサウンドとともに5人のボーカルが会場のボルテージを上へ上へと引っ張り上げるよう。
3曲目「秘密」ではさらにこの流れが加速する。原曲でも鳴らされているメタルロックらしい細やかな刻みのギターリフが会場にぶち鳴らされ、それに呼応するように激しいバンドアンサンブル、オーケストラ隊のストリングスによる伸びやかな音色もあわさり、分厚いサウンドが形成される。
ハーモニー/テクニックに留まらない 強調したバイブス
おそらくこれまでのV.W.Pなら、このようなサウンドの前であれば、各々のボーカリズムをフルに発揮してバッチリと決めるところであるが、ここでは加えてもう一つの顔がのぞかせる。
会場のボルテージをあげるための煽りや声掛けであり、俗に言えば”気持ち””バイブス”である。
「声が聞こえないよぉ!」「もっともっと!」「ハイ!ハイ!ハイ!」とこの日集まった観客たちのテンションをあげようと声を掛け、会場からの声援を求めていた。そういったこともあり、誰かがボーカルとして歌っているところに、観客を煽るマイクが被っていたシーンが何度かあったのだ。
「煽りすぎて誰かのボーカルと被ってしまう」なんて、ライブではよくあることではある。もちろん程度の差はあれど、観客の一部には「ミスしたのかな?」と思った人もいるかもしれない。
ただし自身らを魔女と称し、これまで自分たちの歌声・ボーカル・コーラスワークでいくつものモーメントを作ってきた彼女らを考えるとすこし違うニュアンスが広がる。彼女たちがだれかのボーカルを遮ってでも観客を煽ろうだなんて……みている観客らにはすこし驚きのシーンだったかもしれない。
だがハッキリいえば、それが筆者にはとてもポジティブかつ好印象だった。
PANORAのインタビューを通じてヰ世界情緒、理芽の2人と直接言葉を交わしたときに、今年1月に催した代々木でのライブやV.W.Pにおける活動を印象深いものとして語っていた。その日から約10ヶ月近く経過した今日この日は、V.W.Pとして、なにより1人のボーカリストとしての成長した姿を見せるにはうってつけの場所である。
気合が前のめりになっていくのもムリはない、むしろ「ここでやらねばいつやれる!?」という覚悟が目に見えた。納得できるワンシーンだった。
4曲目に披露したのは「再会」。オーケストラの響きにあわせて一気にスローダウン、ゆっくりとしたテンポで音が紡がれる。センチメンタルなムードが立ち込めるなかで、センターを張ったヰ世界情緒を中心にした情感こもったボーカルは見事で、多くの観客が惚れぼれとしていた。5曲目「飛翔」は曲途中でリズムパターンが大きく変わるなかで、5人によるコーラスはキレイに重なり合っていた。
この日最初のMCを始めると、やはり注目を集めたのは音楽的同位体・狐子だ。改めて書かせてもらうが、彼女は人工歌唱ソフトウェアとしてキャラクター化された存在なので、会話へと自然に参加するのはさすがに難しい。
基本的にMCには参加することない狐子、その立ち振舞いはどこかゆっくり、ゆったりとしており、まさにAIロボットのよう。元気に会場と会話していた花譜や理芽たちが、お水を飲もうと後ろを振り返って水を飲み始めると、なぜか狐子も水を飲もうとゆったりと動き、理芽から水をもらうという場面もあった。
これには思わず「同位体もお水を飲むんだね!?」と近くにいた理芽を始めとする出演者、観客もおどろいたわけだが、他にもあまり見ることのできない「音楽的同位体のワンシーン」を楽しむことができたのも、この日のライブの特徴だったと思う。
MCを終えた6曲目は「定命」。ダダッダダッダッ!というリズムにあわせたイントロが突如鳴らされたが、「V!W!P!」と会場が声をあわせて合唱したのには驚かされた。激しいドラミングとベースラインを軸とし、加えて春猿火をメインにしたこの曲で、持ち前のラップ&フロウで会場をアジテートしていく。
そんな春猿火のパフォーマンスに呼応したのが、花譜とヰ世界情緒の2人である。ふだんはクリアな声色をしている2人だが、ここでは荒々しいボーカルをみせてくれ、「こんな歌い方もできるのか」と驚かされた観客は多かったはず。この後にも指摘するが、こういったボーカルテクニックを随所に織り交ぜたシーンが、この日のライブではたびたび見られていた。
6曲目を終えると会場はスッと暗転し、V.W.Pメンバーのポエトリー(語り)が挟まり、ここからゲストアーティストとのコラボレーションがスタートした。少女革命計画から御莉姫と罪十罰の2組、明透、VALIS、獅子志司とKAMITSUBAKI STUDIOに所属している5組のアーティストが、それぞれにコラボパフォーマンスしていった。
ボーカリストと音楽的同位体による卓抜としたパフォーマンスの数々
一連のコラボを終えると、再び会場が暗転。ポエトリー(語り)がつづくなかで一言、「さぁ、パーティを始めよう!」という一言から、リミックス音源によるDJのような時間帯へ。極彩色のライト演出に加え、ステージ上にはミラーボールが2つ。煌めきに満ちた会場に、4つ打ち系のハウスリミックスやガバキックが加わったリミックスまで様々なエレクトロミュージックが鳴り、さらにダンサー4人がステージに登場して会場を盛り上げていった。
一連の流れが終わると、花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒、狐子の5人が下手からゆっくりと登場すると、5人の間から狐子と同じ音楽的同位体である可不、裏命、羽累、星界の4人が現れる。計9人となったステージ上。そこからV.W.PとV.I.P(音楽的同位体5人によるグループ・Virtual Isotope Phenomenonの略称)による「機械の声」を披露した。
「機械の声」は、機械(AI)からの視点で描かれた人間側へのメッセージが込められた歌である。1月に開催された代々木公演でも同様の選曲がされており、そこではV.W.PとV.I.Pとが交わる1曲として趣深い選曲となっていたわけだが、この日はさらに「狐子がV.W.Pの一員となってライブパフォーマンスをしている」中での披露となり、とてもハイコンテクストな意味合いの選曲となっていた。
先にも評したが、この日のライブはV.W.Pとしてライブしている花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒の感情的な一面が現れていた。それはMCであり、各々のパフォーマンス・唄い方にも現れていた。
音楽的同位体(音声ソフトウェア)がステージに立ってライブを披露する、つまりライブに向けて調整に調整を重ねるわけで、彼女らが音程を大きく外したりミスをすることは一切ない。ある意味では、AIに人間は勝てない。
ただ、人間の歌には感情の込め方、いわゆるボーカルテクニックがある。もちろん音楽的同位体側もそういった調整もできるが、その場その場で即興的・即座に発することができるという点において、人間側が優位なのは間違いない。
そしてなにより、メロディに完璧に合わせることのみが正しく・素晴らしい歌唱ではない。喜怒哀楽様々な感情に心を乱されて大きくメロディを外したボーカルであっても、聴くものの心に刺されば「素晴らしい」と感じさせることもアリなのだ。
その意味で花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒の4人はこの日のライブを通して、感情豊かに自分自身のボーカルを披露しようと試みていた。ビブラート・こぶし・しゃくりなどで声色を揺らしてみたり、声をか細く出したり、逆にガナるように声を発したり、低い成分をうまく混ぜながら張り上げてみたりと、さまざまなテクニックを混ぜ込んでいた。
そういったトライアルは「機械の声」でももちろん行なわれており、この曲が抱えていたバックグラウンドはもちろんのこと、音楽的同位体の声とボーカリストである自分との声とのコントラストが映えたシーンとなったのだ。
VWPとVIPによるコラボレーションを終えると、ここからはソロパフォーマンスの時間へ。ヰ世界情緒「描き続けた君へ」理芽「百年」と2曲を歌うと、狐子が幸祜の楽曲「ゲンフウケイ」をしっかりと披露。春猿火「身空歌」と花譜「邂逅」と5人がそれぞれに歌ってみせた。
この約10ヵ月ほどの期間で、自身初のリアルライブを経験した理芽、春猿火、ヰ世界情緒のパフォーマンスに、成長の跡をみたファンは多かったろう。V.W.Pでの衣装からソロ活動時の衣装へと着替え、ガーリッシュなムードを漂わせるヰ世界情緒が勇ましさすら感じさせる歌声をみせれば、理芽は音楽のなかに浸るような穏やかな声色を、春猿火は感傷を誘う一曲のなかにもパワフルな歌声を込めていた。
そんな3人のパフォーマンスを受け、花譜はガラスのように刺々しい声色をまさに悲鳴や叫びへと変え、観客の心へと迫っていったのが印象的だった。加えて、狐子の見事なボーカルにも触れるべきで、人の自然な歌声と感じられるほどの調声とボーカルには驚かされた。
最後はふたたび5人が集まり、新衣装「八咫烏(改)」をお披露目、そのまま「花束」を歌っていく。シンセサウンドとオーケストラのストリングスによって音の厚みを増し、スローなパートとアップテンポなパートが入り混じった1曲を歌い切る。
そうした迫真なパフォーマンスを見せたV.W.Pの面々。一方でこの日2度目のMCパートを迎えると、歌っているときからは一転して「フニャフニャ」といった形容がピッタリないつものムードで会話が始まる。各メンバーが新衣装をぐるりと見せてくれたり、理芽のソロライブ「NEUROMANCE III」などでも披露した乾杯音頭でメンバーと観客全員で水分を補給していくうちに、その柔和な空気が会場へと伝播していった。
MCを終えると、舞台は石造りの宮殿へ。楽曲は「同盟」。この曲はイントロで「バーチャル・ウィッチ・フェノメノン!」と必殺技のように叫んで始まる1曲で、当然観客らもそれに合わせて声を上げるのだが、物足りないと言わんばかりに「ぜんぜん聞こえないなぁ! もっともっと!」とV.W.Pのメンバーが会場を煽っていく。
メンバー自身からのアッパーなムード作り、バンド+オーケストラが混ざりあった分厚いサウンド、5人それぞれのボーカル&コーラスワーク。それらがあいまって「天命」「欲望」「遊戯」「切札」と彼女らの楽曲でもアップテンポな楽曲が、かなりアグレッシヴな響きとなって観客の心を捉えた。
ライブも終盤を迎えるなかで訪れたメンバーのMC。花譜が今回のライブについて、さらに幸祜に向けての言葉を語りはじめると、彼女に続くように理芽、春猿火、ヰ世界情緒がそれぞれにMCをしていく。「これを見ている幸祜さんにもっと声を届けましょう!」という観客にこの日1番の歓声を求める一幕もあった(実際、見ていた幸祜本人に届いたようだ)。
「V.W.Pにとっていちばん大事な曲です。聴いてください。」とMCして、この日最後となる「魔女(真)」を歌い始める。鍵盤とシンセサイザーという2人体制の上モノの音にオーケストラによるストリングスが紐づき、よりドラマティックにサウンドが広がっていく。クリスタルが花へと変化していく映像、薄赤い照明が会場を照らすなかで、クライマックスにふさわしい壮大な1曲を歌いきったのだった。
今年1月に「神椿代々木決戦二〇二四」と称した2日間のライブ公演から、KAMITSUBAKI STUDIOは約10ヵ月にわたってライブ公演をシリーズ化・公演を継続してきた。そのあいだに理芽、春猿火、ヰ世界情緒はそれぞれワンマンライブを開催し、合わせてKAMITSUBAKI STUDIOに関わるシンガーやグループらもライブを次々催してきた。
新宿、横浜、後楽園と場所を移しながら開催していたライブシリーズにあわせて、他の音楽イベントにも出演する機会に恵まれたこともあり、彼女たちは毎月のように現地ライブを披露するという状況が生まれた。
ライブパフォーマンスにむけて神経を研いでいく日々を送っていた花譜、理芽、春猿火、ヰ世界情緒の4人にとって、この日の幕張ライブはこの1年を締めくくる集大成の場に見えていたはず。加えて1月のライブの再演と銘打たれたライブだったこと、そしてメンバーの一人である幸祜が不参加であったことも踏まえて、この日の公演に向けて気合の入り方も尋常じゃなかったはずだ。
結果、本公演の開催にあたって”代々木公演の再演”ともアナウンスされていたが、蓋を開けてみれば、まったくの別の景色が広がっていた。歌っていた楽曲は確かに一緒ではあるものの、この1年ほどで培ってきた歌唱表現はもちろんのこと、ライブにかける積極性・スタンス・意識もまったく別次元なものとして観客に届いたはずだ。
代々木の公演ではMC中に涙を流していた面々だったが、このライブは笑顔を見せながらステージに立ち続け、バッチリなパフォーマンスを見せていた。その熱演は、今年のKAMITSUBAKI STUDIOの勢いを締めくくるに間違いなくふさわしいものだった。
●セットリスト
1.共鳴
2.輪廻
3.秘密
4.再会
5.飛翔
6.定命
7.暴力的イグノランス(狐子 × 御莉姫)
8.アイノ最適解(理芽 × 明透)
9.ぼくらの逃避行(情緒 × VALIS)
10.天照ダウン feat. 春猿火(春猿火 × 獅子志司)
11.花十カクメイ前日譚(花譜 × 罪十罰)
12.V.W.P DISCOTHEQUE
13.機械の声(V.W.P × V.I.P)
14.描き続けた君へ(ヰ世界情緒)
15.百年(理芽)
16.ゲンフウケイ(狐子)
17.身空歌(春猿火)
18.邂逅(花譜)
19.花束
20.同盟
21.天命
22.欲望
23.遊戯
24.切札
25.魔女(真)
(TEXT by 草野虹、PHOTO by 日吉 JP 純平)
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