KAMITSUBAKI STUDIOのSINSEKAI RECORDに所属するバーチャルシンガー・明透(あす)が、
1年11ヶ月ぶりとなるフルアルバム「ray of hope」を3月26日にリリースした。
“光”をテーマにして複数人のコンポーザーを迎えて制作された10曲は、前作アルバム「ASU」以降にリリースされた配信シングル8曲に新曲2曲を加えた内容となっている。
今回Pop Up Virtual Artistでは、そんな彼女のセカンドアルバムについてレビューしていこうと思う。
バーチャルシンガー・明透は2021年8月にデビューし、同タイミングでデビューした存流と2022年にバーチャルシンガーユニット「Albemuth」(アルベマス)を結成、ソロ&ユニットとして活動していた。2024年4月9日のAlbemuthのワンマンライブ「罪と楽園」をもって存流がKAMITSUBAKI STUDIOを卒業・ユニットは解散となった後は、ソロアーティストとしての活動へフォーカスしていくことになる。
そんな感動的なライブから約8ヶ月後、2024年12月28日にはヒューリックホール東京にて初の有観客ワンマンライブ「RAY」を開催。ライブチケットは一般開始発売前にすべて完売(!)させている。
それもそのはず、明透のYouTubeチャンネル登録者数は2025年4月時点で60万人を突破しており、(少し下世話な視点だが)KAMITSUBAKI STUDIO全体でみると、花譜の104万人に次いで2番目となる登録者数を誇っている。ファンからは当然相応の熱視線を送られている状況なのだ。
このライブタイトルにちなんだのが、今回レビューする「ray of hope」である。
「今年1年、わたしは”光”をテーマにして活動してきました。”光”はわたしにとって、ひたすら眩しい全力な陽キャ!という側面だけじゃありません。どこかの砂漠やゴツゴツした岩続きの場所にいて、空がどんより灰色。そんな空間のなかで、ぼんやりと丸い形をして、静かに温かく、じっと存在する。そんなイメージのものだったりするんです」
この言葉は、筆者が昨年のワンマンライブ「RAY」のライブレポートのなかで取り上げた彼女のMCである。ほのかに揺らめく小さな灯火、そういったイメージといえば伝わるだろう。それは力感のない彼女自身の声色やボーカルを表現するにも、ピタリと符合する言葉じゃないだろうか。
そんな彼女の歌声をフォーカスするために、さまざまな楽曲が揃ったのが今作でもある。
「Spiral」のダンスポップなグルーヴ、大味な8ビートなリズムにソウルミュージックらしいリズミカルな演奏が絡んでいく「0g」で序盤をスタートし、「HEAVEN IS GONE」や「illumina」といった鋭くトガッたビート音/トラックメイクで作られたエレクトロサウンド、終盤には「Dazzling」「Winter Sparkler」「Aster」といった毛色の異なるスローナンバーが続き、アルバムを締める。
ソウルミュージック、シンセポップ、ダンスポップ、シティポップらがシームレスに繋がりながら、ボカロ楽曲らしいテイストが所々で感じられるのは、KAMITSUBAKI STUDIOらしいといえばいいか。それでもロックらしいギターサウンドなどが先立つ曲が明確に少なく、ビートやグルーヴが立った楽曲が多いのは明透というアーティストに合わせたプロダクションなのだろうと察しがつく。
マイナーキーを活かした下がり気味なメロディラインに、物憂げな声色であてていくボーカルが全編を通して印象的。くわえて、リズムに合わせ言葉をパツッと切るように歌ったり、語尾の上げ・下げを意識した歌い方、セクシーさやパワフルさを押し出す声色や無表情・平坦に声をあてていく部分も聞かせてくれ(「HEAVEN IS GONE」「illumina」など)、全編英語で艶っぽく歌われる「Winter Sparkler」など、楽曲それぞれの特徴に合わせさまざまな歌唱・声色・ボーカルを聞かせてくれる。
スローナンバー&バラードにおける甘く、温かく、穏やかなトーンは無二の魅力を持っており、滲んで広がっていくような彼女の声色は健在なわけだが、2枚目となる今作ではそういった一面とはまったく別の表情を多くみせているのが、本作の大きな魅力になるだろう。
そんな彼女だが、ライブになるとダンスも比較的踊れるタイプであり、それどころかジッとするのが苦手なのか?と思うくらいにあちらにこちらにフラフラァ……としていた。この声にしてこの人となりか!と驚いてしまったことを白状したい。
「物事にはさまざまな側面がありますが、わたしはこれからも”光”というものいろんな側面と楽しく生きながら、みなさんと分かち合って、ひとつの”光”のなかで生きていたいです。」
先述したファーストワンマンライブ「RAY」のなかでこう語った明透。角度やタイミング、様々な状況によって光は見え方や感じ方は変わるものだ。まばゆくもぼんやりとした灯火を明透はイメージしていると話していたが、多彩なきらめき・瞬きをみせるシンガーへと成長していく予感は大いに漂っている。
(TEXT by 草野虹)
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