TVアニメ「神椿市建設中。魔女の娘 -Witchling-」劇場先行版レビュー 想像をかき立てる余白に高まる本編への期待

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6月15日9時30分の回では、V.W.Pメンバーによるバーチャル舞台挨拶の全国同時中継も実施。本写真は撮影OKタイムにシャッターを切ったものとなる

7月3日よりTBS系28局で放送開始されるTVアニメ「神椿市建設中。」。その劇場先行版となる作品「神椿市建設中。魔女の娘 -Witchling-」が、6月13日から2週間限定で上映されている。

2025年6月15日(日)には、主演を務めるバーチャルアーティストグループ「V.W.P」のメンバー、花譜(かふ)・理芽(りめ)・春猿火(はるさるひ)・ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)・幸祜(ここ)の5人によるバーチャル舞台挨拶が全国の映画館で同時生中継されるなど、VTuber~バーチャル系のIP発となるアニメプロジェクトとして、大いに注目を集めている。

今回は、その作品内容やスタッフィング、劇場先行版の内容について触れながら、本編となるTVアニメ「神椿市建設中。」を展望していこうと思う。


「神椿市建設中。」とは?これまでを振り返る

「神椿市建設中。」とは、2019年よりさまざまな形態で展開されているKAMITSUBAKI STUDIOのオリジナルIPプロジェクトであり、仮想都市・神椿市の隠された謎を探り、街の秩序と平穏を取り戻す物語が描かれてきた。

Discordと連動したARGイベント「神椿市建設中。EMERGENCE」をキッカケにし、TRPG「神椿市建設中。NARRATIVE」やリズムゲーム「神椿市協奏中。」、アドベンチャーゲーム「神椿市建設中。REGENERATE」をリリース。

主演しているV.W.Pは、ボーカリストグループとして数年にわたって活動しており、5人個々人の活動も相まって注目を集める存在となっていた。

そしてその一つの区切り、集大成と言えるのが、TVアニメ「神椿市建設中。」となる。

メインストーリーとしては、荒廃した都市・神椿市に現れる怪物・テセラクターに、魔法の歌声の力を持って5人の少女が立ち向かうという形となっている。”魔女の娘”と称される不思議な力を宿した5人、人の悪意と欲望から生まれる怪物、同じテセラクターでありながら5人に付き従う相棒達、不穏な街のなかで必死に生きようとするなかで、その胸中にはさまざまな想いや葛藤が去来していく。

アニメーション制作は「ハイスコアガール」「死神坊ちゃんと黒メイド」などでCGを手掛けたSMDE(小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント)が担当し、「ルートダブル」「ファイナルファンタジーアギト」などを執筆してきた月島総記が世界観設定や監修に携わっている。

キャラクターデザインは、花譜・理芽をはじめKAMITSUBAKI STUDIO関連アーティストのデザイン・ビジュアルを多数手掛けるイラストレーター・PALOW.が担当し、注目が集まる監督・シリーズ構成は、アニメ「BanG Dream!」シリーズで監督を務めてきた柿本広大が担っている。

また劇場先行版とは、TVシリーズの放送に先駆けて一部話数に対して上映版オリジナルカットを含んで構成したヴァージョンのこと。最近で言えば「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」が2025年明け早々に劇場公開した「機動戦士Gundam GQuuuuuuX -Beginning-」と同じ立ち位置にある作品、といえばいいだろう。


あえて残した余白と行間が想像を掻き立てる描き方

ここまでの説明をみると、「神椿市建設中。魔女の娘 -Witchling-」は、TVアニメ放映へと繋がる一種のイントロダクションとして機能する作品だと思う人が多いはずだ。

作品性・舞台設定・登場人物のフィーリングをうまく捉えやすくするために、主演5人のパーソナリティを紹介するようなフェーズが描かれているような、あるいは「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」を例に取れば”完成された作品をSF的トリックとともに語り直す”というポイントを押し出すといった具合に。


それに比べると今作「神椿市建設中。魔女の娘 -Witchling-」はどうだろうか。

花譜演じる森先化歩の視点がメインとなって進むストーリーは、まず森先&らぷらす(CV:佐倉綾音)とテセラクターとのバトルシーンから始まり、ほか4人のメンバーがテセラクターとの戦いに力を注ぐ中で、森先は倒されるテセラクターの”声”を聞き、心痛めるシーンが描かれる。

次のシークエンスでは、森先がらぷらすと出会い、テセラクターとの戦いについて説明を受けることになり、徐々に自身のもとに仲間が集まっていく流れが描かれていく。そうしてラストシーンまで進むが、実はこの劇場先行版、エンディングも含めて約50分ほどの作品となっており、かなり駆け足で進行していく作品となっているのだ。

そのため、TVアニメの話数のなかから断片的にかいつまんだストーリーが、「神椿市建設中。魔女の娘 -Witchling-」で描かれている。しかも先に書いたように、作品が開始していきなり森先がテセラクターと戦うシーンからスタートしていくのが象徴的で、「神椿市建設中。」という世界観を優しく説明しながら、頭から順を追っていく単線的な流れでは決してない。

むしろこの劇場先行版では、オリジナルカットを使いつつ舞台設定や読解するためのポイントを必要最低限のみ抑えつつも、ストーリーやコンテ/カットに余白や行間をあえて置くことで、解釈や読解の余地を多く残している。

KAMITSUBAKI STUDIOがこれまでファンと共創し、多くの考察や意見を生み出しながらさまざまな作品を提示してきたことを考えれば、こういった劇場先行版の構成はとても納得できるものだ。


そんな劇場先行版で脚本・コンテを担当したのは、他でもない監督の柿本広大である。分かりやすさに重きを置くのではなく、ある種の分かりづらさや謎、ミステリアスさや不気味さを演出することで、ファンの想像を掻き立てていく。

この手口は、近年の柿本ワークスのなかでいえば「BanG Dream! It’s MyGO!!!!!」「BanG Dream! Ave Mujica」といった作品で顕著に発揮されている。話数が重なるごとに変化する登場キャラクターの造形、そこに新たな設定を次々に登場させることによって、SNSで大きなカオス・反響を生み出してきたこの2作を知っている身からすると、7月から放送されるTVアニメでも同様のシリーズ構成・脚本が描かれるのではないか?などと期待させてくれる。

しかもご存知のように「BanG Dream! 」は、「神椿市建設中。」と同様に音楽がコアとなった作品である。その演出力は当代随一。これまでKAMITSUBAKI STUDIOから生み出されてきた名曲たちを、どのように配して描かれるのかもかなり注目できるし、ある意味では安心して楽しめる一因にすらなる。

ゲーム作品などを通して舞台設定や作品性を表現してきた「神椿市建設中。」シリーズだが、こうしてアニメ作品として全国民的にオープンな作品として表現されることは、長年の創作活動内では一つの到達点でありつつ、今後を左右するキータームにもなる。

TVアニメでは描かれないシーンが描かれていることも含めれば、「神椿市建設中。魔女の娘 -Witchling-」はファン必見の作品だといえるだろう。

● TVアニメ「神椿市建設中。」
・TBS系28局:2025年7月3日(木)より、毎週木曜23:56~

●スタッフ
・原作・企画プロデュース:KAMITSUBAKI STUDIO / PIEDPIPER
・世界観設定・監修・原作シナリオ:月島総記
・監督・シリーズ構成・音響監督:柿本広大
・キャラクターデザイン:PALOW.
・アニメーション制作:SMDE
・製作:SINKA ANIMATION PROJECT

●キャスト
・森先化歩:花譜
・谷置狸眼:理芽
・朝主派流:春猿火
・夜河世界:ヰ世界情緒
・輪廻此処:幸祜
・らぷらす:佐倉綾音
・はすたー:富田美憂
・あぐに:阿座上洋平
・あねもす:梅田修一朗
・くーげる:藤堂真衣
・復興課長:伊藤静
・??? :緑川 光

©KAMITSUBAKI STUDIO/SINKA ANIMATION PROJECT


 (TEXT by 草野虹

●関連リンク
TVアニメ公式サイト
神椿市建設中。
KAMITSUBAKI STUDIO