5月の仙台公演からスタートしたバーチャルライバーグループ「にじさんじ」の7周年を記念したライブツアー「にじさんじ WORLD TOUR 2025 Singin’ in the Rainbow!」。10月18日(土)には、広島文化学園HBGホールで、ジョー・力一さん、周央サンゴさん、壱百満天原サロメさん、セラフ・ダズルガーデンさん、星導ショウさん、栞葉るりさんの6名による広島公演が開催された。
ここでは、ニコニコ生放送の配信映像(タイムシフトは、11月3日で公開終了)を元に、全22曲、約2時間15分のステージをレポートしていく。なお、記事中の画像は、配信映像のスクリーンショットとなっている。
にじさんじの秋曲「ヨナガオルケスタ」で開幕
出演者全員参加によるコントのような影ナレを「Let’s Showtime!」という呼びかけで締めた後、ステージの奧からマイクを通さないメンバーの声が聞こえてくる。6人が円陣を組み、掛け声をかけているのだろう。配信でも聞こえるほど、大きな声だ。お馴染みのBGMと共に6人を紹介するオープニング映像が終わり、会場が一度、暗転。ステージが明るくなると、赤い緞帳の前に、仮面を付けたピエロが両手を大きく広げて立っている。衣装は正装、にじさんじ共通衣装だ。
「レディース&ジェントルマン! 『にじさんじ WORLD TOUR 2025 Singin’ in the Rainbow! 広島公演』へようこそお越し下さいました。今宵、皆さまのお相手を致しますライバーたちをご紹介しましょう」
力一さんの口上に合わせて緞帳がゆっくり上がると、照明が届かずまだ暗いステージに。椅子に座った5人のライバーが並んでいる。一人ずつ紹介され、スポットライトが当たると客席からの黄色い声援が響く。全員、力一さんと同じく、共通衣装を来て仮面を付けている。
「秋の夜長を彩る奇想天外のショータイム。皆さま、どうぞ最後まで、心ゆくまでお楽しみくださいませ」
1曲目は、にじさんじの秋をテーマにした全体曲「ヨナガオルケスタ」。まさに宴の始まりにぴったりな楽曲で、しかも、力一さんと星導さんは、配信音源などで歌っているオリジナルメンバー。この広島公演の開幕にはピッタリの選曲だ。ステージに並んだ6人は、順番にソロパートを熱唱。セラフさんが「心の仮面を脱ぎ捨てて」と歌った後、全員が仮面を投げ捨てた。基本、フリーで踊りながら、サビなどのピンポイントでは6人の振りが揃う。開幕からまさにショーのようなステージ映えするパフォーマンスだった。また、サンゴさん、セラフさん、星導さん、栞葉さんは、このライブで共通衣装初披露だったのだが、出し惜しみせず1曲目の冒頭から全員同時披露だったことには少し驚かされた。
2曲目、ボカロ曲「フィクサー」のイントロが流れ出し、ステージに立っているのがセラフさん&星導さんだと分かると、客席から大きな歓声が上がる。さらに会場を煽った二人は、イントロ終わりに「星導くん、よろしくお願いします」「よろしくお願いします」と声を掛け合い歌い始めた。テンポ良いリズムと不穏な空気感が入り混じる楽曲と、二人の湿度高めで生感も濃い歌声が絶妙にマッチ。会場の熱気がさらに高まっていることは、ネット経由でも伝わってくる。
男性ライバーペアの後は、女性ライバー3人組、サンゴさん、サロメさん、栞葉さんが、大きな鳥籠に入ってステージに登場。ゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」の作中曲「ジャックポットサッドガール」を歌った。3人とも奇麗な高音が印象的だが、それぞれの歌声が重なっても個々の魅力を感じられるほど歌声の個性はバラバラでバランスも良い。また、3人が可愛くシンクロするサビのダンスは、センターを入れ替えながら、3回披露された。
「間違えなかった、間違えなかった」と呟くサンゴさんを、栞葉さんが「良かったね。すごいすごいー」と褒めながら始まった最初のMC。3人が投げキッスのファンサをしていると、男性陣もステージに登場。6人が順番に自己紹介した後は、共通衣装初披露の4人が、それぞれのアピールポイントを紹介していった。
冒頭の無料パートが次の4曲目で終わることを予告した後、力一さんとサンゴさんはいったん退場。それぞれ、白いスーツと制服の通常衣装に着替えて帰って来た。2人とも、大きな腕時計を付けている。他の4人が退場する流れの中、力一さんのボケをきっかけに全員が、ネットでバズった「にぎにぎにじたうん!」のダンスを披露。サロメさんの言葉通り「有料級」のサービスタイムだった。
ステージに残った“いちさんご”が歌うのは、大ヒットアニメ「妖怪ウォッチ」の主題歌「ゲラゲラポーのうた」。ステージ上に現れた神社の前で、コミカルなダンスを踊りながら、2014年の大ヒット曲を歌う2人。配信のコメント欄にも懐かしがる声が大量に投稿されたが、力一さんの巧みなラップやボーカルと、サンゴさんの本気モードの美声に、選曲へのツッコミを忘れて聴き入ってしまう。
1番終わりの間奏では、手首に巻かれた妖怪ウォッチを使って、「出てこい俺のともだち、人面犬!」「人面ダコ!」と、ともだち妖怪(?)の栞葉さんと星導さんを召喚。通常衣装の2人も加わって、もっとパワフルに楽しく、10年前の国民的ヒットアニソンを全力で歌い切った。
4人連続でソロのパフォーマンスを披露
有料パートの1曲目は、サロメさんのソロコーナー。黒縁の眼鏡をかけて、「シンデレラ(Giga First Night Remix)」をセクシーに歌っていく。高音で甘く柔らかい声なのに、不思議と一音一音のエッジがしっかりと立ち、歌詞はしっかりと聴き取れて、サロメさんのパフォーマンスが生み出す世界観へと引き込まれていた。非常に物語性の濃いソロライブを大成功させたアーティストとしての風格を感じるパフォーマンスだ。
6曲目は、雰囲気がガラリと変わって、サンゴさんとサロメさんの「キャンディークッキーチョコレート」。広島名物もみじ饅頭のオブジェの周りで、歌い踊る2人がひたすら可愛い。
仲良しな“サロメンゴ”のMCを挟んだ7曲目は、再び共通衣装に着替えた力一さんがソロで登場。昨年6月の「ジョー・力一 1st LIVE『カーニバル・リヴ』」でも使用していたステッキ型マイクも持っている。「広島にちなんだ曲」という紹介の後、披露したのは、広島県出身の人気バンド・ポルノグラフィティの代表曲「サウダージ」。音圧が強く、伸びやかでもある力一さんの歌声は、ポルノの楽曲と相性ぴったり。会場の多くの観客が思わず聴き入っていることが想像できる。
8曲目も続けて、男性ライバーのソロステージ。ダンスボーカルユニット「VOLTACTION」のメンバーで、「にじさんじダンス部」にも所属しているセラフさんがAyumu Imazuの「BANDAGE」をカバー。4人のダンサーを引き連れて、切れ切れのダンスで圧巻のステージを見せる。長い手脚を最大限に生かしたスケールの大きな動きと、奇麗でブレないストップ。静と動の切り替わりの連続が心地良く、ダンスだけでもステージが成立してしまいそうなクオリティだ。にじさんじの中でも有数のダンス巧者であることは知識として知っていたが、プロのダンサーと共に踊るこのソロステージで、その実力を再認識した。
MCで、「にじさんじ」に入って挑戦してきた中で一番難しいダンスだったことを語ったセラフさん。すると、次に歌う様子の星導さんがセラフさんのダンスの真似をしながら登場。一瞬、からかっているように見えたが、カッコ良くて好きなダンスを真似しているだけらしい。セラフさん曰く、「広島の面々、(ダンスを)気に入ってくれるのは嬉しいけど、サロメさんとか(真似が下手で)すごいから、最初は馬鹿にされているのかと思った(笑)」そうだ。
セラフさんが退場し、ステージに一人残った星導さんが歌ったのは、藤井風の「まつり」。常に落ち着いた雰囲気で飄々と話し、つかみどころ無い雰囲気の漂う不思議な鑑定士だが、スタンドマイクの前にスッと立ち、丁寧に歌い上げていく。高音まで柔らかく感情的な星導さんの歌声と、スクリーンに映る打ち上げ花火が合わさって、会場中がエモーショナルな空気に包まれているようだ。
星導さんが去り、無人になった真っ暗なステージ。一つの影が下手から現れて、中央奥の豪奢な椅子に座る。会場前方の観客には、影の正体が見えている様子で歓声も聴こえてきた。明るくなったステージで、椅子にちょこんと座っているのは、サンゴさん。共通衣装の注目ポイントとして頭のティアラをアピールしていたお姫さまが可愛さ全開で歌うのは、ボカロ曲の「我儘姫」。間奏では椅子から立ち上がり、ステージを左右に動きながらピンクの光に染まった客席のファン一人一人を魅力していく。途中からは、兎の人形を抱きかかえて、その仕草は、さらに可愛さをましていく。
初ライブの栞葉るりは学マス曲「白線」を披露
怒濤の4人連続ソロステージの後は、力一さんとセラフさんが、TOOBOEの「痛いの痛いの飛んでいけ」をカバー。アニメーションから始まった二人のステージは、作り込まれた映像演出と組み合わさって濃い物語性が感じられた。
続く12曲目は、通常衣装のサロメさんと、共通衣装の星導さんによるボカロ曲「エル・タンゴ・エゴイスタ」。筆者は、この二人が並ぶ姿を初めて観たが、衣装のチョイスも含めて、ビジュアルの相性が抜群。姫と騎士のようなシナジーを感じる組み合わせだ。二人の掛け合いを強調する振り付けとカメラワークも相まって、まるでミュージカルを観ているようだった。
13曲目は、力一さんと栞葉さんの「ばかまじめ」。あまり縁が無さそうで、実は北海道にとても詳しいという共通点を持つ二人は、Creepy Nuts×Ayase×幾田りらのコラボ楽曲を楽しく軽快にカバー。前曲の情念濃い目な雰囲気から、会場の空気を一変させた。
そして、二人でのMCの後は、本ツアーの全出演者の中で、ライバーとしてのキャリアが最も短い栞葉さんのソロコーナー。デビュー2周年を迎えるよりも早くワールドツアーのステージに立った“犬のお巡りさん”は、大好きな「学園アイドルマスター」の楽曲をカバー。一見、儚げだが周囲の天才からも一目置かれるほど芯が強い努力型アイドルの葛城リーリヤの持ち曲、「白線」を笑顔で元気一杯に披露した。コンテンツ愛にも溢れる全力の歌とダンスは、そのままリーリヤのイメージとも重なる。また、立った状態から、ほぼ膝の動きだけで軽く飛んでいるように見えたジャンプの高さには驚かされた。
15曲目は、男性陣3人の圧倒的な歌唱力が強烈なインパクトを残したAdoの「唱」。16曲目では、サンゴさんと栞葉さんが、歌もダンスも可愛さ全開でボカロ曲「イガク」を披露した。
17曲目は、ピエロとお嬢様(に憧れる一般人)という組み合わせだけでドラマが生まれそうな力一さんとサロメさんの「ヒアソビ」。元々、男女の駆け引きをテーマにした曲だが、攻めた振りのインパクトも相まって、VTuberのライブではあまり感じることが無いくらいに大人の空気が醸し出されている。二人ともステージ衣装ではなく通常衣装姿というのも、男女の物語感を強めているのかもしれない。
18曲目のボカロ曲「NEO」では、セラフさん、星導さん、栞葉さんが踊りまくる。ダンスの実力では、セラフさんが頭一つ抜けていそうだが、星導さんと栞葉さんのダンスも切れ切れで見劣りせず、3人でのダンスパフォーマンスとして成立している。特に、合間に挿入されている栞葉さんの決めポーズの可愛さは必見だった。
アンコールで6人全員でのダンス曲を披露
19曲目は、SEKAI NO OWARIの「炎と森のカーニバル」。イントロが流れる中、無人のステージの中央にドアが現れて、そこから通常衣装姿の6人が順番に登場。ライブのフラッグを持った星導さん。じょうろを持ったサンゴさん。火が付いたトーチを持ったサロメさん。拡声器を持った栞葉さん。ヴァイオリンを持ったセラフさん。アコーディオンを持った力一さん。夜空の美しい森の前で並ぶ6人は、様々な組み合わせで奇麗なハーモニーを響かせていく。終盤では、全員が光に包まれて、共通衣装へと変身し、さらに会場を盛り上げる。ライブ会場のステージとは思えない、壮大な広がりを感じさせるパフォーマンスだった。
6人のMCでは、ステージ上で早くも振り返り感想会が始まる。永遠にお互いのパフォーマンスを褒め合っていられそうだったが、座長である力一さんの仕切りで、次の曲のフォーメーションへ移動。20曲目に、にじさんじ7周年記念楽曲「Arc goes oN」を全員で熱唱し、広島公演の本編を締めくくると、特に名残惜しそうなサンゴさんをなだめながら、退場していった。
すぐに自然発生したアンコールに応えて、共通衣装姿の6人が再登場。ステッキを持って踊りながら、「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」の「potatoになっていく」を歌っていく。タップダンスのようなステップも踏みながら、フォーメーションで動く6人のダンス。アンコール1曲目とは思えない難易度の高さだ。歌い終えた後のMCでは、サンゴさんやサロメさんがダンスの難しさを語り、力一さんも「これが最後に控えているのが分かっていたから気が気じゃなくて」と振り返っていた。
さまざまな告知と、ARカメラによる記念撮影の後は、一人一人、このライブに込めた思いを語っていく。2人目のサロメさんは、支えてくれた仲間へ感謝を述べた後、観客に向かっても「夢のような景色を見せてくれてありがとう。皆さま方のおかげで私たちここにいます」と思いを伝えた。そして、最後、座長の力一さんは、個性派揃いだったというメンバーと意見を交わしながらライブの準備をしてきた日々を振り返った後、「こういう一人一人がつええんだぞってライバーがギュッと集まったら、こうなったぞっていうところをね。この広島でお見せできて最高に幸せでした。ありがとうございました」と締めた。
そして、最後の22曲目は、もちろん「Virtual to LIVE」。にじさんじツアーでは初めての広島公演も、色褪せることなく輝き続ける「にじさんじ」の永遠のアンセムで幕を閉じた。
音楽ライブ初出演のライバー2人と、ソロライブ経験者が2人。ライバー歴も含めて、比較的、経験値の差が大きいメンバー構成だった広島公演の6人。しかし、公演前からアップされていたショート動画などから感じていた、謎の緩さと仲の良さは本物だった様子。6人での難易度高めなダンスなど、他の公演ではあまり観られなかったパフォーマンスも披露された。
また、このツアーで公演を重ねるごとに新たな見せ方が採用されている共通衣装と通常衣装の使い分けなどは、この広島公演でさらに、自由度を増している気がした。12月7日(日)のソウル追加公演では、共通衣装は使用されないようだが、ツアーを締めくくる2026年1月18日(日)の東京公演での新たな演出も楽しみしておきたい。
(C)ANYCOLOR, Inc.
(TEXT by Daisuke Marumoto)
●関連リンク
・「にじさんじ WORLD TOUR 2025 Singin’ in the Rainbow!」公式サイト
・にじさんじ(X)
・にじさんじ(YouTube)


























