50坪の巨大グリーンバックと合成精度がヤバい! バーチャル・ライン・スタジオ、「XR対応スタジオ」をオープン

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バーチャル・ライン・スタジオは10月12日、東京都調布市にある日活調布撮影内に合成専用のスタジオ「XR対応スタジオ」をオープンし、11月4日に関係者向けに内覧会を実施した。

スタジオ自体で約150坪、グリーンバックステージで約50坪(幅11×奥行き9×高さ5.4m)という日本最大級をうたうサイズと、リアルタイム合成を実現するカメラとシステムを用意するのが特徴で、映画やCM、ドラマなどの撮影、音楽ライブの配信などに利用できる。

バーチャル・ライン・スタジオ自体は映画の日活、CG制作のデジタル・フロンティア、広告のAOI TYO Holdingsという3社が共同出資して立ち上げた会社だ。XR・VTuber専門メディアのPANORAでも現地を取材したので、その魅力をまとめていこう。

実際にグリーンバックステージを利用して、バーチャルディスプレイにデモ映像を映しつつXR対応スタジオの魅力を解説していた


大きいことはいいことだ

まずは、実際に本スタジオで撮影した5分半のデモムービーを見てもらいたい。オフィス、渋谷スクランブル交差点、登山と主に3つの撮影ケースを紹介している。

デモムービーの製作陣はこちら

ポイントとしては、

複数の役者がかなり広い範囲で動ける
きちんとカメラが追従している
映り込みや回り込みなど合成の精度が高い

という3点になる。言葉でさらっとまとめてしまうとそのスゴさが伝わりにくいので、もう少し深く掘り下げていこう。

 
広さに関しては、まずグリーンバックで50坪というのが非常にインパクトが大きい。筆者もこのサイズのグリーンバックスタジオは初体験で広さに驚いた。

サイズが大きいということは、モブも含めて多人数の役者がスタジオに入って、生で演技してそれをCGの背景と合成できることを意味する。一人で演技する場合も、歩ける範囲が広いため撮影の幅が広がる。奥行きもあるため、オンラインの無観客ライブでもバックダンサーの移動範囲を含めて撮影して合成が可能。グリーンバック自体も幕ではなくシワのない壁で、天井と床の際にRが付いていて影ができにくい状態になっている。

ステージ手前にスタッフ用のスペースが100坪あるのも重要だ。例えば、リアルとバーチャルのタレントを共演させる際にも、手前にモーションキャプチャのシステムを組んで、その場でコミュニケーションをとりながら撮影できる。大きいというだけで解決できる問題は結構ある。

 
リアルタイム合成に関してはZero Densityの「Reality」を、カメラ位置の取得にはstYpeの「Redspy」をそれぞれ採用している。天井にあるマーカーを元にカメラ位置を取得し、デジタルに馴染みのないカメラマンでもいつも通りにカメラを操作してリアルの役者とCGセットを両方撮影できる。

Realityは、海外では大半のバーチャルスタジオが採用しているソフト。BBC、FOXスポーツが採用するほか、最近ではルイヴィトンのファッションコレクションでも使われているとのこと。

普段の天井はこんな感じ。歴史を感じさせるキャットウォークだ
フラッシュを当てて撮影するとマーカーが浮かび上がる

収録機器はSoftrronの「M|Replay」を用意。複数チャンネルを長時間にわたってとりっぱなしにできるのが特徴になる。今回のPVでは合成映像、合成していない生の映像、ポスプロ用のアルファマスクという3チャンネルで収録した。

 
合成の精度については、具体例を交えてお伝えしよう。デモムービーで披露したオフィスの最初のシーンでは、女優、タブレット、マグカップ、ハンガー、服以外はすべてCGとなっている。ソファやテーブルもグリーンのクロマキーで抜いた上での合成だ。

さらにRealityの機能を利用して、実写をCGに映り込ませることも可能。CGの車を出現させてリアルタイムで映り込みを見せたり……
CGの奥に回り込めることもデモしていた

先ほどのオフィスのシーンでいえば……
Reality上でキューブと呼ばれる設定をすることで、映り込みや回り込みを実現している
カメラの設定もRedspyとRealityを連携させて反映可能で、このようにフォーカスを…
ぼかすことも可能
レンズの歪みデータもズーム倍率からリアルタイムで計算し、CG側に反映してより自然に合成できる

渋谷スクランブル交差点のデモムービーは、交差点を歩くCGのモブキャラの数が多くてPCの処理が追い付かずにリアルタイム合成できず、あとからモブを足した「オンセットプレビズ」の例となる。それでも激しいカメラワークは現地で撮影したようなリアルさを感じさせる

RedSpyのカメラデータはFBXやXML形式で後工程に渡せる。今回はFBXのデータをUnreal Engine(UE)のシーケンスに読み込んで1コマずつレンダリングした

登山のシーンは、ポストプロダクションで多少のカラーコレクションを加えたぐらいでほぼリアルタイム撮影で実現した。

リアル側のセットを最小限にするために、UEの中でプレビズを作成してカメラワークを繰り返し検証した。事前に実際のセットをフォトモデリングでUEにとりこみ、両方の質感やサイズ、レイアウトなどを調整して違和感をなくしている。さらに照明をアウトドアに見えるものに調整……といったようにリアルとバーチャルの両方からすり寄って合成精度を上げている。

ムービーをよく見るとグリーンバック撮影なのに、リアルセットの草の色が抜けていない。これもRealityの機能で、空間でキーイングで抜く部分、抜かない部分を設定可能だ。登山の映像では、リアルセットの部分は抜かない設定となっている。

具体的には「サイクロラマ」という3Dを利用した高度な差分キーヤー機能で、XR対応スタジオでは50坪のグリーンバックステージをレーザースキャンして、正確なCGデータをサイクロラマに利用している。

そうした仕組みがあるため、Realityでは透明の物体もきれいにキーイング可能。このようにペットボトルに入った水も……

リアルタイムできれいに切り抜いてくれるのがスゴい
高度なキーイングの例として、実写の影の合成も披露していた。半透明の実写の影を……
CG側に反映できるのでより合成が自然に見える
ネット経由で複数の役者を合成して一つのバーチャル空間煮立たせる例も披露していた


お値段は500万円ぐらいから

さて、スタジオの実力に関しては十分わかっていただけたと思うが、気になるのは料金だろう。今回、参加者に料金表が配られたデータをそのままお見せする。

細部に項目が分かれているので全体像が掴みにくいが、書かれている項目はほぼ必要になる。例えば、準備日2日で照明関連をフルで利用してスタジオレンタル料金が380万円ほど。さらにバーチャルスタジオの料金で80万円。ここにスタジオマンや電気使用料、控室、会議室などの料金が加わって、500万円台からというイメージだ(もちろんCG制作は別料金になる)。

あくまで概算なので詳細は問い合わせとなるものの、例えばスタジアムを利用した万単位の来場者を想定しているライブを無観客化する場合、派手なCG演出をふんだんに使える本スタジオが普通に選択肢に入ってくるだろう。ファンから求められているのにコロナ禍で大規模イベントを実施できない……というニーズにはドンピシャでハマる。ナショナルクライアントのCMや映画の撮影でも、天候に左右されずに役者のスケジュールが押さえやすい。

デモムービーでも語られていたように、新機軸のスタジオが生まれたことによって、制作側が刺激を受けて「こんな映像が作れるのでは?」というアイデアが出てきそうな点も興味深い。

惜しむらくは、現状、Redspy対応のカメラが1台しかないという点で、マルチアングルで撮影したい場合は別途持ち込む必要がある。この辺もスタジオの稼働率が上がって、ニーズが高いことが伝われば標準で用意されていくはず。映画、映像、広告、イベントなどの業界の方は選択肢の一つとしてぜひ覚えておきたい。

 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
●関連リンク
バーチャル・ライン・スタジオ