空間を掌握し、包み込む歌声でアイドルとしての存在証明をする 如月千早・単独武道館公演「OathONE」全46曲レポート

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2026年1月24日(土)、25日(日)に、東京都・日本武道館とライブ配信プラットフォーム・ASOBI STAGEでのxRライブストリーミング(以下、xRライブ)にて、「如月千早単独武道館公演「OathONE」」が開催された。

如月千早さんは、芸能事務所「765プロダクション」(以下、765プロ)に所属するアイドルだ。765プロにはデビュータイミングが近い13名の「765PRO ALLSTARS」と呼ばれるアイドルがいる。その中で如月さんは歌の表現力やスキル、ストイックなまでのこだわり、なにより歌自体が好きだということなどから「歌姫」と呼ばれている。

日本武道館といえば、武道の稽古場・競技場であると同時に、アーティストにとって聖地ともいえる会場である。ここでライブを行うことは、アーティストにとって一つの大きな目標だ。今回のライブでは「日本武道館に、アイドルが一人」というキャッチフレーズの通り、そんな大舞台の中央に彼女が一人で立ち、2日間で46曲を見事に歌い上げた。

観客に歌を届けることが、歌を歌うことが好きな如月千早さんが、特定のジャンルに縛られることなく複数の楽曲を披露できるソロライブを実施する──。本人出席のもと、各メディアを呼んで2025年3月に記者会見を開いたということもあり、彼女のファン目線で筆者が最初に抱いたのはそんなワクワクであった。

もちろん、如月千早さんはゲームやアニメに登場するキャラクター、だからこの公演はキャラクターライブだという見方もできる。だが、本稿では、先述の記者会見で感じたワクワク感に従い、彼女のファンという目線に、「如月さんや彼女と交流のあるアイドルのファンが知り得る情報」を補足して、いかに彼女が存在し得たかを語っていきたい。

なお本公演では、ソニー開発のエンターテインメント向け群ロボットシステム「groovots」(グルーボッツ)を導入しての演出が行われたのも話題になった。出演するアイドルは一人だが、舞台を彩る複数のロボットが活躍したことも、本編とは別にレポートしていこう。

幅0.3m×高さ1.3mの「groovots」


【1/24公演】歌で奏でる、「君と仲間」への誓い

「心壊」

公演後に発表されたセットリストによると、今回のライブは両日ともに6つのブロックに分かれている。1月24日公演の最初のブロックは「心壊」と名付けられていた。

会場に着くと、ほぼ全方位の客席が解放されている。中央には円形のステージが設置されており、その周囲を覆うように透過LEDスクリーンの幕が下ろされている。ステージから東西には花道が伸びる。如月さんは日本武道館のど真ん中から全方向の観客へ歌を届けるのだろうと、その覚悟が始まる前から伝わってきた。

開演時間が来て会場が暗転すると、ステージを覆う幕には深海をイメージした映像が流れる。ステージ下のスクリーンに海面、幕には夜空が映し出されると、楽曲「蒼い鳥」のイントロが流れてきた。

歌声に合わせて幕が上がると、ステージの中央に立つのは如月さん、ただ一人だった。

「蒼い鳥」はアイドルとしてのキャリア初期にリリースされた、彼女の名刺ともいえるバラードで、恋人との別れと旅立ちへの意思が歌われている。緊張があるのか彼女の表情や姿には必死さも見て取れたが、その歌唱力に武道館の観客はいきなり圧倒されていた。

続く曲もバラード「静かな夜に願いを…」。伝えられなかった、叶えられなかった想いを、雪が降る夜の情景と共に切なく描く一曲だ。サビに込めた彼女の響く声が会場中に染みわたる。

武道館の客席を見渡すと、照明だけでなく、観客が振る白いコンサートライトも共に雪夜の空間を作り上げていた。ステージへの視線だけでなく、ステージを覆う客席をも演出効果に変える、センターステージの力を感じさせられた。

「9:02pm」は、夜、ひとりきりになった時に逢えない君を想う、切ない感情が漂うスローバラード。間奏の間、寂しい表情をしつつ身体を揺らしている姿も含めて、ジャジーな曲を歌いこなしていた。

3曲続いてのバラードの次はアップテンポの「目が逢う瞬間」を披露。別れた恋人と再会したときに残っていた好意に気づき、揺れる気持ちを、その心中の振幅の大きさにあわせて力強く歌う。間奏では曲調にあわせて観客もコールを入れてきた。

ここで披露された4曲で構成されたブロックの名前、「心壊」について、ライブのキービジュアルと開始前の映像からすると「深海」になりそうだが、心が壊れるほどの別れに関連した楽曲が揃っていることを示しているのかもしれない。

ライブ キービジュアル。海の中から星空へ向かって手を伸ばす如月さん

MCパートにて、「歌うことが私の全てです」と言うも、「歌うことが前に進むことだと信じていても、時々自分がどこになっているか分からなくなってきます」と告白する如月さん。その表情と声はどこか寂しそうだ。


「哭諷」

MCでは先の話題に続いて、そんな状況だからこそ見える小さな光を求めて、傷つきながらも歩いてきたという。次の曲は、真っ暗な暗闇から、もう一度這い上がるような思いを込めて歌うという。

真っ赤に染まるステージで歌唱する「arcadia」は、目指すべき理想郷に向けて激をもって突き進んでいく楽曲。

歌唱だけでなく背中を反らすなどの振りも含めて疾走感と力強さが合わさったパフォーマンスが特徴的だ。

全てを燃え尽くすような愛を歌う「inferno」では、照明やスクリーン映像だけでなく、彼女が立つステージの周囲を覆うように配置されたパイルから炎が沸き起こる。

「高速詠唱」とも呼ばれる早口でセリフを唱えるパート(しかも今回は如月さんのソロ歌唱なのでオリジナルよりも長く詠唱がある)から静かに歌い、「インフェルノー!」と叫んで、再び情念を込めた歌唱へと解放される……という流れは、演出とともに盛り上がるポイントである。

自分のものにならなくても相手のそばにいるだけでいいと、大人びた女性の恋愛を歌った「relations」。情念がこもった世界を如月さんがひとりで歌い上げる。2番Aメロでは歌詞を追いかけるようなコールも入り、ライブで盛り上がる一曲だ。

禁忌を犯し闇から覚醒めたアナタとアタシを待っていたのは破滅…そんな愛のハードナンバー「Fate of the World」が流れると再びパイルからの炎が燃え上がる。

混沌の世界を生み出す熱狂的な歌唱とジャンプを含めた振りが客席をも燃え上がらせる。各サビごとのロングトーンを聞いたときは、「日本武道館という空間を完全掌握したな」と筆者の身をもって感じたのであった。

なお、これら4曲のブロックの名前は「哭諷」。「哭」は声をあげて激しく泣くこと、「諷」はそらんじること。理想や情熱、時にインモラルともいえる恋を強く激しく表現した楽曲が並んだ。


「再醒」

如月さんから、このブロックは「立ち止まってしまったひとりの心の物語」という説明があり、「みなさんにもそんな夜があった時に、この歌たちが寄り添うことができたなら」と語りかけてくれた。

「眠り姫」は、「眠れる森の美女」をモチーフに、大切な人を失って打ちひしがれていた孤独から目を醒まし、独りで立ち上がろうとする様子を描いた楽曲だ。

今回は、目覚めるまでを描いた1番をアカペラで歌った。伴奏付きの歌唱と比べてブレスが入るところで少しの間があり、観客に歌が、言葉が届いているか如月さんが確認しているように感じられた。

目覚めてからを描く2番以降では伴奏が入ったが、そこでの表情には強い意志が感じられ、それでいて笑みも見せながら歌を届けていた。

「Snow White」は、サビから視界が開けるようにメロディが変わり、2番から音数が増える。

悲しみを乗り越えた先に見える輝きを純白の雪に例えるこの歌。照明やモニターの演出だけでなく観客席で振られる白いコンサートライトも武道館を白く染め、静かに如月さんの歌唱を見守っていた。

「LOST」は大切な人との別れに際して、昔を懐かしむように歌うバラード。武道館の中央にいる如月さんの声が、会場全体をあたたかく包み込む。

先ほどの「Fate of the World」での会場を掌握したという感覚とは別の方向でも、如月さんの歌の力を感じた一曲であった。

「隣に…」は如月さんと765プロ所属の三浦あずささんのバラード。大切な人との別離の悲しみを歌い上げる曲だが、三浦さんの情念を込めた歌唱と比較すると、祈りを届けるような歌唱だったのかもしれない。

それぞれの歌で、別れとその先を描いた物語を表現したこのパート。「再」び目「醒」め、そして「再」び「生」き続けようとする、そんな歌の表現をすることで如月さんは誰かの支えになりたいということだろう。

ライブも半分を終え、ここでセンターステージに幕が降りる。そして如月さんはステージを降り、客席に手を振りながら花道を歩いていった。


「声廻」

センターステージを覆う幕に大きな月が映し出され、次の曲のイントロが流れるのにあわせ幕と共に月が空へ浮かび上がる。そして注がれる光が衣装を変えた如月さんに当たって歌い出す。

この楽曲は今回の公演に合わせ作られた新曲、「輝夜」(かぐや)。その名の通りかぐや姫をモチーフにしたバラードだが、それも「月に帰らないことを選んだかぐや姫」を描いたと作詞家の森由里子さんは言う

地上に立つ私たちが見た月の明かり、そして地上に灯る明かり。孤独の中に見つけたそれぞれの光を、如月さんが切なく、そして握りしめていた。

「my song」は果て無く続く、未知なる道を進む自分からそばにいるあなたへ愛を伝えるミドルバラード。この歌を高らかに、武道館全体を優しく包むように響かせていた。

バラードが続いた後に歌ったのは、765プロの同僚、萩原雪歩さんの楽曲であるテクノポップ曲、「Kosmos, Cosmos」。宇宙というこれまた道のない世界をキミと進むこの曲を、透明感のある声でその広さを表現し、そんな声の中にある力強さで突き進む意志を感じさせる。

「Light Year Song」も765プロの仲間の楽曲のカバー。如月さんが歌うEDM楽曲を聞ける機会はそこまで多いわけではないが、跳ねる感じではなく地に足の着いた確かな声を武道館の空に届けていた。

MCパートでは、新曲「輝夜」について、「たくさんの人々との出会い、そして今ここにいる奇跡を歌った、そんな私の新しい、大切な楽曲です」と伝える如月さん。「輝夜」に続いては同じ事務所にいる仲間の曲を歌ったが、そのプレッシャーに対し大丈夫と声をかけてくれた仲間やスタッフに感謝を伝える。

なお、ここのブロックは「声廻」という。「声」で「星」空を見上げて「廻」る、そんな楽曲群が集まったのだと筆者は感じた。


「吟我」

「みんなそれぞれのペースで、みんなはみんならしく、ずっと一緒に歩いていたのだと」と感じた如月さんは、「だから私も私らしく、胸を張って、しっかり前を向いて、みんなと同じ空を見上げます。」と述べ、765プロにゆかりのある人物が歌唱した「空」を披露した。

自分らしく進むことを肯定し応援するあたたかなこの歌に、如月さんも背中を押されたのではないだろうか。空に手を伸ばし、晴れやかな笑顔で歌う彼女にあわせ、武道館の空を覆う観客もコンサートライトを横に振り虹を作っていた。

ここからは3曲は如月さんの持ち歌、それも荘厳な世界を描くような曲調ではなく、近年リリースされた等身大の人物を描いた歌が続く。

「君に映るポートレイト」は、自分の道を進む中、重ねてきた出会いで笑顔を塗り重ね変わってきた自分を嬉しいと歌うバラード。声とともに自然な笑顔を会場の各方面を向きながら披露していた。

「Coming Smile」では、もらう笑顔だけでなくあげる笑顔の力を歌う。力強く、そして優しく包む歌声を聞けば、自然とこちらも笑顔になってくる。

辛さも衝突も痛みも、そんな昨日もひっくるめて自分で、そして新しい明日に、自分になる!アップテンポな「Just be myself!!」を歌う如月さんの勢いは、ロングドレスを身に着けているにも関わらず大サビでジャンプを見せ、そして最後のロングトーンは会場中を突きぬけていった。

ライブの後半からgroovotsがステージ上を動き、楽曲にあわせたライティングや映像を流すことも。詳細は後述する

「吟我」と題するこのパート。これまで見てきたように、如月さんの「口」から「今」の「我」を「吟」う(うたう)楽曲が披露された。

「この曲は、ここまで歩いてきた時間と、歌への思い。私と、仲間たちが積み重ねてきたひとつの答え。夢を描き続け、私がここにいる証の曲です」と述べた後、765プロアイドルの代表曲である「M@STERPIECE」のサビを、アカペラで歌い始めた。

「私のM@STERPIECE」とロングトーンで歌った後、オリジナルとは異なる、アコースティックの演奏が流れると、自然と観客もクラップで曲に参加する。

間奏では、仲間と歌唱するときと同じ振りをゆったりと踊り、「M@STERPIECE」「M@STER PEACE」という歌詞ではチャーミングな笑顔でピースサインをする。

終盤の曲でありながら、高揚や熱狂ではなく、彼女と仲間たちとの活動と夢を振り返るように歌う如月さんの姿に、見ているこちらも彼女と出会ってからのことを思いだし、音楽とともに噛み締めてしまった。

これも、今の如月さんの姿のひとつなのだろう。


「奏誓」

「奏誓」と題するアンコールパート。荘厳な前奏が流れ、檻のように見える透過LEDの幕の中から現れた如月さんが歌ったのは「細氷」

暗い絶望に打ちひしがれるように静かに歌う序盤を静かに見守る客席。

そこから、もがきながら空を見た時に舞う、小さくても咲き誇る細氷……ダイヤモンドダストの光に希望を見出したときに、解き放つように高らかに歌い上げるサビに、観客はただただ聞き惚れていた。

そしていよいよ、本公演の最後の楽曲。

「この歌は、私の家族のように大切な仲間が私に贈ってくれた曲です。立ち止まってしまった過去の私、そしてこれからの私、そして何より、私の歌を、笑顔で歌う私の歌を好きといってくれた、私に歌う喜びを教えてくれた、あなたへの、約束です。」と、伝えたい人に届くよう、ひとつひとつ丁寧に述べる如月さん。

暗転の後、武道館の中央に一筋のスポットライトが点くと、楽曲「約束」を歌い始めた。

この「約束」という楽曲が、「私の家族のように大切な仲間が私に贈ってくれた曲」というのは、如月さんのために765PRO ALLSTARSの他のメンバー12名が作詞を行い、そして一緒に歌ったという楽曲とのこと。

この歌の最後に「そっと誓うよ 夢を叶える 君と仲間に 約束」というフレーズがあるが、ここでいう「仲間」とは 765PRO ALLSTARSのメンバーのことで、そして「君」とは、如月さんに歌う喜びを教えてくれた「あなた」のことだろう。

本日の公演では、暗闇から這い上がるような歌、空を見上げて歩いていこうとする歌、笑顔をもらい笑顔をあげる歌などを、時に武道館中を掌握するような力ある歌唱力で、時に会場を包み込むような優しさで歌ってきた如月さん。ここで「約束」を奏でることで、「あなた」や「仲間」に誓いが立てられたのだろうか。そんな彼女の周りには、12体のgroovotsがステージ上で見守っていた。

歌唱ののち、センターステージを覆う客席の各方向に如月さんが手を振り、幕が降りた。「輝夜」のイントロが流れ、スタッフロールが流れたところで初日の公演は終了となった。

【1/25公演】新しい、「私」との誓い

「月光」

2日目のステージも昨日と同様、センターステージを覆うスクリーンに海をイメージした映像が流れ、「蒼い鳥」から始まる。曲は同じだが、武道館でのパフォーマンスに慣れたのか、初日の公演を無事終わらせた自信からなのか、前日と比較して動きも大きく、また確かに目を開き会場を見渡すこともあった。

続く2曲目で新曲「輝夜」をいきなり披露。ここで前日からセットリストを変えてきた。

そして、次の曲のイントロが始まるとともに顔を隠すように両手を横にする如月さん。

振りに合わせ、ステージ上のスクリーンに映し出された「輝夜」で夜空を優しく照らした月は真っ赤に染まり、会場は赤と青の照明で照らされ、ステージには炎が上がる。

なんとここで披露されたのは、如月千早の楽曲でもなく、765プロの仲間の楽曲でもない。声優であり歌手でもある、今井麻美さんが歌う「月下祭 ~la festa sotto la luna~」だ。

作詞も今井さんである、月の下で狂おしいほどの熱気に溢れる祝祭の歌を、情熱を込めて歌い、舞い踊る姿に、如月さんのさらなる表現の一面が見えた。

祭が終わっても空に月は残っている。そこで次の曲の頭サビを如月さんが歌うと、再び会場は沸き立つ。月が映るスクリーンの映像は乱れ、蔦が絡みあうものに変えた、この楽曲の名は「アイヴイ」(ivy = セイヨウキヅタ)。以前仕事で関わったというアイドル、村手毬さんの楽曲を、今回は如月さんが歌う。

オリジナルの歌唱を「粗削りで、魂を削るようでありながら、どこか精細でひきつけられてしまう」と語る如月さんは、息を切らせつつ近年の彼女の曲にはない攻めた感じを楽しむように歌っていたと、筆者はワクワクしながら聴いていた。

2024年の『如月千早に聞くApple Music「空間オーディオ」の世界』という案件で如月さんが聴いていた楽曲がこの「アイヴイ」である。時が巡ってこの楽曲を彼女が歌唱することになるとは。


「灯火」

「傷つき、ボロボロになりながら、全力で光を追い続けた軌跡を、歌でみなさんにお届けします」と紹介から始まるこのブロック。

「arcadia」「目が逢う瞬間」と、如月さんの楽曲でも聴くものを駆り立てる曲の後に、「静かな夜に願いを…」と緩急をつけた構成になっているのだが、そこに共通するのは、何かを願い、そして求める姿だ。

「arcadia」
「目が逢う瞬間」
「静かな夜に願いを…」

続いて歌うバラード「スローモーション」は、ふとしたきっかけでキミとの思い出がスローモーションのように再生され、そこでの出来事が今の自分に繋がっていたんだと実感し、キミへの灯りになろうとする、女性アイドルユニット「イルミネーションスターズ」の風野織さんの楽曲だ。

如月さんはこの曲の歌唱にあたり「キラキラと輝く3つの光が目に浮かびました。とてもやさしくて暖かい光で、まるで背中を押してくれるような、そんな気がしました。」と語ったが、彼女の声にもその想いが反映されていた。

「静想」

歌は物語であり、歌っている人と聞く人がその物語をめくるものだと語る如月さん。

そこで歌われたのは、彼女の楽曲の中でも童話をモチーフにしたと言われる「眠り姫」(眠れる森の美女)と「Snow White」(白雪姫)。

「眠り姫」
「Snow White」

そして、その2曲の間に歌唱されたのは、狂おしいほど相手を求める様子を「マッチ売りの少女」と「火遊び」をかけて表現した、ハイセンスなポップチューン「Little Match Girl」だ。火花が舞う映像と紫色に照らす照明の中で歌唱する如月さん。

これまでの楽曲と異なり、ポップスよりの歌い方をする中、最後の「暖かくして……」という歌う声と目付きに色っぽさを醸し出していて、ドキッとさせられた筆者であった。

このブロック最後に歌ったのは、「SING MY SONG」。如月さんが所属する765プロの後輩である、最上香さんの楽曲だ。1フレーズ、1小節、1音にも想い込め歌う歌い手の物語を、時にこれまでを振り返るように優しく、時にロングトーンに力を注ぎ込んでと、如月さんのやり方で記していく。

この日の公演もここで折り返しということで、如月さんは前日の公演と同じように花道をゆっくり歩き、観客に手を振りながら退場していった。


「煌庭」

衣装を変え、再び舞台に現れた如月さんが歌うのは、前日はアンコールで歌われた「細氷」。光を求める力強い歌唱で一気に観客を惹きつけていく。

続いて、「My Life Song My Love Song」「My Live Song My Light Song」と私の歌を届ける「my song」、僕らにとって十億光年を飛ぶことだって一瞬だという「Light Year Song」と、それぞれの形の光を歌う歌を披露した。

「my song」
「Light Year Song」

続いての楽曲は「My Starry Song」。男性3人組ユニット「DRAMATIC STARS」の1人、桜薫さんの楽曲のカバーだ。

一人では立ち止まることもあったけど、いつもそばにいた仲間と一番まばゆい星を目指し、笑顔で世界を包もう。前日の公演で如月さんが様々な歌で伝えてきたことが、桜庭さんの歌にもあった。そんな歌を、煌めく笑顔で優しく歌うのであった。


「凛音」

ステージにきらめくコンサートライトの星空に感激した如月さんが、今度は皆を「笑顔で満たせるように、しっくりとゆっくりと、私らしく」と言葉にしてから始めた次のブロックの一曲目は、「しっくりとゆっくりと」

手が届かない一番星からの光だって何年もかけて届く、それと同じように自分のペースで進もうと、ゆったりとしたテンポで、それでも迷いを示すCメロでは周りを響かせるように歌う。

周りに笑顔を与える「Coming Smile」、自分らしく進むことをアップテンポな曲調で宣言する「Just be myself!!」を披露した如月さん。

「Coming Smile」
「Just be myself!!」

続いて歌ったのは、渋谷さんの楽曲、「Never say never」。この歌も強く願う場所へ走り出そうと誓う歌である。曲調から強さを感じる歌であり、如月さんも芯を強くもって歌唱している。

その中にも、「笑顔をあげる」「たくさんの笑顔ありがとう」などの歌詞もあり、特に後者を歌うところで如月さんは目を細くして笑みをこぼすなど、柔らかさも感じられたパフォーマンスであった。

「あの、私らしく歌えてましたか?」とこれまでの歌唱について客席に確認をしたのち、「陰ながら支えてくれたスタッフ、一緒に歌い踊り全力で走り続けた仲間たち、前に進めた日も立ち止まった日も信じてくれている、あなたが、いたからです」と感謝を歌で伝えるべく歌唱した楽曲は、その名の通り「GR@TITUDE」

ライブの終盤に歌われたこの楽曲は、「さよならじゃなくて Yes! ありがとう」というフレーズに代表されるように、これまでを振り返りつつ、別れを感謝の言葉に変え、これからも一緒だよと告げる歌。

如月さんは明るく歌うが、感謝の気持ちと同時にまだ終わりたくないという気持ちもあるのかもしれない。


「新誓」

「新誓」と題するアンコールパートにて、特殊イントロと共に幕に映し出される如月さんのシルエット。

幕のLEDが消えると、その奥に「ToP!!!!!!!!!!!!!」と楽曲の頭サビを歌い始める如月さんが現れた。

楽曲「ToP!!!!!!!!!!!!!」は、「M@STERPIECE」と同じく如月さんを含む765プロのアイドル13人の「765PRO ALLSTARS」が歌う、自分らしく、そして仲間と一緒にトップを目指すポップな楽曲。如月さんは武道館のセンターで1人で明るく、時折ウインクも交えながらチャーミングに歌う。

同時に、12体のgroovotsがステージの周りを光りながら動きまわる様子を見ると、やはり13人そろっての意志がこもった楽曲なのであろう。

続くMCで、如月さんは765プロの「家族のように大切な仲間」だけでなく、「トップを目指す、たくさんのライバルであり兄弟や姉妹のようなアイドルがいます」と述べた。そう、この日カバーした楽曲は、そんなアイドルたちの楽曲だったのだ。

そして如月さんは、この日立った日本武道館という夢のステージは、アイドルの夢の数だけあると続ける。もちろん、如月さんの夢もまだ終わらない、この日みた景色をまた見たいとも。

如月さんは、この日の最後の歌を歌うにあたり、観客にお願いがあると言う。これから歌う「約束」は、前日の公演でも述べていたが、この曲は様々な思い出が詰まった大切な曲だ。その曲に、先ほど述べた夢を叶えるというあなたとの「約束」を加えるために、一緒に歌ってほしいと。

この場にいる皆が、「約束」を一緒に歌うということ、それが「新誓」……新しい誓いの儀式。

歌姫とも呼ばれる如月さんが客席にマイクを向け、観客が共に歌うこの儀式は、とても神聖で、とてもあたたかく、とても懐かしく、とても楽しいものであった。

大サビの途中でオケが消えアカペラになる。観客の皆の声が合わさるのを聞きながら、これまでとこれからの如月さんを思っていると、涙が止まらなくなった。

それを見越してか、如月さんは「涙拭いて」と歌う。

いや、「そっと誓うよ 夢を叶える 君と仲間に 約束」と、この儀式の最後の言葉を口にした後、「LaLaLaLa」と歌い続けているうちに、ここまで笑顔でリードしてきた如月さんも涙を流す。それでも、約束を確かなものにするために、最後のロングトーンでは力を振り絞り、息が切れるまで続けていたのであった。

涙をぬぐって「必ずまた、この場所でお会いしましょう」という言葉に合わせ、ステージの幕は降りた。しかし、最後に再び花道に姿を現すと、左右に手を振りながら観客の声にこたえた。そしてマイクを切ると、「ありがとうございました!」と日本武道館に声を響かせたのであった。


舞台演出に彩りを加え、如月千早の歩行を支えたgroovots

演出に花を添えていたエンターテインメント向け群ロボットシステム「groovots」にも言及しておこう。今回の公演では後半から、センターステージのさらに中央で歌う如月さんの周りを舞うように動き、楽曲のイメージに合わせた色で光ったり、画像を表示させていた。

例えば、「Kosmos, Cosmos」であれば銀河を、「空」であれば虹を、「細氷」であれば凍てつく氷のようなイメージを表示して、如月さんのパフォーマンスの演出に一役買っていた。

  

さらに別の形状でも活躍していたことに驚いた。動く大型スクリーンだ。

この手のライブでは通常、会場前方にある舞台にスクリーンやLEDを立てて、そこに出演者を映し出し、観客は一方向からステージを見ることになる。一方で今回はセンターステージゆえ、高さ3m×幅3mほどのLEDウォール2枚を背合わせに設置し、片面には前側、もう片面には後側の姿を映し出すことで、360度から見られることを実現していた。当然、彼女がある方向を向いているときに、逆側から見ると背中を見ることになる(これは、生身のアーティストでも同じであるが)。

舞台中央の如月さんの周りに、後ろの観客席とコンサートライトが見えない黒い領域があるのが分かる

この方式では彼女の移動範囲もLEDの小さな範囲にとどまるのだが、前述のように今回如月さんはセンターステージから舞台袖へ移動した。どのように実現したのか。

1日目のライブで筆者の席からは上の写真のように見えた。如月さんが歩いていた!ように見えたが、よく見ると彼女の周りには黒い領域が

実は、直方体で高さ1.3mのgroovotsとは別に、スクリーンを2枚合わせた高さ2×幅2mの「groovots #C」が今回のライブでは活躍していたのだ。その両面に如月さんを映し出し、彼女が歩くときに groovots #Cさんも移動することで、花道のどちらから見ても歩いているように見せていた。

当然、 groovots #Cさんは透過スクリーンではないので、その奥にあるものは透けては見えない。今回のライブで言えば、コンサートライトを持った観客が groovots #Cさんの奥にいたら隠れてしまい、そこで「如月さんは映し出されていたと気づいてしまう。ただ、特に移動の際は会場をあえて暗くしていたため、コンサートライト以外はそもそもgroovots #C さんの奥にいることが分からないし、それこそ角度によっては遮蔽されるものがなかったのが、より存在させている感を高めていた。


本稿の立場と、如月千早という存在

改めての話になるが、冒頭で少し触れたライブへの見方についてももう一度記しておきたい。

彼女は、ゲームやアニメなどで展開される「アイドルマスター」という作品に登場するキャラクターだ。となると、今回のライブは、武道館で開催される「技術を用いて表現するキャラクターライブ」という文脈で語ることができる。

アイドルマスターのゲームでは、プレイヤーがプロデューサーという立場で彼女たちに接して、ファンでは知りえない想いや生い立ちなどに触れることもある。アニメでは、物語を進めるうえでアイドル個人も含めた複数の視点で描かれている。そうしたゲームやアニメに登場するキャラクターのライブならば、作品で描かれた内容を踏まえての演出が行われるし、それがファンが望むことであろう。

一方で、リアルの世界に存在するアイドルでもある。先に触れた記者会見もそうだし、年末にはYouTubeの「THE FIRST TAKE」に出演した。

如月千早 – 約束 / THE FIRST TAKE
如月千早 – M@STERPIECE / THE FIRST TAKE

他のメディア露出も含めて、アイドル「如月千早」としても扱われているのだ。

「如月千早」というアイドルには、「蒼い鳥」「眠り姫」「細氷」など具体的なタイトルは思い浮かばなくても、荘厳な曲を歌い上げる歌姫だというイメージがあるかもしれない。しかし、激情溢れる歌も、かわいい恋の歌も、民謡やロック、ヘビメタだって歌いこなすシンガーでもある。


そんな前提があって、本公演での如月さんに話を戻すが、現実でセンターステージに立っているのが透過しないLEDウォールなので、普通に見ていたら向こう側の観客やコンサートライトが見えずに「これはスクリーンがあるのだ」と認識してしまうだろう。

しかし、リアルのアイドルとして扱ってきた話があった上で、実際にステージの上で歌い、過去の苦悩を吐露し、先に歩むことを選択。笑顔を見せ、仲間を想い、「君」と約束し、ライバルを気遣い、なにより「私」と一緒に歌って、一緒に泣いてくれた存在であった。そんな彼女を見ていると、スクリーンが透過するかについては、客席のコンサートライトが如月さんの後ろに補完されるようこちらの脳内で処理されるようになっていた。

ということで、筆者としては、晴れて武道館において如月千早というアイドルの存在を証明できた。それくらい、如月千早さんの存在を感じたライブであった。 


今回の公演のセットリストは下記の通り。

本公演はYouTubeで冒頭数曲が無料配信されている(1月24日公演1月25日公演)。また、本編は2026年2月25日(水・如月さんの誕生日)までアーカイブ配信されているので、ぜひ見返してほしい。


(TEXT by tabata hideki

©窪岡俊之 THE IDOLM@STER™& ©Bandai Namco Entertainment Inc.