新ジャンル「少女死にゲー」という衝撃 VR脱出アドベンチャー「ラストラビリンス」レビュー

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あまたは13日、VR脱出アドベンチャーゲーム「ラストラビリンス」をダウンロード専用で発売した。PlayStation VR、HTC Vive/同Pro、Oculus Rift/同S、Oculus Quest、Windows Mixed Realityヘッドセットと多くのVRプラットフォームに対応しており、価格は3980円(税別)から。

「どこでもいっしょ」の高橋宏典氏がディレクター/プロデューサー、「ICO」や「ワンダと巨像」の福山敦子さんがリードアニメーター、「聖剣伝説2」「同3」の菊田裕樹氏が音楽など、スタッフの豪華さも目を引く点だ。

一部には「VRホラー」という声もあるものの、実際に遊んでみると誤解で、まごうことなき脱出ゲームなのだが……。筆者としてはパズルを解けた爽快感とともに、VRだからこそ生まれた喪失感が心の奥に残った。それは何か。早速レビューしていこう。

リアルとVRが同じ姿勢で没入感アップ

ゲームは、プレイヤーが全身拘束されたまま車椅子に乗せられた状態でスタートする。目の前に現れた少女「カティア」とは言葉が通じず、プレイヤーは手に持ったスイッチを押し、部屋の中の気になったところに額から出るレーザーポインターを当てて、彼女にそこに移動してもらう。

カティアが「これ?」と言いたげに指をさして見つめてくるので、首を縦に振ればイエス、横に振ればノーという意思を伝えられる。例えば、ドアのノブを指したら開けてくれたり、壁のボタンなら押しくれたりといった具合だ。

そうして彼女に自分が見える範囲のギミックを操作してもらい、見事パズルが解ければ部屋から移動──というのを繰り返して、謎の館からの脱出を目指す。エンディングはマルチとなっており、だいたい10〜15時間ほどは遊べるとのこと。

さて、筆者がまず遊んで感じたのは、あまりに自分が動かないという点だった。VRゲームというと、二丁拳銃を撃ちまくったり、両手の剣を振ったり、体で相手の攻撃をかわしたりと派手にアクションをかまして爽快感を得られるものが目立っているが、ラストラビリンスは逆で、拘束されているためほとんど動けない。

もちろんリアルで動けないわけではないが、例えば、カティアをよく見ようと顔を近づけるとすぐにブラックアウトしてしまう。顔を下に向けるとある両手も手錠がはめられていて可動範囲が極端に狭く、つまりは椅子に座って膝に両手を置いて遊ぶことになる。

そうしてVRの中の姿とプレイヤーの姿勢が同一になることで、謎の館に自分がいるという没入感もアップし、VR酔いも起こりにくく、長時間プレイしてても疲れないという効果が生まれているわけだ。

また、カティアが独自の謎言語を喋ったり、スタート画面以外は説明文が一切出てこなかったりと、プレー中の言語を一切廃しているのも目新しい。操作も額からビームを出すボタンと首振りだけなので、難しい説明なしですぐにゲームに没頭できるのもいいところだ。

「VRの特性を理解したゲームじゃん!」

第一印象はそんな感じだった。額のビームで気になるものを指し、カティアに操作してもらって、最後に仕掛けを発動させるためのボタンを押して正解なら部屋から脱出。冒頭ということもあって特に難しい謎もなくサクサク進めていたのだが、その先には最初にして最大の衝撃が待ち構えていたのだ……。

なお部屋の移動時はカティアが車椅子を押してくれるが、監視カメラ視点に切り替わるため、移動でVR酔いするということも起こらなかった。

心をえぐる(?)秀逸なゲームデザイン

筆者にとって最大の衝撃となったのが、電車パズルの部屋だった。

部屋の床には線路が交差して敷かれており、その線路のうちいくつかは壁のトンネルにつながっている。壁のトンネルの上には模様がかかれており、いくつかペアになっているところがあるので、これはどうやら壁の中を通って出てきそうだ。線路の片隅には槍が固定された電車が置かれていて、部屋の上の梁にゴールがある。分岐器をカティアに切り替えてもらい、正しいルートに切り替えて、電車を導けばクリアーできるだろう。

そうしていくつか分岐器を切り替えて、「じゃあいっちょやってみるか」と、仕掛けの発動ボタンを押してもらったところ、線路が予想をしない動きを見せて「あれっ?」と不安になる。

と、同時にカティアが、仕掛けボタンの上から落ちてきた罠に引っかかって、こちらに背中を向けた状態で首と手を固定されてしまった。これじゃあまるで、ギロチンの準備じゃないか。先ほどまで笑顔も見せていたカティアが必死にもがく姿を目の前にして、自分が慌てないわけがない。しかし、拘束されているため、彼女の元には近づけない。

その間も電車はずんずん進んで行くわけで、見上げるとゴールではない梁の線路を進んでロープを切ろうとしていた。ロープの先につながっているのは……もちろん巨大な刃。「やめろー!」という心の叫びも虚しく、プツっと切れるのが見える。「それ」が落とされて鈍い音が鳴り、逃げようともがいていたカティアが動かなくなる。その後、筆者の首にもすごい角度でギロチンが落とされて、あえなくゲームオーバーになった。

……。

これは、アレだ。

魔法少女ものかと思ったら、3話で首が飛んでいったヤツじゃないか。

まさかの鬱展開に「……嘘……だろ……」と言葉を失い、思わずVRゴーグルを外してしまった。

しかも、謎解きに失敗するとカティアが酷い目にあうというのは事前にネットで調べて知っていたにも関わらず、バーチャル空間で実際に目にして自分があまりに心を痛めたことが衝撃だった。

要するに、パズルが解けないとカティア(とプレイヤー)が死ぬのだ。しかし、ゲームといえば、プレイヤー自身だったり、味方や敵のキャラクターが死ぬのは当たり前だ。それはテレビやPCの画面、スマホで遊んでいるぶんには向こう側の出来事で、自分ごとには感じられない。だから「スペランカー」でも「トランスフォーマー コンボイの謎」でも(両方古いですね)、古来より死にながらルートを覚える「死にゲー」プレイが成立してきた。

それがVRのラストラビリンスでは印象がまったく変わって、「死にゲー」にしたくないと心が強く拒否し、彼女を救うために何としてでもパズルを解こうという気持ちにさせてくれる。

この感情は、アシスタントにいたいけな少女を選んだり、罠がすぐに死なずに徐々に追い詰められたりというゲームデザインの鋭さ、彼女の動きが非常に生々しいというクリエイティブの素晴らしさ(聞けば最終的にすべて手付でモーションを仕上げたとのこと)があったうえで成立することで、単にVRでキャラクターを殺せば心の痛みが出せるわけではない。その点で、本作の作りは素晴らしい。そして

「VRの特性を理解したゲームじゃん!」

と、第一印象と同じだが、ちょっと違った感想を抱くことになった。

その後もプレーを続けると、パズルの難易度もどんどん上がっていくわけで、目の前でどうしてもカティアを死なせたくないのに悲劇は何度も起こってしまう。だからこそクリアーできたときのスッキリ感(というかよかった感)は格別で、単純な脱出ゲーム以上の体験だと感じた。

罠自体も、天井が落ちてきたり、破砕機のようなローラーが迫ってきたりと「家主は総工費いくらかけてるんだ」というぐらいに派手になっていき、脱出できなかったときに「カティアすまねぇ」と心をえぐっていく。そんな中、ドリフ(これまた古くてスイマセン)名物の「頭上からタライ」な罠もあったりして落差が興味深い。

館の主はだいぶいい趣味をしている。このゲームを最後まで遊んだ時に、カティアと自分の関係はどうなるのか。そもそもこの館や彼女は何なのか。彼女が目の前で死ぬのは本当に嫌だったが、エンディングが気になって仕方なくなっていた。随所が丁寧につくられている名作なので、ぜひVR機器を持っている方は遊んでみてほしい。

ひとつプレイの途中で気づいたのが、壁にある赤いランプが緑になれば、部屋の謎が解けているサインだということ。後半はこのランプがなくなって難易度があがるのだが、どうしても先に進めずにカティアが死ぬところも見たくないという人は、気にしながら遊ぶといい。

惜しむらくは、第三者視点での録画ができないという点だ。

VRゲームの中には、録画してネットで投稿するということを想定して、ユーザーのプレイ中の姿を第三者目線で映してくれるものも存在している。本ゲームは、カティアが死ぬところを見てほかのプレイヤーがどういったリアクションを取るのかも気になるところで、第三者視点でプレイヤーがもがく姿などがわかれば、「ゲーム実況映え」しそうだ。ぜひ、アップデートや続編があれば実現してほしい。

©2016 AMATA K.K. / LL Project

 
(TEXT by Minoru Hirota

 
 
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