一体型なのに5K、これまで以上の安定感 新製品「VIVE Focus 3」先行体験レビュー

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台湾HTCは5月12日、同社の実施したコンベンション「VIVECON 2021」の中で、新製品「VIVE Pro 2」(以下、Pro 2)および「VIVE Focus 3」(以下、Focus 3)の発売を発表した。価格は「Pro 2」が10万3400円、「Focus 3」は13万900円だ(関連記事)。

なお、「Focus 3」は本日より一般予約を開始するほか、エンタープライズ向けとして同じく「VIVECON 2021」内で発表されたビジネスソリューション「VIVE Business」とセットでの販売も行う。

「Focus 3」は一体型VRゴーグルでありながら、解像度は「Pro 2」と同じく5K、リフレッシュレートは初代「VIVE Pro」と同じ90Hzと、グラフィック性能が前機「VIVE Focus Plus」(以下、Focus Plus)よりも大幅に向上。外観がシンプルなデザインになり、新型コントローラーを採用するなど大幅に進化している。

PANORAでは、先日の「Pro 2」に続き「Focus 3」に関しても先行体験取材を行ったため、さっそくその魅力をまとめていきたい(関連記事)。

左:「VIVE Focus 3」、右:「VIVE Pro 2」

カウンターウェイトによる安定感

「Focus 3」のハードウェアを見ていこう。まず、前モデルの「Focus Plus」と比べると、外観デザインがまったく新しいものになったことがわかる。

「Focus Plus」と比べると、よりシンプルに洗練されたデザインになっている。また、大きく変わった部分として内蔵バッテリーの位置が前方から後方へと移動した。このバッテリーの重みをディスプレイ部分に対するカウンターウェイトとすることで、重さが分散されている。シンプルな構造ながら、安定感が向上しており、装着していることがあまり気にならないように感じた。また、取り外しの際にも、背面部分のボタンを押すことでつまみを回さずとも調整部を後ろに引くことができ、簡単に着脱が可能だ。

バッテリーはワンタッチで交換可能となっており、予備バッテリーを用意しておくことで長時間の使用にも対応する。バッテリーは急速充電により30分で50%まで充電が可能だ。

背面のソケットはマグネット式となっており、、簡単に外せる

コントローラーもグレードアップしている。デザインは「Oculus Quest」のTouchコントローラーに近くなったイメージだ。しかし、実際に手にしてみると、Touchコントローラーよりも持ち手の部分が長く、全体的にひと回り大きいサイズ感であることがわかる。

コントローラーはUSB Type-Cでの充電式となっている。このため、VRゴーグルの充電時に付属のType-C to Type-C(×2)の二股ケーブルを使うことで、1つの電源コンセントからVRゴーグルと左右コントローラーを同時に充電できる。ACアダプターによる充電と違って、充電時に複数のコンセントを占有してしまうこともない。

冷却システムにより実現した高性能グラフィック

スペック面ではやはり、両眼5K、リフレッシュレート90Hzという一体型VRゴーグルとしては最高峰のグラフィック性能は魅力だ。細かい文字なども読みやすくなり、フライトシミュレーションなどをはじめとした職業トレーニングでの実用性も上がるだろう。

このグラフィック性能を可能としたのが、Qualcommのプロセッサー「Snapdragon XR2」の搭載と、放熱対策のためにVRゴーグルとしてはおそらく初めてとなる冷却ファンの採用だ。ゴーグル前面の下方から上方へ空気の流れを作って排熱を行うことで、過熱によるパフォーマンス低下を防いでいる。いわば、頭にゲーミングPCを被っているようなものだ。

今回の体験会では、会議アプリ「VIVE Sync」をはじめ、安全トレーニングの「Sentient」、ルーブル美術館を舞台にモナリザの歴史を体験できる「Mona Lisa」や、本格派VRノベルゲーム「Tokyo Chronos」、2019年発売の国産VR脱出アドベンチャー「Last Labyrinth」など合計10のソフトをプレイした。

すべてに共通して言えることは、「Focus Plus」よりも映像が鮮明に、かつ自然に見えるということだ。「Pro 2」同様に、ピクセルの粗さなど「画面を見ている意識」を感じさせるものはほとんどなく、視野角も広がったことでより自然な視界を実現している。

リリース時期がやや古い「Tokyo Chronos」や「Last Labyrinth」は5Kに最適化されていないため、どうしても引き伸ばした映像になってしまうが、それでも十分な解像度を実現している。特に「Tokyo Chronos」は、キャラクターが「ガチ恋距離」といえるほど眼前に近づいてくるシーンがいくつかあるのだが、そこでもまったく粗さは感じられず、キャラクターの存在感が際立っていると感じた。

体験したアプリの中で、もっともクオリティーが高いと感じたのは「Mona Lisa」だ。冒頭のルーヴル美術館の外観はもちろんのこと、美術館内においても、本来であれば人が密集していて近寄れないであろう有名な絵画を音声解説付きでごく近くまで寄って見ることができた。

ルーブル館内を巡ったあと、最後に絵画「モナ・リザ」の時代背景や歴史を感じられる3Dコンテンツへと場面が移る。レオナルド・ダ・ヴィンチについての解説や、当時の「肖像画」の位置づけ、モデルとなったリザ・デル・ジョコンドについてや、絵画が経てきた遍歴などについてなど映像や画像を駆使して紹介する。そして、最後には我々が当時絵が描かれていた時代・場所へとタイムスリップし、3Dモデルとなった「モナ・リザ」を見られるほか、風景をレオナルドダヴィンチがスケッチに残した「はばたき機」に乗って旅をする──という趣向だ。

高精細なバーチャル空間での美術体験は、つい息を呑んでしまったほど。処理が重くなる箇所では、冷却ファンの音が若干気になる部分もあるが、それもイヤホンやヘッドホンを使用していれば回避できる。

商用シーン向けに開発されたオールインワンVRシステム

「VIVE Focus」は、もともと大衆向けを意識した一体型VRゴーグルとして、2017年11月に中国国内にて発表、3月には全世界出荷を行っていた機種をはじめとするシリーズだ(関連記事)。その後、昨年6月にはエンタープライズ向け製品として「VIVE Pro Eye」とともに「Focus Plus」を国内リリースした。

「Focus Plus」は商用利用を意識しており、携帯性や便利性を高め、企業によるVRシステム導入のコスト削減を目指したほか、特定アプリのみにアクセスできる「キオスクモード」や、専用プラットフォームによる全デバイス管理などのビジネス向け機能も搭載していた。

その流れを拡大し、HTCは「Focus 3」の発表とともに各種ビジネス向けソリューション「VIVE Business」も公開。その中には「VIVE Sync」「VIVE Session」「VIVE Campus」「VIVE Social」「VIVE Museum」といったソーシャルサービスや、VRでのデザイン、職業訓練シミュレーションをはじめとするビジネス向けコンテンツ「VIVE Business AppStore」の開設などが含まれている。

なお、国内向けの販売では半年間分の「VIVE Sync」正規利用版が含まれる。「VIVE Sync」は、ビジネス会議向けのソーシャルアプリだ。今回は「VIVE Sync」も体験してきたので、こちらについても少し触れたい。

「VIVE Sync」の操作感は、いわゆるほかの「ソーシャルVR」と大きくは変わらない。会議向けアプリの機能として、一人ひとりのボイスのオンオフやエリア・ルームの強制移動など、会議を円滑に進行するために必要な機能がホストにそろっている。また、ファイルからのモノの出し入れも容易で、デモ用に用意されていたイスやVIVE製品などの3Dデータをクリックひとつで仮想空間上に呼び出すことができた。

呼び出した3Dモデルは位置やサイズなどを自由に変更でき、大勢で製品イメージを共有することや、3Dペンを利用して3Dモデルに直接メモなどを加えることも可能だ。製品開発などの段階で、会議中に製品のイメージをVR空間上に出現させ、参加者で一緒に見ながらブレインストーミングをするといった使い方ができそうだ。

そのほか、パワーポイント資料や映像などの共有はもちろんのこと、音声認識によるメモ機能や、特定の相手とだけ音声のやり取りができるプライベートボイスチャット機能など、ビジネスシーンで役立ちそうな機能が充実している。また、ビジネスでの使用を考えた場合、仮想空間上に表示した資料の文字が読めるのかといった点は気になるところ。実際に体験してみると、パワーポイント資料などの細かい文字も、多少距離が離れていても見やすく、解像度の面でのストレスはあまり感じなかった。

一体型VRゴーグルとして、ここまで高品質なVR体験を提供できる製品は現時点ではこの「Focus 3」をおいてほかにないだろう。ビジネス向けがメインターゲットということで、展開するアプリストアもこれまでの「VIVEPORT」とは異なり、「VIVE Business AppStore」となり職業トレーニングや会議アプリなどにより力を入れていく。ただしビジネス一辺倒ではなく、体験機にもある「Tokyo Chronos」や「Last Labyrinth」をはじめ、レジャーアプリも多数展開するとのこと。また、「VRChat」にもPCに接続せず「VIVE Focus 3」単体でログインできるようになる予定とのことだ。

一体型ゴーグルの最高峰を味わいたいユーザーや、リモートワークにVRシステムを導入したい法人などへぜひお勧めしたい。

本日より開催「VIVECON JAPAN 2021」

HTC NIPPONは、本日11日および12日に「VIVECON JAPAN」を開催する。本日はは、「VIVEビジネス・デー」として法人向けの内容を、12日は「VIVEデベロッパー・デー」として最新のVIVE開発ツール情報や、コミュニティー情報、VTuber/VSingerによるライブなどを実施する(関連記事)。

それぞれ11日は、VIVE公式VTuberの青森りんこさんが、12日はVIVE公式アンバサダーのバーチャル美少女ねむさんがMCを務める。こちらでは、国内の企業・行政・開発者向けにVIVE新製品の最新情報と魅力、今とこれからのVR活用方法、パートナー企業の皆様をはじめVRを活用したビジネス事例を紹介する。タイムテーブルは以下の通りだ。

6月11日(金)VIVEビジネス・デー

14:00法人向けの新製品情報HTC NIPPON
15:30VR ソリューションの紹介HTC NIPPON
16:00パートナー企業ショーケースパートナー企業(5社)
17:00パネルディスカッションゲスト全員

6月12日(土)VIVEデベロッパー・デー

15:00開発者向けの新製品情報
16:45VIVE SDK情報(ハンドトラッキング・フェイシャルトラッキング・MR利用など)
16:00コミュニティー情報(VRChat/Virtual Cast/NeosVR活用、アバターワークなど)
17:30VTuber/VSingerライブ(スペシャルゲスト)

(TEXT by アシュトン

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●関連リンク
HTC VIVE公式サイト
「VIVE Focus 3」製品ページ