5月10日、愛知県名古屋市の郊外に任侠カフェという怪しげな名前のカフェがオープンした。「任侠」と付く通り、ヤクザ事務所を思わせる内装をしており、ネット上で話題になっている。話題性に刺激されたメディアに次々と取り上げられ、テレビ取材まで受けているので、ご存知の方も多いかもしれない。
あまり報じられていないが、実はこのカフェ、VTuberとの関連が深いお店なのだ。「前科3犯、893番、懲役太郎です」の自己紹介でおなじみの、バーチャル刑務所に収監中という設定の元極道VTuber・懲役太郎さんが立案やアドバイザーに携わっている。極道を主な主題に置いたゲーム『龍が如く』シリーズにツッコミを入れられるほどに極道に詳しい懲役太郎さん。VTuberが仕掛けた「任侠カフェ」とは、果たしてどんなカフェなのか。
VTuberに関連するお店はこれまでにもあったが、ほとんどは期間限定などの一時的な展開で、常設のリアル店舗となるとかなり珍しい。そんな任侠カフェの完成を現地で見届けるために、今回PANORAでは現地に赴いた。懲役太郎さんや、ADHDについて解説を行うVTuberの黒井こと、黒井先生(黒井太郎)を手掛け、今回の任侠カフェの仕掛人である俺太郎さんに、なぜ常設のリアル店舗を開店したのか、その経緯やこのカフェにかける思いを聞いた。
任侠カフェ 体験レポート
その日は「ナゴヤVTuber展」の取材を終え、そのまま任侠カフェに取材を行う予定だった筆者。タクシーで現地に向かうと、住宅地にひときわ異彩を放つ建物が目に飛び込んでくる。遠くからひと目見るなり、「ここで間違いない」と確信した。
いざ、取材へ向かおうとお店に近づくと、予想以上に外観からの事務所らしさに圧倒される。石材の壁に付けられたインターフォンに、傷が入った「営業中」の看板など、あらゆるディテールが「ソレ」っぽさを感じさせる。
店内に足を進め、取材開始。まずはお客さんの気分を味わうことにし、メニューを見せてもらった。
このカフェの名物の「鉄管ビール」と、ジンジャーエールとチーズケーキのセットを注文したのち、オーナーである俺太郎さんにインタビューを開始。なお、「鉄管ビール」とは水(お冷や)のことだ。刑務所で服役囚が水をビールと思い込んでガブガブ飲むことからこの名を付けたという。
接客している店員の方々は、お店のグッズとしても売られている特攻服を身につけて接客している。カフェ席の周りでは服装以外はいたって普通のカフェ店員らしい対応だが、「事務所」風の席に近づくと一変。ドスの効いたあいさつの声は店内に響き渡る。とはいえ、「組員」さんたちも愛嬌のあるメンバーぞろいのようで、家族連れのお客さんには笑顔で対応の対応も見せていた。
ひと通りカフェの雰囲気を堪能したあとはいよいよ、カフェの仕掛け人にしてオーナーである俺太郎さんへのインタビューだ。
オーナー・俺太郎さんにインタビュー
──自己紹介からお願いします。
俺太郎 俺太郎です。懲役太郎さんと一緒にYouTubeの「懲役太郎チャンネル」の運営を3年間しています。今回の任侠カフェも1年前くらいから2人で企画して、クラウドファンディングで支援してもらい、コロナ禍の影響もあって延期の末にようやくオープンしました。 僕自身は漫画家を描いていて、懲役さんを誘ってVTuber界に進出し、色々なことに手を出して……何やってるのかよくわからない人ですね(笑)。最近は「プロデューサーに近いんじゃないの?」と言われたりしています。
──クラウドファンディングを含め、ここに至るまでの経緯について教えてください。
俺太郎 発端としては、懲役太郎チャンネル/太郎プロジェクト*1がコロナ禍以前にリアルイベントをよく開いていたんですよ。その頃から「バーチャルとリアルの混合の可能性があるんじゃない?」とは思っていました。イベントは諸経費の中でも場所代が高いため、「自分らで場所を持てばいいんじゃない?」というところから、「クラウドファンディングでお金を集めてそういうことができればいいよね」という感じのふわふわした案が最初はあって。
あるとき打ち合せで出てきたのが、「俺は事務所のことしか知らないから、事務所でお茶を出すことしかわからないよ」という懲役太郎さんの発言で、「事務所でお茶を出す」みたいなところから、任侠カフェというアイデアに発展して、これならクラウドファンディングも成功すると思うし、観光地にもなるだろうということで突き進みました。だけど、コロナで……あーってなって……。
*1= 太郎プロジェクト:俺太郎さんを中心とするVTuberプロジェクト。現在、懲役太郎さんと黒井先生が所属している。
本当は、任侠カフェをイベントスペースとして借りることも考えていたんですよ。まだ緊急事態宣言下なので、準備すらしていないですけども。任侠カフェでVTuberのイベントを開けたらなって考えていて、そのためにはまず懲役太郎のイベントから開きたいと思ってます。
──これまでリアルのYouTuberの方が任侠カフェに来てコラボされていましたが、これをVTuberでもやりたいわけですね?
俺太郎 事務所とカフェでキャパが30人程度なので、事務所とカフェにモニターを各1枚置いてする形ができると思います。ただ、VTuberの人だったらわざわざ任侠カフェを使う必要はないので、任侠カフェのコラボはリアルの人とコラボするほうが今後も多くなると思います。あと、(懲役太郎さんの)友達がVTuberよりもリアルの人の方が多くなっちゃたので(笑)。
──そうなんですか……。とはいえ初期からVTuberとの絡みはけっこうありますよね。因幡はねるさんが任侠カフェの書を書いたりもされてますし。
はねる組長の書は、実は今額縁屋に出していてここにはなくて、ここに飾っているのはまた別のものです。それこそ、クラウドファンディングには、白上フブキさんや 由宇霧さんとかちょくちょくVTuberの方にも参加していただいてまして……。ただそれらも本当はイベント開いたりだとか色々したかったのに実現できていないという、もどかしい状況です。
──立ち上げにあたっては、懲役太郎さんは任侠カフェにどのような関わり方をしたのでしょうか?
俺太郎 今回、任侠カフェという企画は僕主体でやっているプロジェクトで、懲役太郎さんには世界観構築の相談役として関わってもらっています。何を買うかを決めたり、あいさつの仕方だとか、「ぽさ」を担保する相談役というのが懲役太郎さんの立ち位置ですね。あとは宣伝隊長みたいな(笑)。
──黒井先生はデザイン担当だそうですが、どの程度関わられているのでしょうか?
俺太郎 黒井先生は看板のデザインをしたりだとか、才能があるところで結構手伝ってもらってますね。あとグッズが置かれてたりしますね。いずれこの場所を使ってイベントをしたいのは、懲役太郎も黒井先生も思っていることなので、発達障がいの方限定のイベントができればいいと思ってますが、コロナが厳しいのですべて延期になっています。
──そもそもなんですが、なぜ名古屋で開店したのですか?
俺太郎 単純に僕たちがみんな名古屋に住んでいるからですね。東京に居たら東京に開いていると思いますし、福岡に居たら福岡に住んでいると思います。
──以前に中京テレビアナウンス部所属のVTuber・大蔦エルさんがこのカフェに訪れて、YouTubeで配信されていたと思います。こういった縁はお店に活かされていますか?
俺太郎 大蔦エルさんは、今やってるナゴヤVTuber展のイベントに懲役太郎さんも参加するので、そこに参加するファンに任侠カフェにも来いよと宣伝できればな、と(笑)。あとは名古屋でVTuberをやっている人がいるのはありがたいかなって。名古屋という地域性を活かす意味で、お互いにメリットがあると思います。
──そういえば、警察の方が来店されたそうですが……。
俺太郎 あー来ましたね、マル暴*2の方が。「本職」の方から何かあったらすぐに連絡してねって、急に来たんですよ。話してみたら、1年前くらいから懲役太郎のことを知っていたみたいで、それで協力的でしたね。
*2= マル暴:暴力団対策を担当する警察内の組織や刑事のこと(デジタル大辞泉)。
警察に薬物と暴力の担当の刑事課があって、そこで僕のことがウワサになっていたみたいで、中村警察署に申請をするために行って本名を名乗ったら「俺太郎さんですか?」と呼ばれて(笑)。それからは警察の人にも「俺太郎です」と名乗っています。
──オープン直後から、任侠カフェは多数のメディアに取り上げられていると思うのですが、反響はいかがでしたか?
俺太郎 それはデカいですね。メディアに取り上げられたことで、Yahoo! Japanのトップページにも載ったうえにTwitterトレンドにも上がったんですよ。それでほかのメディアも 取り上げてくれて、一気に話題になったのはデカかったですね。どれくらいかというと、新規のお客さんは懲役太郎を知らない人の方が多いんですよ。体感ですけど、9割くらいはそうなんじゃないかな。女性も多いです。懲役太郎チャンネルの視聴者層から考えると、女性の方が多くなるのはあり得ないんですけどね。
でもまぁ狙い通りではあるんですけど(笑)。いわゆるファンのための交流の場というのがもともとの発想ではあったんですけど、それだけではやっていけないと思っていたので。そうならないための任侠カフェなんですよ。場そのものが面白いことが重要で、懲役太郎を知らなくても楽しめるんです。
──そういえば、店内のお客さんはかなり女性が多いですね
俺太郎 懲役太郎のチャンネルのファンはほとんどは男性というかオジサンなんですよ。でも今女性の来客のほうが増えていて、オジサンか女性しかいないという変わったお店になっています(笑)。
──本来的な意味の「任侠」的な活動として、NPOへの支援をされていますよね? こちらの話もうかがいたいと思います。現在、メニューにあるコーヒーも支援の一環だとか?
これはだいぶ前から、懲役太郎できちんとした活動もやらないと嫌なイメージばかりがついてしまうということで、任侠カフェとは別に考えていたことなんです。それで調べていたら、マザーハウスというNPO法人が見つかって。そこにお話ししたら事業でコーヒーを卸しているということだったので、 「そのコーヒーを任侠カフェで出させてください」ということになりました。そのNPOの活動である受刑者・元受刑者の人たちの更生と社会復帰支援につなげていもらっています。
──今後任侠カフェをどう運営していきたいですか?
続けることが目標ですけども、そのためにまずはもっと認知度を上げていきたいです。 どういう認知度というかというと、観光地として「変なところがあるぞ」ってもっと知らしめていきたいなと思っていて。名古屋ってちょっと変わったカフェが多い土地なので、例えば、まだ企画段階ではありますが、喫茶マウンテンのようなところと協力して名古屋を盛り上げていけるとうれしいなと思いますね。新しい、ここにしかないというのが強みなので、地方自治体とも一緒に何かできればうれしいです。
今ちょうど「スジモンコスプレコンテスト」というコスプレイベントをやっていまして、もっとこういったことを積極的に行って、コスプレ業界などにも活用してもらいたいと考えています。実際今も勝負服みたいに、ガッツリ決めてきてくれる人もいて、そういった人をもっと増やしたいですね。
現在は太郎プロジェクトの2人のグッズやデザインなどが置かれた店内。これから因幡はねる組長の書も届いて、イベントが開かれればさらにVTuberとの接点も増えるかもしれない。今後のぜひともVTuberに関連したイベントなどが開かれた際には取材に足を運んでほしい。
(ツナ津)
■店舗情報
任侠カフェ
営業時間:11時00分~19時00分
定休日:火曜
住所:〒454-0848 愛知県名古屋市中川区松ノ木町2-67(Googleマップ)
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