バーチャルキャストといえば、ゴーグルをかぶってバーチャル空間に入り、アバターの姿で生放送したり、友達と楽しくコミュニケーションできる国産のVRライブ・コミュニケーションサービスです。本連載「バーチャルキャストのひみつ」では、毎月ひとつのテーマを取り上げて、その魅力をお伝えしていきます。
●過去記事
・【独占取材】バーチャルキャストはソーシャルVRに進化する──岩城CTO・山口CVOに聞く資金調達の理由
・しゃべっている方向が自然にわかる音声アップデートに注目! バーチャルキャストのひみつ(その1)
*バーチャルキャストのダウンロードはこちら → https://store.steampowered.com/app/947890/VirtualCast/
今月紹介するのはVCI(Virtual Cast Interactive)。バーチャルキャストというと人型3Dモデルの共通フォーマット「VRM」の採用が有名ですが、さらにVCIを使えばバーチャル世界にオリジナルのアイテムや背景を持ち込めます(リリース時のブログ)。
あまりVRに詳しくない人にとって、一見、何がスゴいのかわかりにくいのですが、例えば、ゲームにおいてはアイテムや背景はあらかじめ用意されたものしか使えず、カスタマイズの範囲も見た目だけなどに限られます。一方VCIは、自分が使いやすいソフトで作成した3D CGをUnity(ソフトを作るためのソフトです)に持ち込み、形式を合わせて書き出すことでオリジナルのアイテムや背景としてバーチャル空間に持ち込めるわけです。
そして単純に3Dのものがバーチャル空間に現れるだけでなく、Lua言語のスクリプトを使うことで挙動も指定できます。触ったときに突き抜けないようにする当たり判定を設定したり、手で掴んだり、装着したり。ほかにも音楽を流したり、メッセージを出したり、視聴者のコメントをバーチャル空間に表示するといったことなどが可能です。
さらに夢があるのが、ソフトをまたいでアイテムを持っていけることを目標にしていること。自作したVCIのアイテムや背景は「THE SEED ONLINE」というオンラインサービスに投稿することになりますが、ここから別の対応アプリに持っていけます。ライトセーバーを買ったら、バーチャルキャスト内の自分の部屋に飾るだけでなく、対応するゲームで武器として使ったり、スマホのビューワーアプリで誰かに見せるといった具合です。
将来的にTHE SEED ONLINEに課金機能が加われば、自分で作ったアイテムをその場で売って身につけてもらうことも実現可能など、めちゃくちゃワクワクな未来を実現してくれそうなのがVCIになります。そんな開発の舞台裏を、担当のひろせ氏とふも氏にお聞きしました。
ひろせ氏 開発部・基盤技術開発セクション マネージャー。最近ハマっているものは「ポケットモンスター ソード・シールド」。
ふも氏 開発部・基盤技術開発セクション。最近はOculus Questに夢中。
昨今のムーブメント初期からVRに触れる
──お二人はどんな経緯でバーチャルキャストに入社しましたか?
ひろせ氏 私は2011年、岩城さん(バーチャルキャスト社CTOの岩城進之介氏)と同じタイミングでドワンゴに入社し、そのまま同じチームの部下として「ニコファーレ」(六本木にあったライブ施設)運用などを担当してきました。
岩城さんの案件に関わることも多く、2014年の小林幸子さんのVRライブやスマホVR「Gea VR」向けの「niconico VR」アプリ、PlayStation VR用の「超歌舞伎 花街詞合鏡」開発などをやってきて、バーチャルキャスト社の仕事がやりたくて転籍し、VRMとVCIの開発を担当してきました。
ふも氏 私は元々インフィニットループでスマホ向けゲームを開発していて、バーチャルキャスト社の設立から半年ほど後に入社し、当初はバーチャルキャストのSteam対応や英中へのローカライズなどを担当していました。VCIに関わるようになったのは今年の夏頃からです。
──バーチャルキャストはドワンゴとインフィニットループの合弁会社ですが、両陣営から来た精鋭という感じですね。VRも初期から体験したり、ソフトを開発してきた感じでしょうか?
ひろせ氏 そうですね。特に最初にやった小林幸子さんのVRライブは印象に残っていて、このライブの数時間だけ動作して、終わったら使えなくなるアプリを配布するなど相当無茶苦茶なことをやってだいぶ大変だったのですが、その分仕事としても面白かったです。
──それがわずか5年でバーチャルキャストの中に集まればVRライブができるようになったという。
ひろせ氏 はい。技術の進歩様様ですよね。
──ふもさんはいかがでしょうか? インフィニットループといえば、2016年のエイプリルフールでTwitterなどで話題になった「仮想帰宅」ネタを思い出しますが……。
ふも氏 「仮想帰宅」もありましたね。私が最初にVRを体験したのは2014年、インフィニットループのマスコットキャラ「あいえるたん」に触れるというVRコンテンツ「あいえるたんさわさわ」で、「これがVRか」と驚きました。当時、社内でも現弊社CVOのみゅみゅさんを始めとする方々がVR開発をやっていましたが、私がVRに関わり始めたのはバーチャルキャストに入ってからです。
──そうした昨今のVRムーブメント初期からVRに触ってきた猛者が開発側にいるのが頼もしいですね。
開発者の想像を超える使われ方も
──VCIの開発はどんな背景を受けて始まりましたか?
ひろせ氏 VRMを用意し、自分のアバターをソフトをまたいで共有できるようになった後、「アバター以外のアイテムもユーザーがつくってどこかにアップロードして、プラットフォームを横断して共有したい要望があるよね」と特に岩城さんから要望があって、VCIの開発が始まりました。
もともとVRMは、「glTF」(GL Transmission Format)の拡張フォーマットとしてつくっていて、VCIはそのアバター部分を取り除いたものが原型となります。そこにスクリプト言語のLuaを利用して、ユーザーがギミックを仕込めるように発展させました。
──VCIの開発で重視したことは?
ひろせ氏 初期の岩城さんの発想は、例えばVRライブの会場でアイテムが売っていて、専用のペンライトとかTシャツをバーチャル世界で買ってその場で装備したりとか、その場で使えるようになるといいよねというものでした。そこから基本的に変わっていませんが、重視したことをあえていうなら、バーチャルの空間内でプログラムを書き換えてロジックを変更できるようにした点ですね。
──VR内でプログラムを書き換えて眼の前で確認できるというのは、なんだか「俺がこの世界を操ってやる!」という「中二病」的な話を連想しました(笑)
ひろせ氏 まさにそんな感じですね(笑)。VCIをお披露目した生放送でも、岩城さんがアバター姿のままコーディングして状態を書き換えて目の前のキューブを回転させていたのですが、その見た目のかっこよさというか、未来感のスゴさに感銘を受けて、開発でもバーチャル空間内で操作できることを重視しています。
──リリース後の反響はどうだったのでしょうか?
ひろせ氏 当初はきれいに整っていたわけではなく、現在進行形で少しずつ機能やドキュメントを整理している最中なので、一体どれくらいの人がアイテムをつくってくれるのかというのが心配でした。
──でも蓋を開けてみたら多くの方々が使ってくれているという。
ひろせ氏 そうですね。多くの方に使っていただいて感謝しています。
──開発において一番大変なことは?
ふも氏 アイテムや背景をつくりたい方が必ずしもプログラミングが得意というわけではないので、ドキュメント整理も含めて初心者向けにどうわかりやすくするかを考えるのかに苦心しています。新機能についても、常にユーザーさんの配信を見ながら「これは必要だよね」とアイデアをもらっています。
ひろせ氏 VCIについてロードマップは大まかなものがあるのですが、細部の機能追加はわれわれに任せてもらっています。専用のDiscordサーバーがあって、VCI作者さんに加わってもらい、こういう機能が欲しいとか、このやりたいことはどうつくればいいのかといった話をいただいたりして、必要そうと感じたもの随時追加していっています。
──VCIだけでもコミュニティーがあるんですね。
ひろせ氏 そうなんです。当初の想定よりも多くの方々にVCI作者として参加いただけていて、開発する側にとってもありがたいことです。それに開発者のわれわれが「どうやってつくってるんだ?」と一見してわからないぐらいに凝ったギミックを仕込んだアイテムもどんどん出てきています。
──といわれると?
ひろせ氏 例えば、以前のバージョンですとVCIでは空間におけるアバターの位置情報を取得する機能を用意していませんでした(ver1.8.3で対応)が、それを無理やり取得する方法を編み出して、必ず頭の上に落ちてくるタライのアイテムを作った方がいます(アイテムへのリンク)。
──ちょ(笑)
ひろせ氏 全体攻撃タライみたいな。どうやってユーザーの位置を取得しているのかを調べたところ、当たり判定の壁を格子状に並べ、どのブロックに人がいるのかを判定して、タライを落としていたのです。「そんなやり方があったのか!」と、意外な発想でつくられていたことに驚きました。
ふも氏 ほかにもVCIはPCのキーボードから操作が可能ですが、そのキーボードを使ってバーチャル空間内でラジコンを動かすという方もいました。ほかにもカメラをスクリプトから動かせるようになったので、そのカメラをドローンにつけて遊んでいる例もあります。ドローンで色々な角度から見られるので面白いので、配信のカメラアングルの幅も広がったという。
ひろせ氏 あとは、この刀のVCIも結構よくできていまして、刀を鞘に近づけるといい感じの速度でスライドしカチーンという気持ちのいい音を出して納刀してます(アイテムへのリンク)。
さらにバーチャルキャスト内でテトリスをするというVCIもあります(アイテムへのリンク)。
──テトリス! キーボードで遊ぶ感じでしょうか?
ひろせ氏 いや、バーチャル空間内のキューブを手で持って操作すると、ブロックを回転したり、落ちる位置を調整できる感じです。みんなで集まって、そこで遊ぶゲーム自体をユーザーがつくれてしまうというのがバーチャルキャストの魅力だと思います。
──単純に楽しく会話できるだけでなく、そのコミュニケーションを弾ませてくれるアイテムまでつくれちゃうのがVCIの魅力なんですね。
買ったアイテムをその場で身に着けられる未来
──ソーシャルVRというとVRChatもありますが、そのアイテムとVCIは何が異なりますか?
ひろせ氏 現状のVRChatは、アイテムを持ち込む際、シェーダー(CGを描画するためのプログラム)にロジックを記述することになります。一方、VCIはLua言語で記述して、スクリプト単体で埋め込むという仕様です。ほかにも前述のように、バーチャルキャスト内でリアルタイムに動きを確認しながら、ギミックを変えられるという違いもあります。
──最初からアイテムの使われ方を想定して、機能を実装している感じなのですね。現状、アバターのアイテムはBOOTHなどで購入して身につけさせる感じになっていますが、将来的にTHE SEED ONLINEと組み合わせて、VR内だけで売買&装備を完結できるようになるという。
ひろせ氏 もっと言えば、将来的にはバーチャルキャスト以外のプラットフォームからもTHE SEED ONLINEにアクセスしてアイテムを持っていけるようになります。3Dアバターの共通規格であるVRMと同様、VCIもバーチャルキャストのみのアイテムや背景ではなく、色々なプラットフォームで動作するVR共通の形式として広めていきたいです。
──仕組みの共通化が進めば、例えば、スマホのソーシャルゲームなどで入手したSSRのイラストをバーチャル空間の自室に持ち込んで、絵画のように壁にかけて「これ入手するのめちゃめちゃ大変だったんだから」と自慢できる世界も来るかもしれませんね。
ひろせ氏 あるかもしれません。これから頑張って、将来的にプラットフォーム横断できるような形式で出していきたいです。
ふも氏 それに加えて、ユーザーに楽しんでアイテムを作ってもらえるように、随時機能を追加していきたいですね。個人的な希望ですが、コードを書かずとも簡単に作れる、ビジュアルスクリプトを採用できるようになるといいなと考えています。
ひろせ氏 この年末年始でVRを始めて、「ソーシャルVR面白そう」と興味を持った方は、ぜひバーチャルキャストをお試しいただき、ぜひTHE SEED ONLINEから面白そうなVCIをダウンロードしてその世界の広がりに触れてください。
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