PANORAとSVVR Japanは1月18日、東京のアカツキオフィスにて「VTuberハッカソン全国ツアー2019 プレミアム大会」を開催いたしました。
ハッカソン自体は2019年に、東京、岡山、島根、大阪、会津若松、沖縄、福岡、石川・福井と全国8会場で実施してきて、プレミアム大会にはそのうち7会場から8チームが代表として参加。地方大会の際に手がけたVTuber動画をブラッシュアップし、会場で披露してプレゼンを行うという形式でした。
現地での限られた時間で制作した2018年のプレミアム大会とは異なり、時間をかけられたこともあってかいずれもクオリティーの高い作品で、会場で上映されるたびに参加者から笑いや感嘆の声が上がっていました。発表&表彰式の様子は、下記動画でチェックできます。
開催から時間が経ってしまいましたが、参加者の熱気をお伝えするためにレポートとしてまとめていきます。
発表パート
●東京大会:Saezuri
「【オリジナルMV】バーチャル天女降臨:天神子ミコエル【#2025年大阪万博】」
東京大会の「Saezuri」チームは、2025年、大阪で開催する大阪万博(日本国際博覧会)の観光大使を務めるというVTuber「天神子ミコエル」(ミコミコちゃん)の動画を作成。バーチャル天女というミコミコちゃんとマスコット(?)のイヌコの掛け合い漫才が楽しい仕上がりでした。
プレゼンでは、「万博は各国の技術や文化をPRするためのイベント」「VTuberも最先端の技術や文化を楽しく伝えることに適している」と共通性をアピールし、さらに万博でXR技術を活用した展示が予定されていることにも触れて、VTuberを観光大使に起用する意義を説いていました。
システム面で興味深かったのは、「スマホDEカメラ」という撮影システムで、iPadをかざしてモーションキャプチャー中の演者を撮影することで、カメラポジションをPC側に送って保存するという実用的な機能でした。
●東京大会:やはぎダンシングクラブ
「VTuberが声優学校に行ってみた!!」
プレゼン資料:https://speakerdeck.com/yahagi_day/xian-shi-shi-jie-de-vtubergaqu-cai-sitemita
同じく東京大会の「やはぎダンシングクラブ」チームは、VTuberが声優の専門学校を訪問するという作品を披露しました。「リアル世界にどうやって出現するのか」という課題については、移動シーンでは割り箸の先をキャラクターの立ち絵2枚で挟んだ「美少女棒」なるアイテム(つまり実写)を活用。インタビューシーンは、ノートPCと対話するという使い分けで実現していました。
動画の構成や撮影など、基礎をきっちり抑えていて、そのまま学校紹介に使えそうなクオリティーのムービーなので、ぜひチェックしてみてください。
●岡山大会:neoちゃかぽ軍団
「ばぶぅ!Honeyのデビューだよ」
プレゼン資料:https://docs.google.com/presentation/d/1qNAS2LZJo1covdRGLxiD9diO71dGaajMzBUV4WsK828/edit#slide=id.p
岡山大会代表のチーム「neoちゃかぽ軍団」は、「会いに行けるVTuber!」をキャッチコピーにしたバーチャルシンガー「Honey」をプロデュース。当初は、ソーシャルVRサービス「VRChat」内で開催したライブの様子を動画に……というコンセプトだったが、インターネット回線の問題で断念したそうです。
しかし、動画自体は完成度が高く、英語での流暢な歌声、Honeyの3Dモデルのよさと生々しい動きなどに引き込まれて、ライブ空間の観客が振るペンライトと一緒に体を揺らしたくなるほど。VRChatでほかのユーザーと交流しているシーンと、「スーパーヒーローやおとぎ話なんていらない、ただ寄り添ってキスできる人がいい」という歌詞が、より心に響くようにシンクロしていたのが印象的でした。
●島根大会:やまたけ
「伝説の生き物を飼ってみた」
プレゼン資料:https://speakerdeck.com/regonn/chuan-shuo-falsesheng-kiwu-wosi-tutemita
島根大会代表のチーム「やまたけ」は、ご当地の出雲神話に登場するヤマタノオロチをVTuber化。1キャラクターだけど、首の数である8匹まで性格が異なるオロチを増やせるという発想で、演者が1人でコンテンツを作り続けると疲れるという問題の解決を試みていました。さらに360度動画として公開することで、一度見た動画も別アングルから何度も楽しめるという提案も行っていました。
今回登場した首は4本。食いしん坊とおばちゃん(?)の掛け合い漫才はニヤリとさせられます。VTuberでは異なるキャラの掛け合いが話題になることも多いですが、首を増やしたこの先も見たくなる作品でした。
●会津若松大会:チームB
「2019 11 03 16 12 09」
プレゼン資料:https://docs.google.com/presentation/d/18ZxXLUehExMtwshzRdmFScdu5fUYme1K7Yr70GQyLmA/edit?usp=sharing
会津若松大会代表の「チームB」は、歯医者の椅子をVTuber化するという前代未聞の取り組みでした。誰もが思う「なぜ歯医者の椅子?」という疑問には、歯医者に行ったときにライトがしゃべりそうだなと思ったからとのこと。実際の動画は、歯医者の椅子がボケ倒すという最強に謎でシュールな内容。この面白さは実際に見ないとわからないので、ぜひ動画をチェックしてみてください。
●沖縄大会:リベンジャーズ
「修正版!【踊ってみた】 チカっとチカ地下っ♡ × チカっとチカ千花っ♡」
プレゼン資料:https://drive.google.com/file/d/1DBKqWaFFJhgPMQA0vNkHEtU7lMo2FM_f/view?usp=sharing
沖縄大会代表のチーム「リベンジャーズ」は、昨年のVTuberハッカソンでつくったVTuber「床下ちか」の続編を制作。ちかちゃんのペットである犬の「吉田」にご飯を作ってあげるという内容なのですが、踊りながら料理するうえ、巨大なフライパンを振り回して物理演算で周囲のものが飛びまくり、さらにエンディングでは吉田のオリジナルゲームが登場するなど、モリモリで破壊力のある内容でした。
●福岡大会:project重低音
「【#02】【噛里芽音】桎梏リベレー【オリジナルMV】」
プレゼン資料:https://docs.google.com/presentation/d/1amP38HV4ygNUQg-NNqsnG8_SbC4_1jPSL8Q1npGvYKI
福岡大会のチーム「project重低音」は、VTuber・噛里芽音(かじさとめねる)が出演する水豹(あざらし)さんのボーカロイド曲「桎梏リベレー」のMVを発表しました。中空に現れる歌詞や街中に差す夕日など、スタイリッシュな仕上がりに惹きつけられて、一気に最後まで見てしまうような内容でした。
●石川・福井大会:インターネット老人会
「【後編】インターネット年表並べ替えクイズ【コラボ】」
プレゼン資料:https://drive.google.com/open?id=1t7IOvko3ukM2-Ej_KSXC-LsiP3zaKbID
石川・福井大会代表のチーム「インターネット老人会」は、ほかのVTuberを3人招いてインターネット年表並べ替えクイズを行うというコラボ動画をお披露目。技術的には、HDRP(High Definition Render Pipeline)を利用してシーンの陰影を綺麗に表現するために、HTC VIVEで取得した動きをサーバーに送り、2台のレンダリングクライアントに転送して引きと寄りのカットを撮影するというシステムを構築したことが注目でした。また、ゲストの1人は、Nintendo Switchのコントローラー「Joy-Con」を使って傾きや表情を表現できるという点も目新しかったです。
動画の内容でも、「時事ネタやクイズはコンテンツ力が高い」「昔流行したものはネタが豊富」と分析したうえで、インターネットの歴史を振り返る内容にするなど、戦略的な考え方が印象的でした。
表彰式
一通りの発表が終わった後は、お待ちかねの表彰式。
審査員としては、PANORA代表の広田のほか、アニメ関連の仕事をしつつVTuberプロデュースやXR関連開発している藤田憲生さん、個人VTuberグループ「milimili。」運営で昨年のプレミアム大会で「オーディエンス賞」を受賞した殊文こまのさん、Noitom International Inc. 日本支部代表の秋山理雄さん──という4名でした。
賞としては、4つの特別賞のほか、プレミアム優秀賞、プレミアム最優秀賞を設けました。Noitom賞、優秀賞、最優秀賞には、モーションキャプチャー機器の「Perception Neuron Pro」が副賞として進呈されるとあって、みなさん緊張の面持ちで発表を迎えていました。
●審査員特別賞:PANORA賞
・会津若松大会:チームB
「コンテンツとして面白かった。あのシュールさは普通につくってもなかなか出せない」(広田)
●審査員特別賞:藤田憲生賞
・岡山大会:neoちゃかぽ軍団
「コンテンツのクオリティーの高さで殴りに来たこと。VRChatで今後も活動を続けていかれるというのは僕の中でポイントが高かったです」(藤田さん)
・福岡大会:Project重低音
「本当にエモかった。鳥肌が立ってすごく丁寧に作られていたので今後も続けていっていただきたい」(藤田さん)
●審査員特別賞:殊文こまの賞
・福岡大会:Project重低音
「MVがすごくクオリティーが高かった。僕もVTuberを運営していてその中で歌ってみたも投稿していましたが、MVのクオリティーで悩むこともあった。僕が発注するかもしれません(笑)」(殊文さん)
・会津若松大会:チームB
「無機物な感じがすごく気に入っていて、なんとか知恵を絞って今後も継続していってほしい」(殊文さん)
●審査員特別賞:Noitom賞
・東京大会:Saezuri
「Noitomは『Mocap for All』というスローガンを持っていて、それに通じる思いを感じたのが、VTuberの撮影環境のアナログ化(スマホDEカメラ)だった」(秋山さん)
●プレミアム優秀賞
・福岡大会:Project重低音
「いろいろな賞をもらって今気持ちの整理ができていませんが、嬉しかったです。Neuron Proを一番欲しかっていたのが彼で、持ち帰って早く触りたいと言っていました」(Project重低音)
●プレミアム最優秀賞
・岡山大会:neoちゃかぽ軍団
「昨日リーダーから『もう優勝しかないよね』とすごくプレッシャーをかけてきて、『頑張ってきますー』という感じですっと出てきたので、『やりましたよ』と安心して帰れます。ありがとうございました」(neoちゃかぽ軍団)
約半年に渡る熱闘に幕を閉じたVTuberハッカソン 全国ツアー2019。VTuberの制作はイラスト、撮影、動画編集、3Dモデリング、声優、俳優、モーションキャプチャー、台本……など、さまざまな分野の技術が合わさった「総合芸術」です。PANORAでは、パソコンで何かを作る楽しみが多くの人に広まり、そして視聴者を惹きつける動画がひとつでも多く生まれることを願ってやみません。また機会がありましたら、ぜひハッカソンにご参加ください。
(TEXT by Minoru Hirota)
●関連リンク
・>VTuberハッカソン全国ツアー2019 プレミアム大会(募集ページ)
・VTuberハッカソン全国ツアー2019 プレミアム大会(YouTubeアーカイブ)