HACHI、2ndワンマンライブ「Midnight blue」レポート 「たくさんの応援があって今ここに立っています」

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エモーショナルで美しい歌声が高く評価され、バーチャル界の様々な音楽イベントやフェスでも引っ張りだこになっているVシンガー・HACHIさん。彼女は9月23日、池袋のライブハウスharevutaiで、約1年ぶりのワンマンライブ「HACHI 2nd ONE-MAN LIVE 『Midnight blue』」を開催した。

ライブストリーミングサービス「Z-aN」での生配信も行われたが(アーカイブ視聴チケットは、2022年10月10日18時まで販売)、ここではリアル会場で堪能したライブの模様をレポートしていく。

「バスタイムプラネタリウム」で2ndワンマン開幕

2019年から歌配信を中心とした活動をスタートし、2020年7月にRK Musicと専属契約を結びアーティストデビューしたHACHIさん。その後、11曲のデジタルシングルをリリースするなど精力的な活動を通して人気を集め、YouTubeチャンネルの登録者数も15万人を突破。今回の2ndライブ開催に向けて実施されたクラウドファンディングでは、2800万円以上もの支援を集めたことも話題となった。

開演前、オールスタンディングの会場に多くのBEES(ファンの愛称)が集う中、「聴こえるー?」と問いかけるHACHIさんの声が聴こえ、声出し禁止の会場からは、返事代わりの拍手が響く。コールや声援の禁止といった注意事項をたまに可愛く笑ったり噛んだりしながら読み上げていく彼女。「あ~たくさん、しゃべった!」「以上、HACHIでした。ばいば~い」と言う言葉とともに影ナレが終わってから数分後、HACHIさんのロゴマークが映し出されていた前方のスクリーンに、オープニング映像が流れる。続いて、ライブのロゴが表示された後、ついに2ndワンマンライブが開幕した。

7月のデビュー2周年記念配信で初披露された新衣装姿で登場したHACHIさんが最初に歌ったのは、9thシングル「バスタイムプラネタリウム」。少しハスキー気味なのにパワフルで真っ直ぐ届いてくる歌声と、足下から突き上げるように響いてくるリズム。HACHIさんの周囲には、曲に合わせて変化するキネティックタイポグラフィーで歌詞が映し出され、ラストのサビでは、彼女の歌声にシンクロするように、会場の照明も光を一気に強めていった。1曲目からさっそく、リアル会場でのVシンガーのライブの魅力を堪能できるパフォーマンスと演出だ。

拍手の中、「みなさん、こんはちー! すごい! BEESいっぱいいる~」とハイテンションに最初のMCを始めたHACHIさん。終始笑いながら開演の挨拶などをした後、「楽しすぎて、永遠に喋っちゃう(笑)」と話してMCを切り上げると、椅子に浅く腰をかけて、優しく語りかけるように「Weekend milk」を歌い始める。続いて、ピアノの伴奏も美しい「ばいばい、テディベア」。BEESが振る黄色いペンライトと照明が夕焼けのような雰囲気を作り出し、HACHIさんのノスタルジーな思いを呼び起こす歌声とともに、さっそく涙腺を刺激してきた。

MCでは、ここまでに歌った3曲は、海野水玉さんと一緒に作った「夜」をテーマとするシリーズ楽曲であることを紹介。さらに、ライブタイトルの「Midnight blue」に込めた思いも明かした。

「『Midnight blue』も真夜中の色を表しています。悲しい時も元気な時もいろんな感情の夜に寄り添える歌を歌っていきたいという思いを込めてます」

しんみりした後は、元気な曲のコーナー

「しんみりしちゃったから、元気な曲、たくさん歌っていこうかなと思います」と言う曲ふりから歌ったのは「Lonely Girl」と「20」。「Lonely Girl」は、意表を突くような変則的なリズムの変化が面白い曲。キネティックタイポグラフィーによる演出もより派手で自由度を増し、曲に寄り添って静かに盛り上げるようなさっきまでの演出とは、方向性から変わっている気がした。そして、HACHIさんは、楽しい曲にも埋もれないくらい、あふれんばかりの感情を乗せて正確なピッチで歌い続ける。

大人っぽく少し妖艶さも感じるステージで披露された「20」は、HACHIさんの歌声の強さや真っ直ぐさがより前面に出ている曲。この曲でも、曲に合わせてガラリと変わった演出がHACHIさんのパフォーマンスをより魅力的にしている。

ステージが暗転した後、美しいアカペラで始まった6曲目は、「もし世界が終わるなら、僕らは選択する」。白い雲が浮かぶ青空を背に、HACHIさんの伸びやかな歌声がどこまでも響いていくようだった。サビで一気に盛り上がった後、間奏ではBEESと一緒にクラップを鳴らし、さらに盛り上がっていく。ステージを少し左右に移動しながら、BEESに手を振る姿からは、この瞬間、HACHIさんも心の底からライブを楽しんでいることが伝わってきた。メッセージ性の濃い歌詞の中には、「引き金」という言葉が出てくるのだが、ラストのサビがストンと終わり、ピアノの静かなメロディが流れる中、一発だけ弾の入った銃のシリンダーが回るような映像が映るのも意味深だ。

7曲目は、HACHIさんの楽曲の中でも特にアップテンポな曲の一つ「涙することは疎か、息も出来ない」。サビでは、パワフルな歌声がさらに勢いを増していき、伸びやかなロングトーンに改めて驚かされる。

アップテンポな曲が続いた後のMCでは、お水を飲んで少し落ち着いた後、またハイテンションで楽しそうに、BEESへ語りかけるHACHIさん。

「こうやって、BEESのみんなと直接、会うことができてめっちゃ嬉しいです。サイリウム、めっちゃ見えてる。もう一回、振って!」

さらに、「もっと大きく振って!」とリクエスト。黄色に染まった客席エリアが左右に揺れるのを見て、大喜びする様子も可愛い。

続いては、カバー曲のコーナー。名曲だが、どれも難易度の高そうな曲を連続で披露した。EGOISTの「Departures ~あなたにおくるアイの歌~」、Aimerさんの「RE:I AM」、米津玄師さんの「海の幽霊」、春野さんの「深昏睡」の4曲の中で、筆者が特に引き込まれたのは、壮大なスケール感を感じさせる歌声が印象的な「RE:I AM」だった。

「HACHIを作ってくれた大切な曲」も披露

カバーコーナー後のMCでは、会場と配信で観ているBEESたちに、「1stワンマンから見てくれている人っているのかな?」と質問。会場では、半数近くの人がペンライトを振っているように見えた。その古参BEESたちに、「HACHI、成長していますか?」と聞いた後、急に冷静になり、「ここで聞くのもあれだなあ(笑)」と笑うHACHIさん。筆者も2021年8月にオンライン開催された1stワンマンライブを視聴していたが、もしペンライトを持っていれば、会場のBEESたちのように大きく振っていただろう。

「みんなと一緒にこの大きな舞台でイベントができるって、本当に幸せなことだと思っています。たくさんの応援があって、HACHIは、今ここに立っています。本当にありがとうございます」

改めて、BEESへの感謝を言葉にしたHACHIさん。「今回のワンマンライブのプロジェクトは、この2曲があったから生まれたようなものです。HACHIを作ってくれた大切な2曲を続けて聴いてください」と語ると、まずはメロウなメロディが印象的な2ndシングル「Rainy proof」を披露。芯がありつつも優しい歌声で、一つ一つのフレーズを丁寧に届けるように歌っていく。背後にはMVが流れ、以前の衣装を着たHACHIさんと今の彼女がステージ上で共演。全体的にブルーが基調のMVと、ステージ上の青い照明。さらに、客席もペンライトの光でブルーに染まり、まるでMVの中とステージと客席がすべて同じ空間で繋がっているようだった。

HACHIさんを作ったというもう一つの曲は、去年の8月にリリースした6枚目のシングル「八月の蛍」。この曲でも少し懐かしいMVが後ろに映されて、客席までが今度は緑色の空間として繋がっていた。ここまでも何度も感じてきたことだが、やはり、壮大なバラードと、HACHIさんの感情を揺さぶるような歌声の相性は抜群だ。ちなみに、筆者がHACHIさんの歌声を知らない人にHACHIさんを紹介することになったら、まずは「Rainy proof」か「八月の蛍」を聴かせるだろう。

初披露の新曲を2曲も披露

少し感傷的な雰囲気になっている会場から思いのこもった拍手が響く中、両脇に手を当てて胸を張り、「どうだ~エヘン!」とでも言いたそうなポーズをするHACHIさん。その可愛い仕草で、会場のエモーショナルな雰囲気は、一気に消し飛んだ。そして、ライブも終盤戦に入ったことを明かして寂しがった後、海野水玉さんとの新曲初披露を宣言。ギターのフレーズから始まる新曲「夜迷い言」は、床から響くドラムのリズムも心地良いバンドサウンドの曲。アップテンポなメロディと力強く夜空に叫ぶようなサビが印象的で、バラード2曲が続いた後だけに、HACHIさんというボーカリストの表現の幅の広さを改めて強く実感した。

続けて披露した「Twilight Line」も今年の8月5日にリリースした海野さんとのプロジェクト曲。「夜明け前に街を自転車で爆走している」ようなイメージの曲で、曲の中での緩急の変化も面白い。

そして、MCを挟んで、「夜」をテーマにした海野さんとのプロジェクト曲をもう一曲、披露。8月15日に披露したばかりで、このライブの開幕前には最新曲だった「夏灯篭」だ。灯篭の明かりのような赤いペンライトの光で会場が染まる中、優しいのになぜか心と涙腺を揺さぶられる歌声が響いていく。バラード調のメロディに乗せて、HACHIさんが一言一言、丁寧に歌っていくのだが、それに合わせて、歌詞が原稿用紙のマスを埋めていくように見せる演出も面白い。

デビューからの日々を振り返り、改めてBEESへの感謝を語った後、「すべてのきっかけを作ってくれたのはこの曲だと思っているので、心を込めて歌わせていただきます」という言葉に続いて歌ったのは、1stシングル「光の向こうへ」のPiano ver.。ワンマンライブの17曲目となっても、HACHIさんの伸びやかで力強い歌声は、まったくブレることなく会場全体に広がっていく。最後のサビで、どこまでも響いていくHACHIさんの歌声に合わせて、黄色いペンライトを持ったBEESが空に手を突き上げた光景も美しかった。

大きな拍手の中、「危ない! 泣きそうになった」っと笑顔のHACHIさん。「この曲に対する思い入れが強いからか、ライブとかで歌うと、いつも最後のへんで、声がプルプルしちゃう」そうだ。そして、このライブでは、アンコールがなく、次が本当にラストの曲になることを予告。最後となるMCでは、BEESへの感謝と愛を改めて言葉にして伝えた後、「いつかこのたくさんのBEESたちを武道館に連れて行きたい。それがずっと揺るがない信念です」と大きな夢も宣言した。

ラストは、「HACHIにとって本当に大事な存在をテーマに、海野さんと作った曲。HACHIからみんなに向けてのプレゼントです。どんな夜でも必ず夜は明けていきます」というメッセージの後、新曲「HONEY BEES」を初披露。軽快なリズムのカントリーミュージックで、客席からも自然と楽しそうなクラップが鳴り響く。HACHIさんの歌声も、ワンマンライブの終わりというより、次の新たな始まりを告げるように明るく響いていく。この最新曲も、HACHIさんの新たな魅力をまた一つ広げていくのだろう。

「今日は、本当に! 本当に! 本当に! ありがとうございました。じゃあね! またね。バイバーイ」


最後まで明るい笑顔のHACHIさんとともにステージが消えて、スクリーンにはクラウドファンディングの支援者の名前がずらりと並んだエンドロールが流れる。その数の多さに、改めてHACHIさんを応援する人々の多さと熱量を実感した。

デビューから約2年2か月で11枚もシングルをリリースし、2度目のワンマンライブを開催。そのステージ上で、さらに2曲の新曲を披露するという脅威のペースで活動を続けているHACHIさん。「BEESと一緒に武道館」という夢を実現するのも、きっと、そんなに遠い未来ではないだろう。


●セットリスト
M1. バスタイムプラネタリウム
M2. Weekend milk
M3. ばいばい、テディベア。
M4. Lonely Girl
M5. 20
M6. もし世界が終わるなら、僕らは選択する
M7. 涙することは疎か、息も出来ない。
M8. Departures ~あなたにおくるアイの歌~(EGOIST)
M9. RE:I AM(Aimer)
M10. 海の幽霊(米津玄師)
M11. 深昏睡(春野)
M12. Rainy proof
M13. 八月の蛍
M14. 夜迷い言
M15. Twilight Line
M16. 夏灯篭
M17. 光の向こうへ Piano ver.
M18. HONEY BEES

(Text by Daisuke Marumoto

 
 
●関連リンク
HACHI 2nd ONE-MAN LIVE 「Midnight blue」(アーカイブ視聴)
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