岡山県津山市教育委員会(教育長:有本 明彦 以下、津山市教育委員会)と、株式会社万作の会(代表取締役社長:野村 万作 以下、万作の会)、西日本電信電話株式会社 岡山支店(支店長:西川 智洋 以下、NTT西日本 岡山支店)、エヌ・ティ・ティ・スマートコネクト株式会社(代表取締役社長: 牧内 貴文 以下、NTTスマートコネクト)の4者は、ICTを活用した「主体的・対話的で深い学び」の実現をめざし、津山市内の小中学校に向け、VRによる体験型オンラインワークショップ(以下、狂言オンラインワークショップ)を実施します。日本の伝統文化である狂言の巡回公演をオンラインにて実施し、演劇鑑賞のみに留まらず、狂言を題材にしたVRならではの没入感のある体験を提供します。1.実施経緯
津山市及び津山市教育委員会とNTT西日本は、2021年6月に津山市のデジタル社会の実現に向けて連携協定を締結し、教育分野では、未来を支える人材の育成をめざして、「教育データの利活用による学校改革」と、「10年後を見据えたVR等の先進技術を活用した新しい学びの創出」に取り組んできました。
一方、万作の会とNTT西日本は、2021年3月に連携協定を締結し、狂言をより身近に、より楽しく、より永く後世へ紡ぎ、ICTを活用して「普及・活用・伝承」を推進していくことを目的としたプロジェクトである「狂言DX(デジタルトランスフォーメーション)」を通じ、NTTスマートコネクトが提供するVR動画配信サービス「REALIVE360」による4K360度マルチアングル配信での狂言鑑賞体験の提供や、狂言演目のデジタル化・アーカイブ化などに取り組んできたところです。
そこで今回、文化庁の「子供のための文化芸術鑑賞・体験再興事業※1」として、2023年2月に各者の取り組みの融合と更なる発展に向けて、狂言の学校巡回公演をオンラインかつVRを用いた新たな授業形態で実施します。本取り組みを通じて予測困難な社会の変化に向き合い、子どもたちが未来を切り拓くための「生きる力※2」を育成し、新しい価値を生み出せる教育モデルの創出に挑戦します。
※1:文化芸術による子供育成推進事業「子供のための文化芸術鑑賞・体験再興事業」( https://www.kodomogeijutsu.go.jp/ )
※2:生きる力とは、文部科学省が小・中学校の新学習指導要領で掲げる理念で、一人の人間としての資質や能力を指す力であり、「知・徳・体のバランスのとれた力」と表現しています。(知=確かな学力、徳=豊かな人間性、体=健康・体力)
2.実施概要
狂言オンラインワークショップでは、従来万作の会が学校に赴き実施していた巡回公演をVRやオンラインを用いて実施します。本取り組みでのポイント及び教育的効果は以下の3つです。
(1)誰一人取り残さない体験型の学びの提供
VRの「時間・場所の制約を受けない」特徴によって、訪問型の巡回公演ではカバーしきれなかった院内学級など、さまざまな環境に置かれる子どもたちへ体験型の学びの機会を拡大します。
(2)子どもたちの主体性や探求心の向上
VRの「仮想空間で疑似体験ができる」特徴によって、狂言師の演技を目の前で鑑賞し、あるいは自分自身が狂言の舞台に立って演技しているかのような、限りなく実体験に近い没入感のある体験活動を行えます。加えて、事前にレコーディングした狂言師の模範演技のデータと体験者の動きを比較し、合致率から得点を出すことができます。こういったVRならではの体験活動が、子どもたちの学習への主体性や探求心を高めます。
(3)STEAM教育※3の実践につながる教科横断的な学習の推進
狂言(文化芸術)の学びをより深いものとするために、事前学習では、狂言という1つの課題に対して、言葉・演目の物語(国語)や、成り立ち・歴史や文化の背景(社会)、型の動き・発声、呼吸(体育)、言葉のリズム・狂言の音楽(音楽)等、各教科で知識・技能を身につけていき、身につけたタテ割りの教科知識とヨコ割りの探究をつなげていくことで、STEAM教育を実践します。
※実証の詳細については別紙をご確認ください。
※3:STEAM教育とは、STEM(Science, Technology, Engineering, Mathematics)に加え、芸術、文化、生活、経済、法律、政治、倫理等を含めた広い範囲でA(Arts(芸術))を定義し、各教科等での学習を実社会での問題発見・解決にいかしていくための教科等横断的な学習を推進する教育方針のことです。
3.実施期間
狂言オンラインワークショップ実施日:2023年2月9日、10日
(事前授業は2022年7月より実施)
4.各者の主な役割
津山市教育委員会 | プロジェクト全体の企画・運営、地域の課題・実態を踏まえた授業内容検討への協力、現地実証支援、対象校の調整・取りまとめ |
万作の会 | 体験授業の遠隔実施、狂言の学習コンテンツの提供、VRコンテンツ制作への協力(監修:野村萬斎) |
NTT西日本 岡山支店 | プロジェクト全体の企画・運営支援、学校におけるICTツールの活用ノウハウの提供 |
NTTスマートコネクト | 本取り組みに係るシステムの企画・開発(REALIVE360の活用)VRコンテンツ開発・提供、体験授業の実施支援 |
5.今後の展望
津山市とNTT西日本グループでは、「主体的・対話的で深い学びを得られる教育モデル」の定着に向け、引き続きVRを活用した体験学習を推進します。具体的には、VRがもたらす教育的効果をとらえ、教科学習や総合的な学習において、環境問題や交通安全などの多様なテーマに取り組む予定です。
また、NTT西日本グループ及び万作の会は、本取り組みの水平展開に向けて、教育機関との連携強化を図るなど、VR等の先進技術を活用した新しい学びの創出を推進するとともに、狂言の「普及・活用・伝承」に向けた取り組みを日本全国へ広げていきます。
(別紙)
1. 実施期間
狂言オンラインワークショップ実施日:2023年2月9日、10日
(事前授業は2022年7月より実施)
2.実施校
・津山市立一宮小学校5年生 2学級
・津山市立林田小学校5年生 2学級、院内学級(児童・生徒が在籍している場合)
・津山市立北小学校6年生 1 学級
・津山市立東小学校6年生 1学級
・津山市立勝北中学校1年生 1学級
3. 授業内容
1)授業の進め方
授業の講師を万作の会所属の狂言師が務める。
2)体験学習の内容
狂言の「型」(「柿山伏」ほか)
3)監修・VR出演
野村 萬斎 のむら まんさい
〈プロフィール〉
狂言師。1966年生。祖父・故六世野村万蔵及び父・野村万作に師事。重要無形文化財総合指定者。3歳で初舞台。
東京芸術大学音楽学部卒業。
「万作の会」所属、「狂言ござる乃座」主宰。国内外で多数の狂言・能公演に出演する一方、現代劇や映画・テレビドラマの主演、『敦―山月記・名人伝―』『子午線の祀り』『ハムレット』など古典の技法を駆使した作品の演出、NHK『にほんごであそぼ』出演など幅広く活躍。94年に文化庁芸術家在外研修制度により渡英。芸術祭新人賞・優秀賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、朝日舞台芸術賞、紀伊國屋演劇賞、毎日芸術賞千田是也賞等受賞多数。21年観世寿夫記念法政大学能楽賞、22年松尾芸能賞大賞受賞。石川県立音楽堂邦楽監督、東京芸術大学客員教授。
公式サイトhttp://www.mansaku.co.jp(万作の会)
4.VRコンテンツ概要
1)VRコンテンツの特徴
本コンテンツの特徴は2つあります。
①仮想空間で、舞台上での演技体験ができ、目の前で狂言師(野村萬斎)が演じる狂言の型の鑑賞や解説を聞くことができる。
②事前にレコーディングした狂言師(野村萬斎)の模範演技のデータと体験者の動きを比較し、合致率から得点を出すことができる。
<点数化の際のポイント>
・VR機器を装着している、頭と左右の手の位置の三角形の形の合致率
・両手に持つコントローラーを握る強さの合致率
2)体験の流れ
子どもたちがVR体験を実施する際の流れは、以下の通りです。
①型を知る:仮想空間にある舞台上で、狂言師(野村萬斎)が演じる狂言の型を鑑賞し、型の解説を聞く。
②まねをする:目の前にいる狂言師(野村萬斎)の模範演技に合わせて、体験者はまねをして狂言の型を体験する。
③比べる:狂言師(野村萬斎)の模範演技の型と体験者の型の動きの合致率が点数化される。
3)VRコンテンツの留意点
本取り組みにおいては、事前に保護者の方の同意を得ることができた子どものみ、両眼立体機器を利用したVRコンテンツを体験できることとします。VRを活用した体験活動は、安全等配慮して利用時間を5分程度と限定した上で、必ず大人の管理の下で実施します。VRゴーグルの利用について、斜視や複視、その他視力に不安のある子どもが在席する場合も想定し、単眼タイプのVRゴーグルも用意します。簡易的な単眼タイプのVRゴーグルでの体験となると、没入感に差があるほか、点数化ができず比べる体験ができない等の違いがあるため、そういった部分も含めて、事前に同意書にて保護者の方にて体験内容をご判断いただくようにしております。