ボーカロイド・プロデューサー鶴三（ツルゾウ）と歌い手ムイカによって結成されたユニット「ハジマルイオン」は4月28日に新曲「遊覧空間」をリリースする。そのMVはなんと、全編をVRChatで撮影されたという。VRChat発のアーティストではない彼らはなぜ、撮影のロケーションをバーチャルに求めたのだろうか？ 気になって仕方がない。
今回、MVの制作チームに遊覧空間とそのMVについて取材することができた。話を伺ったところ、楽曲リリースまでの間にはVRChatで撮影されたMVを記念したワールドの部分公開や、フォトコンテストの実施といった、VRChatカルチャーに寄り添った展開があるという。
VRChatで本格的な動画撮影をしたり、MVを制作すること自体は決して珍しいことではないが、プロのアーティストがMVの舞台に選ぶことは現時点では風変りなチョイスと言えるかもしれない。しかし、取材を進めるにつれ「現時点でハジマルイオンがVRChatでMVを撮影するのは必然だった」という感動を覚えた。
まず、以下のティザー映像を観て欲しい。VRChatユーザーであれば行ったことがある場所や、見たことがあるアバターが多く登場することに驚くはずだ。
今回のMVはクリエイティブスタジオ「CHERRY」と、番組やCMなど幅広いクリエイティブを手掛けてきた「EPOCH」。そしてVR上での映像制作に強みを持つクリエイティブチーム「VisitoR」がタッグを組んで制作された。
メタバース内での制作に特化してきたVisitoRによる撮影は、ティザー映像の数十秒だけでVRChat内で撮影されたハイクオリティな作品を制作してきた彼らの凄みが伝わってくる。
ハジマルイオンとは
ハジマルイオンは、ボカロPと歌い手からなるユニットというイメージを良い意味で裏切るような、クラブミュージックの影響やジャズ、フュージョンの雰囲気が漂っている独自のテイストが魅力の二人組だ。
彼らの楽曲は一見するとポップでキャッチーな雰囲気だが、ふと耳に流れ込んでくる玄人感あふれるビートは雑多な心地よさがあって癖になる。
「遊覧空間」のMVはなぜVRChatで撮影されたのか？
個人的には、そんな彼らの音楽性自体が、90年代に渋谷で生まれた渋谷系と呼ばれたジャンルのような響きすらあると感じた。渋谷系が当時の若者たちの生活に寄り添った楽曲だったとすると、バーチャルという場も現代の若者に寄り添う音楽のひとつの基点になっていると言えるのではないだろうか。
星街すいせいが「THE FIRST TAKE」に出演し話題になったり、花譜が数々の作品の主題歌を担当しているなど、実力派のバーチャルシンガーが現実とバーチャルの垣根を越えて活動する事はすでに当たり前となってきている。そうしたバーチャルの場から発信された楽曲や世界観が現代の気分に寄り添うものになっている今、かつてのように渋谷などのリアルな場を基点とする必要はなく、バーチャルである方が場として機能するはずだ。
そう考えると、遊覧空間のMVは前述の通り全編をVRChatで撮影されたものになっているが、この作品は「なんとなくMVをVRChatで作ってみよう」というものではなく、「VRChatで撮影しなければいけなかった作品」だと感じてやまない。
アーティスト側の意向として「バーチャルの場も生身の感情が通う場所であり、多くのコミュニケーションが発生する場所ということをMVの視聴者に感じてもらうことが大事だったので、作品ではVRChatでの出会いにフォーカスしようと決めた」という考えでMVが作られたという。MV内で登場するワールドは95ヵ所、アバターや服などのショップは174店に及び、スタッフや参加したキャストはもちろん、使用ワールドなども全てがクレジットに記載されているという。
ある種、現在のVRChatの空気感がそのまま記録されている作品とも言えるだろう。
4月19日からフォトコンテスト開催！27日には試写会も
4月19日21時には試写会用に新たに作られたワールドの入り口部分が公開され、入り口にはハジマルイオンの公式キャラクター「イオとクーロ」のアバターを着用できるアバターペデスタルがある。「VRChatでの出会いにフォーカスしよう」として作られたMVということもあり、試写会ワールドは多くの人が楽しめるようにQuest対応もされてる。
このキャラクターは漫画「日常」でおなじみの漫画家・あらゐけいいち先生による描きおろし。ゆるさとシュールさが同居した独特の雰囲気を放つキャラクターが3Dアバターになることを考えるだけでも興味深い。
この「イオとクーロ」を着用した上で、VRChat上のさまざまなワールドで撮影された写真を投稿するフォトコンテストを4月19日から25日まで実施。オリジナルアバターはコンテスト期間のみ着用できるため、「イオとクーロ」でいられるのはこの時だけになる。ぜひ、この瞬間の想い出を残すために写真を撮りに行ってみよう。
●コンテスト応募条件
① VRchat内のワールドで、ハジマルイオン公式キャラクター 「イオとクーロ」が映った写真を撮影すること。
② 「#遊覧空間フォト」を付けてTwitterに投稿すること。
コンテストで優秀作品に選ばれた写真はワールド内に展示されるとのこと。
楽曲リリースの前日にあたる4月27日22時に「遊覧空間」のMVの試写会が行われる。バーチャルという場に生きる生身の人間同士の関わり合いやコミュニケーションを大事にしている本作にとって、楽しみなイベントだ。リリース日の28日にはお祝いイベントも行われる。
その後のワールド内でのイベントの展開は今のところ未定とのことだが、ワールドはまだ進化を残しているという。
アーティストがいてワールドがあると言ったら、次はもう「ライブ」しかないですよね……！？
（TEXT by ササニシキ）
●関連リンク
・オリジナルワールドリンク
・ハジマルイオン official site
・鶴三 Twitter
・ムイカ Twitter
・VisitoR official site