ソニーはCES2024の期間中、自社プレスカンファレンスおよびSiemens Keynoteで、没入型空間コンテンツ制作システムおよび専用XRヘッドマウントディスプレイ(XR HMD)とコントローラーを発表した。
・高精細なXRヘッドマウントディスプレイを備え、仮想空間内で直感的なインタラクションが可能な没入型空間コンテンツ制作システムを開発(プレスリリース)
・CES2024 ソニー プレスカンファレンス動画(ソニー公式)※23分33秒より
・CES2024 シーメンス 基調講演動画(CES公式)※31分51秒より
現地で開催されたプレス向けのプロトタイプ体験会に参加できたため、専用XRヘッドマウントディスプレイ とコントローラーについて現時点の使用感をレポートしたい。
ハードウェア単体ではなく「没入型空間コンテンツ制作システム」で勝負
ソニーはこれまでにELF-SR1/ ELF-SR2に代表される空間再現ディスプレイ(Spatial Reality Display)シリーズを市場に投入し、3Dコンテンツを(2Dの平面モニター上ではない)3D空間で表示する製品を提供してきた。今回はその延長線上として「没入型空間コンテンツ制作システム」を発表。専用のXRハードウェアと対応ソフトウェアのコンビネーションで、市場が拡大し続けている3Dコンテンツ制作のための一気通貫のソリューションとなっている。
プロジェクトは2021年4月から始動、ハードウェアはゼロからの専用設計
今回プレス向けのプレゼンテーションを担当したソニーの近藤博仁担当部長によると、「没入型空間コンテンツ制作システム」 のプロジェクトの始動は約3年前となる2021年4月。ソニーグループのXR向けハードウェアと言えば真っ先にPlaytation VR(PS VR)シリーズが思い浮かぶが、3Dコンテンツクリエイター向けとなる今回のヘッドマウントディスプレイとコントローラーは、グループ内の知見を活かしつつ専用で設計したとのことだ。
以下ではCES2024でメディアに向けて紹介されたプロトタイプを詳しく見ていく。
ヘッドマウントディスプレイは左右それぞれに高画質のソニーセミコンダクタ製4K OLEDマイクロディスプレイを搭載しているが、HDR対応の有無などの詳細なスペックは現時点で非公表だった。ディスプレイ部分をフリップアップできるようになっており、IPDは手動調整、デバイス下部の右側にはPS VRシリーズでもお馴染みの(顔とデバイスの距離を調整する)スコープ調整ボタンが配置されている。今回は音声の再生はデモの対象外だったため、音量調整と思われるボタンの機能については確認できなかった。
ヘッドマウントディスプレイ前面には6DoFやハンドトラッキングを可能にする、インサイドアウトトラッキング用カメラが四隅に対応されている。ビデオシースルー用のカメラも搭載されているが、今回のデモでは体験できなかった。おでこのフロントヘッドパッドで製品重量を支えて後ろのダイヤルでヘッドバンドを調節する構造も含めて、PS VR2に似ているという印象だ。
一方、コントローラーはPS5用とは全く異なるデザインが採用されている。人差し指を挿し込んで使用するポインティングコントローラーと、リング型のコントローラーだ。シーメンスの基調講演では専用スタンドでコントローラを充電している様子が写っている。
トラッキングはヘッドマウントディスプレイのインサイドアウトカメラを利用しているかと思いきや、「IMUベースでトラッキングし、Bluetoothで本体と通信している」とのこと。
いざ、体験
今回はシーメンスの「NX」ではなく、ポインティングコントローラーとハンドトラッキングでVR空間内のオブジェクトを掴んだり、細かい文字を読むデモコンテンツが用意されていた。専用に開発されたハードウェアでは、片目4Kによって細かい文字や絵画の細部まで確認できた。
また、IMUベースのコントローラーではドリフトやトラッキング精度が心配されるところだが、ポインティングコントローラーでは思った箇所を指し示し、人差し指の指先部分に配置されているクリックボタンで掴む動作を違和感なく行えた。(リング型コントローラーは調整中で体験できず、未確認)
なお、ヘッドマウントディスプレイにはSnapdragon XR2+ Gen 2が搭載されているため、ワークステーションなどPCのグラフィクスカードで描画された画像や音声を再生するだけでなく、ヘッドマウントディスプレイ単体での画像音声生成も可能だ。
3Dコンテンツ制作者&レビュアーの福音となるか、続報に期待
気になる「没入型空間コンテンツ制作システム」の発売時期は2024年内、価格などは未定だ。発売時の対応ソフトはシーメンス社のNXのみとなっており、販路もシーメンス社のNXの販路が活用されるとのこと。今回のデモではハードウェアが必要最低限動作していることを確認できたが、NXとの組み合わせで体験できなかったため3Dコンテンツの制作&レビューフローがどの程度改善されるかは未知数だ。次のデモの機会を待ちたい。
また、今後は「ゲーム制作やプレビズなどの映像制作向けに対応ソフトを拡充予定」とのことなので、こちらも続報に期待だ。
(TEXT by にしかわ)
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