VTuber事務所「Re:AcT」に所属するバーチャルアーティスト、花鋏キョウが、5月5日に池袋harevutaiにて自身4度目となるワンマンライブ「FLORIST」を開催した。
同じ事務所に所属する後輩・稀羽すうが同日。同じ場所で初ワンマンライブを開催したこともあり、池袋harevutaiはこの日「Re:AcT一色」に染まったのだ。そんな一日の中で、本記事では花鋏キョウのライブにスポットを当ててレポートしていこうと思う(有料アーカイブページ)。
19時ピッタリに特別ムービーがステージ後方のスクリーンに流れはじめ、そのままスクリーンにステージ、そして花鋏キョウが現れ、「imaginaly」からライブをスタートした。
UKガラージ~2Stepらしい軽やかなキックサウンドにクリアな声をのせ、キラキラと輝くようなフィーリングを印象付ける、彼女らしいライブの立ち上がりとなった。
2曲目には「Daisy – noon Remix」、3曲目には「All Night」とそれぞれに歌っていく。前者はロールから一気にアッパーなシンセサウンドで盛り上がっていくEDM系な楽曲、後者はベースサウンドが強調されたミドルテンポのR&Bサウンドを特徴にした楽曲と、彼女らしさが全開となっていた。
ダンスをしながら歌っていく姿をみているとクールにキマッた姿を見せる花鋏だが、「みーんなー!こーんにーちはー!」と集まった観客への声は、なんともユルい。楽曲を通して感じられる花鋏キョウとは違った、幼さすら感じられそうなほどだ。
「今回のライブは花に関係するライブタイトルにしようということでスタッフと出し合って、キョウが出した『FLORIST』になりました。あの、もうLとRは間違えないからね!」
その口調・あがる話題も、どこか天然なムードも漂わせ、観客をホッコリと笑わせてくれる。かとおもえば、歌い始めるとクールな彼女へと戻っていく。この日のライブは、コロコロと変わっていく彼女を楽しめる一夜でもあった。
EDM系トラックメーカー・NUU$HIによる「intention」と活動初期にリリースした「paradox」と、冒頭の流れを汲んだエレクトロな楽曲を披露する。ふわっとしたムードで楽しげに話していた彼女だが、楽曲ではむしろ声に感情が乗りすぎない無感情・無機質なボーカルでクラブサウンドとマッチして、会場を華やかに彩っていく。
この後はMCを挟みながらほかアーティストの楽曲を次々にカバーしていったのだが、印象的だったのは、Ado「唱」のカバーだった。彼女は以前同曲の歌ってみた動画を投稿しているのだが、Ado本人が彼女の歌ってみた動画を視聴し、感想を述べていたことがあった。おそらくその縁もあって今回の歌唱に至ったのだろう。
Ado本人は彼女の歌を「子音の使い方・声の抜き方が上手」「めちゃくちゃ上品」と評していたが、Adoとは全く別のクールな色気を漂わせたカバーはこの日でも健在。Gigaが制作したこの曲のマッシブな質感は、元来クラブミュージック・ライクな楽曲が多い彼女にとっても選曲しやすいわけだが、歌い方や声質がそもそも別でもある。
「ありえそうでなかった」楽曲のライブ披露、それも歌ってみた動画の投稿と本人巡回がなければ実際に行われなかったと思えば感慨深い。
バンドサウンドでリアレンジされた「Starry – night Remix」では、ストリングスもうまく絡めた壮大な音の中で、花鋏の歌声がセンチメンタルな感触をうまく添えていくようだ。そのイメージをさらに広げていくように披露された「Under」は、ストリングス/鍵盤の音色/花鋏の歌声でのみ構成され、後半にいくにつれキックドラムが加わることで駆け出していくような楽曲なのだが、この2曲をつづけて歌っていくことで、よりドラマティックかつ感傷的なムードで花鋏キョウは彩られたのだった。
ベース&シンセの音色がじんわりと広がっていく穏やかな「Purple」と、鍵盤とストリングによるバラード「約束の花」を歌い、ライブ本編を終えた。序盤から徐々にスローダウンし、穏やかな楽曲のなかで自身のスウィートな声色を披露していったのだ。
「アンコール!」の歓声をうけて登場し、エレクトロ・ポップな「Behavior」を歌っていった花鋏。
「アンコール!って久々に聞いたから、いつ行こう?ってなっちゃった」
すこしはにかみながら話した彼女だが、実は彼女自身ソロライブは2年ぶり4度目。ステージを右に左に動きながら手を振り、サビでみせるダンス、さまざまな所作から伺えるのは、彼女がシンガーとして成長をしていることだ。
ここで新曲「mist」を初披露。キックサウンドの強いR&Bサウンドにストリングスが重なり、そこにファルセットもうまく使った花鋏のボーカルが絡んでいく。
これまでリリースしてきた「All Night」「intention」「Starry」「purple」とおなじく、この「mist」も花鋏本人が作詞した楽曲。だからこそだろう、大事なものを扱うように注意深く歌おうとしていたのがハッキリと見て取れた。
Re:AcT2期生4人によるライブも発表され、会場も盛り上がる中で最後に披露したのは、「蒼に躊躇う」だった。彼女にとっての初めてのオリジナルソングであり、YouTubeやSpotifyなどでも屈指の再生数を誇っている花鋏キョウにとって最重要な1曲だ。
戸惑う心情を歌ったこの曲は、落ち着いたテンポと揺らぎのあるシンセサウンド、なにより低体温の温度感でポツポツっと歌っていくような花鋏のボーカルを通し、繊細な機微を表現していた。
こうして終わったワンマンライブ「FLORIST」。4度目のソロライブということで、これまでリリースしてきたEDMやエレクトロらしさを踏まえたポップサウンドに、クールかつ淡々とした面持ちすら感じられるボーカルと、花鋏キョウの音楽を全身で感じられるライブに出会ったと思う。
だが欲を言えば、このライブを「集大成」と大仰しく形容することなく、年に何度となく楽しめる「普段通り」になれば。彼女の飛躍はすぐに訪れるかもしれない。
●セットリスト
- imaginary
- Daisy – noon Remix
- All Night
- intention
- paradox
- 唱(Ado)
- アクアテラリウム(やなぎなぎ)
- 悪魔の子(ヒグチアイ)
- 当事者(EGOIST)
- Starry – night Remix
- Under
- Purple
- 約束の花
*アンコール
- Behavior
- mist(新曲)
- 蒼に躊躇う
(TEXT by 草野虹、Photos by Minoru Hirota)
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